東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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33話

 いつかの日。

 幻想郷での朝は早かった。竹林に風が吹く。からからと青い竹が鳴り、さあさあと笹が唄う。清涼な朝。

 魂魄妖夢は一人、刀を構えている。目の前には太い竹がある。

 腰を沈め、鞘に収まった一刀の柄を優しく握る。彼女の瞳は揺らがない。凛とした目元、わずかに動く唇。着飾った美しさではなく、静かにそこにある彼女。ほんのわずかに前へ足をすり出す。じゃりと砂が鳴る。腰を僅かに沈める。

 風が吹く。白刃が煌めき、音が遅れていく。

 妖夢は凄まじい速さで抜き、右手に握った剣を一振り、二振り。感触を確かめるように動かす。彼女がくるりと刀を回して、鞘にするりと納める。

 やっとのことで、妖夢の前にある竹に一筋の線浮かんだ。両断されているはずのそれは動かない。彼女の美しい一閃は狂いなく、斬る事だけを為したのだろう。両断した竹がそのまま載っているのだ。

 妖夢は踵を返す。笹の音を背に、ご主人様の為たけのこを取りに行かなければいけない。

 このように魂魄妖夢は修行を怠ることはない。彼女は幼少のころから祖父より刀剣の術を叩きこまれ、その精神性を見様見真似でなんとなく曲解しながら取得していた。霊夢達と初めて会った時はとりあえず切りかかってきたこともあり、さらには酒の席で普通に切りかかったりもしている。

 しかし、一日一日を修行に費やす彼女は幻想郷の中でも類まれな努力家と言っていいだろう。それも庭師としての仕事をこなしながらである。そんな魅力的な彼女は現代に来てから変な方向に覚醒してしまった。それも腹の黒い天狗のせいでもある。

 そのことを深い恨みと共に毎日剣を研ぎながら、アイドル活動に勤しむ毎日。昨日は温泉に連れていかれてのロケ。そしてとんぼ返りしてでの仕事。流石に妖夢も精神的にくるものがあったらしく、思い立って海を見に来たら地獄を見ることになった。

 

 まさか天狗と同じように黒い河童が海に生息しているとは思わなかっただろう。それも蟻地獄に吸い込まれる蟻のごとく妖夢は吸い込まれてしまい、水着にさせられてのビーチバレーに参加させられるとことになった。もうなにがなにやら分からないだろう。

 

 それでも――

 

 青い空にボールが舞う。ネットの向こうには自信を滲ませて笑うお空が居る。砂を蹴り、身体を捻りながら飛んだ彼女。落ちてくるボールに合わせて、右手を振る。スパイク。ボールが音を立てて、にとり達のコートへ跳ね返される。

 スピードを乗せてボールが宙を奔る。良い攻撃である。

 砂を蹴らず、一足で追いつく妖夢。リボンが揺れている。それでもボールは足もとに砂へ突き刺さろうとしている。妖夢は流れるように腰を落とし、身体を傾ける。一瞬片足で立ち、右手を振る。彼女は体勢を崩しながらのレシーブ。体幹がぶれないことが彼女の強さの証である。

 

 無力化されたボールが浮かぶ。

 

「わたしがとるよっ」

 

 走る河童。にとりな青いポニーテールの彼女。妖夢が打ったボールはネット際に落ちてくる。絶好球である。

 

「通しませんよっ!」

 

 しかし、大柄な地獄烏も防御の姿勢。単純な背比べで言えばお空とにとりでは前者に分がある。つまりは普通にスパイクするだけであればにとりのボールは止められてしまうだろう。

 白い歯を見せて不敵に笑うにとり。胸を張り、ジャンプする彼女。お空も合わせて両手を広げてのジャンプ。

 にとりはばあんと目の前に「ネット」めがけてスパイクする。全力ではない。ボールはネットの一番上の部分に少しだけ引っかかる。急激に勢いを失くして、お空側のコートにぽとりと落ちる。こすい手である。

 

「わ、わ、ちょっと」

 

