東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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23話 B

 とあるポスターが話題になっていた。

 モデルであろうか、スタイルの良い青髪の美少女とさとり様の描かれたそれはビーチバレーの告知するものである。貼ってあるところと言えば節操がない。駅はもちろんのこと、コンビニ、ガソリンスタンド、街役所、小さな建設会社の壁。とにかくいろんなところにべたべたと張り付けてあるのである。

 

 それを行ったのは主に赤毛の猫であるが、それはもはやどうでもいい。このビーチにやって来る人々は少なからずポスターを目にした。なんといっても駅の改札近くに貼られているのが大きい。そして「さとり様も出るよ」と謎のキャッチフレーズも頭に残る。さとりとはいったい誰のことなのだろう。

 

 そんなこんなで日が高くなるほど河童の海の家の前には人が集まりつつあった。ただの海水浴客もいれば、近隣の住民もいる。

 海の家の前に整備されたビーチバレーのコートの周りでは河童の数人が肩から下げた番重(立ち売り箱) に飲み物やお菓子を入れて売り歩いている。商機は見逃さないのが河童である。もちろん買ってくれた人には雲居一輪の表紙のパンフレットを渡している。

 

 その雲居一輪。海の家の中で河城にとりの胸倉をつかんでいた。

 さっき帰ってきてみれば大量の客。しかも自分を見て騒いでいる。彼女は自分のポスターの存在を知ってはいたが、ここまで出回っているとは思わなかった。いや、正確に言えば必死に遊んで忘れようとしていた。どうせ撤回することはないだろうと思ったのだ。

 

 それが甘かった。普通に流通している。

 

「かっぱぁ……」

「たんま。たんま」

 

 どうどうとにとりは両手を上げる。真っ赤な顔をして胸倉をつかまれると、どうしていいのか微妙に困る。しかし、そんなにとりも着替えている。

 にとりは頭に緑の帽子を被っている。真ん中に「L」の文字の入ったもので幻想郷で被っていたものと少し違う。それに可愛らしいふわりとしたツインテール。そして彼女も水着に着替えていた。

 上下水色のビキニタイプ。胸元にオプションで白のリボンが付いている以外は質素なもので、布の面積も多い。しかも上からパーカーを羽織っている。それが一輪の癪に障ったのであるが、河童的にはどうでもいい。

 

「最初から商売するって言っていただろ。それにポスターを作ることもあんたに文句言う権利はないよ」

「な、なんで!」

「そりゃあそうだろ。酒を飲んで罰で働いている奴に人権……妖怪権があると思っているのか? 全く払わなくてもいいけど特別に時給四百円だしているんだから我慢してくれよ」

「よ、四百円……!? そ、そんな薄給で働いていたの……?」

 

 一輪は別の衝撃を受けている。最低賃金などない。ちなみに時給四百円から控除もされる。労働規約も一輪はじめ他の妖怪も知らない。にとりはパーカーの襟を直しつつ、そこでだと続ける。

 

「あんたにやってほしい仕事があるんだよね」

「な、なんですか」

 

 一輪はびくっと怯えた何をさせられるかさっぱりわからない。売り子程度であれば今までやってきたので問題はないだろう。しかしにとりはそれくらいで終わらせるようなものではない。だが、はっきりと伝えれば逃亡する可能性もあるので言わない。

 

 にとりは店内を見る。テーブルは客で埋まり活気がある。河童達はせわしなく働いている。できれば他の少女も働かせたいのであるが、ビーチバレーという別の仕事がある。どちらかと言えばそちらの方がもうかりそうである。

 別に観覧料を取るわけではない。ただにとりには「腹案」がある。彼女は一輪の手を掴んだ。

 

「あんたにしかできないことをやってもらいたいんだ。他の奴には任せられないんだよ」

「……な、何をさせるつもり……?」

「まあまあ、こっちに来てくれよ」

 

 にとりは一輪の背中に回りぐいぐいと押して、外に連れ出す。一輪が外に出るとビーチバレーコートを囲んでいる人々が騒めいた。なかなか人が来ている。一輪は「ちょ、とまて」とわめくがにとりはコートの中心に彼女を連れていく。

