ブラック・ブレット 転生者の花道   作:キラン

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お待たせしました。さぁ、保脇の最初で最後の輝きをお楽しみください


第十五話 狂乱の変身 新たな鎧武

【ハイ~!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 変身完了と共に俺達は武器を手に走り出す。

 

「フルーツジュースにしてやるぜ!!!」

 

 叫びと共に蓮太郎はブドウ龍砲で蛾の怪人、ドクガンダーを撃つ。

 

「ふん、数を揃えた所で!!」

 

 続く戒斗はトカゲの怪人、ピラザウルスの胸部にバナスピアーを突き立て、蹴り飛ばす。

 

「民間人は直ぐに避難しろ!!」

 

 呉島さんは避難を呼びかけながら、市民に襲いかかる蟹の怪人、カニバブラーにメロンディフェンダーをぶつける。そして俺は。

 

「ここからは俺達のステージだ!!」

 

 目の前のヒトデの怪人、ヒトデグロンに斬りかかる。

 

「って、硬い!?」

 

「俺の皮膚は鋼鉄よりも硬い。更に俺達はガストレアウイルスを投与されてより強靭な肉体を手に入れたのだ!!」

 

 叫びと共に繰り出された一撃で後ろに吹き飛ぶ。咄嗟に防御の為に利用した大橙丸がものの見事に砕けている。

 

「相性が悪いか、ならコッチだ!!」

 

【フレッシュ!!パイン!!】

 

 壊れた大橙丸を放り投げて、取り出したのは色鮮やかになったパインロックシード。

 

「新鮮だぜ?しっかり味わいな!!」

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝が鳴り響く中、走り出したヒトデグロンにイラッと来た。

 

「変身を邪魔すんじゃねえ!!!」

 

「ぬぉ!?」

 

 上半身を思い切り振り被って、頭のオレンジを飛ばし、ヒトデグロンに叩きつける。奴が怯んだ隙にカッティングブレードを下ろす。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!パインアームズ!!粉砕・デストロイ!!】

 

 右手に持つフレイル、パインアイアンが一回り大きくなっている。ソレを除けばカラーリングが綺麗になっただけで大きな違いはない。

 

「おら!!」

 

「ぬお!?」

 

 遠心力の乗った一撃でヒトデグロンが大きく後退する。どうやら効き目抜群のようだ。

 

「パインパインにしてやるぜ!!」

 

 そう叫び、パインアイアンを振り下ろして、奴の脳天を砕く。

 

「舐ァめるなァッ!!!」

 

 爛々とサングラスの奥の瞳を赤く輝かせたヒトデグロンがパインアイアンを掴んで振り回す。

 

「うおっ!?」

 

 当然、持ち手の俺も一緒に振り回され、今度は公園の噴水にダイブ。

 

「ぷは!!おいおい、水浴びはちょっと早くないか」

 

「死ね、仮面ライダー!!!」

 

 襲いかかるヒトデグロンを見て、俺は慌てて立ち上がる。流石にこの状態での連続攻撃は拙い。

 

「ぬお!?」

 

「ん?」

 

 だが、ヒトデグロンはすぐさま、跳び退く。はて、何故だ?そう考え、俺は視線を奴の足下へ向ける。

 

「……なぁるほど」

 

 そういえば、そうだった。俺はすぐさま噴水から出て、パインアイアンを振りまわして投げる。

 

「ふん、何処を狙っている?」

 

 だが、その一撃は奴の横を通り過ぎる。

 

「ふはは、かかったな!!」

 

「なに!?こ、これは!?」

 

 俺はパインアイアンの鎖を利用して、奴の身体を雁字搦めに縛る。そう、最初からコレが狙いだったのだよ。

 

「お前、水浴びとか好きかぁ?」

 

「や、止めろ!!俺に水をかけるな!?」

 

「オッケー!!!」

 

