ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー   作:バロックス(駄犬

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今回は別に木更さんがNTRされるとか、六巻の内容を先取りしたとかそんな事は全然ないので、勘違いなさらないようにお願いします。 ええ、至って健全なギャグ回ですよ。


第四話~快楽無用~

――――天童民間警備会社。

 

 

 東京エリアの雑居ビル『ハッピービルディング』の三階にその会社は存在している。 

 

この東京エリアを守るために存在する民間警備会社の規模は大きければ大きいほど、その所有位している財力は大きい。 所属するプロモーターが序列を上げれば上げるほど、スポンサーとは契約を結んで武器などの提供を受けることができる。CMのような効果でお互いに利益を得ることが出来るからだ。

 

だが、この天童民間警備会社も一応世界を守るための民警なのだが、世界を守るという崇高な使命を果たして遂行出来るのか怪しいというくらいに廃れている場所だった。

 

 

 

・・・まぁ、客が寄って来ない理由はあらかた想像できるわけなんだが。

 

 

 事務所が存在する三階を目指す里見蓮太郎は、この天童民間警備会社の一社員であり、会社の経済の基盤ともいえようプロモーターでもある。 

 

 

蓮太郎が想像するとおり、自分が身を置くこの事務所は最悪的に立地が悪かったのだ。

 

 

雑居ビル『ハッピービルディング』には一階から自社を間にした四階までにかけてのテナントが素晴らしく人目を避ける物件である。 一階がゲイバーで二階がキャバクラ、四階なんて闇金だ。

 

 

「あら、蓮太郎ちゃん。 今日も元気なのね・・・どう? こっちにこない?」

 

一階の階段を登ろうとした時に窓の方からスラッとしたタレ目のオネェが蓮太郎に声をかけていた。 冥府魔道に引きずり込もうとしようとその右手はこちらを手招きしている。

 

 

「だ、誰が行くか!」

 

「あん、もう! 強い意志で断るのね! でも嫌いじゃないわ!」

 

 

強くそう蓮太郎に否定されるとオネェは自身の両肩を交互に掴んで、見るだけでMPを吸い取られそうな腰使いで身をクネクネと揺らした。

 

 

「嫌いじゃないわ!!」

 

 

・・・なぜ2回も言った。

 

 

早く事務所へと向かおうと、蓮太郎は内心で突っ込みながらもその階段を駆け上がっていった。 二階に行けばケバい女が、四階の階段からはパンチパーマのお兄さんが現れるこのとてもユーモラスな雑居ビルに挟まれるように存在する天童民間警備会社、この時点で簡単に仕事が舞い込んでくる事がないと多方理解できただろうか。

 

 

 

 

 

・・・しかし木更さんはなんで俺を呼んだんだ?

 

 

 

自分の会社の社長である天童木更の名前を浮かべたのは、蓮太郎が携帯メールで「来て欲しい」というメールを放課後に受信したからであった。 仕事の依頼ならば喜ばしいことなのだが、この間のように依頼金の引き伸ばしを喰らうような仕事は御免であった。

 

蓮太郎と同じく極貧を強いられている木更は、あの聖天使の側近である天童菊之丞の孫である由緒正しきお嬢様だ。 そんな彼女が、天童家に復讐を誓い、天童家を出奔したのはかなり前の事だ。 

 

 

全ては謀殺されたであろう、木更の両親の無念を晴らす為、蓮太郎はその協力者だ。 だが木更のやろうとしていることは『殺し』、『殺人』だ。 人の道から外れた所業なのだ

 

 

・・・ましてや、その復讐を手伝い、成し遂げたとしても、二人が戻ってくる訳ではない。

 

 

両親が死んだ当時の事が原因で、木更の腎臓は後遺症でその機能を失っている。 ひたすら復讐の為に剣の腕を磨き、痛みの為に人工透析を続けている彼女がその目的を遂げても失った両親は戻ってこない。 蓮太郎は最初こそ木更との共犯を望んでいた。 だが、延珠と暮らすようになりそれが間違いではないかと思うようになった。

 

 

一度、事務所で木更がうたた寝をしていた時だ。 蓮太郎は彼女の寝言を聞いた。寝言にしては物騒で、生々しいものを。

 

 

―――――ぜったい、に、全ての天童を・・・殺す。

 

