ガンダム戦記 side:Zeon   作:上代

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第02話:コロニー落とし

『イクス大尉、至急ブリッジへ。艦長がお呼びです』

 

 愛機、ザクIのコックピット近くで各部の分解整備(オーバーホール)状況を聞いていたメルティエ・イクスは、艦内放送で名前が挙がった事でモビルスーツハンガー内に設置されたスピーカーに視線をやった。

 

 彼が居るのはムサイ級軽巡洋艦、ラクメルのモビルスーツハンガー。

 現在は作戦行動中であり、出航前まで機体組立が終わらなかったザクIの状況確認の為ハンガーに降りていた。

 周りを見れば、この無重力を利用した格納庫の上下でモビルスーツが向い合せになり整備工具や資材を携えた整備兵が飛び交っている。

 

 そんな彼らの戦場で、ぽつりと呟いた。

 

「――あ、俺か」

 

「大尉……大丈夫ですか」

 

 頭が、と入れなかったのはこの若い整備兵の優しさに違いない。

 

「いや、名前は間違えんのだが、大尉と付くと、どうもな」

 

 気恥ずかしさも手伝って、メルティエは頬を掻いた。

 

「少尉からの二階級昇進でしたよね。しかもザクIで戦艦三隻撃破! ザクIIでもそうそう稼げない戦果ですよ」

 

「運が良かったからだよ……まぁ、ザクIで、というのが気に入られたのかもしれん」

 

「またまた、ご謙遜を。大尉がザクIで戦艦に吶喊(とっかん)する動画、昨日も整備班の連中と見ましたよ」

 

「プロバカンダで流れた奴か?」

 

「ええ、錐揉み回転しながら戦闘機を蹴り破るとか、なかなかお目にかかれませんよ」

 

 整備兵が携帯端末を操作し、その映像を表示する。

 

 敵の戦闘機、セイバーフィッシュのバルカンとロケットを回避したザクIが擦れ違い様にワン、ツーと蹴り壊す。

 続いてマゼラン級戦艦から発射された主砲に被弾、衝撃を受けるも小刻みにスラスターを吹かして高速機動(ブースト)。間断なく放たれる主砲を潜り、対空機銃に対するように一○五ミリマシンガンで応戦。

 敵戦艦のブリッジに接近するや滑らかな動きで二八○ミリバズーカに切り替え(スイッチ)、発射する。

 そうして、見事に艦橋部を破壊したのだ。

 

 主力モビルスーツがMS-5B、ザクIからMS-06C、ザクIIに変わる中での大戦果である。

 尊敬するもの、羨むもの、謗るもの、妬むもの。昇進と戦闘映像が日の目を浴びた後、彼には様々な声が届いた。

 

 思い出すと正直、気分が下がる。

 人の視線というものが、肌を刺す感覚が怖いという事を改めて実感した。

 

「っと、いい加減向かわないとやばいか。あとでまた話を聞かせてくれ」

 

「よろこんで!」

 

 ザクIの胸部装甲を蹴り、タラップに突進。

 手摺を足場にして通路へ飛び込み無重力内で移動手段に利用されるリフト・グリップを掴んだ。

 低い作動音を引き連れてメルティエはブリッジを目指す。

 

 T字路に差し掛かり、上下に並ぶリフト・グリップの上を掴む。

 何故上を選んだか、それは下のリフト・グリップのレールが既に働いていたからだ。

 

「メル、何か騒動でも?」

 

「それはまた、随分なご挨拶だな」

 

 澄んだ声に振り向けば、薄紫色の長髪を広げてこちらに身を寄せる女性が視界に現れた。

 

「このラクメルに乗り込むまでは基地待機だったし、損傷した機体の補修と点検で演習も無い。 騒動なんて起こせるモンじゃないだろう?」

 

「そう。てっきり例の映像を見て突っかかってきた兵士に暴行を加えたのかと」

 

「お前さんが俺をどう思っているのか、よぉく理解できたよ」

 

 淡々と言葉を送る人物に嘆息を混じりに応える。

 

 彼女の名はエスメラルダ・カークス。

 癖のない薄紫色の髪は小柄な彼女の腰まで伸び、紅の色を帯びた瞳は物憂げで、小さな鼻に桃色の唇、幼さの残る整った容貌と純雪の肌と相まって深窓の令嬢を連想させる。保護欲を掻き立てる少女のようだ。

