やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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八幡の戦闘描写難しい。戦闘はハルユキの方が楽だと書いてて思います。
暫く災禍の鎧編が終わらなそうなので手が進むのは先になりそう。毎日投稿してる作者さんマジリスペクト。




能ある狼の隠されし牙

 

 

 

 

 

 

加速世界で踊る一つのアバター。災禍を纏い、透明な王と対峙しているチェリー・ルークは剣を振りながら感動していた。この鎧を纏うまではレベル6で完全に停滞してしまっていたというのに、それが今ではニコに聞いたレベル8到達ポイントまであと12ポイントというところまで来ているではないか。そう、つまり目の前のレベル9を、王と呼ばれるクリア・ウルフを、かつて時間切れという不本意なものとはいえ負けた相手を倒せば。自分はレベル8というニコの足元までたどりつけるのだ。

その想いが気分を高揚させる。そして今のチェリー・ルークには負ける気など微塵もしなかった。

 

 

《攻撃予測/通常攻撃/打撃系・脅威度/3》

 

 

視界に文字列が横切る。さらに同時に赤い軌道予測ラインが映り込む。それに重ねるように剣を振るうと、剣の側面に軽い衝撃が走る。恐らく剣を蹴る事で軌道を変えられたのだろう。

 

鳥群の鉤爪(イニューマラブル・エッジ)

 

必殺技を発動し四方八方に掌から鉤爪を伸ばす。するとウルフは避けているのか鉤爪はただ地面やビルの側面を掴むしかない。だがルークはニヤリと笑うと、地面やビルを掴んでいる鉤爪ごと強引に振り回した。それだけで破壊不能と言われているはずの地面の一部が、ビルの一部屋にも及ぶ大きさの瓦礫が鉤爪に追従してくるではないか。今までの自分では考えられない、ありえない現象だ。

だが今はそれが起こる。否、起こせる。自分の力で、自分の意思で、自由自在に引き裂き、喰い千切る事ができる。かつて強者に舐めさせられていた辛酸を、自らが相手に強要できる。

 

《攻撃予測/必殺技/特殊状態異常系・脅威度/20》

 

それどころか相手の知らない手の内すら今の自分には透けて見える。前回ウルフに挑んだときは()()()ここまでの余裕がなく苦戦したが、今の自分はかつての、すべての自分に勝っている!

 

「…ユルォォォォオオオ!!」

 

歓喜の咆哮が口から漏れ出す。その叫びが獣になっている事に、既にルークは気づけなくなっていた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

side:ウルフ

 

「……ふぅ。手詰まり、だな」

 

息を吐きつつ目の前にいる災禍の鎧を睨みつける。前回は時間切れとはいえ勝てたので今回もいけるだろうと高を括っていたが、今日のあいつはどうにもこちらの動きを全て見切っているかのように対応してくる。見えていないはずなのに当然のようにカウンターを仕掛け、《色彩捕食(カラー・ダウン)》で色を奪おうとすると避けたり剣を盾にしたりと完全に防いでくる。

別に打つ手が完全になくなっているわけではない。元々俺は《対強者用》の技で、弱者として戦ってきた。だから反撃用の必殺技はある。だが忘れてはいけないのは、俺が今ここで災禍の鎧のHPを0にしたところで何も生み出さない。むしろ全快のあいつが蘇ってくるだけのジリ貧に陥る。だから動けない程度に痛めつけようと思ったが現状それは難しい。しかも時間的にそろそろレインが来ると思いたいのだが一向にその気配もないときた。

 

「むしろ一回体力をなくしてやるべきか…」

 

いや、それはダメだ。口に出た言葉を頭の中ですぐに否定する。目の前のこいつを見れば確信できる。こいつは、半分ほどとはいえ意識が残っているのは確定だ。だが、やはり半分ほどしかないのだ。大半が強くなりたい、強者を喰らいたいという狂的なまでの欲望に囚われている。

こんな状態でレインに会わせてみろ。まだ鎧を壊せば助かるかも、などという幻想を抱くに決まっている。そしてそれがあっさり裏切られるに違いないこともわかる。

俺は知っている。これを仕組んだ人物の一人を。その人がそんな甘っちょろいことを許すはずがないということも。だから早く目の前の存在をこの加速世界から抹消しなければならない。だがその為にはレインの銃が必要という手詰まり具合。なんとも頭の痛い話だ。

