やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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前半が完全な蛇足になってしまった。
とりあえず第二章・完!



舞台裏のエピローグ

全てのものには始まりがあり、全てのものに終わりがあるという。ならば逆説的に始まりがないものに終わりはなく、終わりがないものにもまた始まりはないということだろう。ならばこそ、災禍の鎧討伐という一つの終わりを迎えた今、俺は誰とも始まっていない状態。つまり鎧討伐に関わっていた全ての人物達と無関係であるはずではないのだろうか。もしそうであるならば、この状態はあまりにもおかしいと言わざるを得ないだろう。

 

「あんたさっきからなーにボーッとしてんだ?…あ、ジュースなくなった!おいお兄ちゃん、ジュースとってくれ!オレンジでいいや!」

 

俺の前にはベットの上で寝転んでいる少女が一人。赤いツインテールを揺らして天使の笑みで俺をパシらせようとしております。その姿がうちのエンジェルである小町ととっても被るので反射的に動いてしまう。お兄ちゃんスキルは今日も絶好調だった。全然嬉しくない。

 

「なぁ、事後報告だとかって来た筈なのになんで俺の部屋で寛いでんの?マイホームなの?俺がホームでアウェイなの?」

 

「何わけわかんないこと言ってんだよ…。話してる途中で小町ちゃんが帰って来ちまったらやべえじゃん?だからわざわざ場所を移したんだろうが」

 

「ならもう寛ぐ意味なくないか?もう少しダラけるなら俺プリキュア見たいんだけど」

 

「あたしの話はプリキュア以下か!……ったく、しゃあねえな。ほらよ」

 

起き上がった上月がベットの上を軽くスライドし、隣をポンポンと叩く。それはまるでここに座れと言っているようだ。ってかこいつそこで勘違いとはいえ襲われかけたの忘れたんじゃないだろうな。めちゃくちゃ無防備なんだけど。さっきからチラチラとスカートの中が見えそうで見えなくて引力に逆らうのに超必死。万乳引力以外の引力も予想以上に強い。ここは俺の為にも告げたほうがいいのかもしれない。

 

「……なあ」

 

「おい、早くしろよ」

 

「アッハイ」

 

……やっばり、年下には勝てなかったよ。ちょっと強く言われるとあっさり従ってしまう下僕体質はほんとにどうにかならないだろうか。小町が天使である限り無理ですねはい。

一瞬で結論を出し、渋りながらも上月の隣に座ると、今度は上月が立ち上がる。わざわざ隣に呼んでおいて自分はそこから立ち去るとは、ボッチのイジメ方を分かってるなこいつ。言外にお前の側に居たくないというこのメッセージは『キモい』か『口臭い』かのどっちかだ。今度人に避けられたら口臭のチェックをしてみるといい。多分分からないから。

 

「よっと」

 

立ち上がった上月はそのまま俺の背中に寄りかかってくる。構図で言うと俺は部屋の扉の方を向き、上月は窓の方を向いて互いに背中合わせ、というか身長の関係で上月が上半身丸ごと俺に預けている状態。前にも違う人と似たような構図になった気がするんだが女子はこの体勢が好きなんだろうか。それとも俺と顔を合わせて話したくないというメッセージなのか。前者であると信じたい。

 

「んー、あー」

 

唸りながら言葉を探しているのか、頭を俺の背中に擦り付けるように顔を振るう気配を感じる。これから始まるのは恐らく『独り言』だ。俺はそれを聞かず、振り向かず、背中を貸す。それが加速世界のスカーレット・レインとの約束。俺は暫くの間背中で動き続ける上月の反応を待っていると意を決したのかようやく口を開いた。

 

「……寮に帰ったら、すぐにあいつに会ったよ。最近は授業出ないし誰とも口きかなかったんだけどさ、あん時会ったあいつは、初めてあたしに声かけてきた頃の顔だった」

 

堰を切ったように話し出す。それを俺は聞くだけだったが、不思議と重い雰囲気は存在していない。

 

「けどさ、あいつ来月福岡に引っ越しちまうんだって。遠い親戚っつうのが今更引っ越したいっつって名乗り出たらしい」

 

引っ越し…。しかも福岡か。東京以外の場所にバーストリンカーは殆どいない。その場合強くなって上月に追いつきたいルークにとっては死活問題だったわけだ。だからその残された時間の焦りで鎧を……ガッ⁉︎

