やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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書きたい事はあるんだ。
けどその間にもストーリーは続くし何故か余計な対戦は入ってくる。
出来上がる期間が短くなるなんてなかったんだ。


歓迎戦

僅かばかり時は遡る。入学式に伴いクラス替えの結果が張り出された紙に従い、ハルユキは配属された2年C組みに足を向けていた。

 

(今年はブタ君呼ばわりする奴やパン買って来させる奴がいないクラスにしてくれ!)

 

この科学世界でも生き残っている神に願いながら扉を開ける。重い扉に顔を顰めかけた時、後ろからの一撃で重い扉は勢いよく開け放たれた。

 

「ハル、おーっす!」

 

「ち、チユ。お前……もここか」

 

盛大に背中を叩いてくださりやがったのは、八重歯をのぞかせてニンマリ笑う幼馴染の倉嶋千百合。ちょうど昨日ブレイン・バーストをインストールしたばかりなので、恒例の悪夢を見たはずなのだがその顔はいつもと遜色ないくらい輝いていたことにハルユキは首を傾げる。

 

「やあ、ハル。チーちゃんも」

 

そこに続いて先ほどの十分の一以下の威力で再び背中を叩かれた。今度も現れたのは幼馴染、去年だけでも語り尽くせぬほど色々と共有した黛拓武だった。相変わらずのイケメンフェイスを眼鏡で飾りながらそこで微笑んでいる。

 

「うっす。タクもC組みか」

 

「三人同じクラスになるなんて凄い確率だよねー!」

 

「そうだね、確率的に九分の一。世の中のいろんな偶然は計算してみれば印象よりも案外そうなる確率が高いのかもしれないね。だから、一応用心しておきなよ?」

 

「へ?何に?」

 

突然の話題転換についていけなくなったハルユキに顔を近づけ、いっそう小さい声で囁いた。

 

「新一年生さ。あの百二十人に、未知のバーストリンカーが混じっている可能性に」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「……なんて話はしたけど、まさかこんな事になるなんて…」

 

一時間目のホームルームが終了し、チユのアバター初公開と洒落込もうとした瞬間にコレだ。いざ、という時に加速音が鳴り響き、いつものシルバーカラーで氷雪ステージの雪に吹かれた。タクとチユには自分が加速すると言っておいたので二人ではないだろう。というか、対戦相手の名前に見覚えがない時点で相手は決まりきっていた。

 

(新一年生。いるかも、とは言っていたけどこんなすぐに…?)

 

この学校のバーストリンカーは五人。うち二人は王だ。ハルユキだったら椅子から転げ落ちてもおかしくない場面だというのに、相手は臆さず加速してきた。余程腕に自信があるのか、それとも先輩絡みか。いや、先輩が目的ならわざわざこっちに対戦を吹っかける意味がない。となると、前者か。

 

一旦相手の姿を確認しようと窓が消えた校舎から羽根を広げて飛び出ると、予期していたのか校庭の一点に白に目立つ赤みがかった存在を発見する。遠目で見る限り女性のような膨らみがあり、完全な人型。アバター名『Chestnut・Needle』。名前と色からして中・遠距離の針をメインとしたタイプといったところか。決め付けはよくないが飛び道具には注意を払うべきだろう。

滑空しながら着地までの間に相手の分析に勤める。ブレイン・バーストでは名は体を表すし、体は技を表す。三十分しかない以上時間は無駄にできないのだ。

 

スタッと一分とかからず相手から五、六メートルほどの距離に着地する。普段の対戦なら殴りかかってるところだが、今は相手の出方を見るのが大切だ。

空から降り立つハルユキの存在を確認すると、対戦相手はぐるっと一周辺りを見回して全員揃ったのを確認すると、すうっと息を大きく吸った。くるかっ⁉︎と身構えるハルユキとは裏腹に、相手は大きく声を上げた。

 

 

「初めまして!本日より入学しましたナッツです!みなさん、よろしくお願いしまーす!」

 

 

はえっ、と変な声を上げたハルユキだが、幸運にも誰にも聞かれなかったようだ。宣戦布告どころかただの挨拶。敵対どころか全然友好的じゃないか。

 

(そ、そうだよな。行った学校の相手にくらい挨拶するよな!)

