やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

11 / 54
戦いの全容が見たい人はアニメ、もしくは原作を見ましょう。
完全に観客席の視点です。


良好な暗雲

 

ステージは煉獄。蟲が湧いてて気持ち悪く、天気も淀んでいてどことなく気持ち悪く、建物も気持ち悪いステージだ。

そんな気持ち悪いステージで対戦が始まったのだが、問題とも言えない問題が発生した。

 

 

………見えねぇ

 

 

有田達がいた場所が病院の中だったせいか外で観戦してる俺達には二人の姿が全く見えないでいた。始まった時にカッコつけた俺がバカみたいじゃん。

対戦者が見えない事もあり視線は違う所へ向かった。俺達から少し離れた場所には何人もの観戦者、バーストリンカーが同じようにシルバー・クロウとシアン・パイルの対戦を眺めていた。

病院の中にこんな多数のバーストリンカーが居るとも思えないので、恐らくはシアン・パイルがグローバル接続して観戦者を呼んだんだろう。

…つまり今回の対戦はシアン・パイルのアピールのようなものだったらしい。病院の中が見えない事をいい事に、黒雪をボコり最後の最後だけ観客に見せて自分の価値を見せつける、といったところか。そんでその後はポイントの独り占め、と。随分あのイケメンはずる賢いらしい。汚いなさすがイケメンきたない。

 

しばらくただ音と体力ゲージの減りだけを見ていたが、ようやくエレベーターらしきもので左腕を失ったシルバー・クロウが屋上に上がってきた。

いやはやさすが有田、エンターテイメントのなんたるかが分かってるな。イケメンとは違うのだよイケメンとは。……なぜだろう、これだと有田をバカにしているように聞こえる。

ま、まあそれはさておきイケメンことシアン・パイルも屋上に登ってきた。そこからは結構普通の対戦で、シルバー・クロウの拳が熱い想いと言葉と共に何度もシアン・パイルに突き刺さった。

しかし悲しいかな、ここでレベルの差、カラーの差というのが顕著に現れた。シアン・パイルはほぼ純色の青、つまり近接型であり力強さと硬さに定評がある。その逆にシルバー・クロウはメタルカラーだが硬さがなく相手の体力を一気に減らすことが出来ない。そこにレベル差が加われば、もはや岩タイプに体当たりを続けるくらいの結果にしかならないのは自明の理。ただひたすら殴り続けるしかないのだ。

………そんでもって、この世界でそれは最大の悪手だ。

 

 

『スプラッシュ・スティンガー!!』

 

 

シアン・パイルが叫んだのは必殺技コマンド。殴り殴られ溜まりに溜まった必殺技ゲージを消費して発動する対戦の華。シアン・パイルの胸部から尖った複数の物体がモロにシルバー・クロウの身体に突き刺さった。車に轢かれたような勢いで吹き飛ばされ、盛り上がった地面に激突する。ガツンと削られる体力。グッタリとした姿からは再現された激痛でマヒしていることが伺えた。

 

「………カラスさん、大丈夫でしょうか?」

 

「さあな。失敗した時の俺達だ。気軽に見ればいいだろ」

 

「……しかし…」

 

「元々あいつみたいに初期アバターに目立った特徴がない奴は時間をかけてポテンシャルを開花させてくタイプだ。それを二三日でどうにかしろっていう方が無茶な話なんだよ」

 

「…なら狼さんが昨日言っていたのは?」

 

「それはそのままの意味だ。開花するのが今日かもって思ったんだが……」

 

視線の先にはシアン・パイルの右手についたどデカイ杭の下敷きにされているシルバー・クロウ。しかもさっきの拍子に右足も取れてしまっている。動くことも逃げる事もできず今にもトドメを刺されそうになっている。

ようするに、今回の賭けは俺の負けだ。ディーラーも対戦相手もいない一人ギャンブルだが。『あーあ、また勝てなかった』というやつだ。自分にすら勝てない俺は負完全を超えてるのかもしれない。

 

「……それも無理っぽいな」

 

 

『スパイラル・グラビティ・ドライバー!!!』

 

 

腕の後ろを噴射口のように使い、右手でシルバー・クロウごと病院の屋上から最下層まで貫いた。ほんの僅かだけ体力ゲージが残ったがレベル、経験、必殺技の練度、相性を考えてここからの逆転はありえないだろう。

てか対戦前は友達っぽい雰囲気出してたのに始まってからは親の仇と言わんばかりに戦っている。あれが俗に言う『青春』ってやつなら、やはり俺は青春も友達もいらないな。

 

「……さて、終わったらすぐ加速だ。しっかり備えとかねえと」

 

「………なにも」

 

「あ?」

 

「なにも、言わないんですね」

 

「………勝った奴にかける言葉だったら沢山あるんだがな。『よくやった』『努力の成果だ』『お前ならやれると信じていたよ』。なんでもいい。

だけど、負けた奴にかける言葉ってのを、俺は知らないんだよ」

 

『よくやった』『おしかったよ』『次があるって』。どれもこれも声を掛ける側は何も考えずに言う言葉だ。心配、同情の感情を隠しもせずに突きつけてくる。その感情が相手にとってはただの責苦に変わるというのに。

勝手に期待して、勝手に裏切られて、そして勝手に相手を失望する。だが『優しくするくらいならいっそ思い切り責めて欲しかった』だなんていうのは『優しくされた奴だけの』現実逃避だ。責められて嬉しく思う奴なんていない。同情よりも気が楽になる事なんてない。結局、仲間だと思っていた奴に糾弾されて絶望に浸るだけだ。

 

