試合開始は15分後という事になった。
コートの周りから観客がそれぞれシートを敷いたり、砂の上にじかに座ったりして場所取りをしている。その間を飲み物を売り歩く河童達が商売に励んでいる。流石にこのタイミングでの闇取引は行われていない。
そんな光景を海の家の前にあるベンチで雲居一輪は眺めていた。顔は疲れ切っており、大きなため息を吐く。片手にはアーク・エリアースのペッドボトルを半分飲みかけで持っている。
試合の疲れもあるが精神的な疲れもある。ここまで肌を人前で晒したのは彼女の長い命の中にあっただろうか。少なくとも司会をしたことはなかった。
そんな一輪の横に座りにやにやしている短髪黒髪の少女が一人。言うまでもない。水蜜だった。
「いやぁ、素晴らしかったわね。一輪」
「……あ?」
ギラリと光る眼で一輪は水蜜を睨む。その眼を真っ直ぐに水蜜も見る。同僚として一番近い関係性であるからか、あまり遠慮という物が無い。水蜜は一輪にはぞんざいな言葉遣いをしている。そんな彼女は一輪の肩をぽんぽんと叩きながら言う。
「みんなの注目の的だったわ。よっ、人気者」
「……いずれお前も同じ目に合うわ」
「……それは、ほら。霊夢さんを目立たせればね」
的確な反撃にちょっと目をそらす水蜜。実際試合になればあの大観衆の前でいろいろと動かないといけない。逃げようにも参加者の中に「聖 白蓮」が居る限りとんずらは不可能である。後が怖い。
しかし、一輪は口元をゆがめる。それを見て水蜜は「くらーい笑い」と思った。
「ふふふ……でも次はあのにっくき河童の出番よ。これだけの大観衆の前で肌をさらすことの恥ずかしさを存分に味わうといいわ」
「なるほど」
水蜜は両手を組んでささやかな復讐を思い、満足げに頷く。一輪も両手を組んでうんうんと頷く。ちょっと仕草が似ているが前者は「乗っていない」が後者は「乗っている」。何が、というのは無粋だろう。水蜜はちらりと見て、イラッとした顔をしている。
「それはそうと一輪。河童との対戦相手だけど、閻魔? ってだれ」
「さあ? 閻魔っていえばあの人だけど……」
水蜜と一輪はそれぞれ顔を合わせて苦笑い。お互い同じ人物をイメージしたらしい。
「「まさかねー」」
意味の分からないところだけ息が合う。しかし、この場合はおかしくはあるまい。忙しいはずの閻魔がこの外の世界にいるわけがないのである。普通に考えればの話であるが。
一輪は深くベンチに腰掛ける。背中をつけて空を見ながら、そのまま体を伸ばす。ナチュラルにそんな動きをするので水蜜はチョップを繰り出してやろうと思ったが、やめた。そんなことは知らずのんびりと一輪が言う。
「どちらにせよあの河童が選んだのだから……幻想郷の誰かかかもね」
「じゃあ一筋縄ではいきませんね」
「そうだねぇ」
肩肘張らない関係性とはこの二人のことだろうか。
水蜜も空を見る。二人の少女はなんとなく同じように青いそれを眺めながら、飛んでいく一羽の海鳥を目で追いかける。数秒の間同じ動きをしているということだ。そのあまりにのんきな光景がおかしかったのか噴き出したものがいる。
「ぷ」
と笑われるのを聞いて水蜜がそちらに顔を向ける。見れば二本目のトウモロコシを手に博麗の巫女が立っている。取りに行っていたのだろう。
醤油の香ばしいにおいがする。だがこの巫女の少女は水蜜を見た瞬間顔をそらす。眼をそらしているのではない。笑顔を妖怪に見られるのは少し恥ずかしいのかもしれない。
「あ、霊夢さん。またモロコシ食べるんですか。私の分は?」
「砂でも食べれば? それよりあんた、雲居一輪だっけ?」
「あ、はい。な、なんでしょう」
一輪も顔を霊夢に向ける。霊夢はトウモロコシを軍配のように使い、彼女を指す。その横で何かに衝撃を受けたかのように水蜜が固まっている。そっちを霊夢は無視した。
彼女は片手を腰にあてながらトウモロコシを一輪の顔の前に持ってくる。
