ブラック・ブレット 転生者の花道   作:キラン

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投稿です。今回の話でオリキャラ、というかクロスキャラを出します。まぁ、予告で既にバレバレなんですけどね


第三話 初仕事 親衛隊

「ガストレアが出たって、こんな場所でか?」

 

 俺は周囲で遊ぶ子供たちとソレを見守る大人たちがいる公園と外回りだろう、サラリーマンが行き交う道路の真ん中で呟く。

 

「ソレを確認するのが、私たちの役目だ」

 

 そういって、後ろから声を掛けたのは俺より年上の青年。その後ろには同い年くらいの少年がいる。

 

「聖天子様の聖室護衛隊、実働部隊隊長の呉島貴虎だ」

 

「隊長補佐の駆紋戒斗だ」

 

「葛葉コウタだ。ていうか、実働部隊って二人だけなのか?」

 

 素朴な疑問を告げれば呉島さんは苦笑して頬を掻き、戒斗は明らかに不機嫌となって歩き出してしまう。

 

「あ、おい?」

 

「俺たちの仕事はガストレアがいるかどうかだ。喋っている暇はない」

 

 そういって、ガストレアを探し出す機械を弄り始める。

 

「済まない。戒斗も悪気があったわけじゃないんだ」

 

 呉島さんが小さく告げてくるが、俺は首を横に振る。

 

「いや、きっと俺の所為だろうな。依頼されたときに言われた言葉を思い出したよ」

 

「まぁな。護衛隊長率いる本隊は皆エリート組みだ。私や戒斗は他の部署や職場から引き抜かれて護衛隊になったが」

 

「成る程ね。エリートの奴らが一方的に嫌っていると」

 

「あぁ、アイツ等は事務仕事が優秀なのはいいが、戦闘経験は素人に毛が生えた程度でな。だが、エリート意識が強い所為で、私たちは格下扱い。この任務も私たちが聖天子様から直々に任命された事が気に食わないようだ」

 

「ま、それをチャンスと見ているアイツは凄いよ」

 

 そういって、俺は呉島さんを見て、頷く。

 

「それじゃ、始めましょうか。このまま何もしないってのは格好悪いですし」

 

「その意気だ」

 

 お互いに笑みを浮かべて俺たちは戒斗の両隣に移動して手伝う。

 

「なぁ、ガストレアが出た場合なんだけどさ」

 

「俺たちも戦う。元々俺たちはその為の部隊だからな」

 

 そういって、掲げるのは小型の槍だ。隣の呉島さんも銃の確認を行っている。

 

「心強いな」

 

 俺がそういうと、戒斗が小さく笑みを浮かべ。

 

「お前の出番はないかもな。鎧武者」

 

 そういって、歩き始める。ていうか、今変な単語が聞こえたんだが。

 

「待った、鎧武者って俺のことか!?」

 

「当たり前だろう?お前の資料を見たが、それがピッタリだ」

 

「せめて、もう少し格好いい名前にしねえか?ほら、子供たちが覚え易いようなさ」

 

 俺はそう文句を言いながら二人の後を歩き始める。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ガストレアの調査?」

 

「はい、ここ最近、市街地でガストレアを見たという報告があるのです」

 

 その日、凰蓮さん経由で聖天子に呼ばれた俺はそんな依頼を頼まれた。

 

「報告だけなのか?被害は?」

 

「それが不思議なんですが、目撃情報だけで被害については全く無いんです」

 

「【呪われた子供たち】の線は?」

 

「信頼できる部下に確認させましたが。違いました」

 

「もし、ガストレアだったら変だな」

 

「えぇ、妙です」

 

 凰蓮さんの店に居候してから三日。ネットや図書館で調べた情報を思い出しながら俺は呟く。

 

「通常、ガストレアは本能で動き、人間を見ると、捕食又はガストレアウイルスを注入して数を増やすんだよな?」

 

「えぇ、その通りです。ですが、襲われた人もいなければ【感染爆発】の報告もありません。正直、誤報だと信じたいですが」

 

「決め付けるには情報が足りなさ過ぎるか。そこで、俺の出番か」

 

 そう俺が告げると聖天子は申し訳無さそうに俯く。

 