 空中で驚くお空。顔に「慌てている」と書いているような表情の彼女は力なくおちてしまったボールを追って、空中で足をバタバタさせてしまう。もちろん着地に失敗して落ちた。

 

「ぺっぺ」

 

 砂まみれになったお空のよそにぴいと笛が鳴る。得点の合図である。審判のおかっぱが右手を上げている。そして一気に周りの観客が声を上げる。拍手と歓声の入り混じった、熱のある空間。それがビーチバレーのコートである。

 妖夢は汗を拭いながら、息を整えていた。いろんな不本意なことが重なって参加したビーチバレーだったが、歓声を聞いて小さくガッツポーズをする。肌を流れる玉の様な汗と少ししっとりした髪、嬉しそうな顔。刀を持っていないだけで普通の少女として生きてくことができるのだ。

 そこににとりがにやにやしながら、そして片手を掲げながらやって来る。妖夢はちょっとむっとしたがぱんとその手を弾く。ハイタッチである。

 

「……出てあげるのはこの試合だけですから」

「はいはい。勝ったら天狗の写真あげるからさ」

 

 ふんと鼻を鳴らす妖夢。同じように汗を煌めかせるにとりはまだにやにやしている。

 

(とりあえず決まってよかったね。さっきの)

 

 スパイクをネットの上部に当てる小技を成功させ内心ほっとしているのだが、そんなことはおくびにも出さない。彼女はちらりとコートの外を見る。

 紫の水着を着た、青い髪の美少女が板を掲げている。もちろん雲居一輪である。実況しろとにとりが言ったのに履行しない彼女を、仕方なく得点板として使っているのだ。会場中の視線が集まるため、笑っているような泣いてような悔しそうな妙な表情を一輪はしている。それにビキニで両手を上げると腋が見える。

 彼女の持ち上げている板には「え 2- 8 に」と書かれている。「え」は映姫又は閻魔のそれで「に」は言うまでもないだろう。

 

 

(とりあえずリードはできてるけどね。あいつも何もせずに終わるとは思えないなぁ)

 

 一輪のことは一顧だにせず、にとりは閻魔を見る。なにやらお空に説教をしているらしい。緑の髪の彼女。妖夢がゲームに参加してから数分の攻防があった。基本的に前衛にいるのはお空でその穴を埋める形で前後に出てくる映姫というバランス型の動きをしている。

 もちろんにとりのようなトリックスターには操りやすい。動きがなんとなくわかるからだ。

 それに妖夢の身のこなしは尋常ではない。一回戦でこいしや寅丸が見せたような異常な運動ではなく、無駄をそぎ落とした理のある動きである。地味ではあるが、武術で鍛えた勘と動きは攻撃よりは防御に有効に作用している。

 

 ★★★

 

 サーブは魂魄妖夢である。常に会場のどこからか「かわいー」などとアイドルに対する声が聞こえてくる状況。

 それでもこの少女は集中していた。吐く息のリズムは変わらない。手に載せたボールをしゅっと真上に投げる。すうっと上がった軌道。それをなぞるように落ちてくるボール。

 妖夢はそれを撃つ。

 放物線を描いて閻魔のコートへ放たれたサーブ。早さはよりも、おそらく落ちればコートの端に着弾するであろう精確さが恐ろしさである。アウトと見間違えるようなぎりぎりを襲うからだ。事実「ふふん。アウトですね」と歩いて避けた地獄烏が二度ほど点を取られた。にとりの真似がしたかったらしい。

 受けるのは映姫である。彼女にごまかしは通用しない。腰を落として、両手を組み。受ける。

 コートの上を飛ぶボールは、お空の打ちやすい場所へ向かう。さっきからずっと映姫はお空のサポートに徹している。

 

「いきましたよ」

 

 映姫の声は澄んでいる。歓声に包まれた場所でも聞きほれるてしまうような、美しい声。命を裁く閻魔として言葉を伝えきれないようにだろう。しかし、お空は聞いていない。

 

「よーし。今度こそいっちゃうよ!」

 