 グイッと、鎖を引っ張り、思いっきりヒトデグロンを噴水に投げ込む。派手な水飛沫と共に奴が噴水へとダイブした。

 

「ぬ、ぬおぉ!?お、俺の身体がぁ!?」

 

 すると、ヒトデグロンの身体が見事にふにゃふにゃと柔らかくなる。弱点くらい克服してやれよ、死神博士。

 

「うっし、これで、準備は万端!!」

 

「ぬぉ!?」

 

 今度は脳天から地面にダイブさせ、鎖を解く。そしてカッティングブレードを倒して跳び上がる。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!パインスカッシュ!!】

 

 光り輝くパインアイアンを蹴って、ヒトデグロンへぶつけると奴は巨大なパインの輪切りに身体を拘束される。そして俺は蹴りの体勢に入る。更に追加でカッティングブレードを倒す。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!パインオーレ!!】

 

 俺とヒトデグロンの間にパインの輪切りが次々と浮かんでくる。

 

「大ショッカーに……栄光あれぇ!!!

 

「セイハー!!」

 

 蹴りを叩きこみ、断末魔の叫びと共に爆発するヒトデグロンを横目に見ながら俺は走り出す。

 

「加勢するぜ、龍玄!!!」

 

「こ……鎧武か、助かった」

 

 おぉ、意外とノリがいいな。そう思いながら飛翔するドグガンダーにパインアイアンを叩きつけて奴を地面に叩き落とす。

 

「色々と聞きたいが、今はブッ倒す!!」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!パインスカッシュ!!】

 

「あぁ、死体から聞いた方が速いからな!!」

 

【ハイ~!!ブドウスカッシュ!!】

 

 何か凄く怖い事聞こえたけど、今は無視。俺達は助走を付けて跳び、立ち上がったドクガンダーへ向けて、俺は跳び蹴りを、蓮太郎は右の踵と左の蹴り上げで挟みこむような一撃を放つ。

 

「隠禅・上下花迷子・顎門!!!」

 

「セイハー!!」

 

 俺の一撃が先に決まり、怯んだドクガンダーの顔面を蓮太郎の両足が咬み砕く。

 

「うし、次!!」

 

「おぉ!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「終わった?」

 

「あぁ、終わったな。それで、この死体どうします?」

 

「それならそろそろ回収班が来るころだ」

 

 怪人達を殲滅した後、俺達は一カ所に集まって話しあっていた。

 

「しかし、大ショッカーの奴等もしつこいな。静観って言葉を知らないのか?」

 

「ふん、アイツ等の戦力を減らせるのならば望む所だ」

 

 腕を組んで、鼻を鳴らす戒斗に俺はため息を吐く。

 

「今回の奴らだけでも一人じゃ厳しかったんだぞ?」

 

「なら、諦めるか?」

 

「ソレを今聞くか?」

 

 そう返せば、戒斗は小さく笑う。

 

「あぁ、君達ちょっといい?」

 

 振り向けば何と、真司がいた。あ、いや真司さんか?一応、年上っぽいし。というか、凄いな。さっきは遠目で見ただけだけど、ここにいる人達が変身すれば大ショッカーも怖くないかも。まぁ、無理だろうけど。

 

「貴方は?」

 

「俺、城戸真司って言います。【OREジャーナル】で記者やってるんです」

 

「【OREジャーナル】か、拝見しているよ」

 

「あぁ、あの配信ニュースか」

 

 あれ?意外と有名なのか?

