やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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小説を書いてて最もテンションが上がらないのは原作と殆ど変更点がない場所だと思う。
いかに短く、辻褄を合わせ、手っ取り早く話を進めるかを考える作業はとても怠かった。

というわけで幕間会。忙しいし寒いし年末は嫌い。


黒と赤の邂逅

 

 

 

 

 

八王会議も終わった翌日、学校が終了して早々に家に帰った俺は、現在とある戦いに専念していた。対戦相手は天使であり美少女でもあるマイラブリシスター小町である。

 

「だからな小町、ここに図書券1000円分がある。これをお前にやろう。しかも夜にはケーキを買ってきてやろうじゃないか。喉が渇いたらジュースも付けよう。だから今から2.3時間外で時間を潰してきてくれよ」

 

「いやだからさぁ、急にそんなこと言われてハイいきますなんて言うわけないでしょ。理由を分かるようにはっきり教えてよ。お兄ちゃんが怪しい事してたら見逃せないよ?通報しなきゃだし。あ、今の小町的にポイント高い」

 

「どこにもポイントが高い部分が見当たらないが…。てか理由はさっきから言ってるだろ?俺の知り合いがちょっと大事な話があってうちに来るんだよ」

 

「ハッ」

 

…こんにゃろう鼻で笑いやがった。いや気持ちは分からんでもないよ?家に人を連れてくるのは常に小町だったし、むしろ知り合いの存在をほのめかしたのも今回が初めてだったりするし。でもその嘲った顔はやめれ。

 

「あのね、ごみいちゃん。よく知りもしない人をお家にあげちゃいけないんだよ?学校で嫌な事があるなら一緒に遊んであげるから、現実見よ?ね?」

 

その目は優しかった。まるでいい加減この話飽きてきたなー、と目が雄弁に語りかけてくるようだ。内包された思いが全く優しくない。お兄ちゃん泣いちゃう。

 

「……よしこうしよう。俺の言葉が嘘じゃない場合、ようするにこれから俺と約束した人が来たら、小町は大人しく図書館でも行って勉強しててくれ」

 

「ならお兄ちゃんの妄想だったら今年中に義姉ちゃん候補を家に連れてくること。本当だったら大人しくさっきの条件で許してしんぜよう。おーけー?」

 

「……ま、まあいいだろう。多分もうすぐだと思うから」

 

小町の要求を叶えることは正直不可能なのだが、間違いなく自分が勝利すると確信しているので不安も薄れるというものだ。

そもそも災禍の鎧討伐の作戦会議だってわざわざ俺の家でやる必要などないはずだ。ファミレスでもいいし有田や黒雪の家でもいいだろう。なのに今回に限って有田の家は水道の工事が云々、黒雪は女性の家に恋人でもない男を上げるなど云々と流れ流れて俺の家集合になった。俺はあいつに住所を教えた記憶はないのだがどうするつもりなのか。

 

 

ピンポーン

 

 

「…!はーい!」

 

ピクッと猫の如き反応を見せた我が妹は駆け足で玄関に駆けていく。勝てば兄の嫁候補、負けてもケーキやジュースと妹に得しかないこの賭けごと。そんな中で一番小町が望んでいるのはとりあえずの結果なのだろう。まあ自主的に動いてくれる分には問題ない。ハズレだった場合の面倒を任せられるし。

 

「おっにいちゃーん!お客さーん!」

 

……来たか。

 

「わかった、こっちに通してくれ。お前は図書館へ行ってこいな」

 

「はーい!もう、そうならそうと言ってくれればいいのに!あ、でもまだ手は出しちゃダメだよ?そしたら犯罪だかんね?お茶は奥の棚に入ってるから!じゃ、お邪魔虫は置いといて後は若い二人でよろしくぅ!」

 

「……は?」

 

ハイテンションにハイテンションを掛け合わせたかのような様相で出て行く小町を呆然としながら見送る。ツッコミどころが分からない、ツッコミどころが多過ぎて分からない。その代わり嫌な予感が脳裏からガンガン溢れてくる。

しかも小町はなんて言った?二人?予定だと黒雪と有田にシアン・パイルの中の人も連れてくると言っていたはずだ。なら、今来たのは…誰だ?

