「あの、すごくお待たせしたみたいで、その、すいません……」
いつの間にか部屋の入り口にいた男が、妹紅のツッコミを聞いて怒られたと勘違いし、謝る。
「あー違う違うなんでもないから。あ、それ自分でやるから大丈夫」
冷や汗をかきながら妹紅は救急箱をひったくった。
「そうですか……。では何かあったら呼んでください」
そういって男は部屋から出ていく。
「で、私はこれからどうなるの?」
少女が小町に尋ねる。
「裁判所に行くのさ。」
「ああ、十王の裁判。」
「おや、よくしってるね」
小町は目をパチクリさせ、少し驚いたようだった。
「マンガで読んだんだって」
「へぇー、現世にあの世のことが伝わってるんだ」
「あんたが昔漏らしたんじゃないの?」
「そうかもね。まあ別に機密ってわけでもないし」
特に否定もせず笑う小町。
こいつなら機密でも嬉々として話のタネにしそうだな、と妹紅は思った。
「まあ今は十王じゃなくて閻魔王だけになったけどね」
「あ、そうなの。でも閻魔様のところで天国行きか地獄行きか決められるんだよね」
「天国か地獄か冥界かだね。あんたはたぶん冥界じゃないかなぁ」
「冥界って?」
「あれ、そのへんは伝わってないのか」
「あなたみたいに人をおちょくるやつが行くところよ」
妹紅は憎々しげに少女に皮肉を飛ばす。
「それむしろ地獄だよね。で、実際は?」
それをさらりと受け流して少女は小町に尋ねる。
「えーと、冥界ってのは罪を犯してないやつが成仏か転生するまで過ごす所だよ」
「罪ないなら天国じゃないの?」
「天国は過密状態で今は入れないんだよ」
「地獄が土地不足ってのは読んだけど天国もなんだ」
「今は芋洗い状態のプールみたいだとかなんとか」
「じゃあ冥界でいいや」
およそ天国らしくない情景を想像し、少女は若干がっかりした様子だった。
「さーて、レクチャーも終わったしそろそろ行きますかね」
「うん、いこいこ」
軽く返事をする少女を見て、小町は意外そうな表情をした。
「親に何か言わなくていいのかい?」
「ああ、いいのいいの。ほっときゃ立ち直るでしょ」
「うへぇ」
小町がオーバーに驚いてみせる。
「普通は家族に一言とかゴネるやつが多いんだけど、最近の子はクールだねぇ」
「だって死んじゃったものはしょうがないし」
「そりゃそうだけど……」
「まあどうせ幽霊じゃ生者に話しかけられないんだけどね」
「じゃあなんで聞いたのよ……」
意味のない質問をした小町に妹紅は呆れる。
「二人とも私が居なくなったら抜け殻みたいになっちゃって。
弁当の容器も片付けないし、窓も閉め切っちゃって」
(入ったとき空気が悪かったのはそれのせいか)
と、妹紅は納得する。
「あと、お父さんいつも私をドライブに連れてってくれたんだけど、
その道を独りでドライブしに行ったりとか、私に未練ありすぎ。
挙句の果てにボーッとして事故起こすし」
「あなた、冷たいわねぇ」
「大人なんだからちゃんと立ち直ってくれないと」
きっぱりと言い切る少女に妹紅は辟易する。
「それはそうと小町。ついでに私も連れてってくれるかしら」
小町のほうに向きなおり、妹紅が頼む。
「もとよりそのつもりさ。じゃ、移動するかね」
小町が鎌の持ち手で垂直に床を突くと、あたりに紫色の光が漂い始めた。
そして、光が小町たちの周囲を包むと同時に3人の姿が消えた。
7/29 誤字修正 ×二人ともも ○二人とも