ガンダム戦記 side:Zeon   作:上代

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第十五話:月光の下で

『久しいな』

 スクリーンに投影された女性。

 時折映像が乱れと声にノイズが走るものの、地球方面軍総司令キシリア・ザビ少将その人だ。

 同司令ガルマ・ザビ大佐と少将麾下第168特務攻撃中隊隊長メルティエ・イクス少佐は敬礼。

 地球のバイコヌール宇宙基地からレーザー通信で点在する宇宙ステーションを中継地点に経由。

 地球の天候に左右され精度も低いがジオン公国軍の本拠点サイド3、ズムシティ政庁に居るキシリアとの対談を可能にした。

「は。閣下も変わらず安心致しました」

「ご無沙汰しております、少将」

 敬服する上司に、理想とする指揮官像に、メルティエとガルマは緊張していた。

『うむ。まず貴公らに良い報せと悪い報せを用意(・・)した。どちらから聞きたい』

 ごくり、と二人の喉が鳴る。

 映像の彼女は机の上で手を組み、声には感情の起伏が顕われない。

 しかし冷たい双眸は二人を見据え強く促してくる。

「それでは、悪い報せからお聞かせ願いたく」

『ほぉ』

 メルティエが口を開くと「面白い」と彼女の双眸が愉快気に揺れる。

『まず一つ』

(複数もあるのか!?)

 戦慄した若い将校達の様子を穏やかに眺めながら、彼女は舌に言葉を乗せて送る。

『連邦が我が軍のザクを捕獲、粗悪品(デッドコピー)として戦場に出した』

「連邦がモビルスーツを持った、という事ですか」

『話が早いな、少佐。しかしまだ終えてはおらぬ。いい加減”待ち”を覚えよ』

「も、申し訳ありません」

 姉に頭垂れる友人にガルマは親近感を覚えた。

『粗悪品は粗悪品。未だ我が軍のザクと同等の水準に至ってはおらぬ。しかし連邦の技術層は見えぬ故、早晩に性能を上げてくるであろう。情報分析が終えたものを送る。有効に使え』

 ひと呼吸置いて、彼女は続ける。

『支援用とも云える、作業用ポッドを改修したモビルスーツモドキもルナツーでは散見されている。こちらは地上では役に立つ情報ではないが、連邦も下準備をしているという認識は持て』

 は、と応える二人の返事に小さく頷く。

『二つ目は我が軍で横領、賄賂を行う者を摘発。粛清した』

 ぴくり、と反応した。

 眉を顰め、不快感を顕にする部下と。

 目を閉じ、憂慮すべき事と認識した弟。

(良い反応をするではないか)

 キシリアはマスクの下で笑みを浮かべた。

『本国ではこの有様だ。地上は最前線。よからぬ企みを察知した場合は二人(・・)の判断で是れを裁け』

「メルティエ・イクス。承りました」

「ガルマ・ザビ、同じく拝命しかと承りました」

 かっ、と軍靴を鳴らし敬礼する。

『次は良い報せだ』

 ふぅ、と心中で息を吐く。

『中部アジア戦線に増援としてザク三十、イクス少佐には新鋭機モビルスーツを送る』

 増援にザク三十機、加えて新鋭機。

 今度の輸送団が到着した時には傷病兵を本国に戻す。

 その中にはモビルスーツパイロットも含まれている。

 当然パイロットが負傷しているという事はモビルスーツも中破、大破しているという事。

 今だに戦線は止まらず、広がるばかり。

 増援の人間は地球環境下での生活から慣らし、馴染ませなくては。

 二人には解決すべき懸案が未だに山積みで、更に積もり重なろうとしている。

 戦場で指揮を執る事だけが仕事ではない、と痛感する二人であった。

『続いて、第二次地球降下作戦の日が近い。各自来る日までに準備せよ』

 第一次より日はそう開いてはいないが、幾度も続いた出撃で二人とも疲労が蓄積している。

 撤退はしたものの、連邦が息を吹き返し向かってくるか気が気ではない。

 資源採掘部隊を率いオデッサの鉱山基地に駐屯するマ・クベ大佐とはルートの繋ぎを得て流通に成功しているが、信用ができない。独自の資源採掘区を手に入れたいとも思い始めていた。