 

トットッと軽快な足取りでこちらに近づいてくる足音からして、そいつが黒雪でないことは明らかだ。そしてこの状況このタイミング、来るとしたら…あいつしかいない。

 

 

「おにーちゃん。久しぶりだね♪」

 

 

数ヶ月ぶりに見たそいつは、天使のような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「………久しぶりだな、上月。帰れ」

 

「はぁ?せっかくわざわざこんな家までご足労してやったのに、いきなり帰れってのはないだろ。こちとらレギオンメンバーがクロム・ディザスターになっちまって気が気じゃねぇんだ。ゆったりしてる暇はないんだよ」

 

「そっちの事情も分かるが今はタイミングが最悪なんだよ!一応連絡先も交換してんだからそれでも意思疎通はできるだろ。だから今のところは帰れ。一刻一秒レベルで時間が惜しいんだ。お前も刻まれるのは嫌だろう?」

 

「さっきから何言ってんだ?別にロータスの領地にいるからっても、ローカルネットワークには接続してないからいきなり斬りかかられたりはしねえよ」

 

違うんだよ、刻んでくる本人が今まさにこっちに向かってきてるんだよ。ローカルネットを飛び越えて現実の生身で突撃してくるんだよ。リアル割れ御法度のブレイン・バーストで王と王の邂逅とか笑えないんだって…。

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

……噂をすれば影。忍び寄る刃を首に突きつけられたかのように背筋が冷たくなる。…いやまだ分からない。ロータスかと思ってたらレイカーでした!みたいなオチがあるかもしれない。いやレイカーでも誰でも困るな。だったら……ダメだ、この状況で呼び鈴鳴らす人間が全く思いつかない。家の呼び鈴を鳴らすような友達とか皆無ですので俺。

 

「…おい、上月。お前、俺の部屋に行っとけ。で、今から俺がいいって言うまで絶対に降りてくるな」

 

「は?なんで……」

 

「いいから。ほら、いったいった」

 

上月を追っ払い、覚悟を決めて玄関への道を進む。一歩一歩が心なしか重く感じる。これが背水の陣、違うか。むしろギロチンに向かう死刑囚の気分なんだろうな。

一応外にいる人物を確かめるために玄関に設置してあるカメラに接続する。そしてそこにいるのは黒雪と有田とかつてのイケメン。これ以上の時間稼ぎも無駄のようだ。観念してニューロリンカーを操作しロックを外した。

 

「……よう」

 

「ああ。悪いな、遅くなった」

 

「「お邪魔します」」

 

「ん。こっちだ。適当に寛いでくれ」

 

とりあえず黒雪たちをリビングに押し込む。上月が大人しくしているかは賭けだが、ここは信じる以外ないだろう。

 

(お茶は奥の棚だったな)

 

お湯を沸かし古くなった急須に茶葉を入れ、湯呑みを四つ携えてリビングに向かう。

 

 

 

 

「ふぅん、アンタが《黒の王》か。なるほど、こりゃあ黒いや、夜だったら目の前にいても見えねーな」

 

「そういう貴様も実に赤いぞ、《赤の王》。交差点にぶら下げたら車が止まって面白そうだ」

 

 

 

 

信じた俺がバカだった。

ちょっと目を離した隙に上月はリビングに突入したらしく、既にそこでは赤と黒の睨み合いに発展していた。王相手でも臆さずリアルをぶちまける胆力は恐れ入るが、うちで戦争をおっぱじめないで欲しい。後輩二人も怯えてるじゃないか。俺もだが。

 

「………上月、待ってろって言っただろ」

 

「待てねえって言っただろ」

 

「言ってねえよ」

 

捏造いくない。それにしてもまた面倒なことになった。現状を考えれば目的は全員災禍の鎧討伐だから仲間割れはしないとは思う。しかしこのメンバーが違う勢力の混合だから内輪揉めはたびたび起こることだろう。刺さりそうなほど鋭い視線を向けてくる姫さまを筆頭に。

 

「………はぁ」

 