「出場するだけでも不本意だけどこの大会に負けるわけにはいかないから」
短くそう伝えて、霊夢はコーンを齧る。一応何故負けられないのかは口に出来ないから、微妙な宣戦布告である。霊夢とて一回戦の毘沙門天と一輪の動きには強敵として思う所があったのだろう。実際に戦うかはわからないとしても。
一輪はきょとんとしたまま瞬きを二度して、
(そんなにお米欲しいのかな)
と勘違いしてしまう。公表されている商品はそれなので仕方ないだろう。しかし、勝負事となればこの青い髪の少女も負けん気が強い。彼女は不敵に笑い、立ち上がる。そして一輪睨みながらトウモロコシを食べている不良の様な巫女に「望むところです」と答えようとした。
「のぞむとっう!」
「れ、れーむさんそんなことより」
水蜜が焦りながら一輪の顔に手をあてて押しのける。変な顔をしながら一輪は押され、倒れる。一輪の片手を頬にあてて何が起こったか分からない表情とポーズは御姫様の様である。それでも水蜜にはどうでもいい。
「こ、この入道を連れていない入道使いの名前を憶えているんですか!? 私のことは覚えていなかったのに!!」
それが大切らしい。霊夢はコーンをシャリシャリ齧りながら答える。実際には水蜜も一輪も霊夢は名前を最初覚えていなかったが、あれだけ紹介されたのだから記憶できたのだ。しかし博麗の巫女は言い訳しない。
「どうでもいいわそんなこと」
「ど、どうでもよくないですよ……」
「別にあんたの名前も覚えてるからいいじゃない。ムラサ………………ミナミツ」
「な、何ですか今の間! 思いだしながら言いませんでした!? さっき一輪の名前はすっとでてきたのに」
ぐううと赤い顔で詰め寄ってくる水蜜を霊夢はトウモロコシを棍棒代わりに追い払おうとしたが、まだコーンが残っているから断念する。しかし、水蜜の肩を掴んだ者が居た。
さっき張り飛ばされた一輪である。顔を片手で口元を抑えている。だから険しい目元だけが見える。
「それを言うならキャプテンなんて言ってるあんたも大概じゃないか。こ、この本屋!」
「本屋を馬鹿にしないでください! それに今日はムラサ号を手に入れました!」
「どうせ浮き輪か何かでしょう!?」
「ぐ、ぐぐ。一輪の分際で、す、鋭い」
「ぶんざいって」
幻想郷であればここから派手な弾幕ごっこが始まるのであろうが、そんなものは始まらない。お互いどうでもいいことを言い合いながら、水蜜が一輪の両頬を引っ張る。負けじと一輪も同じことをやる。霊夢は食事に忙しい。
少し離れた場所では困ったように微笑む虎とあきれ顔のネズミがいるが、三人は気が付かない。
水蜜と一輪のバトルはヒートアップしていく。止めてくれる人がいないのである。二人の少女は意地で互いのほっぺたを離せないが普通に痛い。ちょっと目元に涙がうっすら見える。しかし先に離した方がたぶん負けである。
そんなしょうもない戦いを千年生きた二人の妖怪は繰り広げている。実は観客からちらちらとみられておりすでに有名な一輪はともかく水蜜の注目度も上がっていく。それに気が付いたわけでもあるまいが水蜜が停戦を持ちかけた。
「ふぁ、ふぁかりましたいちりん。おたがいふぁなしましょう」
「わ、わかっふぁ」
即座にお互いに相手のほっぺたを離し、ひりひりする自分のほっぺたをさする。色々と子供っぽいことをしてしまい恥ずかしいと一輪は思う。彼女はジロッとキャプテンを見て文句を言おうと思った。
水蜜はさらに速い、一輪が自分を見るのを待っていたかのように。
「ばーか」
煽る。
一輪は一瞬意味が理解できなかったが、純粋な挑発だと気が付いて頭に血が上ってしまう。何より相手が同僚なのが大きい、霊夢や他の外部の人間ならばそこまで激高はしないだろう。
「こ、この」
とまた一輪は水蜜に手を伸ばすが、それをキャプテンはするりと回避する。それどころか指で自分の目の下をひっぱっりながら舌を出す。あかんべえ、ということだろう。
