やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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失恋のショックが治ってきたので投稿。辛い春休みだった。


白い瞳

sideパイル

 

 

白かった。突如現れたその人は白く、そして美しかった。純粋な人型はその体型をそのままに表し、男子ならば引き寄せられる胸元には欲とともに全てを見つめ返されるように大きな瞳が描かれている。

その人から目が離せない。敵だとわかっているのに、まるで見惚れてしまったかのようにその一挙手一投足を目で追ってしまう。

 

「まったく。私のために動くのは許すけど、勝手に消えるのは許容範囲外だよ」

 

呆れたような声で腕の無い能美の頭を小突き、そのまま手をかざした。

 

「戻りなさい。『存在回帰(リカーランス)』」

 

スッと、能美から透明な()()()が浮き出てきた。

それは、何度も見た姿。ニュルッとした触手のような腕、ギラリと輝く顔のレンズ。間違いなく出てきたのは五体満足の『ダスク・テイカー』そのものだった。透明は色を持ち、質量を持ちながら構成されていく。

さながら、『偽物』が『本物』に仕上がっていくように。

 

「復活させた…?まさか彼女も治療者(ヒーラー)なのか!?」

 

「……。さて、こっちは消しとかないとね」

 

「………?…っな!?」

 

彼女の傍から声が漏れる。こちらの声を無視して白い彼女が行ったのは、両腕の無くなった()()能美の消滅だった。首筋を薙ぎ払う心意の輝きをまとった一撃は確実に体力を削り飛ばすもので、回復するための過程とは思えない。何故なら、あの驚愕を含んだ声は間違いなく能美の声だったのだから。

 

「………さて、終わりっと。ベル、戻っておいで。もうその子たちは離していいから」

 

「は〜い」

 

ウィンドベルがチリーンと一際大きい風鈴の音を鳴り響かせながら白い彼女の元へと歩いていく。そのまま三度音が鳴る。するとそれに連動するようにシルバー・クロウとライム・ベルの電源が入ったかのように動きを再開した。

 

「……?俺、何を…?」

 

「…あれ?なんで…?」

 

「クロウ、ベル、戸惑うのは後だ。こっちへ」

 

状況を把握しきれてない二人の手を引きながら彼女達から距離を取る。もちろん心意は解かない。下手をすれば、このまま全滅すらありえるかもしれない。

三対三とかそういう問題じゃないんだ。彼ら彼女らの信仰を集める真ん中の白い彼女。あの人は、危険だ。

怖いし危ないし逃げたいし平伏したくなる。何故だ。彼女にもう過剰光は見られない。つまり心意を使っていない状態であの威圧。

ゴクリ、意図せず唾を飲む。それを見咎めるように、彼女の胸の()と目があった。

 

 

 

 

 

「……………それじゃあ、帰ろうか」

 

 

 

 

しかし当の本人はこちらに欠けらの興味すら抱くことはなかった。

 

 

 

「…ま、待て!」

 

気づけば、呼び止めていた。ダスク・テイカーとコンメリナ・ウィンドベル、そして白い彼女の視線が一斉に僕に集まる。六つと一つの眼に見つめられて敵対している相手だというのに体が萎縮してしまう。

白い彼女の言葉に即座に反応して帰宅する気満々だった両サイドの二人からの殺気のせいだろうか。それとも、白い彼女の視界に写り込んでしまったせいか。

 

「突然現れたくせに突然帰るなんて無粋とは思わないのかい?それにそこのダスク・テイカーはポータルから脱出すればポイントを全損するぞ?それでもいいのか?」

 

「貴様、この人に対してなんて口の利き方を…」

 

「そうだね〜。……永眠、してみる?」

 

反応したのは両脇の二人。触手と風鈴を構え戦闘態勢に入る二人に僕とハルも構えを取った。張り詰める緊張感、しかしそれはすぐ後ろの素っ頓狂な声で散り散りになった。

 

 

 

 

「あれ!?翼が……戻ってる!?」

 

「なんだって!?」

 