 

「確か、子供たちに対して結構友好的な記事を書く会社だよな」

 

 あぁ、成る程。確かに有名だわ。

 

「そうそう!!!んで、今日は【仮面ライダー】の皆にインタビューを―――」

 

「済まない、私は怪人の処理をするので、失礼する」

 

「隊長、俺も手伝います」

 

「あ、それなら俺も」

 

 何と言うか、一瞬で俺しかいなくなる。お互い、無言で見つめあった後。

 

「取り敢えず場所変えますか?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「どういう事ですか!!!」

 

「いや、どう、と言われても」

 

「なんで!!コウタさんが!!インタビューされてるんですか?」

 

「し、仕方ないだろ!?真司さん、給料カットが掛かってるんだし、それに……仮面ライダーについてアピールできるじゃないか」

 

「……それだけですか?」

 

 言えない。真司さんが原作と殆ど一緒で、尚且つアミタと知り合いで、彼女の話で盛り上がって仲良くなったなんて言ったらもう一度、雷が落ちる。

 

「……まぁ、仮面ライダーをアピールする為ならばこういった手段は悪くありません。しかし、一言欲しかったです」

 

「すみません」

 

 聖天子はため息と共に居住まいを正し、紅茶を一口飲む。

 

「まぁ、それはもういいです。それで、今日はコウタさんの意見を聞こうと思いまして」

 

「意見?」

 

「【大ショッカー】についてです。コウタさん、貴方は【大ショッカー】をどう思っていますか?」

 

 その問いに俺は腕を組んで、少し考える。

 

「強敵だな。奴等が現れたのは一週間と少し前。この短期間で奴等はガストレアウイルスを解析し、兵器利用した。異世界へ渡れるという事を踏まえて技術レベルなら俺達よりも数段、いや次元が違うだろうな」

 

「彼等は拠点に私を連れて行くと行っていました」

 

「拠点か。東京エリアの外で俺達が手を出しづらい場所。更に有る程度の機械が有る場所と来れば……」

 

「……【天の梯子】ですね。半壊したとはいえ、あそこはかつての英知が集った場所です。彼らの技術力ならば修復する事も出来るでしょう」

 

「問題はあのレールガンが撃てるかどうかだ」

 

 もし、撃てるのならば俺達は一方的に嬲られる。どう足掻いても俺達【仮面ライダー】は接近戦を強いられ、アイツ等は長距離からの正確且つ強力な狙撃という武器を持っている。

 

「恐らくだが、レールガンを使用する場合、降伏勧告はしてくるだろうな」

 

「根拠は?」

 

「アイツ等は【仮面ライダー】に固執している。だとするならば、俺達の手の届かない場所から俺達が悔しがる様を見たいはずだ。それに市民を恐怖で煽ってエリアの混乱を招く事も出来る筈だ」

 

「……有効な戦術ですね。今、そんな事をされたら」

 

「唯一つ、気になる点がある」

 

 これは俺が最初に思った疑問だ。

 

「なんで、アイツ等がこの世界にやって来たかという事だ」

 

「それは……偶然では?」

 

「確かにそうだろう。だが、異世界への侵略に運頼みは変じゃないか?」

 

「この世界に彼等が【引き寄せられた】と?」

 

「推測でしかないがな。ただ、そうなると原因がある筈だ」

 

 恐らくは……。

 

「全ての元凶は【ディケイド】だ」

 

 背後からの言葉に俺は素早く立ち上がり、聖天子を庇って、ベルトを装着する。

 

「私は争いに来た訳ではない。話を聞いてくれないか?仮面ライダー鎧武」

 

「……先に名乗ってくれないか?」

 

 チューリップハットにメガネとコートの中年が入り口に立っていた。外から開けたようには見えない。恐らくあの【灰色のオーロラ】からやってきたのだろう。ディケイドの所為にするこの中年。やっぱり来たか。

 

「私の名は鳴滝。全てのライダーの味方だ」

 

「……コウタさん」

 

 肩に手を置いた聖天子に頷き、俺は警戒を解く。とはいえ、ベルトはまだ装着したままだが。

 

「鳴滝さん。ディケイドとは……?」

 

「世界の破壊者。または仮面ライダーの敵、といっておこうか」

 

 また、誤解されやすいフレーズを。

 

「つまりディケイドは【大ショッカー】の仲間なのですか?」

 

