やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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話がアレでお気に入りが減るのはともかく、投稿してなくて減るのは自分の精神衛生上よくないですわ。


幕間2
一難去ってまた一難去ってまた一難


梅郷中学を襲った加速研究会との諍い。

結局、有田達とダスク・テイカー間での争いはスピリットさんの影響で有耶無耶になってしまった。

負けた方が加速世界から脱落するはずのバトルロイヤルルールを、知ったことかと踏み潰す様はまさしく魔王である。私がルールだってか。

しかし、そんな状況は黒雪達からしたら見過ごすことなどできないだろう。なんせ敵の一人が、まあ一人ではないのだが間諜が紛れ込んでいるのだ。

なので修学旅行が終わった数日後、ネガ・ネビュラスと加速研究会下っ端その1である能美でこれからについての話し合いが行われることになった。一年組が互いにリアル割れしてるが故に行える例外だろう。

 

そしてその話し合いが行われているのは生徒会権限により利用可能になった会議室。そこで能美、有田、黛、倉嶋(黒雪から聞いた)の四人が集まっている。二年生組は未だリアル割れが起きていないかもしれない可能性があるので、全体チャットと音声の受信のみで参加している。

そんな緊張感を伴った話し合いの第一声を放ったのは、気怠げに溜息をついた能美だった。

 

 

「……それで?何を話し合うんです?

僕としては、こんな毒にも薬にもならない話し合いはさっさと終わらせたいんですがねぇ」

 

「今までのお前の行動を省みろ。

野放しになんてできるわけないだろ」

 

「野放しだのなんだの。

僕のリアルを縛らないでもらえます?

それに心配しなくても、僕からこの学校の生徒に対してもう手を出さないようあの人から厳命されてます。

僕が何かすることはもうありませんよ」

 

「……でもその、あの人?から命令されればやるんだろ?」

 

「もちろん」

 

 

即答である。

まあ正直、ブレイン・バーストの定番脅し文句である『リアル晒すぞ』をお互いが使える時点で交渉材料にはならず、能美と何かしら契約や約束を結んだとしても、鶴の一声でそれがあっさり消滅することがわかりきってる現状だ。

それだけの狂信を、有田達はあの夜見ているのだから。

 

 

「それにですねぇ。あなた方が知ってるか知りませんが、僕の転校がもう決まってるんですよ。

まったく。あの人によってあなた方の不安を全て取り除いていただけるんですから、感謝してほしいものです」

 

「……つまり、転校もお前の意思じゃないのか?」

 

「ええ。

まあ未練もない学校ですし、あの人の決定に僕が挟む口なんてありえません」

 

 

さも当然のように告げる能見に寒気を覚えるが、これもそろそろ慣れてきたな。

狂信者も何人も見たし、取り巻きだって幾人もいる。

あの人の求心力、カリスマともいうべき人望は。

 

 

「能見!なんでそんなにあの人の言いなりなんだよ!

自分の意思で何かを決めようと思わないのか!?

間違いなく利用されてるじゃないか!

お前に自由とか、そういうのはないのか!?」

 

 

だが、それは俺だけの話。

机を叩いてその身を乗り出す有田には能美がただの操り人形やロボットにでも見えているのかもしれない。

いや、有田だけじゃない。表情に出さないだけで倉嶋や黛も怒り、というよりは恐怖のような表情を浮かべている。

対する能美の浮かべる表情は分かりやすい。

…侮蔑だ。

 

 

「………はぁ。

無知は罪、とはよく言ったものです。

いえ、僕からしたら、既知は宝と謳うべきですかねぇ」

 

「…何が言いたいんだよ?」

 

「あなた方は知らないでしょうが、僕は知っている!

あの人の、偉大さを!

奪われて、奪われて奪われて奪われて!奪われて奪われて奪われて奪われて奪われて!!!犬以下の畜生のようだった僕を、あの兄から救ってくれたあの人は!

奪う力のみならず、奪う機会も!さらには先を選ぶ自由さえも、傅く選択さえも与えてくれたんです!

利用されている?違います!

()()()()()()()()()んです!

だからこそ、僕はここでこうして生きているのですから!

それこそ有田先輩、あなたなら分かるでしょう?

どん底から救い出される幸福感を、奪っていた奴が堕ちていく高揚感を、自由を与えられた全能感を!!

そして、その全てを救済者に捧げたくなる、あの感情が!」

 

「な、なんで俺が…」

 

「知ってますからね。

一年前に有田先輩が同級生にイジメられたことも、黒雪姫先輩に助けてもらったことも、あの人は全部知ってるんです。

だからこそ分かります。あなたも同じ感情に至ったことがあるってね。

もっとも、先輩は隣で歩き、僕は後ろで付き従う。

そういう違いはあれど、根底のところは変わりませんよ。

崇拝です、信仰です。奉り、仕えたいという思いに、弱々しい意思の先輩と違い、僕には終わりがないだけなんですから!」

 

 

酔いしれるように演説を行う能美に、もう一同ドン引きである。

能美が過去に兄から全てを奪われ、ブレイン・バーストでもそれが続けられたのは聞いている。そしてそのブレイン・バーストにより能美が復讐を遂げたということも。

だが能美の話ぶりからすると、そこにはスピリットさんが一枚噛んでいるらしい。

恐らく心意を教え込んだとかそういうことだろうが、どうにも能美はその奪われたという過去を乗り越えきってはいないらしい。

まるでトラウマを抉られているような、苦しみを誤魔化そうとするようなスピリットさんへの賞賛。過去の恐怖ごと能美を自分への崇拝で繋ぎ止めているのだろうか。

……なんつーか、性格の悪い、あの人のやりそうなことだ。

 

 