バサっといつの間にかあるべき場所にあるべきものが帰ってきていた。誰が、いつ、なんて答えるまでも無い。

これを行なった下手人に視線を向ける。それを受けた白い彼女は、始めと変わらず堂々としていた。

 

「……ん?まだ何かある?彼が心配なら大丈夫だよ?もうここから出ても全損しないから。

ほら、証拠に君達のポイントが増えてるでしょう?おめでとうだね!今回の戦闘は君達の勝ちだよ!」

 

パチパチと心のこもっていない賛辞が気持ち悪い。いや、惑わされるな。まず結果を判断しろ。帰ろうとしているということはもうあちらに敵対の意思はない。そして白い彼女の言葉に彼らは絶対に従う。つまりまだ情報を引き出すチャンスはあるということ。

さらに言えばハルの翼が戻り、サドンデスルールの消滅でほぼこちらの勝ちと言っていい。

……ここは踏み込むタイミングだ。せめて相手のアバター名だけでも掴まなければ。

 

「そんな言葉で誤魔化せると思っているのか!?そもそもあなたは自分が何者かも話していない。そんな乱入者の言葉を信じられるとでも?」

 

「……ああそっか。私の名前が知りたいんだね」

 

 

パチリ。白い目と僕の目があった。

 

 

 

「……ふふ。怒ったふりして情報を引き出そうってことか。強かでお姉さん嫌いじゃないな〜」

 

「……誤魔化してるのか?」

 

「いやいやぁ、強がる男の子は見ていて面白いからね。ちょっとイジワルしたくなっちゃうんだ。ま、君の頑張りに応じて特別に教えてあげる」

 

一歩、こちらへ彼女が踏み出す。

 

 

「私は加速研究会()会長、『ホワイトレド・スピリット』。

長い付き合いになるといいね?」

 

 

クスッ。と、笑い声が漏れる。気づけば彼女は目の前に立っていた。腕を伸ばせば届く距離、足を振るえば当たる距離。

構えもない彼女に対して行なった僕の行動は、後退だった。

 

「ふ、副会長、だって?あなたより上の存在がいるのか…?」

 

「ま、そうなるねー」

 

三歩は後ずさった僕に反応を起こすこともなく、彼女は笑いながら会話に応じる。正直もう会話を打ち切りたい気持ちでいっぱいだが、ここで彼女を逃してはもう話す機会はそうないだろう。あと少しでも情報を持ち帰らなければ……。

 

 

「じゃあ、もういい?そろそろ帰りたいんだけど」

 

 

そんな意気込みを削ぐように、唐突に会話を打ち切った。

 

「ま、待て!まだ話は…」

 

「んー、さすがにこれ以上のんびりするのもねぇ。それに私達って敵対してるわけだし、そんなにこっちのことばっかり教えられないよ。

そっちの烏ちゃんの羽は私が戻してあげたんだし、ここは見逃してくれない?」

 

「ふざけるな!そっちの後始末を付けただけで何を…!」

 

「ああ、言い方が悪かったね。もうちょっと直接のほうがよかったか」

 

やれやれとでも言いたげな態度で彼女はこちらを見据えて来る。それだけで僕もハルもちーちゃんも、全員が戦闘態勢を構えなおす。

しかし相手はそれすら嘲笑うように、悪魔の取引を持ちかけて来た。

 

 

 

 

「見逃してあげるから、見逃してくれない?」

 

 

 

 

口から吐かれたのは傲慢の押し売り。『殺さないでやる』という上から目線の忠告。頬に指をやり首を傾げながら放つ言葉は絶対を押し付ける王のようで、知らずにまた一歩後ろに下がってしまう。

だが、ここで引くわけにもいかない。

加速研究会。こんな人が所属しているグループの情報に接近できるチャンスがそうあるとも思えない。

ここは僕のポイントを賭けてでも…

 

 

「そんな言葉で見逃せるわけ…」

 

想起(レミニッセンス)

 

 

言葉を発しきる前に、僕の全てを白い瞳に囚われた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『たくー!』

 

………誰かが僕を呼んでいる。

 

『たっくーん!』

 

……いや。だれか、なんて考えるまでもない。僕のことをそんな風に呼ぶのは二人しかいないんだから。

前を見ると、やっぱりハルとチーちゃん二人の小さな姿。あれは多分小学生くらいの頃かな?