一輪はそれでムキになってとびかかるが水蜜は半身になって避ける。さらに小さなステップで一輪の伸ばした腕から逃れる。こういう場合は逃げる方が有利だ。
「くそ。う、雲山が居ればひねり潰せるのに……」
悔し気に同僚を捻り潰すなどと言う尼。実際弾幕ごっこでも純粋な戦闘でも一輪は連れている「雲山」に頼っている部分が大きい。だが、それを言えば水蜜も本来は「碇」を振り回している。
外から見れば単に可愛らしい水着の少女が二人じゃれあっているだけにも見える。既に霊夢は一輪達が立ったことで空いたベンチに座っている。トウモロコシを両手で持ってもぐもぐと食べる。こいし以外は誰も見ていないからかちょっと嬉しそうな顔で。
こいしはいつも通り大きな瞳をキラキラさせている。胸元のフリルを無意識に指でつまんでいる。特に意味はない。彼女はくうとなるお腹を押さえてトウモロコシを凝視している。霊夢から強奪は難易度が高いかもしれない。
「ねーねー。もしもーし。それおいしーですかー?」
「うわばらっ!」
奇声を上げて霊夢がのけぞる。気付かなかった。視界の隅ではいつの間にか攻守逆転した水蜜が一輪を羽交い絞めしている。
「あ、あんたどこから湧いて出たのよ!」
霊夢は年上の少女のバトルは無視してこいしを睨む。油断しているところをみられてバツが悪い。それに応えてこいしは言う。
「気を抑えていたのー。それよりそれちょーだい。ちょっとでいいわ」
「あ、あげないわよ」
「けちー」
「しっし」
払うように手を振る霊夢。誰隔てなくクールな対応ができるのは彼女の欠点であり、魅力でもあろう。しかし、こいしは探偵の様に顎に手をやり「ふむ」と一言、片目をつぶって考えるような仕草。実際には考ちゃいない。全て無意識な彼女にとっての最適解。ちょっとカッコつけたいお年頃なのだろう。
それから考えがまとまったかの「よう」にぱちんと指を鳴らす。彼女は全力で振り返った。スカートのフリルが揺れる。
「ねーねー水蜜!」
たったか眼もとまらぬ速さで一輪を抑え込んでいる水蜜に近寄るこいし。そのままその剥き出しのせなかを指ですっとなぞる。寺では水蜜が昼の食事を作っている関係でちょっかいを出されたのだろう。
「ひっ!」
びくっと動き水蜜がかわいい悲鳴を上げる。その瞬間一輪の瞳がきらり、抜け出す。そして三人が同時に声を上げる。
「な、なにするんですかこいしさん!」
「よくもやってくれたわね。覚悟しろ水蜜!」
「トウモロコシがほしいんだけどー!」
ばらばらである。全員が全員の話を聞いちゃいない。会話が成立していないのだ。単純に声を上げただけと言える。ただし、水蜜には不覚だった。彼女はこいしに抗議するために今度は背中を一輪に見せてしまったのだ。
「はっ!?」
水蜜はそこに気が付く。真後ろには怒りの炎を燃やす尼が一人。修行が足りない。
一秒にも見たない刹那。一輪は両手で水蜜を捕まえようととびかかる。船幽霊危機一髪である。水蜜は砂を蹴り前へ逃げようする。
「おおっ」
こいしがそれを受け止める。一輪に協力しているのではない。そういう位置関係なだけだ。水蜜は「やばっ」と冷や汗を流す。
そう、それは不幸な位置関係に合っただけなのだ。
一輪は後ろにいる。こいしは前にいる。挟まれた水蜜の不幸を河童以外はそれを望んでなどいなかった。
一輪の手が水蜜のトップスの紐にかかる。掴んでしまう。そのままおもいっきり引き寄せようとして、するりと結び目がとける。力を入れ過ぎたのだ。
時間がゆっくり流れる。
引き抜かれる緑色の布。
光るこいしの瞳と太陽。
芯を齧ると甘い、などとのんきしている霊夢。
目を開いて腕で「前」を抑えてしゃがみこむ水蜜。
ぬるりとデジカメを手に現れるにとり。
全員が黙っている。しゃがみこんだ水蜜の背中にはくっきり残った昨日の日焼けのあと、そして焼けていない白い肌。膝を抱え込むように座った彼女は髪が短いから背中を隠せない。
「緑の布」を片手に掴んだまま、滝の様な汗を流している一輪。