「いや、奴は既に【大ショッカー】とは袂を分かっている。だが、奴は世界を破壊する者。味方とは思わない事だ」

 

「この世界に【大ショッカー】が現れたのはそのディケイドの所為だと?」

 

「ディケイドは世界と世界の境界に孔を空ける力を持っている。その孔が【大ショッカー】を呼び込んだのだろう」

 

「つまり奴は【大ショッカー】を招いた訳ではないのか?」

 

「だが、切っ掛けを作ったのはディケイドだ。頼む、鎧武。ディケイドを倒し、全ての世界を救ってくれ」

 

 懇願する鳴滝に俺はどうしようか迷う。ディケイドは十人のライダーの力を使う強力な仮面ライダーだ。敵として闘うよりも味方として共に戦った方が遥かに心強い。

 

(だが、問題はディケイドが味方になるという可能性を知っているのが俺だけという事だ)

 

 ただでさえ、厄介事が増えている今現在、あの傍若無人と生意気が同居して服を着ている人間がやってきた場合を考えれば頭が痛くなる。

 

「……そのディケイドは強いのか?」

 

「強い。だが、安心してくれ。心強い味方を近い内に送る。彼らと協力してディケイドを倒してくれ」

 

「【大ショッカー】には手を出さないのですね」

 

「それについては私も考えている」

 

 そういって、安心させるように笑う。すると、奴の後ろに【灰色のオーロラ】が現れる。

 

「奴は近い内に現れる。気を付けるんだ」

 

 そういって、鳴滝はオーロラの中に消えて行った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『ディケイドか……その鳴滝という男の言葉が真実であれば厄介だな』

 

『だが、隊長。その鳴滝の言葉が本当と決まった訳じゃない』

 

「確かにな。全くの嘘って事もあるだろうし」

 

「しかし、現状。ディケイドが現れた場合、どう対処するのがベストなのか。それが問題です」

 

 斎武のおっさんとの三度目の会談場所へ向かう車内で俺達は鳴滝の情報で小さな会議を行っていた。

 

「先ずは対話だな。いきなり襲いかかってきた場合は仕方ないとしても普通に接してくるなら会話してみないと」

 

「悠長とは思うが、取れる手はそれしかないか」

 

 ため息交じりの蓮太郎に通信先の呉島さんや戒斗も異論はないようだ。

 

「ならば、その時は私も話してみたいですね」

 

「というか、聖天子が話した方が丸く収まりそうだけどな」

 

『危険だろう』

 

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

 そう呟いていると車が止まる。信号による停車という感じではない。気になって、並走している呉島さんに声を懸ける。

 

「どうかしたんですか?」

 

『どうやらすんなりと聖居に帰らせてくれないようだ』

 

 その言葉に俺と蓮太郎は素早く車から降りる。俺達は道路に出ると即座にベルトを装着する。

 

「にしても、真正面からか」

 

「一体誰……あぁ、成る程」

 

 そこにいた一団を見て、妙に納得した。

 

「任務御苦労さま。保脇、何か用か?」

 

「あぁ、僕は君に用があるんだ、葛葉コウタ」

 

 そういって、目の前の保脇が手を上げた。瞬間、横の護衛官が発砲。銃弾は俺達の横を通り過ぎて車のタイヤを撃ち抜く。これで、逃げる事は出来なくなった。

 

「お前等……」

 

「蓮太郎。お前は聖天子の傍へ行け。コイツ等は俺が相手する」

 

【フレッシュ!!オレンジ!!】

 

 俺の言葉に蓮太郎は頷いて、車の方へ向かう。

 

「いい銃だな」

 

「あぁ、珍しいかい?まぁ、一般には流通していないだろうからね」

 

 誇らしげに自身の銃を見せびらかす保脇。

 

「当ててやろうか?その銃【大ショッカー】から貰ったんだろ?」

 

 ピタリ、と彼らの動きが止まる。あぁ、やっぱりか。

 

