これは私たちが高校1年生の冬の出来事―――
その日も確かいつもどおりの日だったはず。いつものメンツで普通に学校生活を送って、部室でローラー回したりして。楽しい学生生活を謳歌してた。
そんな毎日繰り返される楽しい日々の1日。
「たっ…大変…だ…っ!!」
山に行ってきたらしい東堂が、何やら息を切らして部室へリターン。
一体全体何事やら…?
「どしたのさ、東堂…?」
「どーしたのォ、東堂」
「何があった、東堂」
「何かあったのか、尽八?」
部室にいた私たちが声をかければ、東堂は恐怖に満ちた顔。…一体全体何があったのさ…?
「…がいた…」
「へ…?」
声が小さすぎてよく聞こえなかったけど、もし、聞き間違いじゃなかったら…
“水色の髪のヤンキーが10人以上いた”
待って待って待って。
水色の髪…ヤンキー…10人以上…。
「東堂…他に誰がいた…?」
「相良…?そんなの聞いてどうするんだ…?」
「いいから教えてッ!!」
そのフレーズ、ものすごく聞き覚えがある!―――私が昔、中学生の頃つるんでた奴らの特徴とめちゃくちゃ一致する!
私がいたグループのリーダーは私だった。中学生にしてはものすごく大きなグループだったっけ。よく自分でも人を集めたなぁって思うけど。
高校でもずっと一緒!…なんて言ってたから、リーダーの私の裏切りはグループに大きな亀裂を生んだ。私は殴られまくったし、蹴られまくった。…まあ、全部返り討ちにしたって武勇伝もあるんですけどね!
まあ、それは置いといて。
私がグループのナンバー1。グループのナンバー2はかつての親友―――井口繭香。私がピンクの髪で、彼女は水色の髪。悪友じゃ収まらないくらいに悪い仲で、一緒に悪いこともたくさんやったっけ。
でも、私の裏切りで仲は悪化。…うん、悪化じゃ収まらないくらいかな。
私が結局最後に返り討ちにしちゃったのもあって、険悪な雰囲気のまま喧嘩別れ。
そのあとは全然顔を合わせることもなくて、結局卒業してそのまんまだったけど…
まさか…報復?反逆?復讐?
「相良、どうした?」
「福富…私、行かなきゃ…!ごめん…!」
もう喧嘩はしない、って決めたんだけど…こうなっちゃったらしょうがない。
自転車部の皆に被害が及ぶようなことは絶対にダメ。責任は全部私のものなんだから…!
突然部室を飛び出していった私を呼ぶ声。…ここで逃げたら女がすたる。
一応これでもトップだったんだから、自分の落とし前は自分でつけなきゃ。
正門のところに人だかりがあったから、絶対にそこだと思って足を速める。
みんなが遠巻きに恐れる中に見える水色の髪―――間違いない、繭香だ。
「こんなとこまで来て…全く…!」
恐怖の表情の皆の中をくぐり抜け、ヤンキー達のところへと行く。
「久しぶりね、繭香」
振り返った繭香は1年前と変わっていない。っていうか、むしろ綺麗になった。まあ、化粧のせいだろうけどね。私も昔はそうだったし。…あー、思い出すだけでも情けなくって恥ずかしい!
「香咲…やっとみつけた…勝手に逃げやがって…あたしたちがここにいるワケ、わかってねーわけじゃねぇよなァ?」
凄みを聞かせた繭香の声に野次馬の女子の悲鳴が聞こえた。…怖いなら見なけりゃいいのに。野次馬なんてただ迷惑なだけだし。
「っせーな!!!邪魔なんだよッ、クソッ!!!」
紫の髪の少女―――ナンバー3だった徳嶺ユイの低い声。この声で怒鳴られれば男子だって腰が抜けちゃうよね。
「何よそ見してんだよ、香咲ィ!!」
そんな一瞬を付いて、繭香は私の胸ぐらをつかむ。他の10人以上の取り巻きも私を囲む。…うん、全員知り合いだ。
「ッ…!…報復のつもり…?」
「ホーフクゥ?んな可愛いもんじゃねーよッ!!!」
「報復だって可愛いものじゃないけどね」
「口出しすんなバカ!!」
数人から足を蹴られる。冷たい水を頭からかけられる。
「あー、今ジャージじゃないのに。制服濡らさないでよ、もう。…馬鹿なの?相変わらずだね」
イライラは最高潮。喧嘩腰じゃないと話せない。
「バカはテメーだよッ!!!!」
バシャバシャバシャ…。また水がかかる。いま真冬なのに…ものすごく寒いよ…。
でも、それを顔に出しては終わり。耐えなきゃ…今は…!
