やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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手が進まないと思ったら八幡成分が足りないからじゃないかと思えてきた。とても八幡が書きたい。
いつまでタクで書いてんだろ…。


『守る』ということ

sideシアン・パイル

 

 

「意志の統一、ですか?」

 

時は無色の王に師事を乞い、それに伴い零化現象から立ち直った後。つまりは前日まで遡る。

 

「ああ、それが正と負の心意を扱う上で最も重要、というかそれができないとそもそも使えないまである」

 

「……統一、といってもピンとこないんですが…。何かをしたい、みたいな願いとは違うんですか?」

 

「それはどっちかっていうと正の心意の方向だな。そもそもだ。なぜ心意が一般に出回ってないか知ってるか?」

 

王の問いかけに顎に手を当て頭を回す。といってもそんなことをするまでもなく回答は浮かんだ。

 

「ゲームバランスが崩れるから、ですか?」

 

そう、心意は心意でしか防げない。つまりは心意を知らないプレイヤーは逆立ちしても勝てないということだ。言うなればチートツールを堂々と使用しているのと大差ない行為だろう。

 

「間違ってはないな。だがそれは理由の一端だ。

お前自身分かったと思うが、心意ってのは自分の傷と向き合う行為だ。当然心の傷なんてマイナスな物と向き合うわけだから、そこから力を引き出すなら負の心意のほうが簡単で単純に強い」

 

「……ええ。まさかあんなに簡単だとは思いませんでしたよ」

 

自らの右腕に渦巻いたドス黒い蒼色が脳裏を掠める。ただ感情のままに解き放つことの開放感や力を持った優越感が頭の中を支配していくような感覚だった。

 

「だが当然そんな力がタダで手に入るわけじゃない。心意は思い込み、言っちまえば自己洗脳に近い。負の心意は例えるなら鏡に向かって『自分は弱い、自分は弱い』と言い聞かせ続けているのと変わらない。だからそのうち心の闇とか呼称されてるもんに呑まれちまう。逆も然りな。正の心意も『自分は強い』って言い聞かせてるもんだと考えていい」

 

心意は思い込み。それは赤の王からも習ったことだ。心意は現実すら塗り替える思い込み、信じる力であると。ならば、負の心意を僕が覚えることに意味はあるのだろうか。

 

「……なら正の心意を使い続ければ…」

 

「そうも問屋が卸してくれない。なぜなら負の心意だけじゃなく、正の心意を使い続けて心の闇に呑まれた奴が何人もいるからだ」

 

言い放たれた言葉に小さく息を呑む。何人もいる、ということは心の闇に呑まれなかった人も何人かいるということだろう。結局心の闇に呑まれるかどうかは本人の心のキャパシティ次第ということだ。かといって自分は大丈夫、などと楽観的なことは言っていられない。

 

「…おかしくないですか?正の心意は自分にプラスの言い聞かせをしているわけですよね?なら心の闇に呑まれるなんてことは…」

 

「あくまで言い聞かせてるだけだ。とことん突き詰めれば正の心意って奴は、究極の現実逃避なんだよ。……こんなこと言ったらあいつに怒られそうだけど」

 

究極の現実逃避。よく、分からない。心意は自分の願い、弱さを乗り越えてその先にあるものに手を伸ばす力だと教わった。それは現実を直視しなければできないものではないのか。

 

「簡単に考えればいい。正の心意は()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

例えばだが。岩を破壊する行為を、もっとできるという思い込みでさらに強く現実としてそれを表す。全てはその応用だ。

だがそれは、さらにできる自分を心意によって誤魔化す行為になる時がある。普段の自分にはできないけど、心意を使った自分にならできる、ってな」

 

「……やっぱり分かりません。それはつまり、今よりも前を見ているということでしょう?逆に負の心意は後ろを向いてしまっているわけだ。なら、やはり正の心意の方が……」

 

「言い方が良過ぎるんだよ。弱さを乗り越えてさらに前に進んでいく。いい雰囲気に聞こえるが、つまり乗り越えた弱さを過去のものにして捨てちまってる。忘れてるんだよ」

 