 

 ざわざわ。たまにカメラの光が一輪を映す。

 青い髪に白い肌、紫のちょっと大人な水着。長い間修行をしていたからか、どことなく清楚な印象がある。ほんのりと赤い顔で一輪はあたりを見回す。彼女は恥ずかしい気がして、体を抱くように手を回す。

「それじゃ、はい」

 

 にとりは一輪にカンペを渡す。この青髪の少女は何も考えずにもらってしまう。あとは、にとりは子分の河童を呼んでマイクを取ってこさせる。それも一輪に渡した。

 

「それじゃ、宜しく」

「えっ、え?」

 

 にとりともう一人の河童はそれだけ言って海の家に戻っていく。もっとわかりやすく言えば、一輪を一人だけ置いて言った。彼女は眼をぱちくりさせている。その仕草が可愛いが、いきなり衆目の中に放置されてしまった。

 手元のカンペをみるとこう書いてある。

 

 ――レディース&ジェントルメン。長らくお待たせいたしました、これから私、雲居一輪主催のビーチバレー大会を始めます(ここで投げキッスすること)。今日は私の為に集まってくれてありがとう、とってもがんばるからみんな応援してね!(以下略)

 

 一輪は眼が泳いでいる。これをここで言うとなると、切腹する方がいいかもしれない。全員に自己紹介もすることになっている。一輪はぶるぶると震えている。しかし、なんだなんだと大勢の観客が増えていく。

 一輪はマイクを持っているのだ。それを見れば「何か始まる」と皆が感づいてもおかしくはないだろう。冷酷な河童はそこまで計算している。灼熱の太陽の下冷汗が体を流れる、うっすらと汗の滲んだ彼女は、悲しいことに美しい。

 

『あーあー』

 

 エコーの利いた声が響く。一輪の者ではない、にとりの声である。彼女は海の家の前でメガホンを手にしている。

 

『お待たせいたしました。今よりビーチバレー大会の開会式を始めます!』

 

 一輪ははっとした。観客たちは全員にとりを見ている。まさか躊躇しているのを見て、にとりが助け舟を出したのかと彼女は勘違いした。にとりはメガホンを口に当てたまま、声を出す。

 

『それじゃあ、今からルールの説明と挨拶を兼ねて主催者である雲居さんに引き継ぎます。それじゃあ後はどうぞ』

 

 振ってきた。にとりは一輪の退路をコンクリートで固めて塞いだ。このまま黙っていれば一輪が助かる道はなくなったのである。こうなっては道は一つ、開き直るしかない。

 

 大勢の期待した瞳が雲居 一輪を見ている。彼女はマイクを両手で胸の前で掴んでいる。今にも泣きそうである。勘違いしてはいけないのは一輪はあがり症ではない。付喪神の異変の時に派手なバトルを戦ったこともある。水着であることが恥ずかしいのである。

 一輪はぎりと奥歯をかみしめた。河童の策略にあれよあれよと引っかかった自分も腹立たしいが、おどおどしているのも見苦しい。お釈迦さまの苦難に比べれば苦行には入るまい。比べられても困るかもしれない。

 それに身近でもテレビに出て頑張っている半分霊のアイドルがいるではないか。一輪は彼女の顔を一瞬思い出した。なんとなく空を見ると、蒼いそこに半分霊の彼女の笑顔が見える気がする。「がんばれ」と言っているかのようだ。別に仲がいいわけではない。

 

 一輪は意を決した。マイクを手に勇気を振り絞る、ちょっと内またである。元々ノリだけはよい。

 

「れ、れでぇーす……じぇんとるめーん!!」

 

 「&」とはどう読むのか知らない。それを感じさせない明るい声。

 

「お待たせしました! これから私、雲居一輪しゅ、主催のビーチバレー大会を始めます!!」

 

 一輪は投げキッスをできない、とりあえずウインクで場をお茶を濁す。と本人は思っているが観客は受けた。おおと騒めく。主催もこれで名実ともに一輪のものになった。ぐんぐんファンが増えていく。

