ぶらっく・ぶれっとif -転生した少年とIQ210の少女-   作:篠崎峡

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あんま投稿頻度上がってないですね・・・


第8話 力が欲しいなら

 俺は土下座をしていた。

 

「本ッッッッ当に申し訳ありませんでした」

「……」

 

 夏世は黙ったまま肩をさすっている。あの威力の攻撃を受けて、既に回復が始まっているのは彼女がイニシエーターだからだろうか。

 

「完全に俺の失態です」

「……私は」

 

 響太郎の額とコンクリートが熱烈なキスを交わす中で発された夏世の声は、見るからに苛立っていた。

 

「私はいらいらしています」

「すみませんでした。弁解の余地もありません」

 

 俺が、もっと戦えていれば。そもそも、装備を忘れてなどいなければ。そうすれば……夏世はこんなに傷つけられなかったかもしれない。

 額をさらに押し付ける。謝罪とは、その意思を伝えることが最も難しいカテゴリだ。どうしようもなく馬鹿な格好でも、やれること全てをやらなければ伝わらない。……全て行ったところで伝わるとも限らないのだが。

 

「何ですかあのクソ野郎は!」

「申し訳ありませんでした!!! ……ん?」

 

 珍しい。夏世が代名詞を間違えるなんて…………待てよ。やはりそれほどまでに怒っていると言うことか。いや……それも当然か。俺はあいつ一人に戦わせてしまった。まるで道具か何かみたいに……。クソッ、そんなんじゃ結局は俺も他の差別主義者と同じじゃねぇかッ。

 

「コラ聞きなさい」

「……ハッ……す、すみません!」

「全く……なんでそんなにひれ伏せってやがるんですか。別に響太郎について怒っているわけじゃないです」

「本当に、本当に申し訳…………え」

「だーかーらっ」

「……はい」

「あの飄々としたクソ男のことです!!」

 

 珍しく夏世が怒りを表層に表したことに、響太郎は驚いた。だが実際その男――椥辻(なぎつじ) 天満(てんま)に対し、響太郎は手も足も出なかったと言う苦い思いしか無い。それが原因で夏世に無理をさせたことを改めて認識し、自分自身に憤る。

 

「……クソ……」

「あの」

「?」

 

 夏世が突然いつもの口調に戻り当惑し、うっかり顔を上げてしまった。額にはまだコンクリートのアツイ感覚が残っている。

 

「確かに響太郎は無能で馬鹿でどうしようもないグズです。本当に何故あなたをプロモーターにしてしまったんでしょうか。もし過去の私に会えたならロードローラーで轢きます。ついでに響太郎も轢きます」

「いっそのこと轢いてください俺だけを!」

「は?」

 

 夏世の目から表情が失せる。そして視線が凍る。まるで矢のようだった。

 なぜ出来たかはわからないが、ガストレアを蹴倒したことで俺は調子に乗っていたんだ。肝心のところでは糞の役にも立たなかったのに……最早轢き潰されても文句は言えん。

 

「――嫌に決まってるじゃないですか」

「なぜ照れるんですか」

「私の帰る場所が無くなってしまいます」

「な……」

 

 怒っていたかと思いきや、いきなり照れに入った夏世を見て響太郎は少し動揺する。

 だが、その動揺の理由を思考することは出来なかった。

 

「えー……こほん。と、言うわけで、響太郎には特訓してもらいます」

「は?」

 

 反射的に呆けた返しが出る。同じ台詞を言って、こんなにも重みに違いがあるのかと逆に感心した。

 

「……ってまぁ、より実戦的な力をつけなきゃならねぇとは思う。ガストレアを素手で倒すとか……そんなどうやったかすらわからねぇ力で敵と戦うのは、馬鹿のすることだ」

「今の今までその馬鹿でしたよね」

「うっ」

 

 悲しいかな、図星だった。

 

