やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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遅れてもーしわけありません。
学校に振り回されておりました。専門って面倒。
あと俺ガイルの原作初めの方読み直してましたが、あの面白さなんなんでしょうね?センスの違いを感じました。


囚われた王

sideロータス

 

 

 

 

 

遡ること3年前。黒雪姫にとって姉は自分の中で全ての憧れだった。文武両道、才色兼備を着飾っていく彼女を見て自分は…

 

 

 

ーーー斬!

 

 

 

目の前に車が迫ってくる。すぐそばには愛すべき『子』がいて、運転席には金髪のイカつい男。助け出したと思っていたのに今は命の危機に晒しているなんて…

 

 

 

ーー斬!!

 

 

 

 

目の前の目の腐った男が離れていく。仲間とも、友とすら呼んではもらえなくとも気に入っていた相手が、目の前から消えて…

 

 

 

斬!!!!

 

 

 

 

 

「はあっ!!!」

 

目の前に広がる偽りの景色を斬り開き、迫り来る白い腕を払いのける。心意を纏ったその腕は『絶対切断(ワールド・エンド)』の異名を嘲笑うように正面から両手に光る剣を受け止めていく。

 

「…っ。はぁ……はぁ…」

 

「あれー?ローちゃん大丈夫?息荒いよ?

何か嫌なことでも思い出した?」

 

「くっ。白々しい!勝手に私の記憶を弄るな!」

 

「私も心が痛むんだよ?でもほら、仕方ないじゃない?せっかく全員見逃してあげようしてるのに邪魔するんだもん」

 

キラリ、と胸の白い瞳が煌めいた。

 

「そうやって無駄な意地張っちゃってさ。その意固地で自分のレギオン壊滅させたのもう忘れたの?」

 

「……っ!黙れ!」

 

右手に心意の炎が踊り狂う。ソレを目の前にいる白い瞳に狙いを定め、限界まで引き絞った。

 

「『奪命撃(ヴォーパル・ストライク)!!』」

 

ギュン!と風切り音すら置き去りにする炎の槍が空気すら燃やしながら瞬間で対象へ突き進む。

……はずだった。

 

「………終わりかな?」

 

貫くはずだった瞳は煌々と此方を見つめ続け、貫こうとしていた右手は白い右手に掴まれている。纏っていた炎は消え去り、白い瞳だけが現状を物語っていた。

 

視界がブレる。

またか、と思った時には左手に力を入れていた。

仮想空間では指ひとつない剣となった己の四肢は、何物にも劣らない立派な武器だ。そこに心意を纏わせれば相手の生み出す空間を切り裂くのも容易かった。

だから今回も腕をふるった。視界が明瞭になる。赤いシルエットが浮かび上がるが関係ない。

ここは、偽物なんだから。

 

 

「えっ」

 

 

自分の声とともに、腕が止まった。

斬るのを止めようと思ったわけじゃない。

斬る必要が無かったのだ。

だって、自分はもう相手の首を斬った後なのだから。

 

黒く光る両手は交差され、その間には赤い首がひとつ。それはよく見知った顔で、それは見知った光景で。刹那に感じた相手を切り裂く感触は、とてもよく知っているもので。

 

「や、やめろ…」

 

それを抱きしめるように抱いているのは間違いなく自分で。首の重みが、周りの静寂が、そして…

 

『い…いやあああぁぁあ!!』

 

響き渡る叫び声が、五感を通して夢を現実へと侵食させた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

sideウルフ

 

 

 

 

「あああぁぁぁ!!!!?」

 

「「「先輩(マスター)!?」」」

 

叫び声と共にロータスの身体が膝から崩れ落ちた。一瞬前まで目にも留まらぬ速さで殺陣を演じていた片割れが、電池が切れたように力が抜けている。

三人の下級生の叫び声がロータスの声と交わり加速世界の夜に響き渡った。その声にすら反応せずロータスの力は抜けたままだ。

スピリットさんが掴んでいる手を離せばすぐにでも地面に横たわってしまうだろう。

 