 

学校に在籍する以上学内ネットワークには必ず接続しなくてはならない。ならば相手に目をつけられる前に友好関係を築くのは賢く、至極当然の選択だ。

 

「というわけで、お手柔らかにお願いしますね!クロウさん!」

 

「あ、えっと、こちらこそ」

 

「ふふ、では行きますよ!」

 

とはいえ対戦を挑んでおいて挨拶だけしてハイ終わり、なんてこともありえない。相手のレベルを確認すれば自分より僅かに高いレベル5。片手にはいつの間に取り出したのか、アバターと同じ赤みがかった15センチほどの針を指に挟んでこちらに突撃してくる。名前にニードルとまでつくのだからアレが彼女のメイン武器なのだろう。実にトゲトゲしくて痛そうだ。

 

「ふっ!」

 

そんな痛そうな物に刺さってやるわけにはいかない。最近練習を重ねている黒雪姫先輩直伝の合気。相手の攻撃に合わせ、流し、利用する技。相手が針を突き刺そうとしてくるのを逆手に取り、針の先端にだけ気をつければその先には本人の腕が待っている。そしてそれを包み込むように受け流し、引き寄せる。

 

「え?わったった!」

 

それにより前屈みになるようにバランスを崩したナッツさんの隙だらけの胴体に手の腹を叩きつける。すると身体をくの字にし、持っていた針をばら撒きながらナッツさんは後方に吹き飛んだ。

 

「きゃあ!」

 

雪のクッションで横転時のダメージこそ無いものの、一撃で二割もライフを減らせた。黒雪姫先輩の技も上手くできていたしこれは先輩としてナッツさんにいいところを見せられそうだ。

 

「いったーい。…クロウさんって空飛べるだけじゃないんですね」

 

「ふふん。僕だってただの物珍しい奴ってポジションのままじゃ嫌だからね」

 

「あ、そういうの気にしてたんですね」

 

実際加速世界初の完全飛行型アビリティといっても弱点はかなりある。遠距離攻撃がないことや、それにより遠距離からの攻撃に近付くまで対処できないこと。今でこそそうやすやすと撃ち落とされはしないが、一時期はスナイパーに撃墜されまくったのは記憶に新しい。そして遠距離対策しまくっていたら、逆に近接系相手に飛び込みプチっとやられたのだって気にしてないわけじゃないのだ。

 

「まあだからちょっとだけ、最近編み出した技を見せてあげるよ」

 

存分に調子に乗っているハルユキは、自身の武器を見せびらかすようにシルバー・クロウの象徴である銀翼を広げる。始まったばかりで必殺技ゲージは10%弱程度しか溜まっていないのに翼を広げたクロウにナッツは首を傾げる。

 

「ふっふっふ。今度はこっちから行くよ!」

 

先程の自分のように真っ直ぐ突進してくるクロウにナッツは薄く目を細める。相手を持ち上げるのは得意分野だが、あまりに調子に乗られるとイラッ☆っとくるのは当然だからだ。

 

「……クロウさ〜ん。もしかして今は自分が有利だ、とかもう勝った、とか思ってませんよねえ〜」

 

突っ込んでくるクロウに先程手に持っていたのと同じ長さの針を一本、クロウに向けて放る。速さもないそれは容易に避けられ、自分のすぐ横を通り過ぎていく。

だからだろうか。針に目を向けていたクロウはナッツのアイレンズがニタリと形を変えたことに気づかなかったのは。

 

「私とクロウさんって、結構相性悪いと思いますよ♪」

 

え、という声を発する暇はなかった。バギン、という鋭い音が響いた時には、クロウの左翼に1メートルを超える巨大な針が突き刺さっていたからだ。その針は、目の前で笑っている少女と同じ色をしていた。

それを認識したところで下方の針が雪の下に隠れた地面を抉った。自分の支配下にないソレはクロウの体勢を容易く崩していく。

 

「ほらっ!余所見してる暇はないですよ!」

 