 彼の自業自得が招いた評価である。

「閣下。一つ質問がございます」

『ふむ。申せ』

 話を聞いて、メルティエには一つ引っ掛かる所があった。

「小官とガルマ大佐は中部アジアで占領区域を拡大中です。”各自来る日までに準備せよ”とは、まるで我々に作戦に参加せよ、ともとれるのですが」

『うむ。その通りだ』

 開いた口が塞がらない、とは正にこの事。

 ここはユーラシア大陸である。メルティエの記憶が確かならば、第二次地球降下作戦は北アメリカ大陸を目標とするものだったはずだ。

 横断しろと言うのか、硬直するメルティエと沈黙するガルマは再度戦慄した。

『なっていないな、少佐。話は最後まで聞け』

「は。余りにも衝撃的なものでして、つい」

『まぁ良い。直接作戦に参加しろ、とは申しておらぬ。間接的、つまり中東方面へ進軍し陽動を掛けろという事だ』

「なるほど。時間を切り離して行い、混乱させるのですね」

『そうだ。そそっかしいのは相変わらずだな、少佐』

「…返す言葉が見つかりません」

 ふっ、と映像のキシリアが一笑。

 メルティエはがっくりと肩を落とした。

『作戦決行は今回のようにレーザー通信で直接伝える。が、通信妨害等の可能性も高い。その場合は別の連絡手段で伝える。各自滞り無く任を全うせよ。以上だ』

 敬礼の後、通信が切れる。

 彼らに解った事は、休まる日々とは無縁だ、という事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キシリアとの通信が終えた後、バイコヌール基地にHLV輸送団が到着した。

 輸送任務に従事するザクⅠや修理の為前線から戻ったザクIIがそれを手伝い、次々と物資を運び出している。その代わりに地球環境下で得たモビルスーツ戦闘データや破損した修理台、傷病兵が移し替えられ明日の明け方に地球圏を離脱するのだ。

 本国へ戻る兵と別れを惜しむ遣り取り。

 彼らに手紙等を託し、家族に届くのを願う兵。

 その光景を穏やかな表情で眺めながら、メルティエは基地内を練り歩いていた。

 彼も戦線を共にした兵に声を掛け本国を、宇宙の事を頼むと一人一人声を掛けて廻る。

 世話になった人に声を掛けるのは当然だと、彼は思っている。

 が、軍人としては上官。

 彼は自分が異名持ちという事を失念していた。

 前線指揮官として支えた彼が「よく頑張ってくれた。祖国と宇宙の事は頼むぞ」等と声を掛ければ誰しも期待されている、自分は”蒼い獅子”に頼られていると感じる。実際メルティエもそう思っているのだから間違いではないが。