「試作のドライバーとエナジーロックシード。そしてその戦闘データの提供が組織に入る為の条件って所か?」

 

「少し足りないな。それに加えて、お前等【仮面ライダー】の始末が条件だ」

 

「ふぅん、随分と尻軽な事だ。忠誠心とやらはお前等の頭には無いようだな」

 

「当然だろう?私は聖天子様を敬愛するが、忠誠などしていない。元より彼女を伴侶とするのに忠誠心なんて必要ない」

 

「まぁだ、諦めてないのか。アイツの心はお前には向かねえって気付けよ」

 

「その心が貴様に向かっているからこその言葉だなぁ。だが、そんな物、後でどうとでも出来る。そう例えば【大ショッカー】の脳改造とかな」

 

 いい感じのゲスである。これなら心おきなくやれそうだ。

 

「まぁ、取り敢えずご愁傷様」

 

「なに?」

 

「お前、アイツ等が素直にお前等の条件を呑んで組織に入れると本気で思っているのか?アイツ等の事だ。お前等は任務達成の有無に関わらず率先して新しい怪人の素体行きだ」

 

「彼等が僕達を捨て駒に?有り得ないな」

 

 そこで、何故そう思えるのが不思議だ。

 

「僕は選ばれた人間だ!!ならば、僕をあんな醜い怪人にする事は無い」

 

【レモンエナジー!!】

 

 俺達の頭上には輝くオレンジとレモンが浮かんでいる。

 

「まぁ、いいさ。取り敢えずお前等全員倒す。話は後で聞いてやる」

 

「無理だね。君の戦極ドライバーよりも僕のゲネシスドライバーの方が遥かに上だ」

 

【ロック・オン!!】

 

「お前のじゃない、戦極さんのだ。それにスペックが全てなら苦労はしないさ。何事も経験だよ、新人君。変身!!」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

「一々、ムカツク奴だ。葛葉コウタ!!君は僕にとって邪魔な存在だ!!!此処で君を殺し、聖天子を僕の物にする!!変身!!」

 

【ソーダァ!!レモンエナジーアームズ!!ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイト!!】

 

 変身が完了した俺は大橙丸を構え、保脇は灰色のソニックアローを構える。試作型というのは嘘ではなく、俺の知っている【アーマードライダーデューク】よりも姿が違う。色は白と青紫のツートンでバランスもやや悪い。加工途中という所だろうか。

 

「ハァッ!!」

 

 叫びと共に突撃する保脇を左の大橙丸で受け止める。思った以上に重い一撃だ。

 

(けど、大ショッカーの怪人と比べたら全然だ)

 

 ソニックアローを受け流し、ガラ空きの胴に右の大橙丸を滑り込ませ、斬る。火花と共に保脇の呻く声が聞こえる。

 

「く、マグレだ!!」

 

「んじゃ、どんどん行こうか」

 

 言葉と共に一歩踏み出せば保脇が一歩退く。だが、遅過ぎる。二歩目で大橙丸を振り、ソニックアローを明後日の方向へ弾いて、もう一本で斬る。

 

「ぐぅ!?」

 

 怯んだ奴の腹を蹴って、距離を開ける。そして跳び上がり、大橙丸を振り下ろす。

 

「セイハー!!」

 

「ぐぁあ!?」

 

 派手に火花を散らして倒れる保脇に対して、俺は油断なく構える。

 

「何故だ!?スペックでは圧倒している筈なのに!?」

 

「経験と、素の力の差だよ。デスクワークが仇になったんじゃないか?」

 

「このぉ!?」

 

 叫び、ソニックアローから光の矢が放たれるが、身体を捻って避ける。どれだけ初見の攻撃だろうと機能を知っている俺には通用しない。仮面ライダーを知っているからこそ、相手の行動が予測できるのはちょっと複雑だが、俺だけの特権だ。

 