 

「き、今日はわ、わた……みんなの為に集まってくれてありがとうございます! みんな! 頑張るから応援お願いします!!」

 

 ぱちぱちと拍手。にとりは「ちっ」と舌打ち。ちょっと改変している。赤い顔で一輪はカンペをめくりつつ、説明を続ける。

 

「それじゃあ、ルールですが。二人一組の八チームで、あ、こんなにいるんですね……あ、ちが、今のは」

 

 笑いが起きる。一輪はこほんと一息。

 

「試合はトーナメント形式で行います……一回戦はくじ引きで対戦を決めます。チームの紹介は試合の時にしますから楽しみにしていてください」

 

 いい声である。毎日お経を唱えているだけはある。単にカンペを読んでいるだけとは思えない。そんな彼女の前におかっぱの河童が走り寄ってきた。手には箱、彼女も顔が赤い。競泳水着を着ている。

 おかっぱの河童は一輪に耳打ちする。箱の中身ついてだ。一輪は頷いて言う。

 

「え、えー、この箱の中にはチームリーダーの名前の書かれたボールが入っています。それを、え? 今引くの?」

 

 こくりこくりと河童。一輪は箱の上に空いた場所から手を入れる。片目を閉じて、舌をちょっと出す。無意識だろうがあざとい。彼女はボールを二つ取り出した。片方には「こいし」片方には「とらまる」と書かれている。

 

「こいし! とらまる! のボールが出ました!」

 

 観客はこいしやお空と呼ばれてもわかりはしない。しかし、声がした。

 

「よんだー!?」

「わっ!?」

 

 いつの間にか一輪の後ろにこいしが立っている。フリルの付いた花柄のアンダーが印象的な水着を着た少女、古明地こいしがいる。片手には首根っこを押さえたナズーリンがぐったりしている。何があったかはわからないが、振り回されていたのだろう。

 どよめく会場、こいしが観客を振り向くと髪が揺れる。いきなり現れた美少女に会場の人たちは釘付けである。ネズミなどどうでもいい。

 一輪は驚きながら、言う。カンペにどのチームが出てもいいようにそれぞれの紹介文が描かれている。

 

「一回戦はあのさとり様の妹である古明地こいしさん率いるお元気玉チームの登場ですね。こいしさんいきなりですが大丈夫ですか?」

 

 ――さとり様のいもうと

 ――あのさとり様の

 ――それなら期待できる

 

 観衆はさとりの何を知っているのか、口々に言い合う。こいしはマイクを取って言う。

 

「みんなー私に元気をわけてー!!」

 

 唐突な可愛らしいセリフ。こいしは両手を上げて体を伸ばす。体のラインが細い。拍手が彼女を包む。求めているのはそれではないのであるから、こいしはちぇーとマイクをネズミの頭にのせる。ピクリとも動かない。

 

(ここで起きれば妙なことを押し付けられるかもしれない)

 

 ナズーリンは気絶したふりを続ける。砂浜に体を投げ出したように倒れたままだ。一輪はその頭からマイクを取り、続ける。構図的に足もとに倒れているナズーリンがシュールである。

 

「もう一つのチームは寅丸チーム……これは私のチームですね」

 

 一瞬「おお」とざわめきが起こり、謎の拍手が起こる。一輪ははっとして、頭をかく。腕を上げた時に腋が見える。横ではこいしが拍手している。ノリであろう。それはそれとして一輪はちらりと遠くから見守るにとりを見る。

 

 一輪の眼は「自分の自己紹介はいらないですよね」と言っているのでにとりはにっこり笑って、両手でバツをつくる。顔をゆがめた一輪はカンペを見る。

 

 ――セクシーコンビ一輪寅丸ペアの登場。

 

 と心の中で読んだところまでで一輪はカンペを隠す。これを全て読めば、いろんなものを失うことになるだろう。一輪は危ないところだった。しかし、ここからはアドリブでやらなければならない。

 ちょっと困った顔をする一輪。顎に手をあてて、片足を上げる。考える仕草。一度目を閉じて、直ぐにぱちぱちと瞬き。そしてよしと考えがまとまったが小さなガッツポーズ。彼女はマイクを両手で持って声を上げる。

