やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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久方ぶりです。
やっと終わった全て終わった。
これからはゆっくり投稿出来ます。多分恐らく。

ではどうぞ


空を見晴らせなかった人

 

 

 

 

 

 

 

時は夜、激動の一日の疲れを僅かでも取るために眠りについて数時間。上月による「おっはようお兄ちゃん!!」という声と共に肘鉄を喰らい、取れた疲れをチャージしてから無制限フィールドにダイブした。

 

原始林ステージの鬱蒼とした森の中を、木を蹴りキノコを蹴り小動物を撫でながら旧東京タワーまでの道のりをほぼ一定のスピードで走り続ける。

たまに現れるステージ特有の恐竜もどきが徘徊していたりするが、側を通ろうが踏みつけようが不思議そうな顔をして元の行動に戻って行くので気にせずに進んでいる。「無視してやる」と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わってるんだ!

それより木々の間に垂れ下がってる蔦に足を取られ数度転びそうになった。許すまじ。

 

そうこうしている間に旧東京タワーの麓に着いた。原始林ステージでは高層建築物は巨大樹に変わっているので、目の前には樹齢何年だよと突っ込みたくなる程の大木が聳え立っている。

 

…これが世界樹か。いや、もしかしたらこの中には飛行石が埋められていて、空に飛び立つのを待っているのかもしれない。

 

「……バルス」

 

小さな声で呟いてみても何かが起こるわけでもなく、すぐさま左右前後を確認して黒歴史になっていないことを確認した。

凄まじい羞恥を感じながら、俺は東京タワーを駆け上がった。途中で心意使ってないことに気づき、哀れにも落下したのは別の話である。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、狼さん」

 

 

扉をノックするといつも通りにこやかなふいんき(何故か変換できない)でレイカーが出迎えてくれた。

…あれ?普通だ。もっと暗く「……どうぞ」みたいなのを予想してたから出鼻を挫かれた感じがする。暗いよりはいいけど。

 

「どうかしましたか?紅茶を入れるので座っててください」

 

「アッハイ」

 

言われるがままにいつも座っている椅子に腰を下ろした。ボーッとレイカーの後ろ姿を眺めながら今朝からの事を思い出す。

 

クロウが空飛ぶ→

レイカーに希望をポン→

なんか暗い雰囲気で招かれる→

明るく出迎え←今ここ

 

三つ目と四つ目に何が…?「私より高い存在はいらない!」とか言って有田の存在でも抹消してきたのか?

ならなぜ俺をここに呼んだんだ。「それはね、お前を食べるためだよ!」みたいな事されないよね?身の危険を感じるZ・E!

 

「はい、どうぞ」

 

「!?」

 

け、気配を感じなかった。いつの間にか紅茶とクッキーらしき物を用意して対面にレイカーが座っている。

俺に悟られずここまでの行動を終わらせるとは、こいつ絶対忍者だろ。アイェェェ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?

 

「ふふ、また面白そうな事を考えていそうですね」

 

…やっぱこいつ忍者じゃなくてさとりだわ。さとりもどきはスピリットさん一人で十分だっつの。

 

それはともかく俺が呼ばれた理由をそろそろ教えて欲しい。互いに甘い紅茶を飲みながら黙っていても別にいいのだが、ジッとこちらを見つめている目の前の存在が気になって仕方がない。

ぼっちは沈黙は得意でも視線は苦手なのだ。

 

「……あー、その、なんだ。大丈夫か?」

 

知らず知らずのうちに出てしまった言葉は主語も目的語も曖昧になってしまった。「何が?」と聞かれたら多分答えられない。

次に言われるだろう言葉を予測しながら身構えている俺に対して、レイカーは特に何かを言う事もなく静かに笑みを浮かべていた。

 

「………なんだよ」

 

「いえ。狼さんは優しいなぁって」

 

優しい?「大丈夫か?」って聞くだけで優しくなれるなら世界が優しさで包まれちゃうよ?

しかし理由なき優しさは嘘だ。まあ大抵の理由が「優しくしてる私ってばちょー可愛い☆」みたいな理由だから理由ある優しさも嘘みたいなもんだけどな。

つまり世界が嘘で包まれてしまうからこのままでは地球の危険が危ない。

 

「気にさせちゃってごめんなさい。今朝、私がショックを受けたんじゃないかって心配してくれたんですよね」

 

「………まあ事情と状況考えるとちょっとな。アレ見るきっかけ作っちまったのは俺だし」

 

なんとなくで行動した事で何が起こるかなんて誰にもわからない。それでも原因の一つが自分だと思うと、無視しておくのは難しい。

顔を顰めている俺に、レイカーは再び微笑んだ。

 

「私は大丈夫です。誰かが空を飛べたからといって、私が飛べるようになるとは思っていません。スカイ・レイカーというもう一人の私とは長い間空を飛ぶために試行錯誤してきたんですから。