「くそくそくそくそくそくそくそくそぉ!!!!!!!」

 

 子供の癇癪の様な声を上げながらソニックアローを放つ保脇に俺は呆れながらも聖天子の方へと向かう矢は率先して弾く。

 

【ロック・オン!!】

 

「おいおい、マジかよ……!?」

 

 俺の後ろでは遠巻きに見る聖天子がいる。避けても、蓮太郎達がいるから問題は無いだろうが、恐らくは周囲に大ショッカーが控えてる筈。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスパーキング!!】

 

「仕方ねえな!!」

 

「死ねェッ!!!!!」

 

【レモンエナジー!!!】

 

 両手の大橙丸を掲げ、迫りくる光の矢を見据える。

 

「セイハー!!!」

 

 閃光と同時に凄まじい衝撃によって、俺は吹き飛び、車にぶつかり、大きな音と共に車を凹ませる。そのままズルリと地面に倒れる。

 

「く、クハハハハハ!!そうだ、お前にはソレがお似合いだ。薄汚い鼠は地べたに這い蹲っていろ!!」

 

 そう笑いながら近づいてくる保脇をぶつかった衝撃で落ちたバックミラー越しに見る。身体を動かさず、声も出さないようにしている為、保脇は気絶しているか、若しくは死んでいるだろうと勘違いしているようだ。

 

「ククク、さっきの威勢はどうしたんだ?葛葉コウタ?」

 

 そういって、俺の頭をグリグリと踏みつける。

 

「コレが現実だ!!コレが!!!貴様は無様に這い蹲って死ぬ運命なんだ!!!」

 

 そういって、奴は脚を上げる。俺はその瞬間、跳び起きて大橙丸を振るう。奇襲の一撃は見事に決まり、奴は火花を上げる胸を抑えて後ろに下がる。

 

「なん……だと!?」

 

「そんな運命こっちから願い下げだね」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスカッシュ!!!】

 

「セイハー!!!」

 

 至近距離での斬撃に今度は保脇が吹き飛ぶ番となった。

 

「がはっ!?」

 

 これで大人しくなって欲しいが、難しそうだ。よろよろと立ち上がる保脇を見ながら、身体の痛みを確認する。

 

(取り敢えず問題なさそうだが、直撃は避けた方がいいな)

 

 出来れば防御力に優れた【フレッシュパイン】になりたいが、奴の事だ。下手すればアームズチェンジの最中に攻撃してくる可能性もある。

 

「「「変身!!」」」

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

【ハイ~!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!】

 

 振り向けば車を挟んで蓮太郎達が聖天子を庇いながら怪人と戦っている。

 

「勝手な事をして……!!全部、全部貴様の所為だ!!葛葉コウタァァッ!!!!!!!!」

 

【レモンエナジー!!】

 

「んなこと知るか!!」

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジオーレ!!】

 

 放たれた一撃を大橙丸で弾く。

 

【レモンエナジー!!】

 

「クソッタレ!!」

 

だが、続く二発目は対応できず、視界が閃光に支配され、身体がバラバラになったかと思う様な衝撃に見舞われる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「コウタさん!?」

 

 聖天子の悲鳴に振り向けば爆発と共にコウタがリムジンを吹き飛ばして地面にぶつかった。

 

「ハハハハハ!!どうだ!!コレが僕の力だ!!!」

 

 そう高らかに笑いながら保脇が近付く。対するコウタは仰向けに転がってピクリとも動かない。そして奴がコウタの前に立つと脚を振り上げる。

 

「コレが現実だ!!コレが!!僕と!!貴様の!!実力の差だ!!」

 

 声を発しながらコウタの胸や腹に脚を振り下ろす。その度にコウタの身体から火花が生まれ、周囲に硬い音を響かせる。

 

「くそ!?」

 

 今すぐにでも奴の凶行を止めたいが。

 

「余所見とは余裕だな仮面ライダー!!!」

 

 ピラニアを模した怪人が襲いかかる。コイツ等が邪魔だ。

 

「もう止めて下さい!!」

 

 聖天子の声が聞こえる。ピラニアの怪人を蹴り飛ばし、そちらを見れば保脇の前に彼女が立っている。

 

(無茶だ!?)

