第十二話 護衛任務
「さて、この依頼を受けてくれたようで嬉しいよ。里見蓮太郎君」
「アンタ、誰だ?」
目の前の白を着て、上機嫌の青年の握手を無視して問いを投げる。
「彼は戦極凌馬。戦極ドライバーとロックシード……簡単に言えば、仮面ライダーの研究、開発を行っている」
「つまり、貴方があの兵器を造り出したという事ね?」
戦極と一緒にやってきた呉島貴虎の言葉に木更さんが問いを投げる。すると戦極は余裕の笑みを浮かべて、ソファーに深く座りこむ。
「さて、どうだろうね?」
「どういう意味かしら?」
「組織的には答える気はない。けれど、個人的には私の質問に答えてくれたら教えてあげても良いけど?」
試すかのように告げる戦極の表情に苛立つ。
「質問?まぁ、答えられる範囲でなら答えるけど」
「いや、なに。素朴な疑問だよ。君はステージⅤ来襲時、菊之丞氏に【全ての天童は滅ぶべき】そう伝えたそうだね」
その言葉に思わず、木更さんを見る。木更さんは眉を寄せながらも。
「そうだけど、それが?」
「君が滅ぼす天童には、まだ年端もいかない子供も含まれるのかい?」
空気が凍った。そう表現するしか出来ない程、この事務所の空気が固まり、木更さんの表情も固まる。
「……いいえ、含まれないわ」
痛いほどの沈黙の中、視線を外した木更さんが答える。その答えに俺はホッとする。だが、戦極は不思議そうに木更さんを見る。
「それでは君はどの天童ならいいんだい?」
「答える気はないわ」
「それはつまり、仮面ライダーについては諦めると?」
木更さんの頷いた事によって、戦極は酷くつまらなさそうに息を吐く。
「お前……」
「里見くん、やめなさい」
立ち上がろうと腰を浮かした俺を木更さんが止める。
「君は不思議な男だね。私はただ、気になった事を聞いただけだよ?君も親に教えられなかったのかい?知らない事を知らないままで済ませるのはダメだと」
「それでも、聞いていい事と悪い事があるだろ!!」
胸倉を掴んで、睨みつける。だが、戦極は余裕の笑みを崩さない。
「それは君が決める事じゃないだろ?それに君も密かに疑問を感じていたんじゃないか?彼女の歪さに」
耳元で告げられた言葉に奥歯を噛みしめる。
「まぁ、私とて君と喧嘩をする為に来た訳じゃない。取り敢えず本題に入りたいんだけど?」
俺はわざと乱暴に戦極を突き離す。だが、コイツはソレも意に返さず、トランクをテーブルの上に置く。
「さて、今回依頼を受けてくれた里見蓮太郎君には特殊装備を贈ろう」
そういって、ケースを開ければそこにはベルトのバックルとブドウを模した錠前が入っていた。
「おい、これって……」
「その通り、コレは戦極ドライバー。そしてこっちはロックシード。仮面ライダーになる為の必須アイテムだ。今回、護衛をするにあたってこちらの仮面ライダーと連携を取る為に必要な物だ」
「何が目的だ……?」
「おやおや、酷いな。単に君が足手纏いにならないようにしない為だよ」
戦極の言葉に小さく舌打ちする。
「君の資料は見せて貰った。確かに君の瞬間的な火力は仮面ライダーのソレを上回る。だが、今回は護衛だ。ならば、その為にも必要な装備がある。あぁ、コレは前払いと思ってくれ。この仕事が終わればこの装備で悪事を働こうが、君の勝手だ」
「誰がするかよ」
そういって、ベルトとロックシードを受け取る。すると、戦極は安心した様な笑みを浮かべる。
「いや、助かったよ。こっちもデータを多く取りたくてね。正直、君が受けなかったらどうしようかと思っていたんだ」
それって、つまり暗に俺を実験動物と扱ってないか?そう思っていると話は終わりだと言うように戦極が立ち上がる。入れ替わるように呉島がやってきて数枚の資料を手渡した。
「明日の集合時間、集合場所。会談場所、そこへのルートが記載されている。目を通した後は処分してくれ」
「あぁ、分かった」
受け取った後、呉島が部屋を出る。すると、開いたドアから戦極が顔を出した。まだいたのか、コイツ。
「そうだ。一つ忘れていた。天童木更君。君は復讐者だと聞くが、そんな君に一つ質問だ」
木更さんがなにか言う前にソイツは告げた。
「もし、君が自身の復讐を完遂した後。君はどう生きるんだい?」
その言葉に木更さんは完全に止まった。
「木更さん……?」
俺の言葉にも反応せず、彼女は視線を泳がせ、口は半開きで声にならない声が漏れている。
「成る程。これは重症だ。まぁ、私が何か出来るとは思っていないし、何もしないけど、もし答えが出たら教えてくれ。君のその復讐には私も興味がある」
◆◆◆
「戦極さんはフリーダムだな」
「お前な、今の話聞いてそれだけなのかよ」
会談当日、リムジンに乗り込んだ蓮太郎があまりにも不機嫌を隠さない表情をしていた為、事情を聞けば、戦極さんが場を引っ掻き回したようだ。
「まぁ、戦極さんはああいう人だからな。そこは我慢するか、慣れろ」
「それでも常識位はあるだろ」
「科学者に常識を求めるなよ」
苦笑交じりに告げると蓮太郎が頬を引き攣らせて、視線を泳がせる。
「常識から外れた思考を持つが故に科学者は科学を発展させていく。まぁ、話を聞く限り、戦極さんの質問は単に自分の疑問を解消させるだけだったんだろ。所で」
身を乗り出して、蓮太郎を見る。
「復讐の件だけど。あの人は誰を殺すまで突き進むんだ?」
「……俺が知るかよ」
反応を見る限り、本当に知らないようだ。共犯者と思いきや、蚊帳の外か。
「でも、参ったな。他の天童ならまだしも、菊之丞さんは今死なれると拙い」
「何故、その菊之丞が死ぬと拙いのだ?」
俺の言葉に延珠が聞いてくる。