「っ。一撃走(ワンショット・ラン)

 

カッと、地面を蹴った音が響く前に加速の世界に入り込む。移動拡張の心意がロータスとの距離を0にした。それはスピリットさんとの距離をも詰めることになるのだが、今回は見逃してもらえたようだ。むしろ完璧なタイミングで手を離されたことで、完全に動きが見透かされていた。怖い。

寸分違わず元の場所に戻った俺は手の中で光を失ったロータスを呆然としているパイルに投げ渡した。

 

「…はぁ。おいパイル、クロウ、えーともう一人。ロータス連れてポータルで現実に戻っとけ」

 

「なっ!ウルフ先輩はどうするんですか!?それに先輩はどうして…」

 

「んなもん帰って本人に聞け。四人がかりでも多分倒せないからさっさと帰れ。おら早く」

 

いやほんと、早く帰ってほしい。元々あの人に喧嘩売らずにスルーしとけばそも戦闘にすらならなかったというのに。野生の動物も目を合わせたりするのが一番ダメだって…

 

「『心撃(バン)』♪」

 

「やb『孤高狼の晩餐(アローン・ディナー)』!」

 

手でできた拳銃から放たれた心意の一撃が心臓を撃墜しに迫ってくるのを喰らい尽くすように両手の心意で握り潰す。

……心読めるの忘れてた。野生の動物扱いはさすがに見逃してもらえなかったらしい。しかも結構マジな威力が込められてる。ゲームの中で天国に逝きかけた。メーデーメーデー!

 

「いやマジでお前ら帰れ。状況説明も何もかもそこの姫様が立ち直ったら電話でもなんでも聞け。むしろ立ち直らせろ。俺の説明もあとでするから」

 

「……っ!!すみません!ありがとうございます、ウルフ先輩!」

 

羽ばたく音が背後で響き、三人の気配が消えていく。

……まったく、とんだ筋違いだ。

今の俺に、お礼なんて言われる筋合いはない。だって、俺がここにきたのは本質的にはクロウ達を助けるためなんかじゃないんだから。

 

 

 

 

「………うん、周囲に人影なし。ようやく、本題に入れるね?新入り君?」

 

「…そっすね。つっても疑心8割ですしまだ入るって決めたわけじゃ…」

 

「君は入るよ。だって、私が勧誘するんだもん」

 

「………」

 

殺伐、なんて空気じゃない。ただ蛇がカエルを睨んでいるだけの状況に、水気のない喉が乾いてくる。

そう、病室で一色に唆されほいほい現れた俺は一歩間違えれば敵地のど真ん中に突っ立ってるわけだ。世界の半分を貰えるとかだったら絶対に来なかったのに…。

そう考えると魔王よりも交渉の上手いこの人は大魔王かなんかなの?ゾーマ?ピッコロ?

 

「……待ってください!」

 

そんな空気に水を差してくれたのはさっきまでパイルと死闘を繰り広げていたダスク・テイカーだった。

 

「どういうことですか、勧誘って!?

こいつを?無色の王をあなたの『加速研究会』に入れるんですか!?一人のレギオンとはいえ王を入れるなんて、どんな危険因子か!」

 

「あれ?ダッカー君に教えてなかったっけ?元々今回の騒動がドサクサに紛れるのにちょうど良かったから、前から目をつけてたウルフさんに手を出そうって話だったのに。……伝え忘れてたっけ?」

 

激昂する彼の返答は俺の後ろから聞こえて来た。そこにはチェスナット・ニードルが手を顎に当て可愛らしく首を傾げていた。もちろんそんな仕草に絆されるわけもなく、テイカーとナッツは口論を始めた。