 

これを聞いて、蓮太郎は彼女の心がここまで天童の幻覚に蝕まれている事を知った。 

 

 

悔しかった。 代わってあげられない、彼女の支えになってあげられない自分が。

 

 

 

 

 

・・・いつか、俺になんとかすることができるだろうか。 あの人の心を復讐から解き放つことが。

 

 

 

いつになく重々しい顔で彼は自分の事務所の扉の前で立ち止まる。この向こうにはいつもの笑顔で社長の机に座っている木更が居ることが彼にとってそれだけでもその日は幸せなのだと実感できる。 

 

 

 

そんなシリアス全開の蓮太郎が事務所のドアノブに手を伸ばそうとしたその時だった。

 

 

 

『あんッ ちょっ、と・・・!!』

 

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

『だ、だめぇ・・・ッ!!』

 

 

 

「ッッッ!?」

 

 

 

思わず声が上がりそうになったのを寸でのところで抑えて蓮太郎は伸ばしていた手を引っ込める。 

 

 

事務所越しに聞こえた謎の甘い声は聞き覚えのある声だった。

 

 

 

『そ、ソレぇ・・・! だ、ダメなのぉ』

 

 

 

「き、木更さん?」

 

明らかにその甘い声の正体は天童木更その人の物だ。 彼女がそんな声を出すのかと驚いた彼だが、それよりも驚かなければならない点がある。

 

 

 

なぜ彼女が一人で喘いでいるのだろうか。 もしかしたら蓮太郎は遭遇してはいけない現場に突入してしまうところだったのではないのか。

 

 

 

もしこのまま突入してしまったら『どこのエロゲーだ』と言わんばかりのワンシーンに遭遇するだろうが、その後、雪影を構えた木更の姿が嫌でも浮かぶ。

 

 

・・・こ、これは俺の、俺だけの秘密にしておこうッ

 

 

喉を鳴らして、一歩引く。 この場に延珠がいないことが何よりも幸運な事だった。 延珠なら問答無用で突入して、見よ蓮太郎ッ これがあの女の本性だ!とカメラ片手に激写するに違いない。

 

 

彼女の為を思ってその場を後にしようとした時だ。蓮太郎は更に信じられない声を聞く。

 

 

 

 

『ん、や、止めさせてェ・・・お、おじさまッ』

 

 

『へっへ、なんでぇ ソコが弱かったのかい。 安心しろ、ただ疲れが溜まってる証拠じゃねぇか』

 

 

 

中から聞こえた木更とは違う、もう一人の聞き覚えのない渋い男の声。 蓮太郎は目を見開いた。

 

 

 

・・・だ、誰だこの声はッ!?

 

 

今まで聞いたこともない。 つまり他人だ・・しかも男の。 そして中にいるのは謎の喘ぎ声を上げている木更。

 

 

 

この構図を想像して、蓮太郎は最悪の予想をしてしまった。

 

 

 

・・・まさか木更さんッ あまりにも金がないからって体を差し出しちまったのかよ!!

 

 

 

知らずのうちに歯を食いしばっている。 木更ほどの美人ならば其処ら辺にいる男の一人や二人、引き寄せる事は簡単だ。 だが、そんなことを蓮太郎が許すはずがなかった。

 

自分の想い人がそんな間違いを犯してしまっていることを蓮太郎は酷く悔いている。

 

 

・・・どうしてッ 俺に相談してくれなかったんだッ 俺が頼りないからかッ!

 

 

 

甲斐性なし。 そう言われていたのを思い出して、その言葉が蓮太郎の肩に重くのしかかってくる。 もっと自分が仕事をこなせないばかりに。 彼女の心の負担が増えていたのだ。

 

 

 

「いや、まだ間に合うッ」

 

 

これは間違った事なのだと、天童の名を背負う彼女為ではなく、一人の女としてのプライドの為に蓮太郎は右足を一歩引く。

 

 

『アンッ もうダメッ 限界ッ・・・き、きちゃうッ!』

 

 

『エエ!? お嬢ちゃん、まだ半分も終わってないんだぜ?』

 

 

 

「木更さぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

蓮太郎は雄叫びを上げながら、床を踏みしめて目標である事務所のドアを見据える。

 

 

――――天童式戦闘術、ニノ型十六番。

 