「菊之丞さんは聖天子に政治を教えている人だ。詳しくは分からねえけど、ソイツがかなり重要なのは俺も理解できる。聖天子は政治に関して圧倒的に不利だからな。特に今はステージⅤ襲来と先日のテロのお陰でこっちの自衛力はガタガタ。治安の方は回復しているけど、それでも結構危ない。そんな状況で菊之丞さんほどの人物がいなくなってみろ。あっという間にこの東京エリアはどっかのエリアに取りこまれちまう」
ガストレアならまだしも、味方であろう人間が敵。ゾッとするな。すると、隣の聖天子が咳払いする。
「本人がいないとはいえ、不謹慎すぎるのでは?」
「それもそうだな。悪い」
そういうと、彼女は小さく笑う。
「なんか、お前等仲いいな」
「こら、蓮太郎!!妾がいるのに彼氏持ちの者に反応するな!!」
「聖天子。コイツ、ロリコンの癖に略奪愛とか好きそうだぞ?やっぱ、護衛は他の奴に頼んだ方がいいんじゃないか?」
「そ、そうでしょうか?」
「おいこら!!」
中々に賑やかな車内だ。これで、何事もなければいいんだが。
「まぁ、襲撃とか考えた方がいいよな」
「そうですね。ですからコウタさん。貴方は変身した状態で会談に臨んでくれませんか?」
「俺は構わないけど、いいのか?相手が警戒するんじゃ」
「年端もいかない小娘、と侮られる訳には行きませんので」
真っ直ぐな目で見返され、俺は肩を竦める。
「了解、分かったよ」
そういうと、車が止まる。どうやらホテルに着いたようだ。窓の外に見えるのは八十六階だかの超高層ビルだ。
「では、行きましょうか」
「蓮太郎、頑張って来るのだぞ」
笑顔の延珠に見送られて俺が最初に車を出て、手を伸ばす。すると、自然な動作で俺の手を聖天子が握る。ゆっくりと手を引いて、聖天子を立ち上がらせた後、ベルトを装着する。
【フレッシュ!!オレンジ!!】
頭上に現れたオレンジに従業員が驚く中、俺はロックシードをベルトに嵌める。
【ロック・オン!!】
「変身」
【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】
変身が完了すると、聖天子が歩き出す。俺達も続いて歩き出す。ホテルの支配人に訝しげな視線を投げられたが、無視してエレベーターに乗る。
「にしても、仰々しいね」
「仕方ねえだろ?代表同士の会合だ。お互いの見栄ってモンがあるからな」
「ハッ、見栄張って狙われやすい場所を選ぶのもどうかと思うがな」
「この場所を選んだのは私ですけど?」
「同じ事だ。守る身にもなってほしいさ。まぁ、しっかりと守るけどよ」
そういうと、聖天子は半分だけ振り向いた状態で小さく笑った。
「それで?これから会う奴に関しての情報とかないのか?」
「私は一度も会った事が無いので、里見さんは?」
「……一度だけな」
「どんな方なんですか?」
「アドルフ・ヒトラー」
その言葉に聖天子が固まる。取り敢えず再起動させた方がいいか。
「ヒトデヒットラー?」
「アドルフ・ヒトラーだよ!!なんだ、その変な名前は!!」
失礼な!!こんな名前の奴がいるんだぞ。悪の組織だけど。
「まぁ、冗談はさておき。第一印象とか抜きで、そういう人間なら独裁者って事でいいのか?」
「あぁ、斎武は大阪エリア市民に十七回も暗殺されかけている。まぁ、あんだけ重い税金かけたら誰だってブチ切れるだろうしな」
「因みに大阪エリアの生活水準は?」
「此処と然程変わらない筈ですけど?」
「軍備は?」
「そこは分かんねえよ。流石に自分の兵隊を見せる気はないだろ?」
確かにそうだが、妙に引っ掛かるな。
「税金を使って裏で何かしてる、は何処の政治家も同じか」
そう呟きながら、蓮太郎の説明を聞き、そして蓮太郎に注意する聖天子を見ているとエレベーターが止まり、扉が開く。最初に目にしたのが青空で、思わず声が出そうになった。どうやら展望台の様で、ソレを応接室に改造したようだ。ふと、横を見れば。エレベーターの脇に筋骨隆々の男が俺を少々驚いた顔で見ている。まぁ、確かに驚くよな。そして視線を前へ戻せば一人の男が背を向けて、椅子に座っていた。
「初めまして、聖天子様」
そう告げ、此方を向いたのは鋭角的に跳ねた口ひげに顎ヒゲと髪が繋がり、さながら獅子のたてがみを彷彿させるその男は先ず最初に蓮太郎を見て、表情を歪める。そして始まるのは二人の罵声、というか怒鳴り合いというか、身内同士の会話だ。ただ、お互いに中々の迫力の為、聖天子が怯えている。
「あ……!?」
だから、そっと横の護衛にも見えないように手を握る。安心させるように何度か優しく握り直せば彼女は一度だけ深呼吸して落ち着いた。そして会話に耳を傾ければ世間話へと変わっていた。
「……もうあんまり彫ってねーよ。出来の悪い弟子が逃げたからな」
「ん?確か、菊之丞さん。呉島さんに仏像の彫り方教えてなかったか?」
確か、この前呉島さんが苦笑交じりに言ってたのを思い出す。まぁ、呉島さん自身、嫌そうじゃなかったのが印象的だったな。
「ほう?つまり、完全に捨てられた訳だな」
「ハッ!!清々するよ」
その後、聖天子と斎武がソファーに座る。そして視線を聖天子ではなく、俺へ向けた。
「お前が仮面ライダーという奴か。ふ、中々面白いデザインだ」
「それはどうも」
何と言うか、やり辛い相手だ。そして恐らくだが、今の言葉で俺の印象も伝わったのだろう。斎武はニヤリと笑う。
「貴様の戦闘記録は先日見させてもらった。まだまだ荒が目立つが、中々優秀だ。どこぞの小娘のお守りに使うのは勿体ない」
「おい、オッサン。何時の間にヒーローショーの趣味に目覚めたんだ?」
蓮太郎の言葉に斎武は鼻で笑い、ソファーに深々と座る。
「お前はコイツの戦闘を見ていないから分からないだろうから教えてやろう。コイツ等仮面ライダーの基礎能力は序列千番内のイニシエーターと同等だ」
その言葉に蓮太郎が絶句して、俺を見る。いや、初耳なんだけど?