 

「えー、こいしさん率いるチームの対戦するのは私となんとあの毘沙門天が登場します!!」

 

 びしゃもんてん、てなんだろうと観客。もしかしたらアイドルの名前か何かもしれない。一輪は戦いの神がビーチバレーに登場するというニュアンスで言ったが、伝わるわけがないのである。

 

「普段滅多に姿を現さないのでとても貴重です。ご利益があるはずですよ!」

 

 引きこもりかな、と観客。一輪は知らず知らずに自分よりも相方の評価を下げている。しかし、それも「毘沙門天」が姿を現すまでのことであった。急にコートを囲む観衆の輪が乱れた。見れば幾人かの河童が交通整理をしている。

 その真ん中に立っているのは金髪に白い水着を着た、麗しい姿の少女であった。

 寅丸 星である。闘いの神としての名に恥じず、河童の従者を連れての登場であった。実際は逃亡しようとしたので河童に囲まれているだけである。

 

 すました顔で両手を組んでいる寅丸。内実はともかく凛々しい顔立ちをしている。

 あれが「びしゃもんてん」かと感嘆の声が上がる。もう完全に愛称になってしまった。

 

「……」

 

 彼女は沈黙して騙らない。両腿が震えているが、表情は涼しい。それが何とも言えない美しさを表している。水着姿を大勢に注目された程度で揺らぐのでは、毘沙門天としてはどうなのだろうか。

 実は観衆の中に他の幻想少女達もいるのだが、誰も声を上げない。むしろほっとしている。たまたま寅丸は運が無かった。一輪には海に来た時から欠片もない。だが、そんな彼女だから寅丸が強がっているのが分かる。

 

 優しい目をする一輪。一緒に恥ずかしい思いをする仲間ができてうれしいのだろう。こいしはちょっと違う。ナズーリンなど眼中にない。

 一輪はカンペを取り出して読んだ。

 

「一回戦は私と毘沙門天。そしてこいしさん率いるチームが戦います。そしてこの大会で優勝したチームには豪華…? 商品のお米20kgがプレゼントされます……」

 

 景品のくだりはトーンダウンしている。一輪としてはお米などどうでもいい。ただ変な景品なので笑いはおこった。一輪はとりあえず最後の結びをする。胸をちょっと張って、声をあげる。

 

「さあ、優勝するのはどのチームでしょうか。最後まで私の応援よろしくお願いします!」

 

 カンペをそのまま口に出してしまったが、気付かずに一輪はぺこりと頭を下げる。つられてこいしもさげる。そして拍手が彼女を包んだ――

 

 

「全部やり切った……しびれるなぁ……」

 

 頭を下げたまま一輪は妙な達成感を覚えている。自分の応援をお願いしているなどと思い出すのは少し後のことである。

 

 ★☆★

 

 

 

 海の家の隅で霊夢はにとりの両頬を抓りあげた。やわらかいほっぺたが容赦なく左右に延ばされ、にとりがわめく。

 

「い、いやひゃいよ霊夢さん」

「うっさい! なによあの一位の景品は! 米ってバカじゃないの!?」

「ば、ばって欲しいだろ、いででで」

「あんなの欲しがるなんてさとりくらいよ!」

 

 身内を下げつつ霊夢は抗議する。だが欲しがっているのは本当なのでよくわかっているともいえる。

 垂涎の景品と聞いていたのに話を聞いてみたら「米俵」である。裏切られたと思っても仕方ないのかもしれない。霊夢の思っていたのは「金目のもの」なのである。とことん俗世にまみれている。

 

 霊夢はにとりを抓っている指にさらに力を入れようとして、片腕を掴まれるのを感じた。みれば水蜜がなだめるような笑顔をしている。水蜜のしなやかな腕を霊夢に絡ませるようにしてくるので妙にあったかく、なれなれしい。

 