 

「隠禅・黒天風ッ!!」

 

 

 

目標を誤らずに放たれた回し蹴りは人間なら確実に即死級の威力だった。 事務所の木製のドアがその威力に耐えられる筈もなく、ドアは勢い良く吹っ飛ばされる。

 

 

 

 

「木更さんッ それ以上はダメだッ・・・・・・・ってアレ?」

 

 

中に突入して、いざ職場の風紀を乱す悪鬼を討伐せんとしていた蓮太郎が見たものはこの小説がR指定してしまうような生々しい現場ではなかった。

 

 

「え!? 里見くん!?」

 

 

「な、なんでぇ! 何が起きてんだオイ!?」

 

 

蓮太郎が確認した人物は自身を除いて三人いた。

 

 

まず一人は目に入ってきたのは確かにベッドに寝かされていた木更だ。 だが全裸とかそんなのではなく、組立式の簡易ベッドで紺色のジャージを履いた制服姿と、至って健全である。

 

 

「えっ、ちょ・・・これ、なに?」

 

二人目はその寝転がっている木更の腰の辺りに手を添えている外側に跳ねたくせっ毛のある赤髪の少女の姿だった。 少女は何が起きたのかと周りを見渡してその視線を漸く蓮太郎へと据える。

 

 

「オイオイ嬢ちゃん、このうだつの上がらねぇ不幸ヅラはなんだい。 お嬢ちゃんの彼氏かい?」

 

 

最後にもう一人はこの東京エリアでは珍しく表面は黒、赤い裏地の着物を纏っていた坊主の男だった。 どこの江戸時代からやってきたと突っ込みたくなる蓮太郎である。

 

 

 

「ち、違います! この人は・・・・そうッ ウチの甲斐性なし社員の里見くん!!」

 

 

坊主の男が最後に発した言葉に木更が恥ずかしそうに全力で否定した。 

 

 

若干蓮太郎がヘコんだのは言うまでもない。

 

 

「き、木更さん・・これはどういう――――」

 

 

やがて木更が誤解をしているであろう蓮太郎にこう言うのだ。

 

 

 

 

「えーっと、里見くん? 何か誤解をしてるようだから手短に話すけどね?」

 

「あー、俺が言うぜ嬢ちゃん」

 

その一言を説明しようとしたとき、坊主の男が口を開く。

 

 

「俺はァ、最近ここにやって来た按摩屋(あんまや)の伊堵里 墨(いどり すみ)ってンだ。 んで・・・」

 

 

ひょい、と片手で十歳程の赤髪少女のコートのフードの部分を掴みあげた。

 

 

「コイツは相良美濃(さがら みの)。 俺の助手」

 

「ど、どうも・・・・」

 

地面から足を離した少女はぷらんぷらんと足を揺らしてこちらを見て一礼した。

 

 

 

 

「え・・・・」

 

 

キョトンとした蓮太郎は深呼吸をして心を落ち着かせる。 そして数十秒スクワットをなぜか行ってその後で。

 

 

 

「ええええええええええええええ!?」

 

 

 

雑居ビル『ハッピービルディング』全体に響き渡るくらいの声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「按摩屋?」

 

 

 

「そうだっつてんだろに」

 

 

腕を組む着物の男、墨がそう吐き捨てる。 どうやら蓮太郎は漸く勘違いをしていたことを理解したらしい。

 

 

「このおじさまが疲れてそうだからって・・・そうしたら事務所で施術することになって」

 

 

「そうなのか、でもなんでこの子がマッサージをやってるんだ?」

 

蓮太郎は横になっている木更に再度マッサージを再開している美濃を見る。 本当なら墨が行うべきことではないのだろうか。

 

 

「馬鹿野郎お前、今マッサージと称したセクハラとかで俺みたいなやつが簡単に女にマッサージできねぇの。訴えられたら勝てねぇの。女の客にはこの美濃がやるようにしてるの。けどコイツの腕は保証するぜ」

 

 

「いや、もっと根本的な事忘れてないか? 免許とか」

 

「つべこべ言ってんじゃねぇよ! ンなもん『なぁなぁ』にしとけば通っちまうんだからッ」

 

バシンと蓮太郎の背中が叩かれて蓮太郎は背を曲げる。 強烈過ぎたか、背中を自分でさするようになでていた。

 

*免許無しはホントにマズイですよ!

