東方妹紅譚~蓬莱人と幽霊~   作:さうと

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第二話

少女はちょっと驚いたように、

「……人を死人呼ばわりとは失礼ね。証拠でも?」

「さっき手をつかまれたのに感触がなかった」

「ああやっぱり気づいた?」

少女は少し満足げな顔で自分の手を見つめる。

「っていうか、机の上に遺影あるし」

妹紅は線香が挙げられた写真立てを指さして言った。

「あ、バレた?」

「これで幽霊じゃなかったら逆にびっくりだわ」

「ふふ、さすがにわかるか」

そう笑って少女は妹紅のほうに視線を上げる。

「こっちは私に全く驚かない妹紅さんにびっくりだけどね」

「亡霊だの妖怪だのは慣れっこなんでね」

妹紅は苦笑しながら答えた。

「というか友子も私見て驚かないのね」

「明らかに致命傷なのにピンピンしてたからゾンビ的なものかと思ったの」

「ゾンビは心外ね」

ゾンビ呼ばわりされた妹紅は眉をしかめた。

「じゃあ不死鳥とか?」

「うん、それで」

妹紅は満足そうにうなずいた。

「しかし、普通は打ち所が良かったとか思いそうなもんだけど」

「口から血が大量に出てる人を見たらそうは思わないって」

「そりゃそうね」

口元に手を当てて、ばつが悪そうに笑う妹紅。

「まあ半分ぐらいはそうだったら面白いなって思って訊いたんだけど、

妹紅さんが本気っぽかったからあたりかなって」

「カマかけられたのね……」

自分より千年以上は年下の子供に誘導尋問を決められ、わりと本気で凹む妹紅。

「で、私を脅してまで連れてきたのはなぜかしら?」

気を取り直し、真顔に戻って妹紅は訊いた。

「んー、私、死んだんだろうなーと思うんだけど、死んだことがないからわかんないんだよね」

「まあ、そうでしょうね」

「だから死に慣れてそうな妹紅さんに聞こうと思って。実際どんな感じなの?」

「死に慣れてるって……まぁそうだけど」

直前の輝夜との戦いを思い出して妹紅は遠い目になる。

「まぁ教えるのは構わないけど、実体験じゃないよ。

私には普通の死は存在しない。便宜上の死はあるけど、本来の死後のことは聞いた話になるわ」

「別にいいよ」

少女が頷くのを見て、記憶をたどるように上を向く妹紅。

「えーっとね、まず死ぬと肉体と魂をつなぐ糸みたいなものを死神が断ち切る。

まぁ友子みたいに死神が来る前に切れる場合もあるわね」

「あ、そのへんマンガで読んだ。あれ本当なんだ」

「えっ、なんで現世の人間が知ってるの?」

「いや、地獄について書かれた古書をもとにして書いた人がいるの。

マンガだからフィクションだと思うけど」

「古書か……どっかの死神が漏らしたのかもしれないわね。あいつとか……」

妹紅は誰かを思い出すように呟いた。

「ふーん、糸かぁ。じゃあ私は糸が切れちゃったってわけね。死神とか来てないし」

「ああ、友子の背中から切れた糸が見えるし、今は浮遊霊ってことね」

「へー。で、死神っていつ来るの?」

「さぁ。ここんとこ忙しいとか言ってたからまだ来ないかも――あ」

妹紅が何かに気づいたように押入れのほうを見やった。

次の瞬間、背丈ほどもある大鎌を背負った赤髪の少女がそこに現れた。

「えーと、ここでいいのかな――ってあっれ。

常連さんじゃん。なにやってんのこんなとこで」

「あっ、死神だ」

「え、なんでわかったの、あたいまだ何も言ってないのに」

「そんなバカでかい鎌もったやつなんか死神ぐらいしか思い当たらないわよ」

「草刈りしにきただけかもしれないじゃん」

「そんな殺意あふれる草刈鎌なんて見たことないわ」

「違いないや」

アハハと陽気そうに死神は笑った。

「妹紅さん死神と知り合いなの?」

「ああ、こいつは死神の小野塚小町。書類書きに行くときによく会うんだ」

「書類って?」

「死んだら裁判受けるんだけど、その前に届を書かないといけないのさ。

あ、そういや妹紅さんまた死んだでしょ。後で書きにきてよ」

小町が思い出したように書類の催促をする。

「うぇ、あれ結構面倒なのよね……。もうちょい簡略化できない?」

「是非曲直庁はガンコだからなぁ。フォーマットいじるのすら怪しいよ」

「あの世でも手続きってあるんだね」

「ま、組織の宿命さね」

小町が諦め顔で呟く。

「で、ここに来たのはこの子のため?」

「そうそう。お迎え担当の死神がいっぱいいっぱいでさー。

あんましほっといたら悪霊化するかもってんであたいが代わりにね」

心底めんどくさそうな顔で小町はため息をつく。

「死神が来たってことはやっぱり私死んだんだね……」

少女が沈んだトーンの声とともにうつむく。

「急にどうしたのよ?」

さっきまでとうって変って沈んだ様子の少女を見て戸惑う妹紅。

「うぅ……」

手をぶらぶらさせ、かすれた低い声で少女がうめく。

「うそだ、うそだ、うっ、ぐ、あああああぁぁぁ!!」

少女は頭を抱え、苦悶の表情を浮かべ絶叫する。

「うわ、ちょ待って!まさかここで悪霊に――」

身構える小町と妹紅。

すると少女は顔を上げて、

「なんちゃって」

思わずひっくり返る妹紅と小町。

「おちょくっとんのか!」

「うん。どうだった悪霊化っぽい演技?」

まったく悪びれず言い放つ少女に呆れ返る二人だった……。


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