「そ、それで、だ」

「なんですか馬鹿さん」

「それ敬称つける意味ねーから! ……んで、特訓つってもな……」

「ちゃんとアテがあります」

「マジかよ」

「当然です」

「なんでもっと早くに言ってくれなかったんですか」

「予想外の敵が現れたからに決まってます」

 

 あぁ、そういうことか……天満の野郎や、奥にいたマスケラ男の強さは多分ステージⅠ程度のガストレアは一蹴できるんだろう。マスケラに至っては、イニシエーターがいながら自分はその隣に立つ堂々っぷりは、自身の戦闘力に自信があるからだ。かく言う俺も……そうだった。その自信は一瞬で粉砕されたが。

 

「それと響太郎がゴミ屑のように弱かったのもありますね」

「ぐ」

「では早速行きましょうかゴミ屑」

「馬鹿野郎俺は負けんぞ俺は……」

 

 精神的な面でな!

 

「次あのチャラチャラした男に出会った時は、視線だけで捻り殺せるようになりましょう」

「なにそれこわい」

「自称サポート系の私に戦わせたんですから、代償としてそれくらい強くなってもらわないと」

「え、論に繋がりが見えないんですが」

「そうじゃないと心配で胃に穴が開きます」

「す、すまん……」

「開いてもすぐ治りますけどね」

「俺の感傷返せ!」

 

 照れ隠しだと思おう、うん。脳内の精神安定委員会による決定事項です。

 

「……ってか、行くってどこに行くんだよ」

 

 俺学校行こうとしてたんですが。別にいいけど。

 

「少し前に知り合ったイニシエーターなんですけど、とても強いです。プロモーターもかなりの強者で、IP序列は私が聞いた時で305位でした」

「305位!? めちゃくちゃ強えじゃねぇか!」

「高性能なエクサスケルトンを身につけていましたし、強力な後援者(パトロン)がいるのだと思います」

「なんだそれ……そんな奴に戦闘を教えてもらうなんて出来んのか? 俺たちのIP序列なんざ下から300位くらいにすらなってねえのに」

「つまらない冗談ですね」

「すみません……」

 

 今日の夏世さん毒舌キツイっす。でも、危険に巻き込んだのは俺だし…………やっぱり強くなる方が先、だな。精神安定なんざ二の次だ。ノイローゼを起こさないように気をつけよう。

 

「ところで彼女のプロモーターはゴツいスキンヘッドのおじさんです」

「ヤ○ザかよ……」

 

 毛筆で侠気とか書かれた奴が部屋に貼ってあるんじゃなかろうか……思ったより早くノイローゼになるかもしれん。

 

「ま、まぁ人は外見じゃねえよな。うん」

「響太郎は外見通りだと思いますが」

「どういう意味だ!」

「そろそろあなたがノイローゼになりそうなので言わないでいてあげます」

「……」

 

 話を、逸そう。

 

「それで、お前の知り合いってなんて名前なんだ?」

「うわ、幼女趣味」

「なんでそうなる!」

 

 ドン引きされている……口を開けば墓穴しか掘らないんじゃねーかコレ。

 

「……えと、名前ですよね。朝霞(あさか)ちゃん、壬生(みぶ) 朝霞ちゃんです」

「この辺には……いねぇよな」

「はい。中央の方にいますので、行きましょう」

「連絡しないのか?」

「大丈夫ですよ」

 

 そう言って夏世が口元を綻ばす。その黒い微笑を響太郎は見なかったことにした。過去に一体何があったのか気にはなったが、多分聞いたら胃が泣いてしまう。穴が開く的な意味で。夏世さんコワイ!

 

 淡く薄雲のかかった晴天の元、駅に向かって二人は歩き出す。

 夏世に対して、何か重要なことを聞きそびれている気がした。




キャラ萌え(謎)回。
丁寧語キャラ同士の会話って割とやりづらいんじゃないかと今更。

感想、ご指摘等お待ちしております。

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