 

 

「でも里美くん、この子上手なのよ? もう私の疲れとか腎臓の後遺症も治っちゃいそうな勢いでッ・・・んんっ」

 

 

 

 

若干トロンとしたような表情の木更がベッドで寝転んでいる。 美濃が木更の腰辺りを指で押していく度に木更の口から小さく甘い声が漏れる。

 

「・・・・」

 

 

蓮太郎はそれを見て、なんとも言えない気持ちになった。 良く見ると、よほど自分が来るまでに激しいものだったのだろうか(マッサージが)、木更の口元は小さく涎が垂れていてベッドにしかれていたシートに数滴ほどのシミが出来ている。

 

 

 

「そうだ。木更さん、なんで俺をこんなところに呼んだんだ?」

 

 

 

あ、そうだった。と木更は目的を思い出してか、顔を上げて口についていた涎を拭う。

 

 

「実はね私ここ最近誰かさんの仕事ぶりの悪さで経営がうまくいかず、資金不足なの。 それにこの人たちの施術料・・・結構高そうなの」

 

 

「え?」

 

と、蓮太郎がそう発した途端に木更が笑顔で言った。

 

 

「里美くん、多分昨日辺りATMでお金おろしてたわよね?」

 

 

「お、俺をたかる気かよ! ついでにアンタ俺と一回も会ってないはずだ! なんだ? 予知なのか!?」

 

「二、三万くらいあるでしょ?」

 

「いや施術料たけーよ! ぼったくりじゃねぇのか!!」

 

 

「おいおいちょっと待てよ」

 

二人のやり取りに墨が割ってはいる。

 

 

「こっちだって腕一本で生活する為にこの商売やってんだ。 いずれはこの東京エリアで一番の按摩師になるつもりだぜ?施術効果だって保証するし・・・そう考えたら安いもんだろ?」

 

 

「いや可笑しいだろ! 普通の施術だって高くてもオプション付きで一万越えるか越えないかだ!」

 

「ねぇおじさま? どうにかならないかしら? 私たちこのダメ社員の御陰で今月ピンチなの・・・よよよ」

 

 

猫かぶりもいいところだ、と蓮太郎が上目遣いで応対する木更を見て頭を掻く。 墨はその木更を見て心を変えたか、少々悩むように首を小さく捻って鳴らした。

 

 

「ンンーーー、そうだなァ。 おい小僧、いくら持ってんだ」

 

 

「・・・一万とちょっと」

 

 

金額を応えた蓮太郎に対して墨は鼻の辺りを掻くと小さく舌打ちする。

 

 

「わかったァ、木更嬢ちゃんのお願いだ。 一万で勘弁してやる・・・小僧、お前の身体も施術してやるぞ」

 

「やったー!」

 

 

横でうつ伏せになっている木更が子供のような笑みで両手を上げる。 社長よ、それでいいのか。

 

 

「んじゃあ美濃、やってやれ」

 

 

「え、でも・・・」

 

 

「女だけじゃなくて、男の方も慣れてけ。 心配するな、俺が女に触るのは世間一般でアウトだが、お前の年齢の女がコイツに触るのはコイツにとっては世間一般ではご褒美だ」

 

 

それを聞いて若干引いたようなジト目で美濃は蓮太郎を見て木更の影に隠れる。

 

 

「こ、こわいね」

 

 

「ンなわけねぇだろ!!」

 

蓮太郎は怒号を飛ばした。 それを見て、施術を終えた木更がフフフと怪しげな笑みを浮かべる。

 

 

「フフフ・・・覚悟したほうが良いわよ里見くん。 彼女のその魔手に貴方は狂わされるの、そう! 数十分前の私のような痴態を私の前で晒すがいいわ!!」

 

 

「木更さん、その庶民感丸出しのジャージ・・・まだ着てるのか」

 

 

「ちょっ、見るなぁ! お馬鹿! 嫌い! ハイカラ最低!」

 

 

「おーい、とっとと始めるぞ」

 

 

こいつら、いつもこんな感じなのか、とまたしても頭を掻いた墨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、里見のお兄さん」

 

 

 

「お、おおう・・・・!」

 

 

うつ伏せになった蓮太郎は彼女、相良美濃の施術に圧倒的な快楽を与えられていた。

 

 

 

蓮太郎は右腕と右足が義手のため、施術をお願いしたのは首と腰だった。 義手がバレても困りはしないが、相手に変な気持ちにさせたくはなかったのだ。

 

 

 

・・・す、凄い!

