今回は八王集結までです。殆ど原作早取りしたようなもんなので、少し他の王と八幡の絡みがある程度です。
「………」
日曜日。週一度の頻度で訪れる学生の救済日、そんな日に俺は遠く離れた千代田区に訪れていた。
「…あと15分か」
視界の端に映し出される時計を見て小さく呟く。
今俺は千代田区に存在する図書館の個人ブースの中にすわっている。デジタル化が進み本ですらデータ化が行われているとはいえ、紙の本というのも一定の人気がありここは紙の本が存在する貴重な図書館だ。
しかし今は本を悠長に読んでいる余裕はなかった。なぜなら、これから行われるのは《純色の八王》全員による《災禍の鎧討伐》会議なのだから。
「…俺あれ嫌いなんだよなぁ」
俺の領土で会議が開かれるのはまだいい。千代田区は二十三区で唯一戦域が分割されていない広大な戦域であり、なおかつここをホームグラウンドとするバーストリンカーはほぼ皆無だ。隣には秋葉原や新宿といった対戦し放題の場所があれば当然そっちに流れるだろう。
よって千代田区のマッチングリストは常に閑散としている。俺としては領土にしようと思った一番の理由でもある。まあ領土として持ってれば対戦を断れることを知ってどうでもよくなったんですがね。
まあそれはともかく、広大でありなおかつバーストリンカーが少ないここは交渉の場にぴったりなのは分かっている。
問題は来るメンツだ。嫌味ったらしいのやら喧嘩っ早いのやらの集まりであり、なおかつ皆が皆対戦の強さは一流だ。さらに今回は黒雪も呼ばれているらしく、他の王達と一触即発となることも十分ありうる。
そこまでなら無視していればいいのだが、災禍の鎧に対戦を挑まれた俺は当然その時のことを事細かに話さなきゃいけないわけで、会議中常に無言を貫き通すことは不可能なわけだ。普段会話していないと自分の言葉で周りがどういう反応をしてくるか分からない。
「…なるようになるか」
ピッという音が一瞬鳴り、時計の長針が頂点を指し示す。その瞬間、世界が暗転し始める。
《HERE COMES A NEW CHALLENGER‼︎》
そして目の前に炎文字が浮かび上がり、最後に《FIGHT》という炎文字と1800の数字が動き出す。
「百秒以内に東御苑に集合だったな。少し急ぐか」
一番乗りなら誰にも挨拶しなくて済むだろう、そんな打算を打ち立てつつ霧が立ち上る《魔都ステージ》の大地を蹴った。
☆☆☆
「始まってから30秒しか経ってないのになんでお前こんな早くに着いてんだよ」
鋼鉄の円柱が大きな輪を描いている東御苑。中々の速度でフィールドを駆け抜けたはずなのだが、集合場所には既に先客が座っていた。上座に陣取り「俺こそ王!」とでも言い出しそうなほど堂々としたただ住まいをした、全身真っ青なアバター。
「部下達がうるさくてな。真の王は誰よりも早く来て他の奴らを待たないといけないんだってさ。そういうウルフこそ、開幕一発目がそのセリフってのはどうにかならないのか?」
《ブルー・ナイト》。《
「始まるまで誰にも会わないで過ごそうとしてた計画がパーになったんだ。これくらいいいだろ」
「それなら話しかけずに静かにしてればよかったのに。やっぱ変なとこで律儀だよね、ウルフは」
「うっせ」
気さくな態度で軽口を叩き合う。リアルぼっちである俺にも普通に話せる雰囲気を作れるあたり、こいつはリアルでもリア充ではないかとおもえてくる。
だが今回は会話が目的ではない。しかし他の王たちが集まれば、きっと好き勝手に喋り出すだろう。なら俺は静観を貫かなければならない。主に俺のために。
黒雪達ネガ・ネビュラスの存在する場所にソーンの奴が混じったら一触即発、核融合が発生するまであるかもしれない。ソーンがかつて黒雪が全損させた赤の王の恋人だったのだから仕方ないといえば仕方ないのだが、何故かその矛先の一つが俺にも向かってるのが問題なのだ。領土戦に度々ハイランカーを投入してくる程度には嫌われているからな。だから俺は鉄柱の一つにもたれかかり空気に徹しよう。そう思い、足を進めた時だった。
「さて。じゃあウルフ、コバルの色を写し取ってくれ」
そんなことを大剣馬鹿が言い出した。
「いやいらないだろ。透明こそ俺のシンボルだ。そのまま存在感すら透明になってこその俺だろう。むしろここに存在しなくなるまである」
「いやいやなんのためにお前とコバルで対戦させてあると思ってんの?今日メインで喋るウルフがいつまでも虚空から話してくるホラーは誰も望んでないんだよ。今でも自分が何もいないところに話しかけてるのに違和感あるんだぜ?」
「早くしろ。剣聖のお手を煩わせるな」