ひたすら真っ直ぐ上に向かったこと。心意の力で空に駆け上がったこと。足を切り落としてでも空に憧れたこと。どれもこれも私とスカイ・レイカーの思い出です。

それを否定するなんて出来ません」

 

「………」

 

「それに、少し安心もしているんです。

私は空を飛ぶためにあらゆるものを犠牲にしてきました。自分の戦闘力、ネガ・ネビュラス副長の責任、そしてサッちゃん…ロータスとの友情。全てを捨て、巨大な罪を背負い、それでもなお私の手は空には届かなかった。

それでも今日、《空の彼方》という私の肩には重過ぎた夢が、下ろしても捨てきれなかった消えかけの種火が、猛火の如く燃え上がる瞬間を目に出来たんです。

感謝こそすれ、あなたを責めるなんてできませんよ」

 

最初から最後まで、レイカーは淀む事なく言い切った。きっとその言葉は偽りのない言葉だったのだろう。

だがそれでも、本当に納得出来ているのか?オリンピックに出たいと願った少年が、目の前でその試合を見て夢が叶ったと思うだろうか。

偽りのない言葉が本心だとは限らない。自分ではそう思っていても、心の奥底では欲望が渦巻いている事なんて腐る程ある。無理矢理自分を納得させて、嘘で心を塗り固めて、そのうち嘘が自分の言葉になって出てしまう。

そうでもしないとレイカーは潰れてしまうのだろう。夢のために足を切り落とせる人間が、この世に何人いる?夢のために親友を裏切れる人間が、この世に何人いる?夢のために周りの関係全てを壊せる人間が、この世に何人いる?

 

そこまでいくと、もう常人ではなく狂人だ。空への欲望だったら、こいつはシルバー・クロウの百倍は優にあるだろう。そこまでしても、空を見晴らす人(スカイ・レイカー)は大空の下に跪いた。

死ぬ程努力した人間に、何もしていない人間がどんな言葉を掛けれるんだ。中身のない言葉を投げ掛け、思いの篭らないセリフを吐き、格好付けた語彙をさらけ出す事なんて、出来るわけがない。

 

 

「……………そうか」

 

 

だから俺は何もできないし何も言えない。

何を言ってもマイナスにしかならないと分かっている時点で、俺は言葉を探さなくなった。

プラスマイナス収支でマイナスにならないなら、それは喜ぶべき事だ。たとえ既にマイナスの領域に入っていても、それ以上の損害が出ないようにする事が最善なはずだ。

そう断じて俺はそれ以上口を開く事を辞めた。

 

 

 

たとえブレイン・バーストのレベルが上がっても、人間としてのレベルは上がらない。今まで心地よく感じていた沈黙が苦痛に変わった時、改めてそれを実感させられた。

どれだけ時間が経っても、俺は俺のままだ。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

あの沈黙の中で息をしていられる程神経が太くなかった小心者の八幡君は、早めの戦略的撤退をした後フィールドを走り回っていた。

 

レイカーの家の中にいた間に変遷が起こったらしく、現在のステージは黄昏ステージに変わっていた。。神聖系ステージの影響で、僅かに黒みがかっていただけの身体の色が更にハッキリと色を表に引き上げている。

黄昏ステージ特有の深いオレンジ色の空、大地に生い茂る草花達と比べてこの薄黒い色はやけに目立っていた。二足歩行だろうが四足歩行だろうが嫌でも身体の色に目がいってしまう。

 

この色は心意システムを使った際にどうしても残ってしまうのだ。心意の力を使うには己の心の闇と向き合う必要があるので、劣等感から生み出されるデュエルアバターにその闇の一部が取り付いてしまう……と、俺は考えてる。

そして心意には正と負の心意がある。勇気や希望から生み出される正の心意。怒りや憎しみから生み出される負の心意。俺の心意が黒いって事は…ま、お察しだ。

 

その知識があるせいか、浮き上がっている黒が自分の負の部分を周りに曝け出しているような感覚がしてこの姿は好きになれない。見るたびに『俺が間違えた』と指摘されている気分になるんだ。

間違えた事なんてとっくに受け入れているのに、いつまでもいつまでも面倒くさい。せめて黒に近い灰色とかだったらもうちょっと考えてみようかなーとか思うけど、黒に近い黒ってそれただの黒だろうが。だが灰色というのは黒と白が混じりあって出来るのだから、黒しかない俺に出るわけがない。つまり俺はいつまでたっても黒でQED。

……自分の不利を証明するって新しい自虐を考えついてしまった。この一人遊び、全国の子供達に広めればぼっちの加速化待った無しだな。

 

 

 

再び思考の渦でサーフィンしながら、もういっそのこと心意を真っ黒になるまで纏ってブラック・ウルフにチェンジしてやろうかと模索していると、羽ばたき音と共に巨大な影が目の前に現れた。

