悠人くんと仲良しな友香ちゃん、面白そうでつい。
ハコガクの昼休憩は長い。昼食時間も含めた休憩のため、私は購買にパンを買いに行く。
友達がいないわけではないけど、少ない方の私。今日は数少ない友達も先生に呼び出され、仕方がないから屋上で1人、昼食を取る。俗に言うぼっち飯とかいうやつ。
ドアを開けると話し声。怒鳴り声のようにも聞こえる。
邪魔して申し訳ないけど、私も食べる場所がないんです。我慢してください。
そんな事を思いつつ、ちょっと話が気になったりしないでもない。聞き耳とか趣味が悪いけど、しょうがない。
「銅橋、真波はどこだ?」
「さぁ。遅刻じゃないか?」
銅橋…。どこかで聞いたことのある名前。真波はもっと、どこかで…。
「あれ、荒北さん?ぼっち飯?」
上から聞こえた声にびっくり。黒くて大きな瞳に、綺麗な黒髪。そして厚い唇。
「新開くん…別にどうでもいいんじゃない?君こそなんで、ここに?」
「俺、自転車競技部だし」
あぁ、そっか。銅橋も真波も、兄貴から聞いたんだ。
「そうだ、荒北さんも一緒に食べる?」
「…はぁ?何言ってんの、私自転車競技部じゃないですけど」
新開くんは不思議くん。なんていうか、飄々としてるっていうか。
「いいんじゃないのかな。さぁ、行こう」
勝手に手を取られ、勝手に連れて行かれる。っていうか、先輩ばっかり過ぎて嫌になる。
「悠人、遅い…って、誰だ、こいつ?」
銀髪のなかなかのイケメンさん。どこか兄貴に似てるかも。
ってか、一緒にいる茶髪っぽい人、身長でかすぎる!?そばにいる人、髪の毛栗みたいっていうか、まつげ長いし…。
緑色の髪のひとはでかい。なんか怖そう。まぁ当然、みんなの視線は私に釘付けだし…。
「クラスメイトの子です。えっと…」
「…荒北友香です。新開くんのクラスメイトで、バド部です」
しばしの沈黙。そして、銀髪さんが立ち上がって、口をパクパクさせてる。
「あ、荒北って…!?」
「あー…はい、そうです。靖友は兄です」
瞬間、みんなの声が響き渡った。とてつもなく大きな声だった。
銀髪さん―――黒田先輩が、私をまじまじ見てる。恥ずかしい。
「そっくりすぎんだろ…目以外、荒北さんだ…」
「私も一応、荒北ですけど」
「そーいうことじゃなくって…うわー…びっくりだ」
まつげさん―――泉田先輩が頷いてる。高身長さん―――葦木場先輩はまだ驚いてる。
「…兄貴って、そんなに印象に残ってるんですか?」
聞いてみると、3年生3人はめちゃくちゃ頷いてる。
「荒北さんはすごい運び屋で、何度もエースをトップにしてきたんだ。高校から自転車を始めたと聞いたときは、びっくりしたよ」
「そうなんですか…」
兄貴の活躍なんて、雪香じゃあるまいし、どうでもいいから全然知らなかったけど、すごかったんだ。まぁ、運動神経はとてもいいし、当然かもしれないけど。
そのとき屋上のドアが開いて、青髪さんが入ってきた。
「あれー、誰ですか?」
マイペースそう。っていうか、盗み聞きの内容からして、彼が真波さん、だよね?
「ども。荒北友香です。靖友の妹です」
「わーっ、新開さんだけじゃなくて、荒北さんもいるんだ!」
びっくりしてる真波先輩。…荒北さんも?
「新開って…悠人ですか?」
「ううん、違うよ。ユートのお兄ちゃんも自転車部で、すっごく速かったんだ」
新開くんと私、変な共通点があってびっくり。
結局今日はぼっち飯を逃れ、新開くんと教室に戻る。
「…お兄さんがいたんだ」
「うん、知らなかった?っていうか、お兄さんいたんだ」
「うん、一応。今度静岡から帰って来るって言ってたけど」
「へー、偶然。隼人くん―――兄貴も今度、帰ってくるって言ってた。もしかしてさ…」
「…もしかするのかな?」
そして私たちの中には、1つの案が浮かんだ。
1週間後。私は外泊許可をもらって、家に帰っていた。
「友香ァ、ちょっと昔のダチに会いに行ってくるヨ。母さんたちにヨロシク」
「待って、兄貴。私も連れてって」
「はァ?いいケド…いいのォ?知らないヤツだヨ?」
「いいのいいの。さ、行こう」
絶妙なタイミングの一致。おそらく兄貴が会いにいくのは…
「やっぱり」
「大正解だったね」
私と、兄貴の友達―――新開さん―――の弟―――新開くんが話してるのを見て、兄貴と新開さんはびっくりしてる。
「え、知り合いなのォ?」
「うん。クラスメイト」
「靖友、おめさんの妹、ハコガクだったのか」
「てめェの弟もじゃナァイ?」
―――兄貴と新開さんは、どうやら仲良しだったようだ。
ファミレスで兄弟で話す。なんとも変な構図。
「隼人くん、俺ココアね」
「おいおい、俺のおごりかよ?」
新開くん、なかなかやる。負けずに私も。
「兄貴、私ドリンクバーでいいよ」
「はァ!?おごりかヨ!?」
「私、お金ないし」
私たち、似たもの兄弟なのかもしれない。
話をすると、兄貴と新開さん(混合するから、隼人さん)は高校時代、仲が良かったらしい。今では東京と静岡で遠いけど、しょっちゅうあってるとか。
知り合いだろうな、とは思ってたけど、そんなに仲が良かっただなんてびっくり。
「へー、これが靖友の妹かぁ。似てるな!」
「よく言われます」
金城さんとか待宮さんにも言われた。香咲さんにもしょっちゅう言われてる。
「性格は、靖友より可愛いな!」
急にバキュンポーズ。何がなんだかわかんない。
「てめェ、人の妹仕留めんな!バァカチャン!」
「隼人くん、荒北さん仕留めないで」
…友達と弟のダブルの攻撃で、隼人さんはシュン。…にしても、隼人さんと新開くん(混合するから、悠人くん)は似てるな。人のこと言えないよ。
私と悠人くんは今日のうちにハコガクに帰らないといけない。
ファミレスで話し込んで、2人でハコガクへ帰る。兄貴達は明日も会うんだって。
「友香ちゃん、びっくりしたね」
向こうも混合を避けるために名前呼び。
「本当。まさかあそこまで仲がいいとは」
「俺たちも仲良くしようよ?」
「…まぁ、考えとく」
そして…私、決めた。
「悠人くん」
急に名前を呼ばれて、不思議そうな顔をする悠人くん。
「…私、自転車部のマネージャーする。バドミントンに未練がないわけじゃないけど、この短時間で自転車の方が魅力的に見えた」
全て事実。みんなを支えたい。…香咲さんみたいに。
「本当!?先輩たち喜ぶね!」
「だといいけど」
「絶対喜ぶって!」
悠人くんもめちゃくちゃ喜んでるけど。
まぁ、喜んでもらえるのは嬉しいこと。
―――私も、みんなを支えてあげたい。
だから、兄貴のいた…自転車部で頑張ろうと思う。