東方妹紅譚~蓬莱人と幽霊~   作:さうと

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第四話

「ほい到着っと」

小町、妹紅、友子の3人がだだっ広いホールに降り立つ。

「本当は三途の川とか渡らなきゃいけないんだけど、

あたい船頭だし、めんどいから特例ってことで。」

「上に怒られても知らないわよ。まぁ楽でいいけど」

「ここが裁判所かー」

ホールの壁際にはいくつものドアがあり、それぞれのドアの前には

おそらく裁判を受けるであろう人が列をなしていた。

「はーい、裁判受ける人はこっち並んでー」

「あ、あなたは1番のドアで、あなたは9番のドアに行ってください」

何人かの死神が大声で呼びかけながら、その列をさばいている。

「なんか裁判所というより学校の予防接種みたいで威厳がないね」

「効率優先したらこうなっちゃったんだよ」

頭をかきながら小町が答える。

「で、どこに並べばいいの?」

数多のドアの前に並ぶ列を指して少女が尋ねる。

「えーと、あんたは2番だね。はい、書類。

それ書きながら並んでてよ。書き方はあたいが付き添ってるから適当に聞いて」

「わかった」

少女は「裁判手続書」と書かれた紙を小町から受け取る。

「妹紅さんはこれね」

「ああ、ありがと。あっちで書いてくるわ」

書類を受け取った妹紅は奥にある記述用の長机に向かう。

「妹紅さんに渡したのって何?」

書類に筆を走らせながら、少女が小町に尋ねる。

「死亡撤回届。本来は死ぬべきじゃない人を間違えて連れてきたとき用のやつなんだけど、

あの人みたいに不死の人が一回死んで再生したときにも書いてもらってるんだ」

「お役所ってめんどくさいことさせるね」

「役所ってのは形式が大事なんだってさ」

「ふーん。はい、できたよ」

「お、早いね」

「だって書くところあんまりないし」

「住所とか現世で必要な記載欄はないからねぇ」

小町が袂からハンコを取り出して押印する。

「はい、ドア入ったらこれを担当の閻魔に出せばいいから」

書類を少女に渡しながら小町が言う。

前に裁判を受けた人がドアから出てくると、

「次の方どうぞー」

ドアの向こうから女性の声で呼びかけられる。

「おや、今の声は……」

ドアを開けて部屋に入る少女に続いて小町も中に入る。

殺風景な部屋の中に学校によくある木目の長机とパイプイスがあった。

そこに片手に板切れを持った緑髪の女性が座っており、

その横には1メートルはあろうかという大鏡が鎮座していた。

「あれ、なんで四季様が。ここ現世の死者の裁判でしょう」

「現世担当の閻魔が多忙なので助っ人に入っています。あなたといっしょですよ」

「ああ、四季様もサボってたら手を貸せと言われた口ですか」

「前言撤回。それと後で部屋に来なさい」

「うへぇ」

余計なことを言ったという表情を浮かべ肩をすくめる小町。

「これお願いします」

少女は閻魔――四季映姫に書類を手渡す。

「ああ、すみません。では富士見友子さん、早速裁判を始めます」

「はい」

少し緊張した面持ちで少女が答える。

(あの鏡に罪が映し出されるんだよね……マンガだと調整に手間取ってたけど)

四季映姫が右手にリモコンのようなものを持ち、ボタンを操作する。

「今、罪があるところまでスキップしています。これで何もなければ鏡には何も映りません」

「へー、チャプター制なんだ」

意外に現代的な鏡の性能に友子が感心していると、

「はい。とくに罪はありません。というわけであなたは冥界行きになります」

あっさりと判決が下った。

「えっ、もう終わり!?」

あまりのスピード審理に友子が驚くと、

「善人の場合はこんなものですよ。罪を犯していたら

このあと判決文を読み上げて、この悔悟の棒で叩き、それから各種地獄に落とします。

地獄にはいろいろ種類があって……」

「四季様、四季様」

板切れを両手で持って、四季映姫が説明をしだしたところで、小町が呼びかけた。

「失礼、余計な説明でしたね。もう退出なさって結構ですよ」

「あ、はい」

正直もう少し聞いていたかった友子は残念そうな顔で、部屋を出て行った。

 

友子と小町が裁判を終えて部屋を出ると、

「どうだった裁判は?」

死亡撤回届を書き終えて戻ってきた妹紅が尋ねる。

「意外に早かったかな。罪がない人はすぐ終わるんだって」

「ふーん。じゃあ私だったら長引きそうね。10万回以上は殺してるし」

「わあシリアルキラー」

友子が全く信じていない様子の棒読みで驚く。

小町には思い当たる節があるらしく、ああ、と呟いてから

「それって永遠亭の姫様のことかい?」

「そうだよ。あのゾンビ姫のことよ」

憎々しげに妹紅はブーメランな悪態をついた。

「姫?」

「妹紅さんの古い友達さ」

「いつから友達って言葉は殺したい相手という意味になったのかしら?」

思い切り顔をしかめて、不機嫌そうな声で妹紅が言う。

「へへ、冗談冗談」

小町が楽しげに笑ってから、友子に向きなおって、

「さーて、裁判も終わったことだし、冥界に行きますかね」

「冥界ってどんなとこ?」

「静かでいいとこさ。特に昼寝に」

明らかにたびたびサボりに行っている口ぶりで小町が言う。

「冥界に行ったら妹紅さんにはもう会えないの?他にも聞きたいことがあるんだけど」

「最近は冥界と顕界の境があいまいだからね。その気になりゃ会えるさ」

「私も気が向いたら会いに行ってあげるわ」

「本当?うれしいな」

友子は微笑してそう言った。

「じゃあ、案内するからついてきて。ほいじゃ、妹紅さんまたそのうち」

「ああ、友子も元気でね」

「妹紅さんもね」

幽霊に元気も何もないはずだが、友子は特に気にせず返事を返す。

友子と小町を姿が見えなくなるまで見送って、

「さーて、また輝夜を殺しにでも行こうかしら」

そう言って、妹紅は裁判所を後にするのだった。

 

翌日、輝夜のもとに出向いた妹紅は早くも永遠亭で談笑する友子と小町を見てひっくり返るのだが、それはまた別の話――

 


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