「その力を護衛?そんな下らないモノに使うなど笑い話にもなりはしない。どうだ、鎧武」
俺に向かって好戦的な笑みを向ける。
「俺の所に来る気はないか?」
「なっ!?」
聖天子が絶句して、彼女は斎武を強く睨むが、相手はどこ吹く風だ。
「……俺にメリットは?」
「地位、権力、金、女。お前の働き次第で幾らでも手に入る。どうだ?」
「魅力的な提案だな」
「コ……鎧武!!」
驚き、俺を見る聖天子は驚愕に染まっている。うん、次からは止めよう。コレは心臓に悪いわ。
「だが、断る」
「ほう?不満があるか?」
「当然だろ」
そういって、俺はソファーに手を掛けて、身を乗り出す。
「誰だって従うならムサイおっさんより綺麗なお嬢さんの方がいいだろ?」
「はぁっ!?」
その言葉に蓮太郎が素っ頓狂な声を上げ、聖天子は一瞬、呆けた後、顔を真っ赤にする。
「それにだ。俺はそんな分かりやすい餌で尻尾を振る様な男じゃない。別の奴を当たってくれ」
「くっ!!クハハハハハハハハハ!!!!!」
一本取られた、そんな感じの笑い声が部屋に響いた。
「面白い!!単なる小僧かと思えば、中々面白い奴じゃないか。益々お前が欲しくなったぞ鎧武!!!」
「だから、俺は聖天子の傍を離れる気はないって」
そういうと、斎武はニィッと笑う。
「ならば、この東京エリアを丸ごと乗っ取り、聖天子を俺の部下にすればお前も文句あるまい?」
「つまり、聖天子の上にアンタが立つって事か?確かに俺の立ち位置は少しだけしか変わらないな。けど」
そういって、俺はマスクの下で笑う。
「俺は政治とか全くの門外漢だ。だからそういった難しいので俺を縛りつけるとどっかで爆発するぞ?もし、俺を従わせたかったら」
腰に提げた無双セイバーを軽くなぞる。
「力尽くで来てくれ。その方が分かりやすい」
「クク!!面白い奴だ。言質は取ったぞ?」
俺と斎武との会話はこれっきり。後は蓮太郎にも同じように勧誘した後、漸く聖天子と本題に入った。内容は……まぁ【大ショッカー】については満場一致で排除が決定した事だけ二人の意見が一致したと言っておこう。
◆◆◆
「なぁ、そろそろ機嫌直さねえか?」
「直すも何も別に怒ってません。コウタさんが目を付けられた事なんてちっっとも関係ありませんから」
そういって、拗ねたように顔を明後日の方へ向ける聖天子。原因は……まぁ、会談なんだが、終始平行線だった。結論は既に開始十分で出ていたので、中盤からは殆ど右から左に聞き流していた。その為、やっと終わった時に斎武が俺の肩を軽く叩き。
『必ず、お前を俺の部下にしてやる』
そう、獰猛な笑みを浮かべて去っていったのを思い出す。
「コウタさんは私の護衛なんですよ。それなのにあの人は自分の部下にだなんて……コウタさんもコウタさんです!!」
何やら矛先が身近な俺に向けられた。何と言うか先程の拗ねた顔や今の怒った顔も見ていて大変可愛らしい。
「コウタさんは私の護衛として自覚が足りません!!」
「あれ?俺そう見えたの?一応、あのおっさんの勧誘は断ったけど」
「断るならもっとハッキリと断って下さい!!一瞬、心臓が止まりかけたんですよ!!」
掴みかかる様な事はしないが、それでも身を乗り出して近づく聖天子にどぎまぎしてしまう。
「いや、その。俺も反省してるから」
「してません。少なくとも私には反省している様には見えません。どうせ、格好いいから次もやってみよう、とか考えてませんか?」
図星である。いや、だって格好いいじゃん?