「え、えっと。わ、わざとじゃないわ。その、うん。えっと。うん」
訳の分からないことを言いながら、右にそわそわ左にあわあわ。一輪の眼がダンスパーティしている。合わせて水蜜の肩がガタガタと震えだす。彼女の頬が赤くなっていく。
「い、今のはは、アブナカッタ、あぶなかった。い、一輪」
「は。はい!」
いい返事をする一輪。後ろめたいのだろう。
水蜜は首だけを動かして後ろを睨む。体ごと前を向くなどできない。潤んだ瞳が「冗談ではない」と語っている。しかし、そこがシャッターチャンス。
にとりが一輪に体当たりして強制的に排除する。「うえ」と変な声を上げて倒れ込む一輪を無視して河童は手元のデジカメのボタンを押す。パシャとわざとらしく音を出して、にとりは笑う。
にやぁ。
黒い笑いを残して反転。ダッシュで人ごみに消えていく。いきなり現れてから一言もしゃべっていない。呆然とする水蜜と海鳥を目で追いかけるこいし。実の無くなったトウモロコシを手に悲しそうな顔をする霊夢。
数秒後やっと水蜜が言葉を発した。
「な、何なのよ今の! ちょ、河童。わっ」
立ち上がれない。というか状況がクリアになっていくほどただの少女の様に水蜜の顔はゆでだこのようになる。胸元を抑えてあたりを見回せばこいし。
にとりがどんなことに写真を使うかはまだ彼女達は知らない。ナズーリンは知っているが教える性格ではない。しかし、一点だけは分かる。碌な使い方はされないだろう。
事実この一か月後には肚の黒い天狗と暗い密室で黒い河童の間でダークな取引が行われた。その数日後には新聞に掲載されることになる。それは余談である。
ただ今はそれを阻止するために水蜜は匍匐前進(ほふくぜんしん) して一輪から自分の水着を奪い取り、隠しながらも急いで着けた。長くこの世とあの世に存在してきて最速の行動だったかもしれない。
彼女は砂まみれの体も気にせずにとりの逃げた方を睨み。全力で追いかけていった。流石にあのデジカメは破壊しておかないと夜も眠れない。幽霊だから眠れなくてもいいかもしれないがレム睡眠は大事である。
「ま、待て河童ぁ!!」
微塵の余裕もなく水蜜も砂浜へダッシュしていく。
そして入れ替わるように戻って来るにとり。のんきにデジカメを操作している。データをパソコンへ送っているのだろう。海の家の物ではなく、街にある彼女のサーバーへである。これでデジカメを破壊しても無駄である。
「けけ。いい絵が撮れたよ」
心底嬉しそうににとりは哂(わら) う。
そのケラケラ笑う姿はいたずらが成功したような子供っぽいものだが、実際には水蜜が居なくなるまで身を隠していた策士である。ある意味それが彼女なのかもしれない。
しかし、そんな彼女もさっきまでとはちょっと違う。動きやすいようにだろう髪を横に分けて後ろはポニーテール。そこに「L」のイニシャルの緑帽子。そしてちゃんとパーカーを脱いで胸元にリボンのついたトップスと下には海用のショートパンツ。
姑息にも下を隠しているがそれなりにやる気なのだろうか、少なくとも多少は真面目にやる気はあるのかと霊夢は思った。
「あんた」
霊夢は水蜜とのいざこざは無視して話しかける。手には新しいトウモロコシ。
「意外とやる気があるの?」
「え。ないよ?」
「はっきり言うね」
「そりゃあそうさ。言いよどんだっていいことはないよ。本心も嘘もすっぱり言うのがいいのさ」
「妙な説得力があるのが癪だけど。どちらにせよあんたにも負けないわよ」
冷たい目で霊夢はにとりを見る。異変解決の糸口が見えたこの場所である。彼女も言いよどむことはない。
霊夢はこの「外の世界」に来たときのことを不意に思い出す。それは彼女が異変解決へまだ情熱を向けられていた時。だが口にはしない。ただにとりを睨む。
それを見ているだけの一輪は、
(霊夢さん……そんなにお米が……)
と話には付いていっていない。
にとりはふっと肩をすくめる。