一つため息を落とし、不機嫌極まりない姫達への弁明に取り掛かった。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「…なるほど。ご自慢の妹君が偶然連れてきたお友達が、奇跡的にも赤の王だったと。それはそれは奇遇なことだな」

 

「まったくだな、運命感じちゃうぜ。つーかそっちもなかなかじゃねえか。違う区を支配してる王と隠密中の誰かさんが不可思議にも同じ学校の同学年とはな。その上今じゃクラスも一緒ですってか」

 

大雑把に黒雪と上月に俺と二人がなぜリアル割れしているかを説明し、和やかとは言えないがひとまず落ち着いて会話を成立できる場を作ることができたようだ。目から火花が散る事はたびたびあるが、まあ女子同士ならきっと自然だよな(目逸らし)

 

「…落ち着いたことですし、まずは自己紹介をしませんか?リアルでの対面は比企谷先輩とも初になるので、改めて」

 

タイミングを見計らい、イケメンことシアン・パイルの中の人が話を切り出した。眼鏡の縁をくいっと上げる姿がなんとも様になっているのがなんかムカつく。

それに共感したかは知らないが、上月が小さく舌打ちをした。それに続いて指をパチンと鳴らすと、目の前に真紅のネームタグが現れる。そこには上月のフルネームと顔写真が貼り付けてあった。

 

「ま、飛び入り参加だからな。あたしからやってやるよ。あたしはユニコ。コウヅキユニコだ」

 

名前と顔が記されているこれは、言うなれば身分証明書のようなものだ。これを偽造するのはかなり困難なため、偽名の可能性を消し、多少の信頼も得られる優れものだ。

 

「じゃあ次。比企谷八幡だ」

 

指先を滑らせ、念のために全員にネームタグを送信する。何気にこの機能を使ったのが生まれて初なので不手際があったらと不安だったり。

 

「僕は黛拓武です。どうぞよろしく」

 

目の前にイケメンのネームタグが浮かび上がる。イケメンの名前は黛だったのか。顔がかっこいいと名前もなんかカッコよく見えてくるこの不自然現象はなんだろうか。イケメンって怖い。

 

「えーと、有田春雪、です」

 

チラッとこちらをみてからネームタグが送信されてくる。気を使わなくてもいいのだが、既に名前は分かりきっているのでネームタグを画面端に放り、最後の人物に目を向けた。

 

「ん?ああ、私か。私は黒雪姫だ。宜しく見知り置け」

 

「おいコラ、それ本名じゃねーだろ!」

 

即座に上月が噛み付くが、黒雪は涼しい顔でネームタグを送りつけてきた。

 

【黒雪姫】

 

……お、おう。ハッキング済みっすか。

 

「〜〜っ!あーもーイイよなんでも!姫とか自称する図太い女だってことだけ覚えとくよ!」

 

「王と自称するよりはるかに可愛いものだろう?」

 

うがーっと憤る上月にふふんと鼻で笑う黒雪。色も高さも違うが、中々に相性はイイのかもしれない。うん、なんとも微笑ましい光景だ。

でもな、

 

「…お前ら何しに来たんだよ」

 

結局話し合いが再開されたのは二人が騒ぎ始めてから10分以上過ぎてからとなった。

と言っても、王三人に加えて羽根つきのクロウもいるので戦力面は問題ないとされ、災禍の鎧が無制限中立フィールドに潜るタイミングについても上月が請け負った。

なので全員の連絡先が交換されて明日またここに集合、とはならず、今度は有田の家に集合となった。毎日受験生である小町を家から追い出せるほど俺の心は強くないんです。

 

まあ俺の心云々は置いておけば、概ね好調にいっていると言えるだろう。玄関に集まり、外出届を出していないらしい上月と黒雪達を見送りながらそう思った。

 

 

「…何も起こらないといいんだがなぁ」

 

 

誰もいなくなった玄関で、小さく呟いた。

 

 

 




こんな中身のない話に一ヶ月…。
はやくクロムさんと戦ってほしい。けど細かい話は考えてないからフィーリングで書いていく予定。
本当に書きたい話まで何年かかるか気になるこの頃。


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