「………ふぅ。

まあそういうわけで、僕への警戒をするのは勝手ですがあまりオススメはしませんよ。一週間もすればもう居ませんし、命令は絶対ですから」

 

 

そう俺たちに告げ、最後に童顔をニコッと人懐っこい笑みで立ち上がった。

能美にとって話し合いはもう終わりだという合図だろう。

勝手に話し合いを切り上げられている状態だが、ドン引きして腰の引けている一年生'sは役に立ちそうにない。

だがスピリットさんの命令があるというのなら大丈夫だろう。ある意味一番信用できる命令で、さらにある意味一番信用できない命令だ。

なんにせよ、能美が引っ越す一週間中は気をぬくことはできないだろう。

 

 

「ああそうだ」

 

 

恐らく皆同じようなことを考えて居ただろう時に、まるで見計らったかのように出口の取っ手に手をかけた能美が声をあげる。

ビクッと一年生'sの肩が震えながら恨めしげに能美の方に視線が向けられ、その視線を愉悦の笑みで迎え撃つ能美。どうやら性格の悪さは素のようだ。

そしてその愉悦の表情で右手の指を二本立てた。

 

 

「みなさん、二ヶ月です。

二ヶ月の間、あなた方には猶予をさしあげます。

そこから僕たち加速研究会は再び加速世界での活動を再開します。

今回は僕が先走って余計な茶々を入れてしまいましたので、予めお伝えするようにとあの人から仰せつかってきました」

 

 

ナ、ナンダッテー!

いやマジでなんだって?

堂々過ぎる宣戦布告、いやむしろテロ宣言?

広過ぎる加速世界で、時間の流れの違いから同じ時間にダイブするのも少しばかり難しい場所で、何かを企て実行してやるとそう宣言したのだ。

心の準備が出来るぜやったー、なんて言えるわけもなく、面倒ごとが起きると確定してしまった。

………そしてなにより、今の俺はスピリットさんに唆されて一応加速研究会所属となっている。

つまり加速研究会が動くということは、俺も何かしらやらされるということと同義であり…。

え、俺も転校させられたりするの?俺は圭一君だった?

 

 

「ど、どういう…」

 

「さあ?僕も詳細は知らされてませんので。

なのでご心配なく。二ヶ月は安泰ですよ。

それじゃ、失礼しますね」

 

「まっ…!」

 

 

有田の制止も虚しく、能美は扉を閉めきった。

残るのは呆然とする二年生三人組と映像越しの俺と黒雪だけだった。

 

 

『………なんにせよ、お疲れさん。

で、黒雪。お前あいつが転校するって知ってたか?』

 

『……知るわけがないだろう。

修学旅行が終わってすぐに転校を決めるなど…。

能美だけの決定で可能なことではない。

親の都合、金銭の都合など多々ある問題を意に介さないなんて想定ができるものかッ!』

 

『だよな…。

ゲームだけじゃなく、リアルの方もやばい相手かもしれないな』

 

『くっ…。

とにかく、私は能美の転校が事実かの確認を急ぐ。

それくらいならすぐだからな。

…それからハルユキくん、タクムくん、チユリくん。矢面に立たせてすまなかった。

レギオンマスターなのにメンバーの窮地に何もできなかった事を謝らせてくれ…』

 

「そ、そんなこと!」

 

「そうだよ!先輩私達のこと助けにきてくれたじゃん!」

 

「その通りですマスター!

貴方が来てくれなかったらどうなっていたか!」

 

 

能美という敵が消えたからかネガ・ネビュラスによる内輪ノリが始まってしまった。

当然レギオンの違う俺がその内輪ノリに混じれるわけもなく、ただただ居心地の悪さを味合わされることになりかけている。しかも長そうだし。

 

 

『……先落ちるな』

 

 

それだけ言い残して俺は繋いでいた通信を切った。

なんせ俺は足の骨が折れてしまった怪我人なのだ。ようやく今日退院できる程度には重症だったので、思ってたよりもスケジュールが押している。

荷物はそこまでないとはいえ、数日間寝食を共にした病室だ。少しばかり名残惜しくもなろう。

ああ、愛しくも暇だった入院の日々よ。さらば食っちゃ寝の生活。やばい、出て行きたくないぜ。

 

 

「……にしても、これからどうすっかな」

 

 

いやほんとどうしよう。

加速研究会になったのは俺にとって必要なことだから割り切れる。

でも別にスピリットさんはスパイをしろどころか、指示の一つもない。というかいつアバターの復活をしてくれるのかもイマイチわからない。それ以前にあの目玉何?黒い目玉がどうやってアバター蘇らせるの?

嘘やハッタリで交渉を進める人には思えないから勧誘にのったが、改めて冷静になると問題事項が山盛りな気がしてくる。

その中でも一番初めの問題はこれから黒雪達とどう接してくかだ。今まで通りだと、加速研究会だとバレた時に殺されそうだし。かといって黒雪に教えればなんの躊躇いもなく殺されそうだし。うわーいデット・オア・ダイ!俺は死ぬ!

 

 

「……バレなければもーまんたい。

見えたぜ生還ルート」

 

「病院の目の前でなーにぶつぶつ言ってるんです?

精神科行きます?そこですよ?」

 

「………げっ」

 

「乙女の顔確認してからのげっ、はないんじゃないですー?」

 

 

暗闇に一筋の光明、と思いきや光が遮られた。

遮ったのはあざとさ満開で、そもそも一番大きな問題そのものである後輩。加速研究会さんったら梅郷中学カケラも手を引いてないじゃないですかヤダー!

 

 

「せーんぱい!

退院、おめでとうございます!」

 

 

そう、加速研究会所属の一色いろはが満面の笑みで出迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




挟むほど幕間が思いつかなーい。

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