「まあまあ。霊夢さん。そんなに肩肘張らなくたっていいぜ。もうすぐ私から試合だしね。どちらにせよ結果は出るんだ、だったら」
にやりとにとり。口元を緩めて霊夢の睨みを笑顔で返す。
「楽しめないと、損だぜ」
ウインクしてみる彼女に毒気に霊夢はトウモロコシをシュッと棍棒代わりに使う。なんか腹が立ったことが理由である。
「あぶなっ!? れ、霊夢さんい、意味わかんないよ!」
「あ、体が勝手に。……食料が無駄にならなくてよかった」
「う、うわーすごい。なにそれ、ぼ、暴力反対だよ。やるなら相撲とかで決めよう」
「一人でやりなさい」
「一人で相撲って寂しいレベルが振り切れてるね」
そんな二人を見ながらこいしはくすりくすり。無意識に笑っている。いつの間にかやってきたお燐もその後ろにいる。アメリカ国旗を元にした水着トップスと普通ショートパンツを着ている。がんばったのだろうが目立っていない。
にとりは頭を掻きながら含み笑い。
「霊夢さんは変なところで真面目なところがあるからなぁ。ほら、あの人を見習った方がいいよ。いろいろと外の世界でデビューした半分霊の人とか」
「見習うところって……どこよ」
「チャレンジしているじゃないか。まるで大企業みたいにさ」
にとりは実は事情を知らないから「半分霊の人」が自分からはっちゃけたと思っている。霊夢は見習うべき場所を本気で聞いている。彼女の意識の中では「変人」以上の何物でもない。
その変人。実は近くにいる。
白い髪をなびかせ。ちゃきちゃき二振りの刀剣を帯びた変装用サングラスを付けた彼女。
手にはビーチの案内チラシ。水着は着ていないが、なんとなく海をみれてちょっと嬉し気な顔をしながら、河童の巣窟である海の家の前に立つ。
「ここが海の家なのね。初めて見たわ」
霊夢、にとり、こいし、一輪、お燐は噂を聞きつけたかのように現れた彼女を凝視している。のんびりと「何を食べようかな」などとたわごとを言っている彼女を見て口々に言う。
「あーテレビによく出るヨームだ!」
とこいし。
「アイドルの人だ、ななんでここに」
と一輪。
「捕えろ」
と即座にかつ冷たく近くを通りかかったおかっぱ河童に言うにとり。
「誰かあたいに反応して」
とお燐。
「なんでいんのよ……」
と妖夢に呆れる霊夢。
彼女達の声を聴いた白髪の少女、つまり魂魄妖夢はからくり人形の様な動きで首を動かして、うめくように言う。
「な、なんでここに」
逆に霊夢達が聞きたいことを聞いてきた。しかし、天狗に世の中の闇を教えられた彼女である、ハイエナのような瞳で真っ直ぐ自分を見るにとりに危機感を持つ。即座に刀の柄を掴んで臨戦態勢を整える。危ない人である。
にとりによりその前へ押し出されるおかっぱ河童。ワンピースの水着以外は帽子しかない彼女はいきなり銃刀法違反者の前に出されて「しゃ、しゃー」と猫の様な威嚇をする。混乱している。ショッカーの戦闘員の気持ちがよく分かった。
妖夢は居合の姿勢である。
おかっぱは土下座するタイミングを測っている。そろそろ怖くて号泣したい。
「やめなさい」
そんな緊張した場所に澄んだ声が響く。大きな声ではないはずだった、だが全員の耳にすっと入ってくるほどに穏やかで淀みがない。
その声の主は肩にかかった緑の髪を手で払い。妖夢とおかっぱの間に恐れなく歩き、入る。その「主」を見た瞬間。にとり以外は固まっていた。
透き通るような白い肌を持った一人の少女がいる。片方だけ長い緑色の髪をリボンで結び。芯の入ったような真っ直ぐな姿勢。それでいて上下には分かれていても黒を基調としてオレンジのラインの入ったスポーティな水着。細い体のラインに張り付いたそれ。
地味な水着でも彼女を見れば誰もが眼を奪われるような、そんな可憐さががある。
「警察を呼ばれたいのですか? そう、あなたは少し刃物に頼りすぎている」
四季映姫は登場と同時に正論を言った。迷いのない彼女を照らす陽光が後光のようだ。