……弱さを捨てる。無色の王はそういうが僕は現実の、過去の傷を直視して乗り越えた。だったら過去より今や未来だろう。むしろ弱さは捨てるべきもので、考えることは強くなることや守る力をつけること。

……そう、もう僕はあの頃の僕じゃない。ズルをしているのに周りを見下していたような、そんな自分を脱ぎ去ってその罪を償おうと僕は…。

 

「……失敗した過去はなくならない。例え自分がどんだけ変わったつもりでも、どんだけ自分が強くなったつもりでもな」

 

「っ……!」

 

「よく考えろ、パイル。思考を放棄せずに考えろ?お前は、本当に変わったか?」

 

無色の王はまるでこちらの考えを見透かすように問いかけてくる。そも僕がさっきまで零化現象に陥っていたのは、自分があの時から、ハルに助けられた時から全く変わっていないと自覚したからじゃないか。

 

「…僕は、変われてません。いや、変われていないから貴方に師事を頼んだんです!僕は今までの僕から変わりたくて…!」

 

弱いままでいたくない。守れないままでいたくない。守る力が欲しい。倒す力が欲しい。それこそ、王のような絶対の力が…!

 

 

 

「だから、そもそもその考え方が間違いだって言ってるんだよ」

 

「………え?」

 

 

 

無色の王から回答を却下される。これによる動揺は今日だけで何度しただろう。

 

「まず自分が弱い『せいで』って考えを辞めるとこから始めろ。お前はなまじ現実のスペックが高いからか、できないことは悪い事で、できなかった結果は全て悪いものだって思い込んでるように見えるぞ」

 

「……そ、それはそうでしょう!そんな言い方されたら、まるで()()()()()()()()()()()()()()があるみたいじゃないですか⁉︎」

 

僕の力が()()()()()()()守れなかった。それが今の現状だ。それなのに、なくていいことなんて…。

 

「ならお前が、いま俺なんかに教えを乞うほどレギオンのために尽力してんのは、元を辿れば何のおかげだ?」

 

「もちろんハルの……」

 

「違うな。お前が()()()()()()()』だ」

 

「は、はい?」

 

何言ってるんだろう、この人。言ってることが支離滅裂過ぎて、まるで理解出来ない。

 

「い、いやいや何言ってるんです⁉︎そりゃあ確かにレベル4だった時にレベル1のハルに負けたおかげで僕はこうしてネガ・ネビュラスというレギオンに所属できてます。でも、それはハルの心が広かったからで…」

 

「自分で言ってるだろうが。負けた『おかげ』って。お前が弱かった『おかげ』で、今こうしてられてる。もしお前が有田より強かったら、下手すりゃ今頃青の王に『断罪』されてたぞ」

 

「…っ!」

 

その指摘に思わず唾を呑む。かつて使っていたチートツールのバックドアプログラムは、僕の親から貰ったもので、その親はそれを僕に渡した罪により断罪されている。

だがそもそも、考えるまでもなく実行犯は自分なのだ。物は使いようというが、それを悪用していたのは紛れもなく自分だ。だけどまるで密告者の如くバックドアを王に公表したおかげで僕はほぼ無罪。だがそのまま使い続け、ふとした拍子にそれが露見した場合はどうだろう。

……考えるまでもない。断罪確定だ。

 

「それだけじゃない。よく有田のため黒雪のためと言いながら行動してるが、本当に自分がすべきことを理解してやっていたか?」

 

「………」

 

「ただ漠然と加速世界のことを教えるだけなら誰でもできる。というか、本来それは親であるロータスの仕事だ。今までのお前は他人の仕事を奪って立てた功績を誇ってるのとなんら変わんねえ。

絶対に譲れない、お前だけができるお前がいる意味を確立しない限り、今回と同じで敵に付け込まれる」

 

「……僕が、僕だけができる、僕のいる意味」

 

「それが考えられないならもう帰れ。俺の教える心意の習得は無理だ。…賢いだけの奴は、考えるバカより見込みがないぞ」

 

「……っ!」

 

賢いだけの奴…。それはどこまでも僕の本質を突いていたのかもしれない。元のスペックだけが少し高くて、できることだけやって偉そうにしているような、そんな奴。ハルに全て勝っていると驕っていたころと成長していない。

そうだ、ハルは頑張ってる。空を飛んでいるが故に赤系の狙撃で落とされた時は銃弾を避ける練習をしたり、翼がなくなったなら新しい力を手に入れるために奔走していた。

 

なら、僕は?