「すみません。私自身の権限で動かせる人員は限られていますし。民警に依頼したほうがいいでしょうが」

 

「まぁ、対処できるなら身近な人間のほうが信頼できるわな。それに民警に頼んで、失敗したら大きな損失だ」

 

 そういうと、彼女は小さく頷く。

 

「まぁ、頼られて悪い気はしないさ。調査は俺だけなのか?」

 

「いえ、貴方の補佐として聖室護衛隊を動員します」

 

「アイツ等か……」

 

 あの人を見下しきった偏見の塊のような奴ら。ソイツ等と一緒に仕事というだけで気が滅入る。

 

「あ、いえ。今回同行するのは実働部隊の方なんです」

 

「実働部隊……?」

 

「はい、そのコウタさんには護衛隊が一枚岩ではないことを知って欲しいのです」

 

「……そんな身内の話を俺にしていいのか?」

 

「コウタさんは信用できますから」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「目撃情報はこの近くだ」

 

 依頼当時の事を思い出していると目的地に着いたようだ。軽く見回すが、路地裏が近いだけで特に変わったところは見当たらない。

 

「ガストレアの反応は無しか?」

 

「地下に隠れてるとかは?」

 

「推測としては悪くない。だが、地下に隠れようとしてもガストレアの体長は数メートル。そんな大きさの怪物がどうやって地下に潜る?」

 

 俺の推測を戒斗が否定する。

 

「いや、否定するのは早い」

 

 呉島さんがそう告げる。彼は工事に使う看板を叩く。

 

「見ろ。地下水道の拡張工事だ。現場が近い」

 

「大きさは?」

 

「普通ダンプトラックが余裕で入れる大きさだ。行ってみる価値はある」

 

 そう言った呉島さんに俺たちは顔を見合わせて頷く。

 

「行くぞ」

 

 呉島さんの言葉に俺達は走り出す。だが、一瞬、視線を感じた俺は周囲を見回す。

 

「おい、何してる?」

 

「何か気になる事でもあったのか?」

 

 前を走っていた二人が聞いてくるが、視線らしき気配は消えていた。その事に俺は首を傾げながら。

 

「いや、多分勘違いだ。今行く」

 

 

 

 

 

「ヒヒヒ、この距離で勘付くとは中々素質があるのかな?」

 

「でも、弱そうだよ。あの人たち」

 

 コウタ達から1km程離れた所に立つビルの屋上で燕尾服にシルクハット。顔にはマスケラと舞踏会にでも出るのか、と思う程の姿の人物とその隣にはヒラヒラと可愛らしい衣装の少女が会話していた。

 

「こらこら、人を見た目で判断すると痛い目に遭うのだよ?覚えておきなさい」

 

「はぁい♪」

 

「さて、どうやらあの三人は例の場所に行くようだ。フフ、意外と察しが良いじゃないか。だが、君達でアレは対処できるのかな?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おぉ、デカイな」

 

 工事現場の入り口。巨大なトンネルの前で俺が呟く。

 

「どうやら先客がいるようだ」

 

 トンネルの入り口で屈んでいた呉島さんがそう呟く。

 

「民警ですか?」

 

「恐らくな。靴跡は三人分、内二つは子供用だな。子供の肝試しに大人が付いて行く事は先ずないだろう。なら民警だな」

 

「ガキ共を戦わせて、大人は高みの見物か。気に入らないな」

 

 呉島さんの推測に戒斗が吐き捨てる。

 

「だが、此処で立ち止まっていても事態は変わらん。用心は怠るな」

 

「協力は出来ないんですかね?」

 

 そう俺が聞くと、呉島さんは首を横に振る。

 

「難しいな。君も知っている通り、IP序列優先で此方を妨害する輩かもしれない。それに俺達は聖室護衛隊。聖天子に個人的なパイプが欲しい企業は幾らでもいる」

 

「戦闘は避けられないか」

 

「誰であろうと邪魔するなら倒すまでだ」

 

 そういって、戒斗が歩き出す。俺も顔を上げて歩き出す。

 

 

 

 

 

「それにしても、此処って工事現場ですよね?人がいないのはどうなんでしょうか……?」

 