 

 そう思ったが、現状奴を止めるにはそれしかない為に歯噛みする。

 

「おやおや、聖天子様。一体何を止めろと言うのですか?」

 

 そういって、おどけて告げる保脇の声を聞きながらも俺はブドウ龍砲でピラニア怪人を撃ち、弱らせる。先ずは目の前の奴を倒してからだ。

 

「決まっています。葛葉コウタへの攻撃を止めなさい」

 

「何を馬鹿な。コイツは貴女に集る害虫だ。貴女の傍に居るべき人間ではありません。故に僕が!!この僕が!!【大ショッカー】に選ばれ、貴女の隣に相応しい僕がこの害虫を駆除しているのです」

 

「コウタさんは害虫などではありません。私の護衛で……大切な人です」

 

 逡巡した後、紡がれた言葉に思わず固まってしまう。

 

「な、なにを馬鹿な事を!?貴女は国家元首です!!その貴女が想うべきはこんな!!こんな下等な人間ではありません!!」

 

「地位や名誉で人を測るなんて哀しい事です!!重要なのは……大事なのはその人と共にありたいと想う気持ちです」

 

 そういって、彼女は保脇に背を向けて、倒れているコウタの胸に手を当てる。

 

「私にとってコウタさんはどんな王族や聖人よりも価値のある人なんです」

 

 まるで祈るかのように告げられる言葉に俺はコウタに尊敬と小さな嫉妬を覚えた。たった一人の、大切な人に共にありたいと想わせる人柄と、共にありたいと想う素直な性格に。

 

(俺もお前みたいに素直だったら上手くいけるのか……?)

 

 自分でもバカみたいな考えだった。けど、考えずにはいられない。俺が素直に木更さんに好意を向けられれば、俺が彼女を幸せにすれば。

 

(今更か……?だけど、もしそれが出来るなら)

 

 一歩、前へ踏み込んでもいいのだろうか。

 

「私はコウタさんが好きです。他の誰でもない。葛葉コウタを好いています」

 

「馬鹿な……!?バカな!?バカな馬鹿なばかなバカナばかな馬鹿なァァァァッ!!!!!!!!」

 

 叫び、取り乱す保脇を横目に見ながら俺は違和感を覚える。何かおかしい。

 

(取り乱し方が異常だ。いや、それだけ聖天子に執着していると考えればいいのか?だが、そうだとしても)

 

「蓮太郎!!」

 

「っ!?」

 

 延珠の叫びに頭を下げる。同時にピラニア怪人の爪が通り過ぎる。

 

【ハイ~!!ブドウスカッシュ!!】

 

(考えるのは後だ!!今はコイツを倒す!!)

 

 ブドウ龍砲のレバーを引き、エネルギーが溜まった銃口をピラニア怪人の腹に押し当てる。

 

「くたばれ!!」

 

 トリガーを引くと同時に怪人の腹が爆発。背中から紫色の東洋龍が飛び出し、周囲の戦闘員を巻き込んで爆発する。

 

「認めない!!」

 

 悲痛な叫びに振り向けば保脇が聖天子と倒れるコウタに向けて弓を構えている。

 

「認めない!!葛葉もソレに汚されたお前も!!僕は認めないぃィッ!!!!」

 

 弓の先端に光が集まる。だが、聖天子は自分を盾にするように覆いかぶさる。その行動が決定的だった。

 

「消えろォォォッ!!!!!!」

 

 矢が放たれる。その瞬間、コウタの手が動いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 靄が掛かった様な薄い覚醒の中、腕の中の温もりを感じ取る。

 