 

「ウォォォォォン!!」

 

重音の鳴き声を上げ、地上五メートル程の位置でこちらを睨みつけているのは鳥形のエネミー。大きさ的に巨獣級くらいはいきそうなエネミーだ。

 

一言で言うならば……(カラス)

 

もちろん銀色ではない。薄い青色をしていて、羽の数は三対六本。オレンジの空のせいで背景とのミスマッチが凄まじい。

顔と嘴の形と羽根の特徴から、なんとかカラスだと判断できる奴だった。

 

「…散歩したい時に限ってピンポイントで狙われるとは」

 

小さく愚痴ってしまう。今日は空空空空お空様って空に関わりまくってるんだ。このままだと空を突き破ってお星様になっちまう勢いだ。お前をお星様にしてやろうか?お?

 

 

「ウォォォァァァアア!!」

 

「ごめんなさい!」

 

 

いきなりデカイ声出すなよ!反射で謝っちまっただろ!

もう怒った。激おこぷんぷん丸通り越してムカ着火ファイヤーしちゃうくらい怒った。

 

目の前のバカラスを見据え小さくコマンドを唱える。そして結構前からアイテムストレージで埃を被ってたアイテムを顕現させた。

 

「こいつは強化外装《幻想の手綱》。ショップで買ったテイム用のアイテムだ。結構したからお前に使うのは心苦しいが……俺の平穏を奪った罰だ。

…ちょっと散歩付き合えや!」

 

 

それから数分。叫び声をあげるエネミーに、同じく奇声を上げて襲いかかって行くアバターの姿が、そこにはあった。

 

………ていうか俺だった。

 

その後手綱を握りながら高笑いしていたアバターだけは、俺ではないと信じたい。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

sideスカイ・レイカー

 

 

 

クリア・ウルフがホームを去ってから幾何かした頃、スカイ・レイカーはいつもウルフと空を眺める場所で独り、空を見上げていた。

 

「怒らせて…しまったでしょうか」

 

思い出すのは一人の少年。夢は遂げられたと告げると、何も言わずに出て行ってしまった人。

空に憧れた私の前で空を飛ぶ瞬間を見せてしまったと悔やんでいたようだったから、その誤解を解こうと発した私の言葉は、逆に彼を怒らせてしまったようだ。

でも、私の言葉に嘘はない。燃え燻っていた火種は燃え尽きた。火種とは、火をおこすのに必要な物だ。火を点け終えた火種にもう存在価値は見いだせない。だから今日の朝、私の夢は終わったはずだ。

 

「……不思議ですね。夢は叶った筈なのに、いつもよりも空が遠く見えます」

 

黄昏ステージの空は何度も見た。だが今までで、ここまで空が私を拒んだことがあっただろうか。

目指していた道は、沢山の物を犠牲にしてきた夢は、それが当然のように私を見限った。空を目指していたはずなのに、空を夢見てきたはずなのに、胸に残るのは、虚しさだけだった。

 

「…………」

 

それ以上は何も言わず、スカイ・レイカーは車椅子を操作して脱出用ポータルに向かった。

激動の1日ではあったけど、元々隠居した身だ。また明日からも特に何もない、平和に空を眺める日が続くのだろう。

そう、夢を目指していた頃と何も変わらずに。

 

自分に言い聞かせるように、ゆっくりとレイカーは車椅子を進めていく。しかしその速さはいつになく遅い。

レイカーの車椅子は心意、意志の力で動いている。心の中で、自分自身の行動を阻害する想いが宿っているのだ。

 

それをレイカーは自覚している。

これは…期待だ。誰かが自分の後ろ髪を引いているのを…いや、引いてくれるのを待っているのだ。

まだ夢は終わってないと、まだ諦めるなと、自分に教えて欲しい。そんな百パーセントの我儘を、誰かに叶えて欲しいと期待している。

 

「……女々しいですね」

 

誰に言って欲しいか分かっているのに、自分の本心を打ち明けたのに、彼の性格からそんな事をするはずがないのに、それでもどこか期待を無くせない。

 

それもあと1メートル。先程よりもゆっくりと、ゆっくりと車輪を進めていく。

 

そしてとうとうつま先がポータルに触れた時、バサッバサッと羽ばたき音が聞こえた。

鳥型エネミーなんてこの世界には溢れているはずなのに、それがレイカーを引き止める役割を果たすには十分だった。

 

入ろうとしていたポータルに背を向け、その音を頼りに振り返る。

その先には、ついさっきまで家に居た彼が片手を上げて呼んでいるのが見えた。

 

来た道を同じようにゆっくり戻るレイカー。その口元が緩んでいる事は、レイカー自身すら気づかなかった。

 

 

 




レイカーを救済せよ‼︎

とにかく今はレイカーのフラグを立てまくる事に腐心しなければ。

次回!レイカー編終了!(の予定)

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