 

「……痛え」

 

「…さっきから反応悪くね?」

 

「おま、人がせっかく独り言に対応してるのに頭突きはねえだろ…」

 

「独り言?……ッ⁉︎バッ、ちげえよ!事後報告だっつっただろ!ってか別にあたしは涙や寂しさ抱えてきたわけじゃねえ!」

 

はぁはぁと息を切らして顔を真っ赤にしてお怒りの上月は、見てる限り完全に威嚇してくる仔犬である。問題は噛み付いてくる歯が揃っているところとかだろうか。動物は好きだけど噛む動物は苦手である。

 

「……あたしが今日きたのは、あんたにちょっと協力してもらいたかったんだよ。あたしは他のゲームが詳しくないから、ブレイン・バースト以外のゲームが知りたくてな。ブレイン・バーストって繋がりは無くなっちまったけど、ゲームはそれだけじゃねえからさ」

 

「他のゲームを一緒にってことか?」

 

「ああ。最後に言っちまったからな。現実で今度こそずっと遊ぼうってな」

 

…そう言って笑う上月の顔は太陽のように眩しい。言っちまった、なんて上月は言っているが、むしろそれはルークとの新しい繋がりの始めという喜びの照れ隠しだろう。受け入れ、そしてこれからに目を向けた上月は子供っぽく、そしてカッコよかった。

 

「……それは構わねえけど、多分俺役に立たねえぞ?」

 

その顔から目をそらしながら指を動かし、展開した画面を上月のニューロリンカーに転送した。

 

「お?……『SAO(ソード・アート・オンライン)《黒のソロプレイヤー》』、『バカとボッチのリア充爆破』、『ラブプラス』。

……見事なまでに一人用ゲームばっかだな」

 

そう、今送ったのは俺の持ってるゲームの一覧。パーティーゲームはもちろん、最近ではオンライン機能のあるゲームを殆ど買っていない状態。だってゲームは一人でやるものだから。将棋もチェスも人生ゲームも一人でできるのになんでみんなやらないんだろうか。俺も3回くらいしかやってないけど。

 

「……まあ無いなら探さねえとな。おら、手伝えお兄ちゃん」

 

「お前お兄ちゃんっていえば俺がなんでも言うこと聞くとか思ってないだろうな。俺はアレだぞ。親父から土産を頼まれたら親父のを買わず小町のだけ買うような男だからな?」

 

「…やっぱり妹に絶対服従じゃねえか」

 

だって当然だろ?千葉の兄妹なら!…まあ背中を貸す動かない石像の役目は今のところ果たすことはできなそうだしな。そのくらいなら手伝うのも吝かではない。むしろ俺も小町とゲームを始めてみようか。上達すれば小町に『わーお兄ちゃんキモい』って言われ……ダメだ、褒められる妄想すら出来ない。妹からの罵倒は八幡的にポイント低いからやはり止めておこう。

 

「……で?どんなゲームがいいんだよ。上月とルークの中の人の需要が分かんないと探せねえぞ」

 

「あー。……あー?」

 

「お、おう?」

 

「……ああそっか。そういやずっとそうだったな」

 

うんうんと頷きながら再び俺の背中に寄りかかる、というよりは背中におぶさるようにもたれかかってきた。

 

「前から思ってたんだけどよ、上月って呼び方やめろ。ニコでいいよニコで」

 

「え、お前って自分で考えたニックネーム他人に強要するタイプなの?ごめん俺誰かをニックネームで呼ぶと友達が減る呪いにかかってるんだ」

 

「0から減ることはねーから。てか黒いののこと呼んでね?あいつ確か黒雪姫だったよな?それを黒雪って…」

 

「……いやあいつのことフルネームで呼んでるの有田くらいだからな?学校の奴らは基本『姫』だし、パイルは『マスター』だし。なんなら今度話しかける時に『黒雪姫』って言ってみろ。不思議な拒否感が生まれるから」

 

「……やめとく。ってちげえ、今はあんな奴のことはいいんだよ。ちゃん付けしないからスルーしてたけど、苗字で呼ばれるってすげー違和感あんだよ。ニコかせめて由仁子って呼べ。いいな?」

 