「ソンナコトハカンガエテマセンヨ?」
「お~い、喋り方忘れてねえか?」
おう、まさかの追い打ちだよ。お前は膝の上で幸せそうに寝てる延珠ちゃんの世話でもしてろペドフィリア。聖天子はふぅ、と息を吐く。
「い、一応確認します。コウタさんは私の護衛を止めたりは」
「しない。前にも言った通り、絶対に一人になんてさせない」
そう真っ直ぐ告げれば聖天子は顔を真っ赤にして、小さく頷いた。
「そ、それならいいんです。安心しました」
そういって、はにかむ聖天子に俺も笑う。
「……蓮太郎。妾もあんな風に言われてみたい」
「俺には無理そうだ。諦めろ」
「え?あ……!?」
場所が車内であり、対面に据わった目で俺達を眺めている延珠がいたのに気付き、彼女は顔を更に真っ赤にさせる。
「まぁ、今回の会談で斎武のおっさんがどんな人物なのかはなんとなく分かったな。うん、確かに独裁者だ。しかも、筋が通っているってのが問題だな」
話を変える為にそう告げれば蓮太郎は俺をジト目で睨みながらも頷く。
「そうだな。アイツは話し合いとかそういうのはするが、結局は力で従わせる奴だ」
「ま、分かりやすい奴だ。とはいえ、対処し辛いな。話し合いの余地はあるが、こちらの条件を呑ませる為に色んなリスクを呑まされそうだ」
ため息を吐きつつ、足下の小型冷蔵庫からジュースを人数分取りだし皆に渡す。
「にしても、積極的だったな、あのおっさん。俺や聖天子、蓮太郎が口挟まなかったら確実に戦争起こせるような無理難題押し付けて来たし」
「そうですね。恐らくはバラニイウム鉱山の所有量を増やす為なのと自身の戦力拡大の為に東京エリアを手に入れる布石でしょう」
「それだけとは思えないけどな」
りんごジュースを一口飲んで呟く。
「どういう事だよ?」
「確かにあのやり口なら十中八九聖天子の言う通りなんだろう。けど、アイツだって大阪エリアを統治する人間だ。ソイツが戦争なんてリスクを冒してまで東京エリアを手に入れた場合、本当に統治なんて出来るのか?」
「従わない奴等は公開処刑とかすんだろ?あのジジイならそれくらいやる」
「恐怖で支配するってのは尤も簡単だが、維持するのが最も難しいらしいぜ。人間ってのは慣れる生き物だからな。よく言うだろ?『赤信号、皆で渡れば怖くない』ってさ。単純に支配される人間が増えればそれだけ命を狙われる回数も増えるって事だ。そんな七面倒臭い方法を取るなら。逆に宥和政策で友好的に接した方が後々楽だ」
「なら、なんであんな無茶な条件出して来たんだ?」
「半分本気で、半分試して来てるんじゃねえか?聖天子は政治家一年目で、今回は菊之丞さんがいない。たった一人で何もかもを決めなくちゃいけない。だから敢えてあんな無茶な要求を出したってのは少し楽観し過ぎか」
そういって、俺は窓の外を見る。夜空には星空が見え、月の光もあって、それなりに綺麗な夜景を楽しめる。
「斎武大統領は外国との関係が噂されているそうです」
ふと、聖天子が告げると同時に車がカーブする。
「……続けてくれ」
「アメリカやその他の諸外国が密かに接触して資金面、武器などを供与しているそうです」
「見返りはバラニウムか……」
俺の言葉に聖天子が頷く。日本はバラニウムの生産地でもある。それも他国が奪い取ってでも欲しい量だ。
「じゃあ、斎武が外国の力を借りてでもやりたいことって……」
「日本に存在する五つのエリアを統一。見返りとして外国にバラニウムを安定して供与すること」
「あのおっさんの事だ。大国に操られている様には見えない。きっと、バラニウムをこっちが有利になるような好条件で売り捌くつもりだったんだろう」
「けどよ、それでも相手は大国だ。武力で押し切られちゃ、こっちも……そうか」
蓮太郎の言葉に俺が頷く。
「今までは分からないが、俺達仮面ライダーが表沙汰になった事で、動き始めたんだろう。既に戦極さんは戦極ドライバーの量産に成功してるし、ロックシードの数も揃ってる。戦力としては十分過ぎる」
自分で告げながら胸糞が悪い。確かに仮面ライダーは強大な力であり、ソレを使うのは人間だ。だから、どう使おうと理解出来る。
(我が侭だよな)
仮面ライダーは人類の自由と平和の為に戦う存在だ。ソレが守る筈の人間に振るわれる。考えるだけで嫌になる。
「これからきっと、各国が日本の各エリアに協力的、或いは敵対行動を取ってバラニウムを確保する為に動くでしょう。そしてこれからの戦争は強力な民警の暗殺や破壊工作が中心になってきます。そして今の東京エリアにはそれらに対抗出来る優秀な人材が不足しています。里見さん、どうかアナタ方の力を国家の力の為に使って貰いたいのです」
そう告げると蓮太郎は苛立ちを隠そうとせずに。
「アンタは何でも自分の都合で決めるんだな」
「立場を持つモノとは得てしてそういう物です。アナタとて、自分の都合通りに事を運ばせようと考える事もあるでしょう?」
「アンタと一緒にすんじゃねえ」
「いえ、同じです。違うのはそこにある事の大きさのみです。私は東京エリアの統治者として動かなくてはいけません。聖天子という名を名乗った時に【私】個人は捨て去りました」
けれど、と聖天子は自身の腹部に手を当てる。