 

 

「……僕に、僕だけにできることなんて、そんなもの、ありません」

 

「……それなら…」

 

「でも、守りたいんです!一回失って、自分で壊した場所が、ハルとちーちゃんが、今の僕には一番大事なんだ!見下して独りで嘲笑って居るより、僕はみんなと楽しく笑って居たい!」

 

 

そうだ、今回の能見の襲撃のおかげでようやく僕は自分にできること以上のことを望んだんだ。

王であるマスター。完全飛行能力のハル。回復アビリティのちーちゃん。そんなメンバーに比べて僕は個性もなく、アバターに至っては近接の青に遠距離武装というアンバランス具合。

べつに突出した個性がなければレギオンに入らないなんてことはない。そんな物がなくてもレギオンメンバーが僕を受け入れてくれていることなんてわかってる。

でも、どうしても時折叫びたくなる。なんで僕は一つのことがとことんできるようなアバターじゃなかったんだと。

全てを守れる硬さには程遠い装甲。

全てを薙ぎ倒すには脆すぎる杭。

全てを置き去りにするには遅すぎる足。

全てを騙すにはあからさま過ぎる強化外装。

親友の隣に並ぶには、あまりに弱過ぎる。

 

 

「…初めてなんです。自分を使い潰してでも守りたいと思ったのは。間違った僕を見捨てず、親に逆らう決意を貰い、前に進もうと思える意志を与えられたのは」

 

 

虚しい慟哭なのは分かってる。言葉にしたことすらできていないのも分かっている。それでもやりたいことがあるんだ。自分が心からやりたいと思ったことが。

 

「……なんだよ、ちゃんとあるじゃねえか。できること」

 

「……え?」

 

「えもなにも、『守る』んだろ?ならやりゃいいだけだろ。あ、でも一つだけ訂正しておけ。『守りたい』じゃダメだ。必ず『守る』。確定系に変更しろ」

 

「あ、はい。ってそんな簡単な…」

 

先ほどまでと変わって少し雰囲気が和らいだ無色の王に動揺する。意志の統一だとか弱かったおかげだとか、難しかったり遠回しな言い方を選んでいたのに結論が初めから何も変わっていないのはどういうことなのか。

 

「ま、あれだ。ようするに目標を決めるのと目標を達成するために何かするのはまるきり別だってことだな。さらに昔の傷をどこまで目標のために利用できるかだって大問題だ。昔の傷に負けてたらどう足掻いても心意の先なんていけやしない」

 

自覚することが大事、に落ち着くのだろうか。確かに守りたい、だけで終わっていた前よりもやるべきことを、否『やること』を定められた気がする。

昔の傷を利用できるかという点も、剣道こそが傷であり力だと自覚すればこそそれを使うことに躊躇いはなくなる。

……首元への恐怖心は別だけど。

 

「つまり僕の心の傷を、どれだけその傷を基に力に変換できるか、ということですね?」

 

「そういうことだ。未来予想図の理想形じゃなく、過去から自分のできることを現実的にとことん突き詰めろ」

 

自分一人の力じゃ足りないとハルに叩きつけられた。

独りぼっちは僕にあっていないとハルとちーちゃんに教えられた。

……守ることは、近くにいることではないと能見に刻まれた。

そこまで理解して、今、ようやく僕は前に進めそうだ。

 

「それが終わったら修行を始めるぞ。失敗は成功のもとだと理解したなら、もうお前にできないことはない」

 

そういって無色の王は小さく笑った気がした。

 

 

 




期間開き過ぎて意味☆不明感半端ないかも。

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