 結果、古参将官組からは妬み等が多量にある為印象が悪く。新参や現場の士官達からは慕われるという軍人の出来上がりである。

 後日、この件で大掛かりな事件が勃発するのだが、それは後ほど語られるであろう。

 HLVへ運び込まれるのを見送ると、彼はその場を後にした。

 続いて、増援モビルスーツが置かれているスペースに足を踏み入れる。

「っと。これが新しい機体か」

 メルティエが建家の影から出ると、姿を現した蒼い機体に目を遣った。

 蒼いモビルスーツ。

 確実にメルティエの乗機だろう。

 ザクIIと比べるとやや直線的な部分も見受けられるが、曲線で機体が形成されている。

 頭部には指揮官用ブレードアンテナ。

 モノアイの溝の前後高が細く、動力伝達パイプが顔の横まで伸びている。ショルダーアーマーは丸型で一本のスパイクが反り返っている。

 腹部コクピットハッチとバックパックが多少形状が異なる程度。

 腕部がザクIIに比べて大きく形が違う事が気になった。

 そして胸部にペイントされた盾を背に咆哮する蒼い獅子。

「少佐、確認に来られましたか」

 搬入作業を指揮していたロイド・コルト技術中尉が受領書類を片手に歩いて来る。

「ちょうど良かった。署名を宜しくお願いします」

「ああ、構わない。所で、腕部が大きいがあれはなんだ?」

 手早く署名を済ませ、疑問点を尋ねた。

「あれはこのYMS-07、先行試作型グフの固定武装ヒートロッドですね」

「ヒートロッド?」

「対象に接触又は絡みつく事で大電流を、もしくは高熱で溶解するものらしいです」

「…主武装ではなく、補助的なものか」

「でしょうね。しかし大電流で電気回路をショートを狙うにも、熱で溶かすにしても自由です」

「対モビルスーツを意識した、という事か」

「ええ、なんでも何時ぞやの演習で開発陣が甚く刺激され、このモビルスーツにまで漕ぎ着けたとか」

「ああ、あれね」

 ”赤い彗星”シャア・アズナブル少佐と”蒼い獅子”メルティエ・イクスの一騎打ち動画は、今でもズムシティに住まう人々を騒がせる物の一つ。

 今でも”評論家”がこれが事実ではない、非常識とコメントする程だ。

 メルティエ自身、痛い思いをしたので思い出したくはない。

「これは陸戦仕様ですが。動きが素早いモビルスーツに取り付ければ、後は煮るなり焼くなり好きにどうぞ、という事らしいです」

「ふむ。他に武装は?」

「急ピッチで組み立てていますので、独自の武装はヒートロッド以外では盾に収納されているヒートサーベル。これは試作一号機らしく。三号機以降は左腕にフィンガーバルカンという近距離固定武装が内蔵されるみたいですね。ですからフィンガーバルカンの試射は出来ませんよ」

 モビルスーツ格納庫に運び入れられる資材の中に、確かにグフの塗料に合わせた盾が視れた。

「ザクIIとの武装共有化もできます。カタログをお渡ししますので、スペックの参考にご用立てください」

「ああ、助かる」

 グフのコクピットに向かいながらメルティエがカタログを読み始めた頃。

 木陰で休んでいた第168特務攻撃中隊の面々は、

「新型機は大将。とすると、少佐のザクIIは誰が搭乗するんだ?」

 ハンス・ロックフィールド曹長が自然な疑問を漏らした事で微妙な雰囲気を作っていた。

(メルとお揃い…でもあの機体確かやんちゃな子だったよね)

(改修型ザクII。がんばる)

(少佐の機体。使いこなせたら少佐みたいになれるかな)

 其処にざっくりと、

「いや、少佐の愛機は予備機として置く。あの機体は少佐用に引き上げてある。無理、とは言わないが相当の技量を要求されるぞ」

 サイ・ツヴェルク大尉が否定する。

「ありゃ、そうなのか。勿体ねぇな」

「性能を十全に扱えるならば乗ってみるが良い。確実に胃液を吐き出す羽目になるぞ」

「そんなに酷いのか、少佐の機体」

「少佐並に乗りこなそうと思うならな。通常通りに扱うならば問題はない」

 なら、と誰かが零したが。

「言っただろう、通常通りだと。それならば普通のザクIIを使え。少佐の機体はロイド中尉がカスタマイズした事を忘れるな。損傷すれば修理にも時間がかかる」

 ごもっともな次第、とハンスは肩を竦めた。

「第一、今度の機体は先行試作機。損傷すれば代用も利かない。保険の為にも少佐のザクIIは結局残さなくてはならない。付け加えるならば、先日再び中破され少佐のザクIIは現在修理中でまともに動かせない」

 ハンスに説明、というよりも「お前ら滅多な事考えるなよ」と周りに釘をさしているように思える。

 三人が肩を落としている。

 ハンスはそもそも前線で飛んだり跳ねたりするよりも後方からの狙撃をメルティエから期待されているので専用ザクIに不満はない。

 誤解されないように言うのなら、ザクIIも十分いい機体である。

(想い人と同じ色、乗っていた機体に自分も、ってぇ事かねぇ)

「あー…で、新しい機体はどうなんだ?」

「ロイド中尉とカタログスペックを拝見したが、ザクIIをより陸戦特化した機体だ。宇宙空間では使用できないが、装甲と機動性共にザクIIに勝る」

「ほぉ。そいつをキシリア閣下から送られたのか。大将もやるねぇ」

「ただ、搭載された固定武装がな」

「なんだ。おかしなもんでもついてるのか?」

 興味を惹かれたハンスが上体を起こす。

「専用の盾に、ヒートホークを剣状にしたヒートサーベルを収納している。ただな」

「なんだよ、気になる言い回しだな」

「それ以外に腕部にヒートロッドが装備されている。電流を流し、感電させ熱で溶かす。そういう類のものだ」

「ほぉ」 

 思ったより面白そうな武器だ、とハンスは感想を述べた。

「ヒートロッド。つまりは格闘、近接距離戦だ」

 サイの視線の先にはグフ。

「…うん?」

「今までは中距離をメインに戦ってらっしゃったから敢えて諫言しなかったが。格闘戦だぞ。敵に接近し集中攻撃の可能性も高くなる」

「まぁ、なぁ」

 嫌な流れだ、とハンス達パイロット一同は思った。

「撃破される可能性を引き上げてどうするのだと、グフを開発した連中に言いたいのだ」

 不機嫌を隠そうとしないサイに。

「まぁ。うちの大将の事だ。グフを開発した連中が歓喜する戦闘データをすぐ作るだろうさ」

 暢気にハンスはそう言い、燃料を投下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズゥン、と機体を通して身体に衝撃が走る。