「二週間ほど前、此処で行方不明者が出たらしい。それ以来、原因究明として工事現場は封鎖しているようだ」

 

 トンネル内を歩きながら俺が呟くと呉島さんが懐中電灯で先を照らしながら答えてくれた。

 

「封鎖?その割にはそういった人はいませんけど」

 

「封鎖は建前だろう。言ったはいいが、そこに割ける人員も費用も出せず、政府にも報告はしなかった。聖天子様もこの事件がなければ封鎖の事も知る事はなかっただろうしな」

 

 何と言うか、嫌な現実を教えられた。

 

「それにしても、この臭い……」

 

 先程から鼻腔を刺激するこの臭いは。

 

「糞尿と……血、そしてナニカが腐った臭いだな」

 

「どうやらビンゴの様だ」

 

 俺の言葉に戒斗が顔を歪めて呟くと、懐中電灯を斜め上へ掲げた呉島さんが引き攣った顔でそう告げる。俺と戒斗も同じように顔を上げれば。

 

「っ!?」

 

 巨大な口があった。いや、穴と言うべきか。巨大な穴がゆっくりと広がり、閉じている。そしてそこから生温かい腐臭が定期的に吐き出され、粘着性のある液体が俺達の足下に落ちる。

 

「こっちに気付いていると思います?」

 

「まだ、の様だな。恐らくは条件がある筈だ。音と光は除外していいだろう」

 

「アレは芋虫……なのか?」

 

「全体像を見ないとどうにもな。だが、こんなガストレアがいるんですか?」

 

 ゆっくりと後退しながら俺達は言葉を交わす。

 

「分からん。だが、ガストレアは理論上、全ての動植物のDNAを内包する化け物だ。ならば、そういった物に進化する物もいるのだろう」

 

 ある程度の距離を取り、俺達は一度、大きく息を吐く。

 

「あぁ、くそ。落ち付いたら臭いが鼻に付くな」

 

「煩いぞ、皆同じなんだこれぐらい我慢しろ」

 

「臭い……?いや、まさかな」

 

 俺達の会話に呉島さんが呟く。ふと、視界の端でナニカが動いたのに気付く。俺は慌ててベルトを装着して何時でも変身できるようにロックシードを取り出す。

 

「どうした?」

 

 呉島さんの声に俺はジェスチャーで屈むように指示した。思いの外、二人とも素直に応じてくれた。俺はゆっくりとソレに近づく。

 

(段ボール……?)

 

 暗闇に慣れた目は目の前のソレが積まれた段ボールだと分かる。俺はゆっくりと段ボールを剥ぎ取る。どうやら幾つもの段ボールを重ねていたようだ。

 

「ひっ!?」

 

「あっ……!?」

 

 そこにいたのは双子なのか、瓜二つの女の子だ。質素な服を着て、腰には大きな鉈とリボルバー1丁。とてもじゃないが、ガストレア相手には分が悪過ぎる。

 

「た……助けて」

 

 恐怖に顔を歪ませた二人の女の子の内、サイドテールの子が消え入りそうな声で呟く。

 

「どうやらイニシエーターの様だな」

 

「だが、装備が軽すぎる。プロモーターは何を考えて……」

 

 後ろで呉島さんと戒斗が話しこんでいる中、俺はゆっくりと双子の頭を撫でる。

 

「良く頑張ったな。偉いぞ」

 

 小さく、それでも二人に聞こえるようにそう告げる。二人は俺の言葉に強張った表情を和らげる。

 

「取り敢えず、二人を保護だ。アレは後にしよう」

 

「あぁ、今の装備じゃアレには勝てない」

 

 二人の言葉に俺は頷き、後ろを振り向く。

 

「戒斗!!呉島さん!!!」

 

 俺の叫びに二人は同時に左右へ跳ぶ。瞬間、二人が居た位置に巨大でブヨブヨしたナニカが落ちる。

 

「嫌ぁぁっ!?」

 

「来ないでぇぇっ!?」

 

 その光景を見た双子が狂ったように泣き叫ぶ。

 

「コイツは!?」

 

「やはり、このガストレア。獲物を臭いで付き止めるのか!?コウタ、君はその子を連れて先に逃げるんだ!!戒斗は私と共にコウタの援護!!間違っても変な欲は出すな!!」

 

「「了解!!」」

 

 返事と共に泣き叫ぶ二人を小脇に抱えて、走り出す。背後で銃声が聞こえる。咄嗟に後ろを振り向いた俺が見たのは。

 

(マジかよ!?ミミズのガストレアだと!?)