キャハハ、と下品な笑い声。あー、繭香はこんな下品な笑い方をしてたっけ。
私だってこんなんだったわけ?うわー…
「ないわー…こんな下品だったとかないわー…」
「アァ!?なんつった、今!!!」
もっと強く胸ぐらを掴まれる。―――でも残念。私がそんなに直ぐに弱くなる訳無いじゃん。
一瞬の隙を突いて腕を払い、周りにいる取り巻きを睨みつける。皆声が出ないくらいにビビってる。…いい気味。
「残念でしたー。私があなたたちに負けるわけないじゃん。報復するのは勝手だけどさ、こんなところでしないでよね。迷惑なんだって」
低い低い声で、唸るように言う。全員一歩だけ後退りをする。
「…ねぇ、許すと思う?こんなところでこんなことしてさ…横浜からわざわざバカバカしい…許すと思う?…どう思う、繭香?」
正面にいる青髪の繭香。顔まで真っ青だ。…寒くてこっちが真っ青になっちゃいそうなのにね!
「わ…悪いのはてめーだろッ、香咲ッ!!てめーが裏切るから…!!」
「はー…。やっぱりそれかー」
そんなに根に持つ人だったのね、この人…。心底見損なったかも。
でも、それでもかつての親友には変わりない。
どんな形であれ、仲が良かった過去は変わらないもんね。
「…過去のことばっか考えてないでさ、もっと今のこと考えたら?」
突然こんなこと言い出すから、皆ポカンとしちゃってる。まあ、当たり前だよね。
「は…何言って…」
「だからさ…今のトップはあんたなんでしょ、繭香?ナンバー2はユイなのかな?2人でさ、もっといい道探せるんじゃないの?…なんで私にそんなに執着するの?」
押し黙る繭香。私の最大の疑問でもあるんだけどね、これ。
「…それは…あたしじゃ…だから…」
しばしの沈黙のあと、返ってきた答えに間抜けな声が漏れる。
「え…?ど…どういうこと…?」
顔を伏せた現リーダーを、ほかのメンバーは心配そうに見つめる。
「…香咲が抜けてから、グループは半分になったんだよ。あたしじゃまとめられねぇの…。やっと半分をまとめられても、みんなの中にあるリーダーは、あたしじゃなくて香咲なんだよ!!」
そんなの…今更言われても…。
私が抜けるのは必然だったと思うし、人数が半分になったものしょうがないと思う。
でも、繭香も悩んでたんだ…。
なんかちょっと安心したからかな。
「ふふ…そーだったんだ」
笑いが漏れちゃった。それでまた睨まれる。
「てめーにはわからねぇよ…!」
「うん、わかんないよ。だってさ、私の家は遺伝子がカリスマらしいし。まあ、私は例外だと思うけど、わずかでもその遺伝子はあるわけだしね」
「なんだよそれ…」
「そーいうものなの!…でもさ、半分まとめたのは繭香のおかげでしょ?私の時のメンバー全員が私を慕ってたと思う?」
「それは…」
おそらく繭香は私がリーダーの時の“裏”を知っている。だからあえて聞いてみる。
「…違うでしょ?つまりそういうことだよ。今のメンバーは全員繭香をしたってるんだよ」
「そんなわけ…!」
「慕ってます…リーダー…!」
取り巻きがそんなセリフを言う。目を見開いて瞳に涙を浮かべる。
「お前ら…」
「そういうことだよ、繭香。…私の代わりをしようと思わないでよね。繭香は繭香でしょ?」
「香咲…」
「…まあでも、いつかこのグループは解散してよね?今すぐじゃなくていいけど…きっと、その時が来るから。そしたらちゃんとね」
「…わかったよ」
―――わかってくれたのかな、私の気持ち。
嬉しくなって笑顔になる。そして、手を差し出す。
「…今日やったことを許せるわけじゃないけど…でも、わかってくれてよかった」
「香咲…ごめん…」
「…ううん、もういいよ。これから、頑張ってね?」
「あぁ…!」
力強く手を握ってくる繭香。…あぁ、まるで中学校に戻ったみたい。
きっと和解しきれてはないけど、今日はとりあえずこれでいいや。
―――だって、いつかはきっと、わかってくれるはずだから。
それに、私には今…
「相良ッ、大丈夫か!?」
「香咲濡れてるぞ!?」
「あれがヤンキーが…」
「って、アイツら…同級生じゃナァイ?」
大切な仲間が居るし…ね!
久しぶりのマイニチペダル。
いつか書きたかった話です。