捏造してます。
「あっ、とも姉。あれって、やす兄の同級生の…」
妹の雪香と近くのデパートに来ていたときのこと。雪香が指差す方には、緩いウェーブのかかった茶髪の女性がいた。
見た目だけではずいぶん大人っぽく見えるが、兄貴と同級生なんだから今年20歳で、私とは3歳しか違わないはずなんだけど。
相良香咲さん。洋南大学の文学部の二回生で、私たちの兄貴の靖友とは小1からの付き合い。今から7年前にうちのとなりに引っ越してきた政治家一家の末っ子だって言ってた。
ご両親も、お兄さんもお姉さんも香咲さんもみんな美人で芸能人みたいでびっくりしたのを覚えてる。あと、兄貴がそんな家の人と仲がいいことにも驚いた。
ご両親もお兄さんやお姉さんは、なんていうか高圧的で正直怖いんだけど、香咲さんだけは優しくてフレンドリーで接しやすかった。まぁ、かなり激しい人見知りの私にとっては、若干苦手でもあるんだけど。
ちなみに雪香は6歳も離れてるから話す機会もあんまりなくて、よく知らないみたいなんだけど。
雑貨屋さんで何かを見てたけど、何を見てるのかはわかんない。
1人…なのかな?いや、1人ではないと思うけど…。
かなりジロジロ見すぎたらしい。視線に気付いたのか、ハッと顔を上げた彼女と目が合う。
「あ、友香ちゃん」
「…ども」
軽く会釈して、このままじゃダメだと思って雪香と一緒に香咲さんのところへ行く。
「久しぶりだねー。元気にしてた?」
「まぁ…はい。えっと、香咲さんは何で、ここに…?」
「えっとね、チャリ部の友達と先輩へのプレゼント、買いに来てて。あ、靖友も来てるよ」
兄貴もいるのか。私とそっくりな兄貴。正確に言えば、私が兄貴に似たんだけど。
髪質とか髪色とか肌色とか体質とか、本当に瓜二つだってよく言われる。あと、下まつげが長いのも、目つきが悪いのも。瞳は大きい方らしくって、それは似なくてよかったけど、色は全く一緒。
「え、やす兄いるんですか?」
私の後ろにいた雪香が尋ねる。香咲さんが頷く。
「いるよー。今は3人でスポーツ用品売り場に行ってるけどね」
妹の雪香は私や兄貴には似ていない。髪質が柔らかいところとか、下まつげが長いところ、あと肌色はおんなじ。でも、髪は茶色がかかってるし、瞳も茶色がかってる。あと、上まつげも長い。
この妹、相当のブラコンである。
「ねえ、とも姉、スポーツ用品売り場行こっ!」
「えー…あんた、運動してないでしょ」
「でも、その…アクエリ!そう、アクエリ飲みたいの!」
この子、どんだけ兄貴に会いたいんだろう。
「じゃ、またねー」
その間に、香咲さんに手を振って別れる。
私的には、兄貴より香咲さんに会ったことの方がびっくりだったりする。…兄貴と香咲さん、今でも仲いいんだ。一体何年仲いいの?7歳からだから…13年?
そんなことを考えたら、いつの間にやら動いていた足。目の前にはスポーツ用品売り場。しまった。
しょうがないから、一応部活でやってるバドミントンのラケットの売り場にでも行ってみる。雪香はどこに行ったのかわからない。
「あー、このグリップいいかもしんない」
新発売のグリップを握って、そんな事を言う。これでも一応、スポーツ強豪校のハコガク―――兄貴達の母校の箱根学園のバド部だからね。用具にはちょっとこだわる。
「は!?友香ァ!?」
気持ちよくグリップを見ていたのに、聞こえてきたのは兄貴の声。まぁ、自転車競技の用具売り場、ここのとなりだししょうがないけど。
「…やっぱり兄貴来てたんだ。さっき、香咲さんにあったから、聞いてはいたけど」
「そーかヨ。あ、金城、待宮、紹介するわ。ウチの妹の友香」
「…ども。荒北友香、ハコガクの2年でバド部です」
目の前にいるのは、坊主の男性となんか兄貴に似た雰囲気の男性。まぁ、兄貴と違って2人ともがっしりしてるけど。
「そっくりだな、荒北と。さすが兄弟だな…」
「よく言われます」
「喋り方っちゅーか、雰囲気までそっくりやのぉ。あ、ワシは待宮栄吉じゃ」
「俺は金城真護だ」
坊主が金城さん、方言が待宮さんか。2人とも、2年前のインターハイで見た気がする。神奈川でやってたから、ついでに見に行った時、見た気がする。
「あ、いたいたっ」
聞き覚えのある声。というか、さっき聞いた声。
「香咲…それに、雪香ァ…」
「あっ、やす兄!それにお友達もいる!」
軽い足取りでかけてくる雪香。中2にもなって迷子とは、実に彼女らしい。
「んーっと…これも、妹ネ。雪香」
「ども!荒北雪香です!中2です!」
私と対照的に、元気のいい挨拶をする雪香。
「雪香ちゃんは似ていないな」
「そうですかー?髪質とかおんなじですよ?」
そう言って待宮さんが髪を撫でてびっくりしてる。雪香、本当に馴染むのが得意だな。
雪香と待宮さんと金城さんが話してる間、私は兄貴と香咲さんと話す。
「香咲さんさ…兄貴と何年一緒にいます?」
「えっとねー…13年?」
「あー…そうだネ」
「…そんなに一緒にいて飽きません?」
すると2人は顔を見合わせて首をかしげ、しばらくして吹き出した。
「あははっ、飽きる?そんなの、ずっと前に飽きたよ!」
「でもさァ、それでもなんていうのかネェ…今更?なんじゃナァイ?」
―――こういうの、いいなって初めて思った。恋人でも、友達でもない。“親友”っていうのか、そういうの。
「…いいね、そういうの」
思わず出てたその言葉に、兄貴が驚いた顔をする。
「やべェ…明日、雨ふるわ…」
「は…!?兄貴、何言ってんの…!?」
「素直なのはいいことじゃん、ねっ、友香ちゃん」
「べ、別にそういうことじゃなくてですね…!」
やっぱり慣れないことはするもんじゃない。だけど、まぁいいや。
兄貴って、こんなふうに笑えるんだ。
いつだったかグレてた兄貴を思い出す。その間も、香咲さんは一緒にいてくれたんだろうか。少なくとも、絆が切れなかったから今があるんだろう。
香咲さんが荒れてた頃も、兄貴はきっと絆を切らなかった。だから、香咲さんも切らなかった。
そういうの、本当にいいなと思う。
「香咲さん」
兄貴が雪香のところに行ったのを見て、こっそり香咲さんに声をかける。
「ん?どしたの?」
「えっと、その…兄貴のこと、これからもよろしくお願いします。あんな兄貴だけど…」
しばしの沈黙。変なこと言ったかな…?
とたんに何故か抱きしめられる。
「え、あの…!?」
「わかってるよ!靖友は私の大切な幼馴染で親友だもん!離れないって!ずっと一緒だって!あー、もう!友香ちゃんもかわいすぎるよーっ!」
「えっとー…あのー…」
やっぱり香咲さんはわからない。優しくてフレンドリー。だから、ちょっと苦手。
だけど、きっと私は、彼女が大好きなんだと思う。
友香ちゃんが悠人くんと仲良かったら面白そうだなー、と思います(笑)