 

 幾重の体節にマフラーの様に太くなった白い帯状が確認出来る。

 

「嫌、嫌嫌嫌イヤイヤイヤいやァッ!!」

 

「御免なさい、御免なさい、ゴメンナサイ、ゴめんナサい!!」

 

「おい、しっかりしろ!!」

 

 声を掛けても、二人は一向に大人しくならない。

 

(まぁ、当然か。あんな奴の近く、腐臭がして、しかも暗闇の最悪な環境だ。どれだけの時間いたのか知らないが、相当なストレスだったんだろうな)

 

 だからという訳ではないが、俺は走る速度を速めて、二人を落とさないように強く抱きしめる。

 

『■■■■■■■■ッ!!!!!!!!!!!!!』

 

 背後からトンネルのコンクリートに罅を入れながら形容しがたい声が聞こえる。その声に抱えていた二人が暴れ出す。同時にグラリとバランスが崩れる。

 

「マジか!?アイツ、声帯も持ってるのかよ!?」

 

 驚くと同時に囮の二人の事を思い出し、歯噛みする。離れていてこっちも三半規管を揺らされたんだ。最悪、二人ともショック死。良くても鼓膜が破れてる。

 

「糞!!」

 

 悪態を吐くと同時に外に出た。暗闇に慣れた目では昼の太陽は眩し過ぎる。

 

「いいか、二人とも。ここでジッとしてろよ!!」

 

 下ろした二人に半ば怒鳴りつけるように告げながら内心で自分の余裕の無さに舌打ちする。

 

【オレンジ!!】

 

「変身!!」

 

【ロック・オン!!】

 

 空にオレンジが出たが、俺は無視して走り出す。人二人を抱えて全力疾走した後で、また走り出した所為か、脇腹が痛いが、構っていられない。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!!!】

 

「間に合ってくれ!!」

 

【メロン!!】

 

【バナナ!!】

 

 そう叫んだ瞬間、有り得ない音を聞いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ミミズのガストレアとは恐れ入る」

 

 こちらに口を向け、退化したであろう窪んだ赤い瞳を見返しながら私は小さく呟く。

 

「ふん、殺し甲斐がありそうだ」

 

「目的を間違えるなよ、戒斗」

 

「分かっているさ。それで、あの双子をどう見る?」

 

「あの怯えよう。恐らくは目の前でプロモーターを喰われたんだろう。そして私達が来る間、あの段ボールで身を隠していた。息を殺し、恐怖に震えながらな」

 

「……今すぐ殺してやりたいな」

 

 静かに怒りを露わにする戒斗に何処か安心を感じつつ、違和感を覚える。

 

「先程の捕食行動から今までにマガジン一つ分、バラニウム弾を叩きこんだが、依然として動かないな」

 

「もう死んだんじゃないのか?」

 

「笑えない冗談だ。いいか?ミミズはあらゆる汚染物質に対して高い耐性を誇っている。そして奴がそのままミミズとしてDNAを引き継いでいるのならばバラニウムなど当の昔に克服している筈だ。それに奴の捕食方法は丸のみ。ならば、先に食われたプロモーターが所持していたバラニウム製の武装も奴の胃袋に入った筈だ」

 

「ハッ!!つまり手詰まりか」

 

 吐き捨てる戒斗に悔しいが同意する。私の推測が正しければ奴はバラニウムに対して強い耐性を持っている。もし、コイツがこんなノンビリとしたガストレアでなかったら今頃、東京エリアは終わっていた。

 

「ゆっくりと後退し、戻ってくるコウタと合流する。それまで刺激するなよ?」

 

「分かっている」

 

 戒斗の言葉を聞き、後ろに下がった時、背中から風が吹いた。

 

(外からか……?いや、これは!?)