「その通り。お前の戯れに付き合っている時間はない」
ブルー・ナイトに続いて両脇の二人も声を上げる。
共に細身で群青色と青緑色の鎧を身を纏い、ポニーテールとツインテールの違いはあれど姿かたちや左腰に備えている刀も瓜二つの武者姿。まさに双子といえるアバターだ。付け加えるとポニーテールの方が《マンガン・ブレード》でツインテールの方が《コバルト・ブレード》なので間違えないように。
軽く気圧されていると、ツインテール武者が刀に手をかけ歩み寄ってきた。
「どこにいるのかわからんからお前が来い。来ないというなら、先に剣をくれてやろうか?」
「わかった。すぐ行くからその手を離せ。さもなきゃ逃げるぞ?」
「偉そうに宣言するな!」
素早くコバルトに近づき肩に手を触れ、
「なぜ逃げる⁉︎」
「おまえが剣から手を離さないからだよ!」
むしろ手に力を入れてるように見える。いやそれは今だからかもしれないが。というかナイトの方はともかくその側近の二人は事あるごとに怒鳴ってくるので多少苦手意識がある。腰の剣も相成っていつ斬られるか気が気でなくなってくることもしばしば。
「まあこれで満足だろ?これで…」
「それで、もう茶番は済んだのか?」
コバルトと同じ色になった身体を見ていると、俺の言葉に被せるように鋭い声が重なった。
リィィィンと振動音を微かに響かせ、鋭い切っ先を地面に向けながらさらに鋭いアイレンズをこちらに向けているアバター。全体的に黒く尖ったフォルムは触れただけで切れてしまいそうだ。
「相変わらず仲が良いな、ウルフ、ナイト。私達も呼ばれたから罠でも仕掛けてあるかと思えば、随分楽しげじゃないか」
「あんたも相変わらずツンケンした人だな、ロータス。二年ぶりだっていうのに。パイルも久しぶり。頑張ってるみたいだね」
「は、はい!《
《ブラック・ロータス》。説明以下略。
後ろで縮こまってるクロウとパイルを無視して談笑しているのは威圧か余裕か判断に困る。だが今のところ一触即発という雰囲気ではないから一安心だ。まあ、それも
「それはそうと、ナイト。自分だけ座ってないで、こちらにも椅子を用意してくれないか?」
「おっと、こりゃ失礼」
ナイトが手を振ると、コバルトが腰を低くし今度こそ抜刀の構えをした。咄嗟にナイトとロータスの中間あたりに避難したのをコバルトが見届けた(かは知らない)瞬間、青白い閃光が一度、二度とステージを斬り裂いた。
そして一泊置き、周囲に聳えていた7つの鉄柱が膝あたりの高さを綺麗に残して真っ二つになった。多少硬いが魔都ステージで話し合いが最もやりやすい場所になったことだろう。
「椅子の用意が出来たか。なら私達もいい加減参加させてもらうぜ」
一息つく暇もなく次の乱入者が現れる。
全身を紅に染めた俺の腰ほどしかない小さなアバター。初代に変わり二代目赤の王と呼ばれている《スカーレット・レイン》。その体躯に似合わず《
「《プロミ》からは王と私の二人だけ。挨拶は省略」
「どっかの誰かさん達が寸劇始めたせいで時間が勿体無いしな」
その後ろからはまるで豹のような造形と血のように赤いアバターが現れる。《ブラット・レパード》という赤の王の側近であり、口調が少し妙だがあまり喋らないので特に目立つところはない。あ、同じ四足歩行型になれるアバターにシンパシー……ないな。
「クッ、クックック……」
今度は耳に触るような嫌らしい声色と笑い声が響き渡る。なんとも特徴的でわかりやすい。
「クク、いやぁその通り。あまりに退屈な寸劇のおかげで居眠りをしてしまうところでした。しかし突然舞台に登っていなかった者が現れるショーは面白かったですよ?もちろん、ただ私が見逃してしまうほど影が薄かったとかなら、話は別ですがねぇ」
嫌味とともにポワンと白い煙を立てて現れたのは全身真っ黄色のピエロ型アバターの《イエロー・レディオ》。自身の目に悪い色に刺激されたのか、そいつ自身の目が細くなっている様は妙に滑稽に思える。
「きっと見逃してたんだろ。俺を見逃すほど目を細めてないでもうちょっと開いてみたらどうだ?目が悪いならバナナをオススメしよう。ほらお前の頭に生えててちょうどいいだろ?」
「……ククク。これがバナナに見えるとは、目の悪さなら深海魚と比べられますよあなた」
いつものように突っかかれるが、なんかこんなやり取りにも慣れてきた自分がいる。そも悪口を言われ慣れてくると言い返しも慣れてくるもんで、それも気にならなくなるもんだ。やだ、慣れって怖い。
「………」