 

(…時間を稼ぎながら少しずつ体力を削るしかない、か)

 

やはりそれしかないかと嘆息する。とはいえ進歩がないわけじゃない。俺という限定的な奴を相手にしているとはいえ、攻めも守りも全て腕を起点にしていることは明確になっている。だから……

 

「そろそろ、一本貰おうか」

 

代わり映えしない特攻。代わり映えしない反撃。それもここまでだ。ちょうど()()()()()も見つかった。

振り回される瓦礫を掻い潜り、ある一点を目指して突き進む。当然のように剣を振り下ろしてくる災禍の鎧に口の端が吊り上がった。完全にこちらの思惑通りだ。

 

「ーーーー」

 

今までのリプレイのように剣を振り下ろしてくる災禍の鎧の攻撃に、小さく必殺技コマンドを唱える。変わったところはそれだけだ。だが、それだけで俺は勝てる。相手が強ければ強いほどに、俺の必殺技は効力を増す。

 

 

 

「ル、ァァァァアアアアア!!、!?」

 

 

 

目の前で悲鳴をあげる災禍の鎧と、その頭上へ飛んで行ったそいつの片腕を冷たく見つめる。そして一歩、後ろへ飛んだ。

 

「そこ、危ないぞ?」

 

最後まで聞こえただろうか。そう思えるほど絶妙なタイミングで、シルバー・クロウが放った上空からの蹴りが災禍の鎧の顔面に突き刺さった。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

side:クロウ

 

 

エネミーに見つからないように低空飛行を続け、すれ違いざまに崩れかけているオブジェを破壊しながら必殺技ゲージを溜める。滑空するだけならゲージを消費せずに一定距離を飛べるが、現状では少しでも多くの必殺技ゲージが必要になるので、なるべくスピードを抑えないようにしながら無制限中立フィールドを突き進む。

先輩の元から発ってからどれくらい経っただろうか。そんなことを考える。それから何度も何度も先輩に言われたことを頭の中で復唱した。

 

 

ォォォォッ!!

 

 

「ッ⁉︎」

 

ただ飛んでいるだけだと、身体が怯え、震え、今にも逃げ出したくなってしまうからだ。そう遠くない場所から響いてくる獣の雄叫び。それがハルユキに得体の知れぬ恐怖を投げかけてくる。

それの対象は自分ではない。それが分かっているのに、その場所に近づくたびに自分を火中に飛び込む羽虫のように錯覚してしまう。

 

「ッ怯むな!」

 

自らを叱責し、両頬に平手を食らわせながらさらに速度を上げる。響く咆哮で距離と方角は判明している。自分の仕事は、まず一発、災禍の鎧に一撃を喰らわすことだ。ウルフ先輩が敵であろうと味方であろうとそれは変わらない。どっちであろうと、鎧が敵という事は変わらないのだから。その後1対1対1となるか1対2となるかはその場次第だ。

 

「見つけた!」

 

視線の先には災禍の鎧と思えるドス黒いアバターが剣を振り回し、ついでに瓦礫や岩も飛回っている。周りに他のアバターの姿が見られない事から恐らくウルフ先輩と交戦中なのだろう。

スゥーと大きく息を吸い、ハァーと大きく息を吐く。これより先に進めばそこは戦場だ。一度入ったらそこから逃げ出す事は出来なくなる。だが、それでいい。一度戦場にダイブしたなら……

 

「あとは、ひたすら戦闘あるのみ!」

 

加速。一度高度を上げ、落下スピードをプラスしながら必殺技ゲージを全て使い切るつもりでの全力飛行。風を切り裂く音を感じながら足の爪先を災禍の鎧に向ける。そして、勢いを殺さずに狙いを定めた蹴りは、寸分違わず鎧の頭部分に突き刺さった。

 

「…ユ、ォォォ」

 

呻き声を上げ、災禍の鎧は蹴りの威力を受け止めきれずに十メートル程の距離を錐揉み回転しながら吹き飛んだ。いかに強固な鎧でも、あれほどの攻撃を喰らえば堪えるようだ。

ハルユキは自分の蹴りが有効打になった事に安堵した。だがそれも一瞬、頭に硬い衝撃が加えられるまでのことだった。

 