 

「戒斗!!!耳を――――」

 

『■■■■■■■■ッ!!!!!!!!!!!!!』

 

 ソレは最早、音でなく衝撃となって俺達を吹き飛ばした。耳を塞いだかどうかは問題ではない。今の衝撃で確実にアバラが折れ、叩きつけられた拍子で臓器を傷付けたのだろう。吐き出したのはドス黒い血だった。

 

(これほどとは……戒斗は?)

 

 視線を巡らせれば壁際に蹲っている戒斗がいる。意識はあるようで、苦悶の顔を浮かべていた。そして視線を前へ巡らせればゆっくりと顔を近づけるミミズのガストレア。体は動かない。どれだけ力を入れ、その反動で激痛が奔ろうとも指が動かない。

 

(ここまで……なのか?光実……私は……)

 

 思い浮かべるのは戦争によって唯一残った幼い弟の笑顔だ。今度、アイツの勉強を見る約束をしていたのに。

 

(済まない、光実。約束は守れそうにない)

 

 だが、最後の瞬間までは屈しない。ソレは戒斗も同じだろう。視界の端で槍を杖代わりとして起き上がろうとしている。

 

(あぁ、そうだ。絶対に屈指はしない!!)

 

 強い決意を込めて、近付くガストレアを睨んだその時、声が聞こえた。

 

「いい覚悟だ。此処で死なすのは惜しいな」

 

 瞬間、時が停まった。比喩ではない。近づくガストレアも先程の雄叫びで罅が入り、そこから落ちるコンクリート片がその場で止まっている。そして私達の前には一人の男が立っていた。

 

「初めましてかな、人間」

 

 誰だ。そう問おうとした瞬間、血を吐く。吐血の量が明らかに多い。

 

「ふむ、やはり人間は脆いな。しかし、このまま死なす訳にはいかないか」

 

 そんな事を呟いた直後。身体を支配していた痛みと倦怠感が消える。

 

「なに……?」

 

「これで、マトモに話が出来るな。全く、脆い人間を直すのは苦ではないが、もう少し堅く創れないものかな。まぁ、そういう所が愛おしいと感じるのだろうが」

 

「貴様、何者だ」

 

 見れば戒斗もまた、傷が治ったのか、男に向かって声を放っている。

 

「ふむ、人間よ。その問いは今必要な問いかな?」

 

「なに?」

 

「今お前達が優先しなければならないのは私への質問かと聞いている」

 

 違う。今俺達が優先しなければならないのはガストレアの殲滅だ。だが、それでも男への興味は尽きない。

 

「しかし、人間とは面白い物だ。他の生物よりも脆く、弱々しいのに幼い同族には身を呈してまでも守ろうとする。己が血族でもないのに」

 

「それが人間というものだ」

 

「だが、逆にその幼い同族すらも手に掛ける。矛盾した生き物だな」

 

「何が言いたい?」

 

 やや苛立った戒斗が男の言葉を遮る様に強く問いかける。

 

「いや、何。私も考えたのだよ。この世界は既に滅亡へと片足を突っ込んでいる。今更、異分子を一つ放り込んだ所で世界は何も変わらない。ならば増やしてみようとな」

 

 そう呟いた途端、私と戒斗の前にバックルと錠前が現れた。

 

「これは……コウタが持っていた」

 

「成る程、あの少年はコウタと言うのか。まぁ、呼び名など私にはどうでもいいが」

 

「俺達に何をさせたい?」

 

「御自由に」

 

 男の言葉に私達は言葉を失くす。

 

「人とは選ぶ生き物だ。ならば、君達も選ぶがいい。力か死か」

 

 大仰に手を開いた男に私は彼の目的が分からない。

 

「お前は一体誰だ?」

 

「君達を救う神。または人類を滅亡へと付き落とす悪魔。好きな解釈を選びたまえ」

 

 彼の答えに私は益々分からなくなった。

 

「フン、貴様が神だろうと悪魔だろうと関係ない」

 

 そんな私の背から力強い言葉が聞こえる。

 

「目の前に力があるのならば俺に迷いはない。俺は俺の信念の為にこの力を振るう!!」

 