今度は容赦もいらないとばかりにクロウめがけて7.8本の針を投げつける。あれら全てが翼に刺さっている針と同じ物だとすれば……

 

「こ、こんのぉぉおおお!!」

 

その瞬間にクロウは足で立つのを諦めた。地に足をつけたまま勝てる相手ではないならば、地に足がつかない場所に行けばいいのだ。それだけ判断し、翼を振動させて翼に付いている針ごと飛ぶつもりで力の限り後ろに飛んだ。

 

 

生贄の針殿(エラー・ギフト)

 

 

技名と僅かに揺れた右端をよそに、目の前の針達はブービートラップが作動するかのように一瞬でその長さを数倍に変化させた。そのうちの一本がクロウの脇腹を抉り呻き声が漏れるが、今の攻撃でクロウはある事を看過する。

 

「ッ!体力を削って針の大きさを変えてるのか!」

 

違和感を覚えた視界の端。二割ほど減らしたナッツの体力が、何故か今では三割はなくなっている。それなのに必殺技ゲージは減っていない。あの僅かな攻防の間で一割も減ってしまうとは、何とも諸刃の剣的なアバターだ。しかし体力ゲージを必殺技ゲージの如く使えるというのは継続して攻めに回れる、中々に考えさせられる相手といえよう。

 

「ありゃ、気づかれちゃいましたかぁ。でーもー、クロウさんの専売特許は封じちゃったも当然ですよ?」

 

ナッツはクロウの左翼を指差す。そこには拳より一回り小さい風穴が堂々と存在を誇示している。こんな有様では軽々しく飛ぶ事も難しいだろう。そうナッツは笑みを深くする。それは勝ちを確信した、先刻のクロウと同じものだ。

そして、そのクロウも先刻のナッツと同じように不敵な笑みを返した。

 

「……もう勝ったと思ってるなら悪いけど、こんな状況って結構あったんだよね!」

 

翼が輝き始める。必殺技ゲージの準備は万端だ。そもそも、師は刃をつけていて、親友は杭を持っている。そんな環境で部位破損を考えない馬鹿がいるわけがないだろう。飛びにくくても、僕が、飛べないなんてありえない!

 

「いっ…けぇぇぇえええ!!」

 

上ではない。翼力の弱まっている左翼の力を補うように反時計回りの軌道をもって地面を滑空するようにナッツとの距離を狭めていく。今だけは(クロウ)ではなく(スワロー)のようだ。

 

「…っ。けど、そんな単純に突っ込んでくるなら!」

 

焼き増しのように突っ込んでくるクロウに向けて、今度は十本ほど向けて放り投げる。このまま針の中に突撃すれば、まさしく針の筵となる。

 

「まだまだ!」

 

予期していたかのようにクロウは今度こそ軌道を上に向けた。地面に近い事を利用して地を蹴り飛ばすことでその身を上空に押しやる。その姿は枯葉のように不恰好に飛び、しかし確実にナッツの上を取った。

 

「ひっ…」

 

「う、ぉぉおおおおお!!!」

 

本気の全力で両翼を震わせる。今まで絶対のアドバンテージとして獲得してきた場所。その高さこそが、シルバー・クロウの存在を加速世界に刻み込んだ場所こそがあるべき場所。そこからのハイダイブで負けるつもりはなかった。

爪先をナッツに定め急降下する。風を裂く感覚。そこから見える景色と共に時間が遅くなっていく感覚。下で針を構えなおしているナッツが見えるがもう遅い。左翼の力を補うように身体がスパイラルを描き、その軌道上にいたナッツの体力を根こそぎ奪い取った。

 

 

 

「…………よし!」

 

 

 

クロウのガッツポーズを梅郷中学のバーストリンカー全員が目にし、誰からともなく拍手を送った。勝者のクロウと挑戦者のナッツ。数の少ない拍手をもって、全員がナッツを梅郷中学に迎え入れた。

 




正直対戦より日常書きたいけど流れ上仕方ない。ただのナッツのアバター説明会程度だと思っていただければ。
あとハルユキは微妙にエアリエルコンボを習得してる状態です。3.4巻じゃ翼がなくて存在の確認がされなかったので一応補足。

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