……無言がうるさいとはこいつの事を言うのだろうか。がっ、がっ、と硬さと重さを感じさせる足音が霧の向こう響き渡る。基本的なアバターより比較的大きい程度とはいえ、全身がまるで分厚い板のような姿に加え、左手には巨大な大盾が携えてあることで凄まじい重厚感を生み出している。
《グリーン・グランデ》。その身に纏う色は深く鮮やかな緑色。《
「よう」
「……」
一声だけ投げかけ、それに小さく頷くグランデが用意された円柱に座るのを見届ける。
…そういえばコバルトの斬撃から避難したままだった。ふと思い出し、元の円柱に戻ろうとする。するとタイミングが悪いのか、それともタイミングを図られていたのかは分からないが、席に着いた瞬間真横から凄まじい殺気が放たれた。
「久しぶりだね、ロータス。まさか、こうしてもう一度あなたと口をきく日が来るとは思ってなかったな」
開幕一発、刺々しさは皆無だが氷のような滑らかさと鋭さでロータスに拒絶を投げかけた。カッ、と手に持った錫杖が床を小さく鳴らす。その杖はアバター本人と同じ紫色の紫電を散らしている。
《パープル・ソーン》。かつてロータスが全損させた初代赤の王、《レッド・ライダー》の恋人だった王。その件でロータスを完全に拒絶の意を示したこの会議で最も危険な人物だ。
「……そうだな。私もだ、ソーン。次に会う時こそ、どちらかの首が落ちるのだと確信していたからな」
一瞬言葉に詰まったかのような僅かな間があった気がしたが、ロータスも落ち着いた口調でソーンに返した。それの影響故か、心なしか隣の冷気が増した気がしてくる。
「……そうなるかも、ね。たとえば、この場に集まった全員が《バトルロワイアル》へのモードチェンジに同意すれば…といっても、あなたがいるからそれはありえないかな、ウルフ?」
「……」
矛先がこちらに向いたが、それに対しては無言を貫く。それに答えなくてもソーンは分かっているからだ。レベル10や仇討ちに巻き込まれる気も、加担する気もない。それを実際に体現した
「ロータスが来るって聞いて、ちゃんと準備はしてきたんだよ。でも、無駄になっちゃったな」
「……そうだな。俺は何があってもバトルロワイアルに同意はしない。そういう面倒な事に、俺を巻き込むな」
「……うん、君は変わらないね。残念だよ、君がもう少し情に熱かったら、二年前にロータスの首を落とせたのに」
「……買い被り過ぎだ」
ソーンが俺に多少なりとも敵意に近いものを向ける原因は二年前にある。ロータスが初代赤の王を殺した時、ロータス対全ての王という構図が出来上がったわけだが、ロータスも他の王も死なずにその日の会議は終了した。
だがここにはわずかな語弊がある。正確に言うなら、ロータス対俺とコスモスを除く全ての王だ。そう、俺はロータスの討伐に手を出さなかった。コスモスに止められたのも一因ではあるが、それがなくともきっと手を出さなかっただろう。
きっと、ある種納得していたのだと思う。コスモスに渡された銃を受け取った時、衝突は避けられないのだと実感した。コスモスにどんな思惑があれ、あれを作ったのはライダーに間違いはない。
ライダーにしろロータスにしろ自分の言ったことを曲げることはない奴らだ。特にライダーのような情を重んじる奴が、抗争に賛同することはありえないだろう。ならば、あそこで最低でも二人の道は別れた。そしてあの結末は遠からず起こりえたことだ。ロータスが王達と戦い続けるなら、それが他の王かロータス自身かの違いしかない。
だから俺は『参加しない』という選択肢に走った。ロータスと戦い、ロータスが勝つようなことがあれば
「……昔話は終わりにしないか?全員揃ったんだ、そろそろ始めろよ」
「えっ⁉︎」
俺の言葉にクロウが驚愕の声をあげる。
ソーンからそらしていた視線の先、そこにはいつのまにか他の王達同様に円柱に座っている細身で象牙色をしたアバターが座っていた。どのタイミングで座ったかは知らないが、白の王である《ホワイト・コスモス》は自らは参加せず代理を送り込んでくるので、あのアバターが白のレギオン代表代理で間違いないだろう。
「レギオン《オシラトリ・ユニヴァース》所属の《アイボリー・タワー》と申します。白の王の全権代理としてこの会議に参加させていただきます。よろしく」
かくりと腰を折り一礼する。どこと無しか雰囲気が悪くなったような気もするが、それも今更だろう。
アイボリー・タワーの礼が済んで一泊開け、中央に座るナイトが鎧を鳴らしながら立ち上がる。
「よし、これで全員揃ったな。それじゃあ会議を始めようか」
その一声をきっかけに、加速世界の王が集う会議の幕が上がった。
描写が所々抜けてるのは仕様。ただでさえ長くて省いたところがしばしば。