「コウタ……さん?」

 

 視界が晴れれば、聖天子が驚いたように目を見開いている。

 

「良く分からんが、大丈夫か?」

 

「それは……私の台詞です」

 

 涙交じりの声にまたか、と内心でため息を吐く。

 

「取り敢えず、アイツを倒す。聖天子は俺の後ろに」

 

「負けないで下さいね」

 

 その言葉に俺は頷いて立ち上がる。身体の至るところが痛い。これは……終わったらまた入院かな。

 

「葛葉コウタぁ……!!!」

 

 まるでこの世全てを呪うかのような声に辟易する。

 

「お前【大ショッカー】に何をされた?」

 

「貴様の所為だ……貴様のせいで……僕の聖天し様が汚れてシマッタ……」

 

 コレはヤバいな。

 

「葛葉君!!」

 

 声の方へ振り向けば満面の笑みを浮かべた戦極さんが走っていた。なんだろう、思いっきり殴りたい。

 

「君のお陰で【ゲネシスドライバー】と【エナジーロックシード】の調整が済んだよ。コレはそのお礼だ」

 

 そういって、投げ渡されたのはレモンエナジーのロックシードとゲネシスコア。あぁ、成る程そういう事か。

 

「先ずゲネシスコアを戦極ドライバーの左側に装着するんだ」

 

 言われた通りにバックルのプレートを取り外し、ゲネシスコアを取りつける。すると、ロックシードが閉じる。

 

「んで、コッチか!!」

 

【レモンエナジー!!】

 

「さぁ、どうなるかな?」

 

 実験してなかったのか!?そんな驚愕を余所に俺は躊躇するまでもなく、もう一つのロックシードをゲネシスコアに取りつけ、掛金を落とす。

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝が鳴り響く中で、保脇が笑う。

 

「今更、ロックしーどが二つにフエた所デ!!」

 

「まぁ、見てのお楽しみさ」

 

【ソイヤッ!!ミックス!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 その音声と共にオレンジと頭上のレモンが合体して、新たな形となって俺に装着される。

 

【ジンバーレモン!!ハハーッ!!】

 

 音声が響く中、左肩に大橙丸を担ぎ、右手のソニックアローを保脇に向ける。

 

「ここからは……俺のステージだ!!」

 




投稿完了!!今回は前半戦。ジンバーの活躍は次回に持ち越しです。悔しいでしょうねぇ

Q なんか、保脇の様子おかしくね?

A 彼らは【大ショッカー】に接触しています

次回は皆さん、地味に気になっていたペコの話と前回の話で小さく出ていたアイツの話を出します。えぇ、別にギャグキャラとして出したわけではありません。ちゃんと彼にも役割があります。お楽しみに


それにしても、ヒーロー大戦の映画を見て思うのですが、近年のオールライダー物はそろそろライダー同士の戦いを止めた方がいいと思うのです。仮面ライダーは人類の希望であり、永遠のヒーロー。そのヒーローたちが手を取りあって闘うのではなく、互いに拳を向けて闘い合うのは見てて、何か切ないモノがあります。まぁ、所詮は作者の独りよがりなのですが、個人的には【MEGAMAX】の頃の様な作品が出てほしいな……自分で作ればいいのか?



次回の転生者の花道は……



「夏世君、もう少し待ってくれないか?今いい所なんだ。何故かって?此処まで複雑な乱戦は極めて稀だ。貴重なサンプルデータが取れるじゃないか」



「ええい、次から次へと!!この世界は仮面ライダーのバーゲンセールでもやっているのか!?」



「我等【大ショッカー】に失敗は許されない。本来ならば貴様等は此処で処分するのだが、今は少しでも素材が欲しいのでな」



「そうや。なんてったって、ワイはがんがんじい!!仮面ライダーの用心棒で最高の相棒やからな!!ガウトレアなんぞ、ワイに掛かればちょちょいのちょいやで!!」

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