ガンッ!と金属と金属をぶつけたような音が頭に衝撃と共に響き、ウルフが敵かもしれないことを思い出す。まさか不意打ち⁉︎と近くにいるのは間違いないウルフからの攻撃を受けたものと思い、反射的にぶつかってきた物体を掴み取りながら遠ざけた。

ヒョイっと予想以上にあっさり退けられた物体にハルユキの頭に疑問が浮かぶ。スイッと自分の手の中にある物体に目をやると同時、

 

「うっひゃぁぁああ、!!?」

 

ハルユキは現状の全てを忘れ去り、みっともなく悲鳴をあげた。なぜならそれは、鋼鉄を思わせるほど硬いが、間違いなく誰かの腕だったからだ。

 

「なんだこれ⁉︎えっ、ほんとなにこれ⁉︎そうだ、ウルフ先輩!いますか⁉︎」

 

即座に投げ捨てるが、混乱は解けない。いったい何がどうなったら頭の上に腕が落ちてくるという非常事態に陥るというのか。わたわたとしながらいるはずの存在に呼び掛けた。既にクロウの頭の中では敵だなんだと細かいことが根こそぎ抜け落ちてしまっていた。

 

「……いるぞ。遅かったな」

 

締まらねえな、なんて幻聴が聞こえそうな声色で虚空から声が響く。だがなんとも言えない物言いに咄嗟に反論した。

 

「ウルフ先輩が先に行っちゃうからですよ!みんな心配して…」

 

「悪いな、事情があったんだよ。それよりレインはあとどのくらいでくる?あいつが来ないと終わらないんだが…」

 

「それがエネミーに襲われて…。予想以上に強かったので僕だけ先に増援に来ました」

 

「…つまりいつ来るかは分からないんだな?」

 

「……はい」

 

どこからか聞こえてくる溜息に萎縮しながら、認知できないウルフではなく災禍の鎧に目を向ける。予想以上のダメージが入っているのか、未だに立ち上がれずに膝をついている。が、目だけはギラギラと鋭く光り殺意を此方に突きつけている。

 

 

「…ジャ、マヲ、スルナ」

 

 

だから純粋に、此方に言葉を伝えてきた鎧に意表を突かれた。

 

「え?あの鎧、喋って…」

 

「クロウ、手伝え。レインが来る前に喋れなくなる程度には弱らせるぞ」

 

「え、でも。まだ意識があるなら、もしかしたらまだ…」

 

「そう思わせないために、だ。災禍の鎧を装備した時点でそいつは鎧を受け入れた。なら、こいつはそこまでだ」

 

訳が、わからない。冷たく言い放つウルフ先輩は何かを知っているようだった。ウルフ先輩が敵かもしれないという考えが再燃する。しかし今何かができるとも思えない。ウルフ先輩が災禍の鎧と敵対していることは間違いないにしても、悠々と話している時間がある訳でもない。むず痒さを覚えながら、再び災禍の鎧と向き合った。

 

「いくぞ」

 

「は、はい!」

 

行動を起こすのはまず一段落ついてからだ。そう考え思考を研ぎ澄ませる。それと同時、視界の隅に落ちている先ほどの腕が目に付いた。片腕がないのでアレの持ち主は間違いなく災禍の鎧だろう。ならば当然、アレをやったのは……

 

(ウルフ先輩があの腕を切り落としたのか⁉︎)

 

だとしたらおかしい。色付きの時も見た事あるが、剣や刀のような武器の存在はなかった。いやそれ以前に、ウルフ先輩に災禍の鎧を切り裂けるほどの高攻撃力があるということが不思議でならなかった。

ブルッと身体に寒気が走る。ウルフの底の知れなさを分からないなりに感じながら、何度も竦み上がる身に鞭を打ち災禍の鎧に立ち向かった。

 

 

 

 

 





思った以上に進まないのは慣れたのであとがきは特になしで。


あと関係ないけど、超量を巻き込んだ帝と緊テレを制限にしたコンマイは絶許。環境デッキに勝てるの超量しかなかったのに…。
猿ドクロとかはざまあと言わざるを得ない。

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