「ハレルヤ!!見事な覚悟だ、人間。その強靭な意志は力を授けるに相応しい」

 

(そうか。そうだったな、戒斗。お前は何時も真っ直ぐだ。その槍の様に)

 

 心の中で小さく笑いながら私はバックルを見る。そしてその奥に弟の光実の顔を見た。

 

(そうだ。私はこんな所で死ねない。アイツを一人ぼっちにする訳にはいかない)

 

「君はどうする?」

 

「決まっている」

 

 答え、私はバックルと錠前を手に取る。

 

「私は死ぬわけにはいかない。私には守らなければならない者がいる!!その為ならば、悪魔であろうと利用するまでだ!!」

 

「では、君達の健闘を祈ろうか。足掻くがいい人間よ。お前達が希望を捨てない限り、その生は眩き太陽の様に輝くだろう」

 

 その言葉を最後に時間が戻る。

 

「戒斗!!」

 

 叫び、後ろに跳ぶ。ミミズは突然の出来事に動きが止まっている。

 

「やるぞ……」

 

「あぁ……」

 

 バックルを腰に当てる。同時にベルトが巻かれる。私達は錠前、ロックシードを掲げる。

 

【メロン!!】

 

【バナナ!!】

 

「「変身!!」」

 

【ロック・オン】

 

 法螺貝の響きと洋風のファンファーレが鳴り響くと私にメロン、隣の戒斗にバナンが降りる。

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!!Knight of Spear!!】

 

「バナナ?バナナ!?バナナァ!?」

 

「バナナじゃない!!バロンだ!!!」

 

 後ろの声に振り向けば既に変身を終えたコウタが立っていた。

 

「ふ、二人とも。その姿は?」

 

「ふん、よく分からん男から受け取った物だ。正直お節介だが、この力は確かに強力な様だ」

 

「これで、君と対等だ。行くぞ!!コウタ、戒斗!!」

 

「あぁ!!」

 

「よっしゃ!!ここからは俺達のステージだぁっ!!!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 走り出した俺達に対して、目の前のミミズはその巨体から想像できない早さで突撃してくる。

 

「舐めるなァッ!!」

 

 コンクリートを踏み砕きながら戒斗が持つ槍、バナスピアーの突きがミミズの頭部を粉々に砕く。

 

「ハァッ!!」

 

「おりゃ!!」

 

 その間に側面へと回っていた俺の大橙丸と呉島さんの無双セイバーがミミズの身体を刻みながら前へと進む。

 

「コイツ、斬った傍から再生してるぞ!?」

 

「ならば、再生できない程の攻撃を与えればいいだけだ!!」

 

【バナナスカッシュ!!!】

 

 戒斗の言葉と共に彼のベルトから音声が鳴る。呉島さんもベルトの刀を斬る様に倒す。

 

【メロンスカッシュ!!!】

 

「了解!!」

 

 俺は大橙丸を左手に持ち替え、右手で無双セイバーを抜いた後、両方の柄を合わせてナギナタモードへと切り替える。

 

「んで、これだったな!!」

 

【ロック・オフ】

 

 ベルトのロックシードを外し、無双セイバーへ取りつけ、掛金を押し込む。

 

【ロック・オン!!イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン・オレンジチャージ!!!】

 

 その音声が合図のように俺達は一斉に動き出す。

 

「オラァッ!!」

 

 先ずは俺が最初にナギナタを思いっきり振る。振るった刃からオレンジ色のエネルギーがミミズを巨大なオレンジが拘束する。

 

「これでぇ!!!!」

 

 バナナのエネルギーを纏わせたバナスピアーを構えて、叫びながら突撃する戒斗。

 

「終わりだぁっ!!!!」

 

 左手に装備した緑色の盾、メロンディフェンダーにメロンの様なエネルギーを纏わせた呉島さんがメロンディフェンダーを投げつける。

 

「セイヤー!!!!!」

 

 突撃する戒斗と擦れ違うように俺が走り抜け、ナギナタモードで一閃。ほぼ同時に決まった三人の必殺のエネルギーが爆発して、トンネルが閃光と轟音が包み込まれる。

 

「やったか!?」

 