 彼女は唇を嘗める。太腿にさっきこけた時の砂が付いたままだ。

 興奮したり、周りが見えなくなるとお空は敬語が崩れていく。映姫は眉を寄せて、相手のコートを確認する。妖夢が前に来ている。にとりは後ろだ。閻魔は冷静に状況を頭に入れる。逆に闘志に燃えるお空は飛ぶ。

 

「メガぁフレァアア!!」

 

 さっきよりも気合を込めて、全身全霊の力でスパイクを撃ちだす。体をいっぱい使ったその動き、元気な姿は観客の一部を魅了してしまう。少年野球の子供達はお空の口上を真似し始めている。

 だが、現実は非情である。得点というかにとりを狙って打ち出されたそれは大きくはずれ、観客席に突き刺さってしまう。どよめく会場でお空は頭を掻きながら「すみません……」とちょっと申し訳なさそうにしている。

 ともかくこれでにとり達に点が入ることになった。実は自滅点がかなり多い。それも閻魔チームの映姫よりもお空に関連している。

 

「次、こそは。やってやるわ」

 

 お空は元気よくそういった。この場合は得点を取るというよりは「にとり」をとるということだろうか。他の球技にも言えることだが、力の有り余った子でかつ初心者はどこでもホームランをしてしまうことがある。高笑いするお空はその典型だと言えるだろう。

 

 それだからこそ危うさを映姫は感じている。彼女の淀みの無い瞳が捕えているのは「敵」であるにとり達だけではない。いや、最初から彼女の関心ごとはお空一人にある。元々元気のかけらもなかった彼女が今は高笑いしているが、負ければどうなるかわからない。

 太陽の様な熱さを持つ今、そして冷え切った昨日までの彼女。今は狭間であるからこそ、映姫は静かに目を閉じて思案する。

 

(……私も人の子と関わりすぎましたね)

 

 此方に来てあまりに幼い情熱や人に関わりを持ち過ぎたと映姫は思う。いつの間にか少年野球の監督の様なことまでしてしまっている。彼女は手で口元を隠して、誰にもみせないように、

 

 くすり、とした。

 しかし、楽しいものは仕方のないことであるかもしれない。四季映姫は河童などよりは永く子供達を見守ってきたのだ。何故なら彼女は、お地蔵さまなのだから。だからこそ河童が人の遊びで負けることができないというのであれば、映姫も負けるわけにはいかない。いや、勝たなくてもいい。そこに拘りはない。

 

「あっはっはっは!」

 

 何がおかしいのか笑っているお空を見る。

 お地蔵さまのような優しい表情、その半分を手のひらで隠した四季映姫。こちらに来なければ厳格な閻魔のままだったのだろうが、今は少し昔に戻る気になっている。ただし「悪いこと」をしている河城にとりも叱ってやる気になっている。

 裁くのではなく、叱るのである。もちろん慈悲はあるが、容赦なく。

 

★☆★

 

 博麗霊夢は刀を装備していた。

 海の家の前で佇み、水玉のトップスにショートパンツを穿いたその腰に二振りの刀。もちろん魂魄妖夢の持ち物である。さっき河童が来て預かるように頼まれたのでこうして持っている。刀を差したのは初めての体験であるが。

 

「こんな重いものずっとつけてるなんて、あいつ馬鹿じゃないの?」

 

 毒舌を吐きながらも律儀に預かっている霊夢。横ではベンチに座って観戦している村紗水蜜と「せんずだ。くえ」と言いながら寝ころんでいるお燐の口に枝豆を詰め込んでいる古明地こいし。一応お燐の傍に小さな傘が立てかけられている。

 

「でも似合っていますよ霊夢さん」

 

 冗談っぽく水蜜がそういうと、霊夢はじろっと見てから何も言わずに試合に眼を戻す。くすくすとにやにやと水蜜はしながら続ける。

 

「でもまあ、律儀に預かってあげている霊夢さんは友達思いで良い子ですね」

「……あいつ、友達じゃないんだけど……! へ、変なこと言うんじゃないわよ!」

「そうですかね。私にはそうは見えませんけど。いやぁ、お姉さんは霊夢さんがちゃんと友達がいて安心ですわぁ」

「あんた、斬るわよ」

「こわいっ」

 