 

 だが、それは錯覚だ。

 

 彼女はジオン公国軍の軍服に身を包んだれっきとした軍人で、階級は少尉。徽章はメルティエと同じモビルスーツパイロットを示すもの。

 同期で士官学校卒業した彼女はこの部隊に在籍して既に五度、トラブルを起こしている。

 ちょっかいを掛けてきた()()()男相手に。

 

「エダ、気が立っているのか?」

 

「別に、貴方には関係ない」

 

 エスメラルダ。前と後ろを直列してエダ。

 愛称として呼び初めた頃は冷たい目で睨まれたが、今は慣れてきたのか睨まれる事はなくなった。

 彼女は一見して精巧な人形のような容姿、静かな言動なので勘違いした男が口説きに来る。

 

 だが、それは間違いだ。

 

 メルティエの中では、彼女は外見で騙されると危険な人物筆頭である。

 格闘術のセンスが高く、小柄な彼女は身軽に動き易々と捉えさせない。

 彼女は反射神経、動体視力に恵まれた戦士であり、手練れの兵士。

 つまりは体のでかい男は、彼女にとってはただの()()であった。

 士官学校での彼女の渾名は「虎」。

 

 だが、それでは(はなは)だ説明不足である。

 

 彼女は確かに肉体的に強者である。こと格闘や白兵戦の訓練では勝てた者は少ない。

 しかし、知識に於いても常に上位に存在した彼女はただ獰猛なだけではない。

 理解して猛威を振るい(ふるい)に掛けていただけだ。

 対等に付き合える者と、そうでない者を。

 

 メルティエは勝手に声を掛け、勝手に怯える連中から歩み出て、彼女に拒まれながら努めて普通に接してきただけだ。

 少なくても彼はそう思っている。

 その成果が、今の彼と彼女の距離。

 ただし、その距離感が扱い難い彼女を管理できると上役に判断されていたかは不明である。

 理解しているのは、メルティエのモビルスーツ隊にエスメラルダが配属されている事だけだ。

 

「今は聞かないで置くよ。後で落ち着いたら話してくれ、溜めるより吐き出した方が楽になるだろ」

 

「お節介」

 

「いや、お前さんが暴れると大抵俺の所に苦情が……おい、追い越すな、話を最後まで聞けって、おいィ!?」

 

 都合の悪い時は逃げますかそうですか、と零しながらも、出会った時に比べて幾分か丸くなった彼女を追う。

 

(ん。確かに丸い―――ごはっ!?)

 

 彼女の魅惑の臀部に視線が行き、次の瞬間には強烈な後ろ蹴りがメルティエの胸板に刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「メルティエ・イクス大尉、並びにエスメラルダ・カークス少尉。艦内放送を聞き出頭しました」

 

 扉が開きブリッジに到着すると、艦長席に座る壮年の男性とアンリエッタ・ジーベル少尉が顔を向けた。

 他のブリッジクルーは目もくれず、己が任務に従事していた。

 

「よく来た、大尉。早速で悪いが、まずはこれを読み給え」

 

 落ち着いた張りのある声、白髪交じりの金髪に細い碧眼、整えられた口髭に頬に走る銃創、中佐を示す軍服が彼を歴戦の軍人だと見る者に印象付ける。

 齢四十ニの彼は従軍歴が長い。事実、フェルデナンド・ヘイリンはジオン公国が共和国であった頃から従軍、武勲を上げている所謂(いわゆる)古強者だ。

 軍服で隠されているが、彼の体は銃撃戦による銃痕と榴弾の爆発による火傷が残っている。

 

 ちなみに妻子持ちであり、愛妻家。子息に懸ける育成も相当なものらしい。

 情報元は整備兵長である。

 

「はっ、失礼します」

 

 フェルデナンドが渡した電報に視線を走らせ、眉間に皺を寄せる。

 小柄なエスメラルダはメルティエの肩に手を置き、上から覗き込むようにして内容を読む。

 その行動を咎めること無く、艦長は二人が読み終わるのを静かに待った。

 何処か、アンリエッタは不満そうに佇んでいる。

 気にはなったが、任務中のため黙殺した。

 

「艦長、これは」

 

「既にアイランド・イフィッシュには大量の輸送機、作業ポッドによる作業が終わり移動を開始したそうだ」

 