しかしこれで揃ったわけだ。ナッツ、テイカー、ウィンドベル、そしてスピリットさん。俺のこれからの加速人生を根幹から揺るがしかねない組織のメンバー。

『加速研究会』とレギオンではない集団。というよりスピリットさんが次席に甘んじてる組織とか恐ろしすぎて関わり合いになりたくもないのだが……。

だが、どうしても、どうしても叶えたい望みができた。希望を、この組織に与えられてしまった。

……希望は麻薬だと俺は過去に、レイカーにクロウの翼を見せた時に結論付けた。先に見えるのが破滅だと分かっているのに、分かっていても希望に縋ってしまう。それは俺も変わらないようだ。

 

「……それで、結局『あの事』は本当なんですか?」

 

「もちろん。君が私に協力してくれればちゃーんと果たしてあげる。といってもそう簡単には信じられないだろうし、実在してるって事は見せてあげる。

……おいで」

 

パンパンとスピリット手を叩くとギュンと景色が歪んだ。

目の前の空間に色が映り出し、輪郭を象っていく。

 

「か、カメレオン?」

 

「うわ〜、キモいですねぇ。透明ですしウルフ先輩みたい」

 

「それはただ透明だからだよな?なんか悪意感じるんだけど」

 

というかなんで俺この空気に馴染んでるんだろう。

いつの間にかテイカーはスピリットさんの後に続いて長さ6メートルほどのカメレオンに乗り始めてるし、ナッツは既に仲間のような距離感。ウィンドベルはほんわかな雰囲気を醸し出している。明らかに昨日の敵が目の前にいる時の反応じゃないだろう。

 

………ああ、そうか。

 

「…マジで疑ってないのか」

 

そう、こいつらには疑問がカケラもないのだ。テイカーのように不満や杞憂はあっても、スピリットさんが自分の行為に確信をもって行動しているように、この場にいるやつらはスピリットさんの行動に間違いがあるなどと思っていない。

まさに盲信。洗脳でもしているのかと疑いたくなるほど徹底された隷属意識。だからこそ新たな奴隷が現れたところでご主人の意向によって配属された同類にカテゴライズされてるわけだ。

…スピリットさんに対して反抗意識を少なからず見せているのにこの反応とは…。洗脳度合いは半端じゃない。マジで俺洗脳されないよな?

 

しかし考え続けても拉致があかないので他のメンバーに続いて俺もエネミーに登る。全員乗ったのを確認するとスピリットさんはある方向を指差し、エネミーは指示に従い動き出した。

 

カメレオンに乗ってのっしのっしと歩いて五分程だろうか。梅郷中からも目視できる程にしか距離を取られていないビルに辿り着き、スピリットさん、テイカー、俺、ナッツ、ウィンドベルの順で階段を登っていく。

そして3階まで上がったところで正面にある一室に入る。

 

「部屋の中で待っててね」

 

スピリットさんがそう言うと軍隊さながらにビシッと三人が入り口付近に直線で並び始めたので慌ててそれについていく。

こういう無駄に規律の取れた動きってどこで練習してるのだろう。体育?

 

「お待たせ。これがウルフ君の待ちわびてる物だよ」

 

スッと手のひらを差し出してくる。

目だった。ギョロギョロしてるし、黒いけど紛うことなく目だった。見下してそうな雰囲気とか特に目だ。超目。見慣れてるもん。逸らしてるけど。

 

「可愛いでしょ?」

 

「キモいっす」

 

「あはは。それでも君の望みを叶えられる証明になるものだよ」

 

ニコッともう一歩踏み込んでくる。

 

 

 

「そう。君の妹さんを蘇らせることの、ね」

 

 

 

ごくりと喉がなった。

俺は今日、一人の本物のために他の全てを切り捨てる決意をすることになる。

黒い瞳と白い瞳。二つの目に魅入られて、俺は加速世界に囚われた。

 

 

 

 

 




そういやレッドライダーイベント先輩乗り越えてないなーと思い、混入させました。
話覚えてねーよの方多そうですがまあこのままいきます。

あと何気お気に入り3000突破。いくつも減りそうですがここに感謝を。
夏休みに入るまでまた更新辛そうです。

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