 おどけながら降参のポーズをする水蜜。なんとなく無意識におどけて、同じポーズをするこいし。霊夢は苦虫を噛み潰したような顔をしている。その足元で枝豆を口から出して倒れている猫が一匹。安らかな顔している。しかし、霊夢の視界には入らない。

 水蜜はこいしから一つ枝豆を貰ってもぐもぐしている。その横でこいしももぐもぐと食べる。

 霊夢はそんな二人を呆れたように見ながら。刀を捨てようかと思案する。ただ、こんなものをそのあたりに捨てても犯罪関係に巻き込まれそうで嫌である。だが、聡明な彼女には思いつくことがあった。

 

「……そっか。海に捨てればいいんだ」

 

 的確で効果的なことを呟く霊夢。海中深くに沈めてしまえば銃刀法違反を立証できまいし、いずれ錆びるので葺しても無力化できるだろう。妖夢が泣きわめく以外は問題はない。ただ、霊夢ははあとため息をつく。本気で実行する気などない。する気があればそんなことを呟く前に青い海へ投擲している。

 試合は進んでいる。今は閻魔チームが点を取ったようである。霊夢はそれを真剣に見ている。ここで勝った方と戦うかもしれないのだ。横にいる古明地こいしなどが一回戦で見せた驚異的な動きを見ればわかるが、幻想郷の少女は一筋縄ではいかない。

 

「そういえば天子はどこにいったのかしら。あいつ」

 

 なんだか水蜜と行動し始めたくらいから見ていない。今日はまだまともに会話すらしていない。さとりは頭のことがあってどこかに隠れているのだろう。慧音もそれに付いているのだろうと霊夢は思う。ネズミは海の家でこき使われている。

 一輪は公開的な修行をしている。寅丸は裏で寝ていた。

 

「……あんた」

「はいはい。なんですか霊夢さん」

「べつに」

 

 なんとなく近くにいた水蜜に話しかける。意味などない。今また試合は閻魔のペースで進んでいるらしい。歓声が聞こえる。そんなことよりも霊夢は無駄に優し気な顔をしている自称「お姉ちゃん」がうっとおしくて仕方ない。それにいつもからかうような言動をしているので反撃してやりたくもなる。

 

「そういえばさっきにとりに写真撮られてたけど」

「ああー。あれは必ず回収しますよー」

 

 明るい顔で声は冷たい。如何に村紗水蜜のような陽気な怨霊でも半裸の写真を撮られれば思う所があるのだろう。河童を水の底に沈める覚悟程度はある。

 霊夢の頭に「船幽霊VS河童」の映画のような映像が勝手に作られて、ちょっと笑ってしまう。実際どっちが勝つのかよくわからない。そんな少女の笑いを水蜜はむっとみる。この話題は少しデリケートである。

 

「何を笑っているんですか。霊夢さん」

「なんでもないわ。にとりのことだから天狗にでも横流しして新聞に載ったりしてね」

 

 実現する。そんな運命を知らない水蜜はちょっと真面目な顔をしている。少し後にそれを見た豪族の少女に水蜜は公民館で変態のような風に言われる。

 歓声が上がる。地獄烏が点を取ったらしい。

 

「れいむさん」

 

 目が座っている。水蜜は霊夢に近づく。この船幽霊は表情を消すと少し怖い。だから博麗の巫女と言えどもわずかにたじろいでしまった。思わず腰に帯びた刀の柄を握ってしまう。

 

「そんなことを言う人とは思いませんでしたよ」

「な、なによ。あんただっていろいろ言うじゃない」

「…………」

 

 唇を尖らせて流し目で霊夢を見る船幽霊。後ろでは無意識な少女が同じことをしている。

 水蜜の瞳は暗い。見ていると吸い込まれてしまいそうな、そんな彼女の視線である。霊夢はむぐと困った様に下がる。しかしここで怒るわけ理由もない。それでも素直になれない霊夢は横をむいてツンとした顔をする。ただ、言葉はこうであった。

 