「この地位を恨む事もあります。ですから、少しだけその意趣返しとして子供位は愛によって産みたいです」
はにかむように告げれば蓮太郎は何処か寂しそうに顔を背ける。
「斎武さんは武力によって日本を統治すると言いました。ですが、私は東京エリアの領土を広げ、仙台や大阪、果ては五つのエリア全てを友好的に直結させるつもりです。そして全てのエリアを繋げた時、国民に思い出して頂きたいのです。かつて一つの国であり、同じ空を見上げていたという事を。その為にも私は死ぬわけにはいきません。侵略行為も暗殺も私は行いませんし、それらには屈しません」
「アンタの大切な奴が死んでもか?」
その言葉に聖天子は表情を引き締め、横目で俺を盗み見た後。
「きっと、凄く悲しんで自暴自棄になってしまうでしょうね。けれど、死んでしまったその人の為に。今を生きる人の為に立ち上がります」
「早死にするタイプの理想主義者だな」
「理想を語る事はいけませんか?」
「悪いとは言ってねえよ。けど、もう少し上手く立ち回れって言ってるんだ」
その言葉に聖天子は困った様に笑うだけだ。聖天子も分かっているんだろう。蓮太郎はため息を吐く。
「まぁ、結局は綺麗事か」
「そうです。だからこそ、現実にしたいじゃないですか。本当は綺麗事が一番いいんですから」
その言葉に蓮太郎が呆気に取られる。思わず笑ってしまう。
「お前の負けだな、蓮太郎。聖天子はもう覚悟を決めてる。どう言ったって止められねえよ」
俺の言葉に蓮太郎がムッとする。
「勝ち負けじゃねえだろ。それにお前は止めねえのかよ?」
「止めるかよ。言ったろ、聖天子は覚悟を決めたってさ。俺はそれを踏まえて、どんな事があろうと聖天子を守るって決めてるんだ。ソレがたとえ、何であろうとな」
そういって、俺はジュースを飲み干す。
「お前だって、自分の命張って守りたい奴の一人くらいいるだろ?」
「……まぁ、な」
誰を想ったのか分からないが、そう頷いて蓮太郎は窓の外へと視線を移す。
「蓮太郎、なんだろう、嫌な感じがする」
そう告げたのは延珠ちゃんだ。彼女は俺達の後ろ。つまり、車の正面へと真剣な表情で眺めていた。同時に車が停車する。俺も同じように振り向けば視線の向こう、目算でおよそ、1km先にそびえるビルがある。イニシエーターである彼女は感覚器官を含めて、全てが人間を凌駕している。それは勿論、勘などの第六感も例外ではない。いや、動物の遺伝子を持つが故にそういったモノが鋭いのだろう。その彼女が前方のビルを警戒している。瞬間、首筋にピリとナニカが奔る。
「聖天子!!」
「え?」
俺が叫び、彼女に覆いかぶさるのと、蓮太郎が延珠ちゃんと共にしゃがむのは同時だった。直後にガラスが破砕し、リムジンが急ブレーキで暴れまわる。悲鳴を上げる聖天子を抱きしめ、揺れるリムジンの壁や床から彼女を守る。
「蓮太郎!!」
動きが止まったその時、延珠ちゃんの鋭い声が聞こえた。
「延珠!!ドライバーを連れて、でろ!!」
「蓮太郎!!聖天子を頼む!!」
俺の言葉に蓮太郎は頷く前に聖天子の手を引いて、外に出る。出口には蓮太郎が近いし。
「くそ、運が悪いな」
結構、無茶な体勢な為か、起き上がるのに時間が掛かる。だが、視線の端、ビルの屋上で、ナニカが光ったのを見た瞬間、俺はロックシードを取り出す。
「間に合えよ!!」
【フレッシュ!!オレンジ!!!】
◆◆◆
聖天子を外に連れ出し、遮蔽物に隠れる為に周囲を見た瞬間、再びビルの屋上が光り、爆発音が背後から響く。燃料タンクを撃ち抜かれたリムジンが爆発し、その熱風でつんのめる。助け起こそうとしたが、聖天子は燃えるリムジンを見て、静かに首を振っている。
「……嘘ですよね……コウタさん……?」
拙い、そう思った直後に三度目の光、この距離でリムジンを撃ち抜く弾丸。恐らくは対物ライフル。俺一人が盾になった程度では到底、聖天子は守れない。
【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】
「おらぁっ!!!!」
だが、弾丸と俺達の間に割って入ったコウタがその頭に被った巨大オレンジで弾丸に頭突きをかまし、防ぐ。弾丸は明後日の方向へと飛んで行き、ビルの一角を砕く。
「コウタ……さん?」
「悪い、ちょっと遅れた」
そういって、変身が完了したコウタが手を上げる。
【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】
【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】
瞬間、後ろを護衛していた二人が変身して走ってきた。
「戒斗、呉島さん!!コイツを!!」
そういって、投げられた錠前は二人の前で変形する。それは車輪の無いバイクだった。代わりに飛行できるのか、二人の前で空中に浮かんでいる。
「よし、私達は犯人を追う。君達は聖天子様の護衛を頼む」
「気ぃ抜くなよ?俺達の装甲でも結構痛いぜ?」
「ふん、誰に向かって言っている!!」
その言葉と共に二人が空へと飛び立つ。そして今まで何処にいたのか、保脇たち護衛官が聖天子を囲んで盾になりつつ、後退していく。