 

 

端的な答えだったがこれが理にかなっていた。 美濃の差し込まれた指は的確に首筋のツボを刺激して、痛くもなく弱くもない程よい強さが心地よい気分を誘うのだ。

 

 

「くっ・・・!! これは一体ッ」

 

 

「多分、姿勢悪いんじゃないかな? 若干猫背でしょ」

 

 

「ま、まぁそうだが・・・最近授業中、身体丸くして居眠りしてたからかな」

 

 

「首とか肩に負担がかかるような姿勢はダメだよ。 疲れだってすぐ溜まるんだから」

 

 

ぐいっ、と美濃が首筋を押す。 まるで皮膚に溶け込むように彼女の指が蓮太郎の皮膚を沈めていく。 その度に全身に電撃が駆け巡るような甘い痺れが蓮太郎を襲うのだ。

 

 

「ッッ・・・お前、スゲェよ」

 

「あ、ありがとう」

 

「フフ・・・里美くん、いい感じよ! 『悔しい! でも感じちゃう!』っていう感じの声だわ!予想通りよ!!」

 

「社長、ちょっと黙っててくれ」

 

 

蓮太郎の震えが伝わってきたのか、美濃は礼を言いながらも加減を調整する。 

 

 

「フツー、こういう人体の仕組みって覚えなきゃいけねぇんだろ? 勉強したんだな」

 

蓮太郎は顔を伏したまま続ける。恐らく自分はあまり他人に見せられるような表情をしてはいないだろう。

 

 

「オイ、あんまコイツを褒めんな」

 

 

聞いていた墨が突如としてその場から動かずに割ってはいる。

 

 

「何言ってんだよ。 コイツは・・・悔しいが本物だ。 俺は今日、これまでこんな腕のいいマッサージされたことねぇぜ?」

 

「そういうことじゃねぇんだ。 そいつな、あんま褒めすぎると―――――」

 

 

どうかしたのか、と問おうとした蓮太郎だったが、不意に蓮太郎は施術中の美濃の指が止まっていることに気づいた。

 

 

「ど、どうした・・・?」

 

振り向いて、彼女の表情を見た蓮太郎は一瞬を目を見開く。 美濃の表情は何故だか羞恥で真っ赤になっていた。

 

 

「お、お上手なんて・・・そんな事言わないでェ―――――――!!」

 

 

次の瞬間、ゴリッという音を立てて美濃の指が蓮太郎の首を刺した。

 

 

「ぎゃああああああああ!!!」

 

「もうお兄さん! ほ、褒めたって何も出ないんだからね! お、折るよ! 殺しちゃうよ! ちょうど首だから首やっちゃうよ! 触ったら生首ぽろんって的なホラーな感じで!!」

 

 

「さ、最後の方がよくわからんがッ・・・もうちょ、い、弱く!」

 

 

首からいつの間に腰に手を回していた美濃だがその強引なスタイルは変わらず、圧迫するような痛みが連太郎を襲っていた。溜息をついていた墨が呟く。

 

 

「美濃はなぁ・・・極度の照れ屋なんだ」

 

 

「そ、それを先に言ってくれ」

 

 

魂抜けかていた蓮太郎だったが、途端に美濃の手が蓮太郎から離れる。 顔を未だに真っ赤にした美濃は近くに居た木更の体にしがみついた。

 

 

「す、墨さん! わ、私もうダメ! 暫くこのおっぱいに隠れるから! お兄さんに弄ばれた!」

 

 

「こ、こらぁ! 離れなさいよ・・・あぁんもう! くすぐったい!」

 

 

 

・・・な、なんて羨ましいことをッ。

 

 

心の中でそう思う蓮太郎だったが、若干殺気のような物を感じたので前を向くと、そこには笑顔の墨が立っていた。

 

 

「・・・オメェ、腰が痛ェんだっけ?」

 

「あ、イヤ・・・もういいんで、ありがとうございます」

 

 

思わず敬語を使ってしまった蓮太郎だがもう時既に遅しといった感じか。 逃げようとする彼を墨は片手で持ち上げるとまるでピザ職人が指先で生地を回すように、連太郎を片手で回し始めた。

 

 

・・・コイツ! 腕力やべぇ!