 若いパイロットと熟練の艦長の視線が合う。

 フェルデナンドの表情からは感情が窺い知れない。

 職業軍人とはかくあるもの、そう思わせた。

 例え、地球に住む人間が何千何万と倒れようが、地球の環境を破壊しようが、彼は祖国に勝利を届けるために任務を遂行するだろう。

 

 彼らが遂行する作戦名はブリティッシュ作戦と云う。

 

 内容を簡潔に述べればコロニーを質量弾とし、地球に落とすというものだ。

 費用対効果の話をするならば、質量弾として扱うなら、コロニーよりも小惑星を使った方が簡単で費用もさして掛からない。しかも威力があるのだ。比べるだけでも馬鹿らしい。

 コロニーによる質量兵器は純軍事的視点で見れば無駄も無駄。全くの無駄である。

 しかし、これは移動させたコロニーを地球の軌道上にのせ、地球を一周させる事で地球の住民の絶望的なまでの恐怖感を与え、煽る為のものだ。

 つまりこの作戦の概要は恐怖で敵を陥れ、コロニー落着でこの戦争に終止符を打つもの。

 予定落着地点は南米、連邦軍総司令部ジャブローである。

 

 そして、質量弾はアイランド・イフィッシュという名であった。

 

「サイド2のバンチコロニー群で我が軍が何かをしている、とは耳にしましたが」

 

「私も同じだよ、大尉。全長四十キロを超えるコロニーを丸ごと質量兵器に変え、地球の軌道上にのせる。

 地球全域から、一周するコロニーが見えるのだ。徐々に近付きながら、な。

 青い空の中、摩擦熱で赤く染まったコロニーが、どこに居ようと見える。考えただけで恐ろしい。おそらくは、地震や大気振動で地球環境に甚大な影響を起こすだろうと推測されてもいる。

 だが、これは決定事項である」

 

 メルティエ以下、ブリッジクルーがフェルデナンドに傾注した。

 

「本艦はこれより、アイランド・イフィッシュの護衛を務めるキリング中将の艦隊後詰任務に就く。諸君らには全力を持ってこの任に当ってもらいたい」

 

 途中から艦内放送に切り替えていたのだろう、艦長はそう締め括るとブリッジは元よりラクメル艦内の至る所で「了解!」と応じる声が溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵機影感有り、モビルスーツ隊は発進準備を』

 

 オペレーターの目覚ましコールにベッドに体を固定するベルトを外し、ガバッと浮かび上がると宙を漂っていたノーマルスーツを着込み、扉が開くと同時に部屋から出る。

 重く痛みすらある頭を振り、メルティエはヘルメットを被る。

 

 緊急出撃(スクランブル)はこれで何度目だろうか、確か三回までは覚えていたが。

 サイド3を出航後、ア・バオア・クー、ソロモン等と建造・増設工事中の要塞群を経由。

 アイランド・イフィッシュを護衛するキリング中将麾下の艦隊と無事合流できたものの、地球とルナツー方面から集結した連邦軍宇宙艦隊と戦闘に入った。

 先遣隊、いや奇襲を試みた分隊だろうか。

 それらと幾度も戦闘状態に入り、移動するアイランド・イフィッシュに攻撃を加えていく連邦軍。防衛、コロニー移動作業に従事する友軍がその被害に遭いモビルスーツ二七機、ムサイ級軽巡洋艦を含む戦艦四隻が轟沈した。

 主力艦隊は健在、しかし後詰に参陣したヘイリン隊のような部隊は壊滅、もしくは全滅だ。

 

 原因はミノフスキー粒子の乱発。

 同士討ちはなかったものの、ミノフスキー粒子を乱散布して移動する艦隊があり、自軍の配置が見えなくなるどころか連邦軍からは丁度良い印、的となり遠方からの間接射撃を受けたのだ。

 

「どこの部隊だ…士官学校からやり直してこい!」

 

 恐らくは士官学校出の坊ちゃん艦長、だろう。

 名門か、名家か知らんが無駄に高い家柄、出身なのは考えるまでもない。

 加えて高い金でも積んで分不相応の階級に就き、一大作戦で武功を挙げようと己が役者不足だと悟ることも無く、この作戦に文字通り死力を尽くすジオン軍将兵に不必要な出血を強いたのだ。

 血気に逸るメルティエは叶うことならば、この手で八つ裂きにしたいと発熱した感情を腹の中でぐるぐると回していた。

 キリング中将からは「処断した」とフェルデナンド中佐充てに通達してきたのだから、そうなのだろう。そう信じておきたかった。

 