「きゃあぁ!?」
「うわあっ!?」
だが、後退していく所から別の悲鳴が上がった。そこには。
「ほほう、死神博士から材料の調達を任された時は退屈な任務だと思ったが、中々面白い事になっているではないか」
そういって、複数の覆面野郎と一緒に現れたのは随分と古い軍服に身を包んだ男だった。
「【大ショッカー】ですか?」
震える声を必死に抑えながら聖天子が告げる。
「如何にも。お初にお目に掛かる。私は【大ショッカー】の幹部。ゾル大佐。以後お見知りおきを」
そう仰々しく頭を下げたゾル大佐は顔を上げると指を鳴らす。
「折角です。暫く御歓談下さい」
同時にゾル大佐の後ろからハチの衣装に身を包んだ女とコンドルの怪人が現れた。
「我がショッカー怪人の殺戮ショーをね」
その言葉が合図かのように怪人が近くにいた男に襲いかかる。
「オラァッ!!!」
寸前で、怪人は蹴り飛ばされる。
「おいこら!!そこの役立たず!!さっさと聖天子を連れてけ!!邪魔でしょうがねえ!!!」
「な、何だと!?」
苛立ったようなコウタの声に保脇が噛み付く。今はそれどころじゃないだろ。
「ここは俺達で何とかする。お前等はとっとと尻尾を巻いて聖天子連れてけって言ってんだよ。それとも、こんな所で死ぬか?墓標には英雄って書いて貰えるかもな?」
「き、貴様ァ……!!」
プルプルと拳を震わせながらも保脇達が後退していく。どうやら優先するべきか何かは分かっているようだ。
「コウタ、大丈夫なのか?」
「安心しろ。大丈夫だよ。それより、ベルトは持ってきてんのか?」
「あぁ」
俺はベルトを装着する。正直、こんな場所で義手や義足を使うと被害が凄い事になる。なら、こいつがベストだ。
「延珠ちゃんはあの個性が全くない奴等を頼む」
「うむ、任せよ!!」
ポケットからブドウのロックシードを取り出し、掲げる。
【ブドウ!!】
「変身!!」
頭上にブドウが現れ、掲げた腕を斜め後ろに引き、ベルトにロックシードを装着する。
【ロック・オン!!】
二胡の中華風な音楽が流れる中、カッティングブレードに手を当てて、ロックシードを斬る。
【ハイ~!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!!】
鎧を纏い、変身を完了した俺は即座に右手に持つ銃【ブドウ龍砲】で市民に襲いかかるハチ女を撃って、牽制する。
「ほほう、新たな仮面ライダーか、面白い。ゲバコンドル!!蜂女よ。仮面ライダーを抹殺せよ!!」
「龍玄。お前は蜂女を頼む。俺はコンドルをやる」
「り、龍玄?」
「お前の名前だよ。仮面ライダー龍玄」
「おぉ、格好いいな。蓮太郎!!」
そういって、俺の肩を軽く叩いたコウタは太刀を構える。視界の端では瞳を輝かせて、俺を見る延珠が集団を蹴り飛ばしていた。
「ここからは俺達のステージだ!!」
そういって、駆けだすコウタに俺は銃を構える。
「フルーツジュースにしてやるぜ!!」
◆◆◆
「馬鹿な!?民警が仮面ライダーになっただと!?」
「何故、我々に支給されず、あんな薄汚い奴にあの力を……」
護衛官の一人がそういうと、保脇隊長が忌々しそうに告げる。
「イーッ!!」
甲高い叫びと共に現れたのは黒タイツに骨の入った姿の男性たち。私達は数十人の彼らに囲まれていた。
「ヒッ!?」
保脇隊長が短く、悲鳴を上げた。
「御機嫌麗しゅう。聖天子殿」
何時の間にか、街灯も消えた道路の先から白いスーツに黒のマントを羽織った壮年の男性が現れる。
「あ、貴方は……?」
「我が名は死神博士。【大ショッカー】の怪人を製作している科学者、と言っておきましょうか。今日は貴女を我が【大ショッカー】の基地へとご招待する為に馳せ参じました」
「う、撃てェッ!!!!」
死神と呼ばれた男の声を遮って、銃声が耳に響く。あまりに近くで音が響いた為、一瞬、視界が揺らぎ、耳が痛くなる。そして平衡感覚も無くなってその場でへたり込んでしまう。
「やれやれ、無粋な者共よ」
揺れた視界、音が反響する世界でその声だけがやけにハッキリと聞こえた。視線を向ければそこには無傷の死神が立っていた。
「ば、化け物!?」
「失礼な。私の作品は全てヒトを超越し、新たにこの地球を支配する生命体だ。誰一人として化け物ではない」
まるで出来の悪い教え子に聞かせる様な声音と共に振るわれた鞭の一撃が化け物と告げた護衛官。確か芦名辰巳さんの胸から上を吹き飛ばした。ビシャリという音と、僅かな衝撃と共に私の視界、その左側が赤く染まった。
「おっと、失礼」
雨に濡れたコンクリートに倒れる芦名だったヒトを一瞥した死神は私に向かってそう謝罪した。
「あ……あぁ……」
「聖天子様には少々、刺激が強過ぎましたか。いやいや、慣れるのも時には邪魔になりますな。貴婦人の扱いを誤ってしまう」
「き、貴様……」
「ふむ、まだ口を開く度胸があるようだ。素材は多い方がいいが、そうだな。継ぎ接ぎでも構わんか」
そういって、彼が鞭を高く持ち上げる。それだけで護衛官が悲鳴を上げる。
「お、御待ちなさい!!!」
震える声を、足を叱咤しながら立ち上がり、声を張り上げる。
