「です……のーとぶっく?」
そのノートは、表紙に“DEATH NOTEBOOK”と書かれていることを除けば、ごく普通の大学ノートだった。彼は表紙をめくり、その裏に英語で何やら書かれているのを認めた。
「このノート……名前……死……」
英語が苦手な彼は簡単な単語しか翻訳することができず、やがて解読を諦める。
「朝上、どうしたんだ?」
一人で校庭に突っ立っている彼を不審に思ったのか、クラスメイトが声をかけてきた。普段から仲良くしている相手ではなかったが、今ばかりは都合がいい。
「お、夜神。こんなノート拾ったんだけどさ、英語でごちゃごちゃ書いてあってワケわかんねーの。お前、読める?」
ノートを手渡された夜神は英語の文章にさっと目を通し、微かに鼻で笑った。
「このノートに名前を書かれた人間は死ぬんだって」
「は?」
おどけた調子でわざとらしく聞き返すと、夜神も口元を緩める。
「くだらない悪戯だな」
「じゃあ、俺がノートにお前の名前書いたら、お前死ぬの?」
この冗談に夜神はむっとしたようで、彼にノートを返すと誰にともなく呟いた。
「世の中、ばかばかりだ」
“月”と書いて“ライト”と読む名前のやつが何を言っているんだと彼は思ったが、それは心の内にしまうことにした。
夜神と別れると、もう一度だけ翻訳を試みるが、やはりできない。
「こういうの、中二病っていうんだよな」
一人でけたけたと笑い、彼はそのノートをかばんに入れた。表紙裏の英語の羅列以外は何も書かれていない新品で、持ち主の名前がどこにも見当たらないのだからそのまま地面に置いておくのはもったいない。
落し物として届けてもよかったのだが、やたらと“DEATH”を多用していることから、落とし主は心が病んでいるのだろうと彼は見当をつけた。
陰気で、恥ずかしがり屋で、いじめにあっているかもしれない。そんな生徒が、誰かにノートを見られたと知って、自分のものだと名乗り出ることもないだろう。
「ちゃんと名前を書かないのが悪いんだ」
彼は帰宅するとまず自分の部屋に入り、忘れないうちにノートをかばんから取り出した。
表紙の“DEATH NOTEBOOK”を修正ペンでなぞってみたが、不思議と消えない。習性ペンの白のインクが、黒の字に吸い込まれるように見えた。
仕方がないから塗りつぶすのはやめにして、太いマジックペンで二重線を引いた。これで何と書いてあったか読めないはずだ。
「ちょうど数学のノートがなくなりそうだったんだよな」
二重線で消した字の下に大きく“数学”と書いた彼は、細いマジックペンに持ち替えて表紙の下のところに“二年一組一番”と書いた。
そして、“朝上輝彦”