 リフト・グリップに流されるまま、ときに通路の壁を蹴り加速。

 モビルスーツハンガーに飛び出すと作業アームに固定された愛機に向かう。

 近寄るメルティエに気づいたのか、出航後に会話した若い整備兵が慌てて飛んでくる。

 

「大尉!? 休まれていたのでは!」

 

「敵が来ているのだろう、寝てはられんさ」

 

「しかし、大尉の機体は!」

 

 作業アームに固定されたザクI。

 通常の藍色と深緑色で塗装され、左肩に01とペイントされたメルティエ機。

 

 左腕は肘から先が、両脚は踝から先が機械剥き出しの状態で、其処に在った。

 全身に凹凸の傷跡が有りコックピット・ハッチが正常に開かない、頭部のモノアイスリットには中心の支柱に亀裂が入り今にも折れそうだ。

 連続の出撃、思わぬ遭遇戦を強いられた結果がザクIにダメージを蓄積させた。

 ちょうど一日前は五体満足、新品同様だった愛機が、見るも無残な姿に変貌した。

 

 だが、帰還前はもっと酷い有様だった。

 曳航されてモビルスーツハンガーに入ったのは、メルティエにとって最新の苦い記憶だ。

 

「みなが徹夜でここまで直してくれた。それだけで、十分だよ」

 

「は……はいっ!」

 

 口元に笑みすら浮かべ、感謝の言葉を静かに告げると、彼は報われた事に感情が昂ぶったのか、顔を油塗れの袖口で乱暴に拭う。

 ザクIの周りで補修をして居た他の整備兵達も照れくさいのか頬を掻く、整備帽を目深に被る等をした。

 

「尽力に感謝する」

 

「御武運を、大尉!」

 

 狭いコックピット・ハッチに足から乗り込み、敬礼を送ると彼らも応えた。

 コンソールに起動入力、発動機が獣じみた咆哮を上げ、コックピット内が低光量で照らされる。

 発動機の回転音が一定まで上がると続いて操縦桿のフックを解除、入力キーにアイドリンクからフルに変更入力。

 前面モニターにウィンドウが開きザクIの立体モデル、各機体状況が映る。

 警告音。正常な状態ではないから当然だろう。

 

 ――診断結果。

 

〈帰還を推奨、修理作業を受けられたし〉

 

「そうはいかないんだ、相棒」

 

 操縦桿を握り、中破状態のザクIを操作。

 備付けのハンガーラックに差し込まれたバズーカを腰のハードポイントにマウント。マシンガンを右手に、L字に伸びたザクIIの防御シールドを即席盾に転用したものを左手で掴む。

 

「ブリッジ、こちらメルティエ・イクス。聞こえるか」

 

『こちらブリッジ、如何しましたか、大尉』

 

 オペレーターの女性兵(ウェーブ)から明確な声が返ってきた。

 彼女も疲労で頭痛を覚えている筈だろうに、声に乱れを感じさせず見事だとメルティエは思った。

 

「敵の情報を送ってくれ、あと格納庫のハッチを開けろ」 

 

『了解』

 

 ブリッジから転送された情報が次々とメインモニターにウィンドウを開き、彼は目を通した。

 側面モニターに通路から機体に向かうアンリエッタとエスメラルダが映る。

 二人とも整備してくれた兵に二、三言言葉を交わしているようだ。

 

 整備兵あってこその兵器であり、我々パイロット。

 そう士官学校で教えてくれた教官、彼の名前はなんだったか――。

 

『大尉、行けるか?』

 

「無論であります」

 

 前面モニターに通信回線が開き、形成されたワイプにフェルデナンド中佐が映る。

 

『十分後にはアイランド・イフィッシュが地球軌道上にのる、それまで落とされるなよ』

 

「思ったより長くない時間です。問題はありませんよ」

 

 画面越しに目が合い、互いに笑った。

 目の下に隈がくっきりと浮かび、疲労を拭えない顔であった。

 艦長は一睡もせずに指揮を、パイロットは重なる高速戦闘と命のやり取りに消耗していた。

 

『お互い、ひどい顔をしているな』

 

「まったくであります。作戦が終えましたら、寝溜めをする許可を頂きたいものです」

 

『ふむ、考えてみよう』

 

「是非に、よろしくお願いします」

 