 続いてプシュー、と排気音。

 計器類、サブモニターに目を送るが特に異常は見当たらない。

 電子音も静かに刻み、問題らしい問題はない。

 モニターには鬱蒼と生い茂る樹生。

 月明かりの下、夜露に濡れた生命力溢れる緑を存分に鑑賞したいが、現在は生憎と任務中である。

『メル、平気?』

 通信機から流れる馴染み深い声に返事をする。

「ああ、問題なし。駆動系に異常も見当たらない」

 メルティエが搭乗しているのはYMS-07、先行試作型グフ。

 この新しく受領した機体で慣熟機動を兼ねての哨戒任務中である。

 バイコヌール基地からガウ攻撃空母で移動、中東部アジアの境界線上でモビルスーツを降下。

 装備は専用シールド、それに収納されたヒートサーベル。

 空いた右腕にはザクIIで慣れ親しんだ一二〇ミリライフル。

 腰のハードポイントには予備のヒートサーベルを吊るしている。

 現在時刻が二〇〇八(フタマルマルハチ)

 問題なければここより後方のジオン勢力内で二二〇〇(フタフタマルマル)に回収予定となっている。

 僚機となっているザクIIにはアンリエッタ・ジーベル中尉が搭乗。

 残りの部隊員はガウを警備しつつ境界線を警戒している。

「月が綺麗だな」

『えっ!? えと、それって』

 何やらアンリエッタが慌てる。

「どうした。アンリ」

『…あーうん。何でもないよ。そうだよね、メルだもん。意味わかってないよね』

 何やら名誉毀損的発言だ。

 しかし、メルティエも其処は慣れたものである。

 面倒事は流す事を覚えた。

「現在作戦行動中だ。後で話は聞くから、目の前の事に集中しよう」

 操縦桿の動き、フットペダルの踏み心地等を確かめる。

『そっちから言ったのに、なにさ…はぁ、了解!』

(いかん、むくれたぞ)

 これはどうやら、ご機嫌伺いをしなくてはいけないらしい。

 いや、待て。そもそも何故自分がその様な事を。

(別に付き合っているわけでも―――)

 ヴィー!

「ちっ!」

 警告音に咄嗟に反応。

 フットペダルを踏み込み、操縦桿を前に倒すと同時にコンソールを開放、何時でも入力出来る様な体勢を作る。

 彼を良く知る整備兵曰く―――変態の構えである。

 グフはスラスターを起動。バーニア噴射口(フェルターノズル)からの炎が大気を灼き、機体を前へ前へと進ませ、撃ち込まれた砲弾を直進で回避。続いて襲う砲弾をそのまま機体の速度を上げてやり過ごす。

(なるほど、最新鋭機だ)

 ザクIIよりもスマートな加速。

 最高速度に到達する時間が縮まっているし、何よりザクIIよりも速度が出る。

 アポジモーターにエネルギーを傾けたらどうなるか、把握できていないのが悔やまれる。

(だが、やはりっ)

 重力加速度と、地球の引力が宇宙に居る時に比べて体感を狂わせる。

 想定するスピード感に到達できず、焦らされる思いだ。

 どこから狙われているのだろうか。

 グフのセンサー有効半径はザクIIとほぼ同じ三,二〇〇メートル程。

 その間には何も機影はない。

 緑の世界が広がるだけだ。

『メル、攻撃を受けてるの!?』

「! 来るなっ」

 彼女の緊張と不安の声音。

(不味い! アンリはグフじゃない(・・・・・・)ザクだ(・・・)!)

 グフの機動力だからこそ、直進のみで回避できた。

 しかし、加速と最大速度が異なるザクIIなら?

 スラスターを使えば?

 しかし、この場所は樹木が多い。

 地形を有効利用して障害物に?

 しかし、この闇夜。加えてこの場所は馴染みがない。

 彼女が正確に地形把握が出来ているか?

 彼女の声は、自分の危機に駆け付けようという意志(・・)が感じられる。

 自分の安全を度外視している!