「貴方の目的は私なのでしょう?ならば、護衛官に手を出すのは止めなさい」
そう告げた時、死神と目が合う。その目は感心する様な目であり、何処か奈落に続く様な眼をしていた。
「……気丈な方だ。今すぐにでも悲鳴を上げて、自分を忘れてしまいたいのでしょう?」
見透かすような言葉に私は小さく笑う。
「そんな事はありません。私には絶対に無くならない希望がありますから」
「仮面ライダーですな、これも因果か。我々の邪魔をするのは決まって仮面ライダー。そしてソレを支えるは人間。世界は変わろうとも、ヒトは変わらぬか」
何処か感慨深くそう告げた後、彼は手を振るう。すると、近くに居た戦闘員が私達に近づき。
「ハァッ!!」
突如、割り込んだ白いライダー。呉島隊長によって撃退される。
「御無事ですか、聖天子様?」
「助かりました呉島隊長。駆紋さんは?」
「犯人を追っています。先程、葛葉より【大ショッカー】が現れたと聞き、私だけ戻って来ました」
そう告げて、盾と刀で戦闘員を薙ぎ払う呉島隊長のお陰で道が出来た。
「今の内です」
「ありがとうございます。気を付けて」
礼を告げ、保脇隊長達と共に走り抜ける。
◆◆◆
「ふむ、中々の性能だ」
私の目の前、そこに立つ壮年の男性が感心した様に告げる。
「これは少しデータが欲しいな。サボテグロン!!」
男の声と共に暗闇の中から緑の怪人が現れる。
「ガストレアウイルスによって強化されたお前の力、存分に見せよ」
「リョウカイ……シマシタ」
本来の体色は緑だったのだろう。だが、今は身体に幾つもの紫色の斑点模様が浮かび上がっており、闇に光る赤い瞳の所為で不気味な姿になる。だが、それ以上に気になる単語が聞こえた。
「ガストレアウイルスだと……!?」
「その通り、この世界の覇者であるガストレア。その解析は既に終わっている」
そういって、彼は嬉しそうに喉を震わせる。
「ガストレア。貪欲に他者を喰らい、進化する生命体。素晴らしい素材じゃないか。しかも、そのウイルスには生物の限界を容易く越える事が出来る。では、実験といこう。私が作り上げた怪人がガストレアの力を手に入れた事でどれほど強化されたか」
そこの言葉と共にサボテグロンが駆ける。咄嗟にメロンデシフェンダーで攻撃をガードする。
「ぐぅあ!?」
「素晴らしい。瞬発力、攻撃力は私の思い通り。しかも、肉体的に損傷が無いのが素晴らしいではないか。これは良い研究テーマだ」
ガードは間に合っていた。だが、それでも私は背後のビルの壁を突き破り、ビルの中で転がっていた。
「……強い」
◆◆◆
「ハッ!!」
鋭く吐き出した息と共にゲバコンドルを斬るが、咄嗟に避けられ傷は浅い。更にお返しと言わんばかりに蹴りが来るが、それはもう一本の大橙丸で防ぐ。
「チッ、やっぱ強いな」
「隠禅・黒天風!!」
後ろでは蓮太郎の叫びと共に繰り出された鋭い回し蹴りが蜂女に叩きつけられ、吹き飛ぶ。
「おぉ、蓮太郎。やるな~」
「変身してなかったらヤバかったよ」
そう言いつつ、既に仮面ライダーの力を使いこなしている蓮太郎に内心凹んでいる。
「取り敢えず、ソイツが終わったら次はコッチだ」
「お前ひとりじゃ無理なのか?」
「無理だな。コイツ、明らかにこの前戦った奴らよりも格上の怪人だからな」
そういいながら、突撃してくるゲバコンドルを相手にする。
「分かった。少し待っててくれ」
そう告げた蓮太郎はブドウ龍砲で飛び上がった蜂女の羽根を撃ち抜く。
【ブドウスカッシュ!!】
空中でバランスを崩した蜂女の前に跳び上がった蓮太郎。
「隠禅・哭汀・逆鱗!!!」
オーバーヘッドキックで繰り出された一撃は蜂女の頭部を砕き、爆発させる。
「ほほう、蜂女を倒したか。ゲバコンドルよ!!GV剤の使用を許可する!!」
「フゥエーッ!!」
蹴り飛ばしたゲバコンドルがベルトから紫色の液体が入った注射器を取り出す。奴がその注射器を自身の胸に突き立て、ボタンを押す。空気が抜ける音が聞こえ、容器の液体がゲバコンドルの肉体に注入されると、ゲバコンドルの身体が変異する。
「こ、これは……!?」
「おい、ゾル大佐!!あの液体はなんだ!?」
身体がボゴリ、という音と共に肥大し、骨が、肉が、翼がより強靭なモノへと変貌していく。そしてゲバコンドルの瞳が妖しく赤く光る。
「素晴らしい!!流石は死神博士だ。見事にガストレアウイルスを制御している」
「なん……だと……!?」
蓮太郎が絶句するが、俺は内心で舌打ちし、納得する。死神博士にとってガストレアは新たな怪人製作の素材だ。そのウイルスを解析、利用する事などそう難しくないだろう。
「ククク、貴様等が手古摺っているガストレアと言ったか?あんなモノ達よりも我々が優れていただけの事。さぁ、ゲバコンドルよ。仮面ライダーを殺せぇ!!!」
「フゥゥエェェーーーッッッ!!!!!!!」
甲高い雄叫びに近くのビルに張られた窓ガラスが全て割れる。ゲバコンドルは近くに居た戦闘員の頭を掴み、握りつぶし手に着いた脳漿を咀嚼する。
「ふぅむ、まだ調整が不十分のようだな。まぁ、これも死神博士の課題の一つだ。少しデータを取るのも良かろう」
そういって、ゾル大佐は戦闘員と共にこの場から離れる。