 中佐の表示下に追加されたワイプからオペレーターが映る。

 彼女も一目で疲れていると解る、三者とも共通した顔色であった。

 

『大尉。アンリエッタ少尉、エスメラルダ少尉ともにいつでも出られるそうです』

 

 僚機の準備完了を伝えると共に、敬礼を見せた。

 

「了解した。イクス隊、出撃に入る」

 

『イクス隊発進後、交戦予定宙域にミノフスキー粒子散布します』

 

 オペレーターに敬礼を返す。

 コンソールを叩き、作業アーム解除の操作を行う。

 指令を受けた作業アームが掴んだモビルスーツの両肩を解放、ザクIはサブスラスターを気持ち吹かし、上方の格納庫のハッチに位置を合わせる。

 

『イクス隊、出るぞ! 整備兵避難、急げ!』

 

 直前まで整備していた彼らが、キャットウォークや通路に隠れる様子を各モニターで確認。

 フットペダルを軽く踏み、スラスターを僅かに噴射。

 

「ザクI、メルティエ・イクス、出るぞ!」

 

 格納庫ハッチ直前までゆっくりと進み、手前からはメイン、サブスラスターのエネルギーを開放。格納庫ハッチ周囲を僅かに焼く。

 ザクIは満身創痍のまま、しかし力強くバーニア光を散らし交戦空域に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 出撃したメルティエの目前に地球が迫る。

 眼下にはコロニー、アイランド・イフィッシュ。

 コロニー表層部は連邦艦隊の主砲で灼かれ、友軍モビルスーツと航宙機の混在防衛部隊が敵艦隊護衛部隊の航宙機、セイバーフィッシュと入り乱れ混戦を呈していた。

 ミノフスキー粒子下のため通信手段はモビルスーツによるハンドサイン、接触によるお肌の触れ合い会話、あとはモノアイによる光学通信だ。

 

 メルティエ操るザクIは後続の二機に続けと手を振る。

 上面から下面へ。自らを爆撃機とし、左翼に展開する艦隊に飛び込む。

 右手の操縦桿、入力キーを数度叩き握り込む。ザクIはモノアイを一度強く輝かせるとマシンガンとバズーカを切り替え(スイッチ)、マニピュレーターから読み込まれたバズーカサイトが表示。

 目標にしたサラミス級巡洋艦。

 その直衛三機のセイバーフィッシュが接近するザクIに反応、口角を上げた四連装三十ミリバルカン、三連装ロケットランチャーが火を吹く。

 

 メルティエは速度を緩めない。脚部のアポジモーター、AMBACを利用して最大速度を維持したまま突撃、セイバーフィッシュの間を突っ切る。

 回頭する戦闘機に後続のアンリエッタ、エスメラルダ機が丁寧にマシンガンを命中させ爆散した。

 肉迫するザクIに対し、サラミスは主砲、六連装ミサイルランチャーをコロニーに発砲したまま、対空機銃だけで相手する気のようだ。

 

「護衛機が落ちたことに気づいてないのか!?」

 

 セイバーフィッシュが攻撃、回り込むと思っているのか。

 それとも、最期までコロニーを削り取ろうという意志なのか。

 

「落ちろっ!」

 

 ブリッジまで急降下、頂上からバズーカ弾頭を撃ち込む。

 衝撃で潰れるブリッジ、艦船底部にまで通じたのか、くの字に折れて爆発。

 破片が散らばる中、サラミスの残骸を即席の遮蔽物にしてバズーカに弾頭を再装填。

 前面、側面モニター共に幾つもの光芒が瞬き、この宙域全域で戦闘が行われていることが見て取れる。

 

 背後に僚機が接近、マシンガンのドラムマガジンを交換、完了を見届けると次の敵部隊に機体を走らせる。

 次の目標がモニターに出現、短い電子音と共にコロニーに攻撃を続けるサラミスとその上下面にセイバーフィッシュ隊が広く展開した部隊が表示された。

 こちらのバーニア光に気付いたのか、一機を残し四機が向かってくる。

 

 彼らが選択したのは遅滞射撃。

 僅かにずらし、遅れて攻撃をする事で絶え間なく攻撃を続け、こちらを削り取り討ち取るつもりらしい。

 

「ちっ!」

 

