東方妹紅譚~蓬莱人と幽霊~   作:さうと

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ハーメルンでは初投稿になります。
東方二次創作の小説は初作成なので、うまくできているか心配ですが、
読んでいただけると嬉しいです。

全4話で毎日更新の予定です。

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第一話

「あーもーもうだめ疲れた!」

肩で息をしながら妹紅は天を仰いだ。

「じゃ、今回は私の勝ちね」

輝夜の勝ち誇った声とともに五色の閃光が妹紅の全身を貫く。

「ぅぐっ……ちっ」

妹紅は舌打ちしてその場に倒れこんだ。

それを見た輝夜はため息をついて座り込む。

「やーっと終わったぁ!」

「今日は長かったですね姫様」

観戦していた永琳が声をかける。

「まったくよ。昼間から始めてもう朝じゃない。あー疲れた」

「向こうは体力が尽きてましたね」

「妖術は体力を使うのよ。それをあんなバカスカ撃ったらああなるに決まってるわ」

ホコリまみれの服をはたきながら、輝夜が呆れたように言う。

「月の術は体力消耗がありませんからね。運動不足の姫様にはちょうどいいでしょう」

「姫が運動不足で何が悪いのよ。といってもやっぱり疲れたわね」

「休まれてはいかがですか。お布団は敷いてあります」

「あら、ありがと。じゃ3日ぐらい寝てくるわ。おやすみー」

おかしな単位の睡眠時間を宣言して輝夜は奥に消えて行った。

「あのー、師匠。妹紅さんはどうしましょうか?」

一緒に見ていた鈴仙が亡骸の処遇を聞く。

「そうね……姫様の安眠のために幻想郷の外への遺棄を命じます」

「分かりました。捨ててきます」

「なーんて、あ、ちょ……」

言うが早いか物言わぬ藤原妹紅を抱えて鈴仙は走り去っていった。

「……冗談だったんだけど」

 

 

「ん……ぐ」

うめき声を上げながら妹紅は立ち上がった。

「あーあ、死んだ死んだ。調子に乗って飛ばしすぎたわ」

と、ズボンについた泥をパンパンとはたきながら言った。

「にしても遺棄だなんて。ひとを死体扱いしないでよね!……事実だけど」

さっきまで死体だったとは思えない元気さで恨み言を吐いた。

そして、ひとしきりあたりを見回して、

「で、ここはどこかしらね。街道みたいだけど」

妹紅は黒く舗装された道の真ん中に立っていた。

「とりあえず適当に歩いて――」

ぶぅー……

かすかだが、低いうなるような音が聞こえてきた。

「ん、何の音?虫かしら?」

低い音はだんだんと迫ってくるようだった。

「……何あれ。こっちくる。」

中に人の入ったメタリックな塊が勢いよく近づいてきた。

現代の人間ならばすぐさま脇に飛び退くだろうが、彼女は幻想郷の人間だった。

車を知らなかったのだ。

「ギャーッ!」

ゴンという衝突音とともに、中空へ舞い上がった彼女はそのままきりもみ落下して鈍い音を響かせた。

その音に驚いたように車は停止する。

「いったー……!」

常人ならまともに動けない傷を負っていただろうが、

そこは髪の毛一本からでも再生できる彼女のこと。

すぐに立ち上がる。

バンパーがひしゃげた車の中からのそりと男が出てきた。

青ざめた顔でうつろな目を妹紅に向けると、

「あの、大丈夫……ですか」

覇気のない声で呼びかける。

「大丈夫だけど大丈夫じゃない!いったい!マジ痛いっ!」

妹紅が口から滝のように血を流しながら叫ぶ。

「と、と、とりあえず、家で手当てを……」

普通なら救急車を呼ぶところだが、尋常じゃない量の吐血を見て気が動転しているのか男は手当てを申し出た。

「あーいや、それには及ばないよ」

妹紅は血をぬぐいながら男の申し出を断り、立ち去ろうとする。

(この世界で不死の躰がバレるとまずそうだし……)

「いいじゃない。来てよ」

いつのまにか妹紅のそばに少女が立っていた。

「だから別にいいって……」

「お姉さん、死なないんでしょ?」

耳元でそう囁かれて妹紅は少女のほうを振り返る。

少女は少し得意げな表情をしている。

「あなた、どうして……」

「来ないと叫んじゃうよ。ここに化け物がいますよって」

「めんどくさくなるからやめてよ!あーもーわかった行けばいいんでしょ!」

半ばヤケになって叫んだ。

その声に男はビクッと体を震わせ、少し脅えた声で

「そうですか。では後ろに乗ってください」

と言って、後部座席のドアを開けた。

「ささ、乗って乗って」

少女が妹紅の手を取って引っ張る。

「ん?あ、ああ」

少し怪訝な顔をして、妹紅は車の助手席に乗り込んだ。

 

 

特に会話もないまま車は平屋の家屋の前に到着した。

男は先に降りて家の鍵を開けに行ったあと、助手席側のドアを開ける。

どうも、と妹紅は言って車から降りる。

少女は先導するように玄関扉の前に立った。

「散らかってるけど、まあとりあえず入ってよ」

「じゃ、お邪魔するわ」

扉を開けると、生ごみのような臭いと重く澱んだ空気が流れてきた。

「う、これは……」

思わずあとずさりする妹紅。

その脇をすり抜けて男が家に入る。

「どうぞ。今、救急箱を取ってくるのでこの部屋で待っていてください」

男が玄関を入ってすぐの廊下右側のドアを開ける。

「私の部屋だよ」

「いいの、入って?」

「別にいいよ」

「そう」

少女の許諾を取り付けて妹紅は部屋に入った。

そのあとから少女が部屋に入る。

「お姉さん、名前は?私は富士見友子。友子でいいよ」

少女が自分の名前を告げる。

「……藤原妹紅」

警戒しながら妹紅も名乗った。

「それで妹紅さんに聞きたいことが――」

「その前にこっちが訊きたいわ」

早速下の名前で呼ぶフレンドリーさに呆れつつ、妹紅は話を遮る。

部屋の中を見回しながら妹紅は少し小声で言った。

「死人はこの世にいちゃいけないって知ってるかしら?」


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