……そうだ、この頃は「はい、終わり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィィィィン!

 

 

 

「うわぁぁあああ!」

 

 

……次に感知したのは何かを砕いた音と、削られるような背中の衝撃だった。

何故か僕は仰向けに倒れ、空を見上げている。さらに首元に激しい痛みを感じる。硬い手で押さえて見ると指一つ分ほどの抉られた跡が確認できた。

 

(………今、僕は死にかけたのか!?)

 

……ようやくここになって、僕はついさっき無抵抗に殺されかけた認識が追いついた。幻覚を見せている間にリアルアタックを仕掛けられた?

……やはりこの人、危険過ぎる…!

 

「………スケット登場。というよりも、本命のお出ましってところかな?」

 

しかし当人は倒れる僕を見ることもなく、おそらく首の傷の下手人であろう白い彼女は細い手を振り抜いた状態で宙を見ている。よくよく見ればその方向からは大地に一閃切り抜いたかのような剣線が一本道を描いていた。

………ここになって、僕も彼女が見ている空を見上げた。

 

 

 

 

「………私のレギオンメンバーに手を出すとはな。覚悟はいいか?スピリット」

 

「横合いから心意で一閃しといて今更じゃない?ローちゃん?」

 

 

 

 

 

そこには、天馬のようなエネミーに跨る黒の王。修学旅行で沖縄にいるはずのブラック・ロータスがそこにいた。

 

「……ふむ。ライム・ベルからクロウの翼が奪われたと聞いてどうしたものかと思ったが、戻ったようだな」

 

「心配しなくても私がちゃーんとロードしておいたよ。独断専行だったせいでセーブ地点がかなり前だったのが幸いしたね」

 

「……まったく、貴様の能力は未だにサッパリだ。やってることが一欠片も理解できん」

 

「まあまあ、そんなつまらない話は後にしてさ。何度も言うけどそろそろ帰りたいんだよね。これ以上は転がる首の数が増えるだけだよ?」

 

チラッとこちらに向けられる視線に急いで立ち上がり盾と剣を構える。この場面でいつまでも無防備な姿を晒していた自分が恥ずかしい。

今度こそ油断しないように構えを「想起(レミニッセンス)

 

また、白い目と視線が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

目だ。真っ白な目がこちらを向いている。

竹刀だ。先の丸い竹刀が首に向けて狙いを定めている。

目だ。真っ黒な目がこちらを見つめている。

杭だ。先の尖った杭が首に穴を開けんと行き先を告げている。

 

それが一斉に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奪命撃(ヴォーパル・ストライク)!」

 

「相変わらず真っ直ぐだね。避けたくなくなっちゃう」

 

 

 

 

ビュンッと風切り音が耳を貫く。さっきまでは耳が痛くなるような静寂の中に居たというのに、今では激しい戦闘音で満たされる。それと同時に今日何度目かの恐怖が身を襲った。

警戒していた。心意だって纏っていた。なのに、なんの抵抗もできずにまた殺されかけた。

今でこそマスターと白い彼女が正面から戦っているが、一瞬見えた白い残像はまたも彼女が僕の首を狙っていたものだろう。しかし今僕は彼女から5メートルは離れた位置で座り込んで……!

 

「………なぜ、ここにいるんですか?」

 

幻覚かも分からない能力に当てられた思考回路がようやく戻り、またも視界の端に新しく存在していた人影に目を向ける。

 

 

 

「………呼ばれたんだよ」

 

 

普段の透明色はどうしたのかと言いたくなるくらい黒々とした心意の色を纏い、気怠げに頭をかく無色の王がそこに立っていた。

 

 




辛いのであと一月は放置しようと思ってたらお気に入りも評価も増えてたのでかけちゃいました。
数字って偉大。

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