「アンリ、攻撃地点を割り出してくれ!」

『メル!?』

 ドゥン!と側面モニターが砲弾で飛び上がった土砂とへし折れ砕かれた木を映した。

 ―――こちらの場所を観測しているのか。

 丘や建造物が存在しない森林地帯。

 身を隠す事はできるとは思うが、障害物には柔い。

 低光量映像視野、赤外線映像視野はモビルスーツにも内蔵されている。

 この二つが計算、測定を元にメインCOM(コンピューター)の演算能力で映像を作り補正される。視界は制限されているが、其れ程酷いものではない。

「お前が”俺の目”だ、頼むぞ!」 

 ドゥン、とフットペダルを通じて発動機の高ぶりを感じる。

 前面モニター、左側面モニターに光。

 右手が握る操縦桿を右に倒し、左手の操縦桿のコンソールを数度叩く。

 グフは右側に飛び、左脚部のアポジモーターで半回転と同時に腰を屈める。

 モビルスーツの全長を越す樹木が密集する場所を一時的な遮蔽物に。

 グフが先程まで居た空間に砲弾がややズレて三、四発と注がれる。

(ミノフスキー粒子は、散布されているか!)

 電波に歪みが出ている。通信はブレードアンテナのおかげか其れ程離れていないアンリエッタとのみ通信が開ける。

 どうする。自分が囮になるか。いや、それで敵の位置を測定しても攻撃を行う手立てが無い。

 完全な敵側からの奇襲だ。

 先手は潰され、主導権はまだ向こうのもの。

「―――やるか」

 灰色の双眸を細め、身体に力を滾らせる。

『メル、敵の砲撃位置、割り出したよ!』

「! 良くやった。位置情報送れるか?」

(なんだ、俺は今、何をやらかそうとしていた?)

 彼女を残して、自分は何を始めるつもりだったのか。

 ぶるり、と体が震える。

 電子音が鳴り、サブモニターにミニマップが表示され、敵との彼我の距離を測定する。

「アンリ。俺がこのまま背の高い木を遮蔽物に見立てて敵側に移動する。挟撃、もしくは反対方向から近づけるか?」

『難しいけど、やれるよ。だからメルは無理しないで』

 ふっと自然に頬が歪み、笑みを浮かべていた。

 身を案じられる事が嬉しい。

(だから、こいつだけは守る)

「安心しろ。後で話を聞くと約束したろう」

 各部の状態、異常なし。

 パラメーター、問題なし。

『―――うん。約束だね』

 体は少し前のめりに。

 操縦桿を軽く握り、コンソールには指を這わせ。

「ああ、約束だ」 

 ドンッ、と衝撃。

 急激な重力加速度に体が軋む。

 こちらのバーニア光を発見したのだろう、再び砲撃が見舞う。

(発見してから、砲撃までの時間が短い!)

 つまり、長距離砲台(トーチカ)等ではない。

 だが、モビルスーツに直撃すれば一撃で破壊されるような威力。

 61式戦車の主砲?

 否。当たり所さえ間違わなければ一撃で破壊されるようなものではない。

 では、この砲撃は一体なんだ。

「拝ませてもらうぞ!」

 ドンッ、ドンッと叩き粉砕され地面が悲鳴を上げる。

 シールドを前面に構え。土砂や木々を突進で弾きながら突き進む。

 時に森林を迂回して身を隠し、時にアポジモーターで弾道から機体を避難させる。

 アンリエッタからの敵砲撃予測位置は三〇キロメートル。

 そして、既に一〇キロメートルを通過した。

(これは、丘? この後ろからか!)

 ギュン、ボゥッ、とサブスラスターで旋回、森林をなぎ倒しながら一時着地。

(アンリはまだ歩行移動で進んでいる。派手に俺が動いているから、向こうはフリー)

 だから、

「終わらせてやる」

 ゴウッ、とメインスラスターからバーニア光を閃かせ突進。

 丘をカーブで登り、砲撃予想地点へ。

 その頃にはセンサーに反応。

 識別反応、データベースに照合有り。

「―――そう来たかっ」

 其処でメルティエの目に飛び込んで来たのは、

粗悪品(・・・)に、グフが負けるわけがねぇだろうがっ!」

 二四〇ミリキャノンを背負う(・・・)連邦製のザク、3機。

 月光が彩る丘の上で。

 地上初のモビルスーツ戦闘が、今始まる。

 

 

 

 

 

 




執筆終えたら8000文字近い。

弛れたらごめん。長すぎですね。
5000文字以下にするよう今後調整を…出来たらいいな。
一気に読まず、数回に分けてもいいかも
メルティエは緊張下、興奮状態になると口調が荒くなります。
つまり、ベットの上だと…?

読み応えあった、と思ってもらえれば幸いです。
閲覧ありがとうございました。

次話をお待ちください!

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