有無を言わせぬ威圧感(見えない)。なぜ女子という存在は呼び方一つにこうも拘るのか。別に苗字でも名前でもどっちでもよくないか?むしろ名前呼びとか変な緊張感が漂うからむしろ苗字推奨だろう。苗字ならヒキタニと呼ばれようがヒキニクと呼ばれようがギリギリ分かるし。逆に名前だと小町に『バカ、アホ、八幡』って感じで悪口か呼ばれてるのか分からなくなるという問題が生じる。

しかしそう言ってもすぐ横でジト目を寄越している娘には通じないだろうことは確定的に明らかであり、結局そう呼ぶ以外の選択肢はないのだろう。諦めが肝心だと言うのなら、腹を据えて慣らすことに腐心していくべきなのだ。

 

「……に、ニコ?」

 

「お、おう」

 

「……」

 

「……」

 

沈黙。なぁにこれぇ。こっちはこっちで気恥ずかしいし、あっちもあっちで何かの琴線に触れたのか顔を赤くして向こうを向いている。今すぐにでも離脱したい。が、現在俺の身体は上月…いや、ニコによって軽く拘束されている。今できる抵抗はひたすら視線を虚空に漂わせることだけであった。

 

「……そ、そうだ!あんただけ名前で呼ばせんのも不公平だよな!ずっとお兄ちゃんだのウルフだのでもややっこしいし。あたしも名前で呼んでやるよ!」

 

「は?いらな…」

 

「たしか、八幡、だよな。うし、これからは八幡って呼ぶわ」

 

「……いや、いいけどさ」

 

よし決定!と耳元で喚くニコになんと言えばいいのか。確かに黒雪に八幡と呼ばれているが、あいつは初めからさも当然のように呼んでくるので違和感はない。名前呼びもむしろザ・リア充、むしろリア王!って雰囲気漂わせてるのだが、ニコはむしろ『リア充氏ね!むしろ死ね!』とか言ってる方が似合ってるせいだろうか。ファーストネームより『おい』や『お前』で呼んでないのがむしろ不思議?

そう思っているとクイクイと後ろに服を引っ張られる感覚。振り向くと未だ顔を赤くしたニコが口を籠らせている。モゴモゴと口を動かす姿がまたも小動物に見えて笑いが溢れてしまう。

 

「…っ!……は、八幡!」

 

「お、おう」

 

「……」

 

「……」

 

沈黙。焼き増しのような沈黙に顔を俯かせる。それは俺だけじゃないらしく、ニコも肩に顔を沈めている気配がある。それも長く続かず、プシュッと何かを吹き出したかのように息が吹き出る。

 

「く、くひひ」

 

「…くく」

 

「き、気持ちわりい声出すなよ八幡。……くふっ」

 

「おま、それブーメランだろ。……ぷっ」

 

心地よい沈黙に居心地の悪い沈黙。俺はその二つしか知らなかったが、その中に笑いを堪えられない沈黙が付け加えられた瞬間だった。

そう、そもそもだ。俺とニコが知り合ったのは完全な偶然、奇遇、奇跡といって遜色ない。小町という運命の女神が引き合わせなければ知り合うことすらなかったであろう出会いだ。どこの世界に友達の家に行ったら同じゲームのダブルトップがリアルで出会えるというのか。そんな運任せで阿呆な巡り会いをした二人が今では名前を呼びあって笑っている。

…この笑いは暫く抑えられないだろうし、きっとニコともまだまだ顔をあわせる機会があるのだろう。隣で馬鹿みたいに笑う小さな小学生が頑張っている限り、きっと俺は力を貸してしまうのだと思う。曇っていた顔がこんな綺麗な顔になると知ってしまったなら、こんな淀んだ目をした男の助太刀くらい捧げないと小町神に叱られてしまうだろう。

自然と伸びた手がニコの頭を撫でる。笑うのに必死なのかそれを振り払う気配もない。ならばこの手が振り払われるまで、少しばかり満喫しよう。

今度こそ終わる、鎧に振り回された日々を。

そして、少しくらいは期待してもいいのかもしれない。勝手に始まってしまうだろう、これからの日々を。

 

 




これにて災禍の鎧編終了です。
幕間が全然思いつかないので多分このまま三章に行くと思われます。書いてる間に思いついたら書くって感じで。


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