「わ、わるかったわよ」

「…………ぷ、くく」

 

 はっとした霊夢は水蜜を見る。すごく楽しそうな顔をした船幽霊が其処にいた。両手を口に当てて、笑い声が漏れないようしている。どうやらたばかられたらしい。真面目に怒ったふりをしていたのだろう。こいしもこれにはくすくすとしている。下では枝豆にリスみたいになっている猫がいる。

 

「あんたぁ!」

「だ、だって霊夢さん。すごい良い反応していくれるから、あ、いたいいたい」

 

 霊夢は水蜜にチョップする。それを手で押さえて楽しそうにしている水蜜。長く生きている分腹の黒さは船幽霊の方に軍配が上がるようだ。だが、どこからともなくひゅんと桃が飛んできた。それが水蜜の頭に当たる。

 

「いたいっ!? え? な、なんですかこれ」

 

 急に現れた桃。水蜜はあたりを伺うがさらに増えていく観客たちと霊夢達だけである。彼女は頭を抑えつつ、なんとなく色艶のよいその桃を齧る。

 

「全く誰がこんなのを……」

「なんで食べてんのよ。あんた。あれ?」

「どうしました?」

「試合……いつの間にかにとり達がリードされてない?」

 

★☆★

 

(お、おかしい)

 

 にとりははあはあと息を切らしていた。噴き出る汗を腕で拭いながら、水着の紐を直している。彼女の頭の中にはあらゆるトリッキーな手。悪く言えばこすっからい手が詰まっている。「カーブボール」や「アウトの誘導」、「ネットに当てて威力を殺すスパイク」のことである。

 

「あはは。私の敵ではありませんね!」

 

 相手のコートではお空が胸を張り、両手を組んで仁王立ち。それでいて高らかに笑っている。妖夢を見れば彼女も息を切らして膝に手をついている。 

 雲居一輪のボードには「え 15-12 に」と書かれている。この適当な取り決めのビーチバレーは21点先取制のワンゲームマッチである。少し前までにとり達が大量リードしていたはずであった。少なくとも初心者同士での短期戦である。早々には逆転は難しいはずだった。

 

「なんだってんだ…」

 

 にとりの顎から汗が落ちる。あれから地味に点を取られ続けている。お空が驚くべき行動しているわけでもないし、閻魔が逆に凄まじい動きをしているわけではない。

 それどころか時間がたつほどに妖夢の動きは鋭さを増していった、はずである。だがお空の放ったボールがたまたま妖夢とにとりの間に決まったり。ネットに引っかかったボールがたまたまにとり達側に落ちたりして点差が開いていった。

 変わった点と言えば四季映姫がプレー前に、

 

「もう少し前にかまえてください」

 

 などと簡単な指示をお空にしているくらいである。最初にとりはデータに基づいた動きかと思った。しかしである。お空は制御不能な女の子である。特に試合中に何か指示しても聞きはしないだろう。

 一回戦ではネズミが毘沙門天の動きを封じる動きをしていた。それが確率論に基づいたものだったんだろうが、ことお空に関してはそうはいかない。序盤でアウト連発していたのだから、映姫がどうしても失点するはずなのだ。

 だが、お空は最後に「ホームラン」を打ってからアウトをだしていない。もはやデータなどという生易しい物を超えている。

 にとりは相手のコートでサーブの構えをしている映姫を睨む。その緑の髪の少女は線が細い。現代での運動能力は魂魄妖夢はおろか、他の少女にも負けるかもしれない。よく見れば映姫は大粒の汗を流している。ただ涼し気な表情は変わらないので対峙しているだけで何を考えているか分からない恐ろしさがある。

 それでもこのまま終わる気などない。何かされているはずなのだが、そんなことよりもにとりは勝ちたい。

 

「ようっむ」

「なんですかっ!」

 

 にとりは妖夢に叫ぶ。妖夢は水着の食い込みをなおしていたので微妙に恥ずかしく怒鳴り返す。

 

「この勝負絶対勝つよ。あんなやつに負けてたまるもんかっ!」

 

 

 

 

 

 


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