「来るぞ、蓮太郎。言っとくが、さっきよりも手強くなってる筈だ」
「ガストレアウイルスを兵器利用かよ」
苦々しく呟いた直後、ゲバコンドルが動く。大ぶりの一撃を避けて、ガラ空きの背中を大橙丸で切り裂く。確かな手応えと共に鮮血が舞い、ゲバコンドルの悲鳴が上がる。
「やっぱ、再生するか」
「だったら、畳みかけるだけだ!!」
後ろの蓮太郎がそう告げると共にブドウ龍砲による追撃を行う。その攻撃に怯んだ瞬間に大橙丸で斬りつけ、蹴り飛ばす。
「ハァッ!!」
蹴り飛ばした先に居た延珠ちゃんがゲバコンドルを蹴りあげる。流石に重量も増している為、そこまで跳ばなかったが、それでもブドウ龍砲の追撃が充分に入る。悲鳴を上げながらゲバコンドルが地面に転がる。
「一気に決めるぞ!!」
【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジスカッシュ!!!】
「分かった!!」
【ハイ~!!ブドウスカッシュ!!】
ベルトからの音声が響くと同時にブドウ龍砲と大橙丸にエネルギーが溜まる。
「「セイハー!!」」
大橙丸の斬撃とブドウ龍砲の銃撃がゲバコンドルの目の前で合わさり、奴を呑み込んで爆発した。
「ふむ、成る程。大したものだ。我が配下でこれほどの力を引き出すのならば他の組織の怪人ならばどれほどの力を得るか……ガストレアウイルス。中々面白いではないか」
そう告げたゾル大佐は俺達に背を向ける。
「今回は此処で引き上げといこう。ではな、仮面ライダー。また会おう」
その言葉を最後にゾル大佐が配下の戦闘員と共に暗闇に紛れて消える。
「終わったか……?」
「いや、呉島さんが気がかりだ」
蓮太郎の言葉に俺が告げる。
「さっき、連絡が入ったんだが、逃げた聖天子の方にもう一人、幹部が現れたらしい」
「マジかよ……!?」
「呉島さんが間に合って、聖天子も逃げたが、呉島さんが心配だ」
「俺も行く」
「妾も行くぞ」
何時の間にか、戦闘員を片付けた延珠ちゃんが胸を張って告げる。俺はマスクの下で小さく笑った。
「なら、直ぐに行くぞ」
そういって、俺達は走り出した。
◆◆◆
「犯人は既に逃げた後か?」
乗っていたダンデライナーをロックシードに戻した俺は周囲を見回す。
「誰かがいた形跡はあるようだな」
先日、雨が降ったお陰だろう。狙撃ポイントであろう場所は、やや渇いている。そのような体勢で撃ったのかはよく分からないが、かなり小柄だと言うのが分かる。
「狙撃は1km彼方から。更にその距離でも充分に威力があるライフル。恐らくは対物ライフルか。ソレをこんな小柄な人物が使うと言う事は……」
十中八九、犯人は【呪われた子供たち】だ。だとするなら、聖天子を殺すだけでなく、その後、犯人を捕まえさせ、世論を操作する気なのだろうか。
「誰だか知らんが、随分と不愉快な事を考える物だ」
そんな事を呟きながらふと、視界の端に何かを見付ける。
「ん……?」
ゆっくりと周囲に気を配りながら近づけば。それは髪飾りのようだ。
「……」
ソレは新品の髪飾りで大切に扱われていたのが窺える。俺は茫然とソレを見た後、怒りが沸き起こる。
「ティナ……」
ソレはティナにプレゼントした向日葵の髪飾りだった。
◆◆◆
「ふむ、流石に仮面ライダーが増えれば負けるか」
「大丈夫ですか、呉島さん」
「あぁ、助かった」
呉島さんに肩を貸しながら前を向けばそこには顎に手を当てて思案している死神博士。そして俺達と死神博士のちょうど中間の位置には煙を上げている燃えカスがある。先程、不意打ちと共に三人で一気に倒したサボテグロンだ。
「お前達が此処に来たと言う事はゾル大佐の方は既に撤退していると言う事か」
「あぁ、GV剤だっけか?厄介な代物を造りやがって」
蓮太郎がブドウ龍砲を向けながら詰問するが、死神博士は感心した様に表情を変えるだけだ。
「成る程な。アレを使ったか。ならば、私も直ぐに戻り、ゾル大佐から報告を受けねばな」
「あ、おい待て!!」
その言葉と共に消えた死神博士に蓮太郎が叫ぶが、既にアイツは何処にもいない。
「一旦、戻った方がいいな」
「……そうだな」
呉島さんの言葉に蓮太郎が頷く。俺は呉島さんに肩を貸しながら遠巻きに見ていた警察の方へと歩き出す。
投稿完了!!そして文字数が驚異の1万6千越え!!作者の自己ベスト更新!!正直、前後篇に分けようと思いましたが、そのまま投稿。変に引き伸ばしてもいい事ないしね!!今回で大ショッカーが新たな力を手に入れました。とはいえ、まだまだ実験段階。試験的な物です。取り敢えずティナの件は次で決着です。お楽しみに
次回の転生者の花道は……
「新型の【ゲネシスドライバー】及び【エナジーロックシード】の試作品だ。この装備は実働部隊が使っている【戦極ドライバー】のデータを基に造り出したモノでね。その性能は軽く見積もっても【戦極ドライバー】の数倍だ」
「俺の事など、どうだっていい。貴様の飼い犬は既に始末した。分かるか?貴様の計画はこれで破綻した」
「確かにアンタのやった事は間違った事かも知れない。けどさ、アイツ等が救うほんの一握りの人間よりもアンタが救った人間の方が遥かに多い筈なんだ。だから、そう自分を卑下しないでくれ」