 メルティエは舌打ち一つ、前進よりも回避を優先。

 両手の操縦桿を正確に、しかし素早く操作。細かな部分は保持する以外の指で入力キーを叩く。ザクIはフレームの軋み音をコックピットに伝えながら、無茶な機動に応えてみせた。

 

 右腕を振り、更に右脚を振ると同時にアポジモーター、背部メインスラスター、サブスラスターを順次に点火、左脚で蹴り上げ、左腕をなぎ払う動作で弾幕の中から這い出る。

 動作中、警告音が更にけたたましく鳴り響いた。露出した機械部分が軋みを上げるのを映像分析処理された音声で拾う。

 

 それでも、彼とザクIは動きを止めない。

 

 目前に迫るロケットランチャー群、左手の操縦桿の入力キーに鋭く打ち、握り込む。

 手に持った、盾として持参したザクIIの防御シールド。

 

 これを、前方に投擲した。

 当然の如く先頭のロケットに当たり、飛散した。

 

「どうだ? ちいっ」

 

 飛散するときに大量の煙幕が発生。

 一拍置いて煙を切り裂く様にバルカンが迫る。何発かが右肩部に被弾、外装が破壊され関節部分が露わになった。

 ガガガッ、バキィとコックピット内に痛音が差し込む。

 全身を揺さぶられ、衝撃に機体上半身が流れた。

 

 後方から飛来するザクI、アンリエッタとエスメラルダが搭乗する二機がこちらに掛かりっきりのセイバーフィッシュ四機中二機に攻撃。即座に火の玉に変え、残りの二機と空間戦を開始。

 メルティエのザクIは左腕を腰に回しハードポイントのマシンガンを装備、バズーカサイトにガンサイトが加えられた。

 迎撃に出なかったセイバーフィッシュが前進。ついでサラミスからの対空機銃、そして先の攻防でサラミスのやや前面に機体が出たせいか、ミサイルランチャーの援護射撃に入った。

 

 向かってくる戦闘機の銃撃、弾頭を機体スレスレに回避。

 スラスターのみで上面に機体を持ち上げ、セイバーフィッシュに向かい合い相対速度で急接近。そのままセイバーフィッシュの機体を右脚で蹴り折り〈警告、右脚部大破〉、左脚で踏み台にして加速〈警告、左脚部大破〉、全スラスターをフルスロットル。最大速度に達したザクIがミサイルランチャーの群れにマシンガンを中て、僅かに入り込む空間を強引に確保。

 

 ギュン、ギュン、とミサイルランチャーと擦れ違う音がコックピットに反響。吹き出る冷や汗がリアルな生を実感させた。

 

「―――こいつで、落ちろっ!」

 

 ブリッジ直前に機体制御。バズーカの砲口から発射された弾頭がブリッジを貫通、爆発する。

 轟沈するサラミスと、セイバーフィッシュを片付けた僚機の姿がモニターに映る。

 

「はぁ、はぁ……うっ、二人とも、無事か」

 

 サブモニターに映る機体状況がこれ以上の戦闘行動は不可能、と明示。

 事実、バズーカ発射前の機体制御では下半身、脚部のアポジモーターが二割も機能していない。結局、左腕と膝まで残った両脚で無理矢理にAMBACで行ったものだ。

 敵に捕捉され撃墜する前に帰還、そう思えたのは無茶な要望に応え続けたザクIに、整備兵達に対する負い目からか。

 

 機体は大破したが、せめてパイロットは無事に戻ろうと思った。

 

 メルティエ達、ラクメルに所属するモビルスーツ隊が格納庫に収納するその間。

 アイランド・イフィッシュは地球軌道上にのり、地球の大気圏に突入する威容を彼は見た。

 近い未来に赤熱した人類史上最大規模の建造物が、地球に破壊を振り撒くだろう。

 ジオン公国が地球連邦政府に開戦して、十日目。

 

 作戦名、ブリティッシュ作戦。

 俗に言う、コロニー落としが成された瞬間であった。

 

 帰還後、大喜び(貴重な空間戦闘の映像に)の整備兵達と、最初の印象を取り潰す勢いで快活に笑う艦長とブリッジクルー。

 何故か強制的に椅子に座らされ、仁王立ちで説教するアンリエッタとエスメラルダにメルティエは困惑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上です。読んでくださり感謝。
少し駆け足で物事が進んだ感。
もうしばらく続くんぢゃよ。
遅れながらお気に入り登録、ありがとうございます。
これを励みに、執筆して行きます。

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