「まあまあ霊夢さん。いいじゃないっすかー。どうせ遊び半分なんだからビーチバレーを楽しめば」

「そんなのするなら寝ておきたいんだけど」

「い、いいがふぇんはざじえて」

 

 にとりが一瞬のスキをついては慣れる。両手で顔を包むように頬をかばう。どことなく可愛らしい。だが、彼女は霊夢をキッと睨んで指をさす。

 

「もうひどいじゃないか。そもそも霊夢さんが私への借金を返すために来たんだから、ちょっとくらいは協力してくれてもいいだろ!」

「昨日イカ釣り漁船で借金分は返したわ!」

 

 にべもない。霊夢はそれだけ言うと踵を返した。彼女の気持ちははっきりしている。あの雲居一輪なる入道を連れていない入道使いのような恥ずかしい真似をしたくないのだ。衆目の中で水着でバレーなど拷問に近い。

 だから霊夢は海の家を出ていこうとした。水蜜も慌てて追おうとする。その背をにとりが見ている。この河童の青い双眸は温度を感じさせない。いつも騒がしく、いつも何かにきらめている彼女も黙っていれば、印象が変わる。

 

 河童は言う。

「本当に霊夢さん。優勝の景品はいらないんだね」

 

 霊夢は振り返る。なんど言わせる気なのかという顔であった。ただ、河童はその顔を見て別のことを思い出していた。今日の朝、いや朝と夜の狭間で巫女と話した数分のことである。この世界にきてよかったのか、どうか。

 そんなことは分からない霊夢はぴしゃりと言った。

 

「いらないわよ」

 

 にとりは「そう」と口に出す。彼女は一度霊夢を見て、ふと今朝のことを思い出す。彼女は柄にもなく霊夢に「こちらに来て楽しいか」と聞いた。それに霊夢は「悪くない」と答えことがにとりの心に刺さっている。

 なぜ、刺さっているのかは彼女はまだ言う気はない。だが、にとりは霊夢に対してこういった。

 

「そっか。異変の真相の一部。私の知っていることはいらないんだ」

「……は?」

 

 こいつは何を言った。霊夢は困惑する。無意識に水蜜をみるとこの船幽霊も驚いた顔でにとりを見ている。河童は店の奥、日の光の当たらない場所で目を光らせている。霊夢は彼女に近づいてパーカーの襟をつかんだ。

 

「今のどういう意味よ。あんた何か知っているの?」

「……二度は言わないよ」

「はきなさい。さもないと」

「霊夢さん」

 

 にとりの声は冷たい。表情は変わらない。妖怪として、人間の霊夢を見ている。

 

「私は嘘が得意だよ。きっと霊夢さんを騙すくらいできる。本当のことかどうかわからないてきとうな事なら、いくらでもいうよ」

「あ、あんた」

「なに。取って食おうってんじゃないよ。尻子玉も触らない。ただ、ビーチバレーで優勝すれば知っていることを話すっていうんだ。悪いことじゃないだろ」

「そ、それだって保証はないじゃない」

「そうかな。でも、いま私が何を言っても疑わしいと思うけどね。優勝すれば垂涎の景品。それは嘘じゃないだろ? 約束するよ。できれば、だけどね。もちろんこの『景品』は霊夢さんだけの特別だから、他の人に漏らしたら取り消すよ。ああそこのムラサもそうだよ」

 

 にとりは霊夢の襟をつかんだ手をゆっくりと離させる。彼女数歩離れて、霊夢を挑発するように笑顔を見せる。顔をゆがめて、口角を吊り上げただけの顔。本気のいたずらをするときの黒さ。

 

「なーに霊夢さん。相手は……」

 

 相手は寺の住職。聖人と名高い体術の使い手。

 相手は天空の住人。天人という稀有な存在。

 相手は毘沙門天。言わずと知れた戦いの神。

 相手は閻魔王。聡明な頭脳を持った裁断の主。

 

 両手を広げる。にとりは首をちょっと傾けて霊夢を見る。全て闘うわけでもないが、霊夢の相手を説明してくすりとする。

 

「巫女様にとっては軽いよね。この異変の一面はここさ。勝てなきゃ教えてあげないよ」

 


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