「戒斗。それ、やってないフラグなんだが」

 

「いや、どうやら倒したらしい」

 

 呉島さんの言葉に目を向ければ確かにミミズガストレアは細かな肉片となって焼け焦げて散らばっている。

 

「フン、こんなものか……」

 

「うっしゃあ!!俺達の初勝利だ!!!」

 

 余裕綽々といった態度の戒斗の肩を抱いてそう叫ぶ。ていうか、めっちゃ興奮する。やっぱ、仮面ライダーの同時必殺技はガチだわ。

 

「離れろ。それよりも、保護したイニシエーターはどうした?」

 

「あ、ヤベ。忘れてた!!!」

 

 そういった直後、パラパラと上からコンクリートの破片が降ってくる。

 

「ガストレアの咆哮に加えて、先程の爆発。逃げた方がいいな」

 

「冷静に言ってる場合か!!走れ!!」

 

 戒斗の叫びに俺達が走り出した直後、トンネルが崩落し始めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「戒斗~……生きてるか~?」

 

「誰に……向かって……言っている」

 

 息も絶え絶えに俺は仰向けに倒れて声を掛ける。対する戒斗は地面に座りながら同じく息も絶え絶えに言葉を返す。

 

「あぁ、今日ほどお天道様の下に居られる事を嬉しく思った事はないぜ」

 

「不本意だが、同意してやる」

 

 そういって俺達は大きく息を吐いて、空を見上げる。あぁ、青空が綺麗だ。

 

「戒斗。お前と呉島さんが会ったって奴はこう……偉そうな奴だったか?」

 

「なんだ、いきなり?……あぁ、行け好かない程に尊大な奴だった」

 

「やっぱり……か」

 

 俺だけでは力不足だと思ったか、単に気紛れか。それは分からないが、正直助かる。

 

「コウタ、君は彼を知っているのか?」

 

「俺にも分かりません。突然現れて、このベルトとロックシードを渡して消えた奴ですから」

 

 取り敢えず誤魔化そう。転生とか異世界とか頭が痛いし、これ以上此処にいたくない。

 

「聖天子様への説明はどうするべきか」

 

「有りのままを伝えるしかないよな~」

 

 そういって、俺は救急車の担架に乗せられて、運ばれる双子を見る。

 

「報告で分かった事だが、彼女達は昨日、あのトンネルに入ったらしい。恐らくは俺達と同じく調査だったのだろう」

 

「丸一日……か」

 

 呉島さんの言葉に俺は小さく呟く。

 

「私達も報告に戻るぞ」

 

「俺としてはその前にシャワーを浴びたい。汗と腐臭の所為で鼻が曲がりそうだ」

 

「同感だ」

 

 そういって立ち上がる戒斗の後に続く様に俺も立ち上がる。その時、ベルトでカチャリと音が鳴った。

 

「ん……?」

 

 見れば、ベルトの横に知らないロックシードが繋がっていた。

 

「何時の間に……?」

 

 手に取ってみれば、ソレはパイナップルを模した錠前だ。そしてベルトを良く見れば、小さいロックシードが生っている。

 

(これって、ベルトからロックシードが生まれてるのか……?)

 

 なんて、無駄に高性能な。いや、ロックシードが増えるのは有難いが。

 

「まぁ、有難く使わせて貰うさ」

 

 小さく呟いた俺は声を掛けて来た戒斗に返事をしながら歩き出す。

 




【朗報】この世界の光実は延珠と同年代、同じ学校、同じクラスです!!そして新たな仮面ライダー登場。正直、主人公だけだと戦力不足ですし、原作主人公も仮面ライダーに……難しいかな。また、ここで新たに登場した主人公の戦極ドライバーの新能力。ロックシードに関しては最初は神様が一々持ってくるという事を考えたんですけど、それだとなんか面白くないなと思いまして。神様の気紛れはこれっきりです。では、次回の更新をお楽しみに

次回の転生者の花道は……



「あぁ、成る程。お前、ロリコンか」


「蓮太郎、妾は夢でも見ているのか?」


「では、続けましょう。次は隊長である呉島貴虎と此処に集まった方々から我こそは、という方と戦って貰います。誰か、おられますか?」

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