朝が来て目が覚めて、チャリ部と一緒に登校して、授業を受けて、放課後になって部活して、遊んだりして帰寮して、なぜか男子の談話室で話しこんで、おやすみっていって部屋に戻って、宮原ちゃんとたわいのない話をして、おやすみって言って電気を切って、目をつぶって眠りに就く―――
そんな毎日の中で、2日に1回は聞かれることがある。それは―――
「ねー、荒北ぁ」
「なんだヨ、相良」
「あのさ、実はさー…また、今日も言われた…」
「ハァ!?今月まだ10日なのに、もう6回目じゃねェ!?」
「うーん…そうだっけなぁ。でも、何で荒北と私が恋人同士だって思われてんだろ…」
―――“相良さんって、荒北くんと付き合ってるの?”
私と荒北は小学1年生からの付き合い。いわゆる幼馴染と言うやつ。
最初はただのクラスメートだったはずが、なぜか6年間同じクラスで、席替えをしたら2回に1回は同じ班。お互い気が強かったから、同じ班になるたびに言いあってたっけ。
そんなこんなで小学校卒業。中学受験なんて考えもしなかった私たちは普通に地元の中学校へ進学。そしてまた3年間同じクラス。
この3年間は色々あった。…私たち2人の一生分のトラブルがあったんじゃないかってくらい、色々ありまくった。
まず私。親との関係がこじれにこじれ、1年の2学期半ばには髪はショッキングピンク、恥ずかしいくらい大きいアクセを付けて、派手すぎるほどのメイクをして、誰これ構わずケンカ吹っかけて…うん、思い出すだけで恥ずかしい。
荒北は野球部で新人賞を取ったりして、なかなかの活躍をしてた。
荒れてたのに私が壊れないですんだのは、荒北の活躍があったからかなって今になって思う。―――今でこそ違うけど、あの時の私は間違いなく、荒北に恋をしていた。小学校の恋愛の延長、みたいな恋愛感情だったんだけどね。
だからこそ、荒北が野球やめるって聞いたときはかなり戸惑った。私の心の支え、みたいなものだったし。勝手に心の支えにされて迷惑だったと思うけど。
肘の故障なんて、誰も想像してなかった。華々しくデビューするはずだった荒北の未来は、呆気なく崩れて行った。そのころから私と話すこともなくなり、呼び方も“香咲”“靖友”から“相良”“荒北”になったはず。
そんな荒北を見て、高校も意図してだけど一緒にして、改心してみようかなと思って改心した。
高校でも腐れ縁は途切れず、1年生から早速同じクラス。当然話す機会はなかったけど。東堂はリーゼントで原チャリ乗り回すっていう荒れっぷりだったし。
逆に仲良くなったのは、出席番号がちかいと言うことで東堂と仲良くなった。
中学時代の事が裏で回ってた女子の中には、私は入ることができなかった。どんなに見た目を変えても、改心しても、過去は変えられないから。
そんな私にとって、仲良くしてくれた東堂はありがたい存在だったし、誘われては言ったチャリ部で新開とか福富とかとも仲良くなれた。
そんな私たちの目の前に、突然荒北は現れたっけ。
ヤンキーが福富のビアンキに乗ってるって話を聞いて、もしかしてって思って覗きに言ったら案の定。
何やってるんだかと思ったし、こけまくる荒北をハラハラしながらみてたっけ。
そもそも経験者でもレギュラーになるのが難しいハコガクのチャリ部に高校生になってから始めた荒北が活躍できるとは思ってなかったし、そもそもメンツになじめるかが不安だった。
まぁ、最初はそんな不安だらけの新入部員だったけど、次第に荒北は部にもなじみ、福富や新開や東堂と仲良くなった流れて私との関係も修復されていき、今に至る。
修復されてからというもの、私たちは何でも言い合える親友になった。
お互いに直接言ったわけではないけど、恋愛感情はお互いにないというのはなぜか分かる。付き合いの長さかな。
そのせいか悩み事は荒北、相談するのも荒北、相談されるのも荒北、くだらないこと話すのも荒北…と、私の生活に荒北はかかせないものになった。
…とまあ、昔の事を回想してみて思ったこと。
「…私たち、確かに勘違いされてもおかしくないかもな…あはは…」
「…だなァ…」
―――確かに私たち、恋人に見えないこともない…かもしれない。
「なァ、相良ァ」
「んー?どしたのさ」
「…お前さァ、オレといてイヤとか思わねェわけ?」
「……はぁ!?何言ってるのさ、急に」
思わず呆れて言葉が出なかった。何を言い出すのかと思えば急に…。
「…だってヨォ、お前、その…アレだヨ!!」
「な、何で急にキレるの!?!?」
「わりィ…その…結構カワイイじゃねーか?オレといていいのか、とか思って…」
珍しく弱気な荒北。珍しい。珍しすぎる。珍百景かもしれない。
是非写メってLINEのタイムラインかグルチャに載せてやりたい。
「何を言い出すのかと思えば…そんなこと?あのねぇ、私可愛くないからね、そもそも。それに、私が居たくて荒北といるの。いい、分かる?」
「お、おう…オレら、いつの間にか親友になってるけど、いいのかヨ?女子の友達いるんじゃねーの?」
「…私、中学校の頃のアレが入学早々同級生の間に回りまくって、おまけに仲良くなったのが東堂っていう不幸も重なって…女子の友達いないんですけど…」
荒北、地雷を踏んだって顔してる。別に私も今ではそんなに気にしてない。
最初のころは多少は寂しかったけど、今となってはチャリ部っていう良い友達が居るし、荒北っていう親友もいるし幸せだと思ってる。
荒北が急に立ち上がる。そして私から顔をそらす。
「オレェ!!」
急に叫ばれて思わずびっくりして肩を震わせる。
「…うん」
「…オレ、中学生のころは、お前の事、好きだったヨ」
「え…そうなんだ…」
いきなりの告白。っていうか、中学生の頃って…。
「ふふ…」
「な、なんだヨ!?!?」
「いやぁ…びっくりしてさぁ。だって私も中学の時、荒北の事好きだったもん。あの頃って、私たち両思いだったんだね!!」
「両思いだったんだね、って…ハァ!?ンだヨ、そりャよォ!!」
急にどなられるとこっちがびっくりしちゃうよ!!まぁ、私もびっくりだけど。
大声で怒鳴られて、しばし呆然としたのちこみ上げてきたのはやっぱり…
「…プッ」
「…ハッ」
笑い、なんだよね。私たちの場合。
1つ1つの行動でお互いが理解できて、そのたびに思い出が湧き上がって来て。
男女の間に友情はない、なんて誰が言ったんだろう。私と荒北の間にあるのは、昔に置いてきたほろ苦い恋心…それもあるかもしれない。でも今は…
「ね、荒北。私たち、親友だよね…?」
「ッたりめェだろォ!!オレらは大親友だヨ!!」
―――こんなことを手を取り合いながら笑顔で話すから、きっと恋人同士って勘違いされるんだろうなとチャリ部が思っている事を私たちは知らない。