 

 

思わず十万馬力でも積んだ鉄腕ロボットなのかと疑ったくらいだ。 墨は叩きつけるようにベッドに向けて蓮太郎をうつ伏せになるよう叩きつけた。

 

 

「ここからは俺が代わりをやってやらぁ。 今の俺は目の前で娘を弄ばれたのを見せつけられて非常に気分がイイ。 特別コースで相手してやる」

 

「ちょっと待て! 子供の言う事を本気にすんなッ!!」

 

 

 

「問答無用ッ! だいたい・・・なぁッ!!」

 

「げふっ!!」

 

勢い良く蓮太郎の背中に馬乗りになるように墨が跨った。 重さで蓮太郎の肺の空気の一部が口から漏れる。

 

 

「オメェみてぇな軟弱野郎に細けぇ施術なんざ必要ねぇんだ。 そんな弱っちい精神だからすぐに体がへばっちまう!!」

 

「いてててててて!!!」

 

 

墨は蓮太郎の足を持ち上げると、彼が逃げないように腰に体重を掛けて海老反りの形になるように蓮太郎の足を彼の頭の方向に思いっきり引っ張った。

 

 

「俺がここでその性根、鍛え直してやるッ このロリたらしスカタンがッ」

 

 

「あ、ああッ! アッ――――――――――!!」

 

 

 

「イイッ イイ表情よ里見くん! 記念に一枚撮って延珠ちゃんに送っとくわね!! 私からのハッピーなプレゼントッ! 『ハッピービルディングから送信する』ってだけにッ」

 

軽快な木更のスマホのフラッシュ音と同時に一際大きな蓮太郎の叫び声が、ハッピービルディングに再び響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京エリアの十八地区の夜の街にて、二人の人影が歩いている。 仕事を終えた墨と美濃だ。

 

「ったく・・・もうちょいその照れ屋直せこのバカタレッ」

 

「ご、ごめんよぅ」

 

ぽこん、と小さく墨が美濃の頭を小突いた。 墨としては弱めに叩いたつもりらしいが、彼女にとってそれは痛烈だったらしく、痛みから頭を必死に抑える。

 

「お前がもうちょい立派になってくれたらよぅ、俺も楽に任せて仕事できるんだけどなぁー」

 

どこか遠い目で見るように、彼は街に並んでいる街灯を眺める。 どういった意図でその言葉が吐かれたかを察した美濃は目を細めてそっぽを向いた。

 

 

「どうせ売上の殆どは綺麗なおねーちゃんとふたりっきりになれる宿屋に行くためのお金に消えるんでしょ!」

 

 

「な、なに言ってやがる! お前ガキのくせに舐めた事言ってんじゃねぇぞ!!」

 

「じゃあ教えてよ! この前会ってた『マチコ』って誰さ!」

 

「うっそーん! 見てたのお前!」

 

「・・・そのあとすぐどっか行ったから知らないけどさ」

 

むすっ、とした表情で言う美濃に墨が視線を合わせて腰を低くして彼女の両肩を掴んだ。

 

「な、なんも無かったんだよ美濃ォ ただ一緒にお酒飲んだだけだって!」

 

「・・・どこも触ってない?」

 

 

おう、と墨は胸を叩くと胸を張った。 だがすぐに彼女から視線を逸らして。

 

 

・・・いや、太ももと尻は触ったかな。

 

 

「あとついでに朝帰りだったよね、なんで?」

 

 

・・・どこまで尾けてたんだチクショウ。

 

一応女遊びは美濃の衛生上宜しくないと考えた彼が美濃が寝てから女遊びをしていたわけだが、どこかで尾行されていたのだろう。 店に入り込む勇気は流石になかったらしいが。

 

 

これから暫く夜遊びはできないなと墨は心の中で泣いたのだった。

 

「あー、もうつまんねぇ話は辞めんぞ! さっさと歩きやがれこのアホ!!」

 

「まーたはぐらかして・・・ねぇ墨さん、こんなにお酒とつまみ買ってさぁ、どこに行くの?」

 