だから俺は何も言わない。何を言われても自分を責める事になるのなら、初めから考える事は少ない方がいい。期待して失望することも、期待されて失望されることも俺は嫌いだ。

だが失敗したとしても、有田には『次』がある。その次を作るのが今回の俺の役目だ。

期待も失望もしないから、逃げる事も負ける事も責めないから、せめて折れることだけはしないでくれ。そうでなければ、いくらなんでも黒雪が報われない。『子』を守りきった『親』を裏切る事はしないでくれ。

 

 

『見てくれたかな、特に青のレギオンのみんな!僕はまだまだ戦えます。ちょっとポイントを使い過ぎたからって、捨てるには惜しいはずだ!でしょ!?』

 

 

シアン・パイルの演説を聞き流しながら残り時間を見る。残りはあと五分程。それだけ確かめ、改めて自分の敵であるアバターを見据えた。デカイ図体でノロそうだが、右手の杭が危なっかしい。しかし自分にはなんの問題もないだろう。なんせこれから戦うのは黒雪を生き残らせる為の作戦だ。そしてそれを成功しうる手札を俺は持っている。心配すんな、俺なら勝てる!

 

じっとシアン・パイルを見続け、そのまま残り時間が三分を切った瞬間、突如として対戦フィールドに光の柱が立ち上った。

発生地点はシルバー・クロウが最下層まで叩きつけられた時に空いた巨大な穴だ。その柱は光で軌跡を残したままさらに急上昇。減速する事なくどんよりした雲に突っ込み、雲を散らした。

そんな事をしでかしてくれた下手人は雲に隠れて見えないが、それが誰なのかはすぐにわかった。シルバー・クロウの必殺技ゲージが少しずつ減っている。

つまり……つまりだ。あいつの、シルバー・クロウのアビリティは……。

 

「完全……飛行型……アビリティ」

 

言葉を発したのは俺ではなく隣のレイカーだった。さらにそれを証明するかのように雲の上から舞い降りたシルバー・クロウは翼を広げ、まるで世界全てを見下ろすかのような佇まいで空中で完全に停止してみせた。

左腕はなく、右足だって取れている。身体に至ってはどこもボロボロだ。それなのに背中に光り輝く銀翼が観戦者の視線を独り占めして離さない。

それは俺も同じだった。今の状態を言葉で表すのは難しい。すげえと言いたいのに言葉は出ないし、それよりも空を飛んでいる姿を見ていたい気持ちが勝った。

俺は今日、加速世界に入って、初めて空に憧れたのかもしれない。手が届くと思えない高さを自由に羽ばたく光景を俺は当分忘れられないだろう。それ程までにその光景は衝撃的だった。

 

「空を……飛んでいる…」

 

…それでも俺は周りのバーストリンカーより冷静だったのだろう。なんせ隣にスカイ・レイカーがいたのだから。

スカイ…空の名を冠しながら、空の彼方を渇望しながら、それでも空を飛べなかった少女。この情景を見てレイカーが何を考えたのかは分からない。

レイカーも言ってしまえば失敗した人間だ。心意の力を空を飛ぶ事に注ぎ込み、遂には脚さえも飛ぶ為に斬り落とした狂人。そこまでしても手に入れられなかった力を目にして、レイカーは何を思うのだろうか。嫉妬か、羨望か、更なる渇望か。それは分からない。

しかし今回の件はレイカーにとって明らかなマイナスだ。レイカーの前で飛べるという前例を、『希望』を見せてしまった。

『希望』とは麻薬だ。『もしかしたら』『今度こそ』と思ってしまう。

レイカーの過去を僅かながら聞いた俺は知っている。『今度こそ』空を飛べるかもしれない。『もしかしたら』うまく飛べるかもしれない。そんな『希望』にいつだって裏切られてきたレイカーを、俺は知っている。いつだって期待して、いつも裏切られて、いつからか希望を持つのは辞めた。そんな過去を生きてきたレイカーにもう一度希望を与えてしまった。

空を追い求めたこいつが今なにを思っているのか、それだけは、俺は聞くことが出来なかった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

あの状態からシルバー・クロウはシアン・パイルに勝利した。いつの間にか起きていた黒雪はネガ・ネビュラスの復活を宣言した。

万事上手く行ったはずだった。有田は覚醒し、黒雪は全損することはなく、物語ならハッピーエンドだったろう。

それなのに胸の奥に蟠りが残る。

 

加速が終わってからは、有田にお疲れと一声かけて俺とレイカー……倉崎先輩はすぐに病院を出た。どちらも無言で言葉は発しない。かけるべき言葉が分からない俺に、喋ることは出来ないのだから。

 

「………んじゃ、俺こっちだから」

 

居た堪れない空間を抜け出すが如く俺は倉崎先輩に別れを告げた。かなり長く感じたが今日は学校だしまだ早朝だ。サボる度胸もない俺はおとなしく学校に登校するのが吉だろう。

 

「……狼さん」

 

離脱しようとした俺の背中に倉崎先輩のお声がかかった。心なしかいつもよりテンションが低い気がする。言わないけど。

 

「今日の夜、いつもの場所にいつもの時間に来てくれますか?」

 

「わかった」とだけ返し、振り返らずに学校に急いだ。なぜ振り返らなかったのは俺の中だけの永遠の謎になるかもしれない。

 

 

 

 




レイカーさんにハルユキの飛ぶ瞬間を見せたかった。
原作だとレイカーさんハルユキに優しいけどこんな始まりだったらどうなるのかなーと思って書きました。
あとヒッキーにだけ暗い部分を見せるレイカー師匠も作者的にポイント高い!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。