話を変えた墨に対して美濃が気になったのは墨がここに来る間に買い込んだ数々の酒とつまみだ。 今日の売上のほとんどを使っているこの両の酒とつまみの用途が気になっていた。

 

どう見ても一日で食いつくせるほどの量ではない。

 

 

「へっへっへ・・・実はなぁ、俺の知り合いがここら辺に住んでてなぁ、そいつにこれから会いにいくわけなのよ・・・確かァ十年ぶりだっけなァ?」

 

 

墨の仲間と聞いて、美濃は思い当たる節を浮かべて彼に問う。

 

 

「もしかして、その人も『晴らし人』なの?」

 

 

その言葉に墨がニッコリと笑みを浮かべた。 

 

 

「おうよ、めっちゃ強いぜ。 ついでに、お前と同じ奴もいるからな」

 

 

「ってことは・・・私と同じ『呪われた子』なの?」

 

墨が首を縦に振って、美濃も笑みを浮かべた。 墨がそれを見て、空いている左手で嬉しそうな顔の美濃の頭を撫でる。

 

 

「良かったなァ、友達になれるかもしれねぇぞ。 『もしかしたら』だけど」

 

 

「いいよ! 全然いいよ! むさい墨さんと一緒なだけだと毎日が辛かったから断然いいよ! 早く行こ! どこなのその家!!」

 

 

・・・俺って凄い言われようだ。オッサンって辛い。

 

嬉々として飛び回る美濃に墨はおいおい、と頭を掻く。 そして彼は足を止めて目の前にあるアパートを指差すのだ。

 

 

「せっかちだなぁ美濃ちゃんは。 ここだぜここ」

 

 

「ここ?」

 

 

再び楽しそうな笑みを浮かべて墨は言った。

 

「元気にしてっかなぁ、やっちゃんは」




よしッ 今回も健全だったなッ(白目)
 
 久し振りに木更さん書いて思った事。『アレ? 俺の書く木更さんって結構ネタに汚れてね?』
ち、違うんだ! ただ合法的に女性キャラにお触りできるキャラを出そうという欲望が現れた訳じゃないんだッ! 今いるキャラだとお触りで確実にタイーホされちゃうから穏便に済ませる方法でやりたかっただけなんです! 

本当なんです! 信じてください!


とまぁ、言い訳がここら辺にして。 この新キャラの美濃ちゃん。 どういう役割するかって言ったら、ブラブレの女キャラ全員揉むため役割ですよ。 揉む? ああ、マッサージだよ。


女キャラ担当、相良美濃と男キャラ担当、伊堵里 墨。 こんな感じで。 たいてい男性キャラが損するパターンです。今回の蓮太郎のように。

美濃ちゃんのモデルは某暗殺時代劇でまだ行ったこともない外国の世界に夢を見るあの人。そして中村主水にトラウマを植え付けたあの人。

墨さんのモデルはまぁ粗方想像できちゃうかと思いますが、観音長屋の必殺シリーズ最強の骨接ぎ屋。







―――――次回予告。



木更「突如八洲許のいるアパートに現れた伊堵里 墨。 彼もまた、八洲許や七海と同じ『晴らし人』だった!」


延珠「おい木更! どういうことだ! 蓮太郎が男に海老反り固めされて恍惚な表情を浮かべてる写真をなぜ送ったァ!」

蓮太郎「ヤメろォ!!」

木更「十年ぶりの再会。 懐かしむ暇もなく、墨はチームを組まないかと八洲許を誘うが、彼はそれを拒否する・・・一体なぜ!?」

延珠「蓮太郎もアレか!? 妾という者が居りながら・・・お、男に身を捧げるなどッ!!」

蓮太郎「いい加減にしろ!」

木更「そして始まる久しぶりの仕事。 七海と相良のコンビ結成!? さて、気になる美濃の殺し技とは!? 墨はチームを組む事が出来るのか!?」


延珠「そうか! 妾が蓮太郎を揉めば良いのだ! これで万事解決だ!」

蓮太郎「す・る・か!!」

木更「次回、暗殺生業晴らし人第四話~仲間無用(なかまむよう)~・・・・七海静香と相良美濃の初の共同作業、にフェード・イン!!」


蓮太郎「作品コロコロ変えるなぁ――――!!」

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