ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー 作:バロックス(駄犬
伊堵里 墨は本日3本目の日本酒の瓶を両腕で抱き込むように腕を組ながら首を傾げていた。その内容は、チーム結成の件を勇次が反対したからである。
「どういうことだい、やっちゃん。 おめぇ、仲間が居れば仕事が捗るなんて言ってなかったけ?」
墨の問いに同じく腕を組んで座っている勇次はうん、と首を縦に動かして口を開く。
「確かに、仕事の仲間が居ればその分、分担形式でリスク自体は軽くできらぁ。 分け前が減っちまうのは仕方ねぇ・・・けど俺たちは仲良しこよしで『裏の仕事』をやるんじゃねぇんだ」
酒を口に含んで飲み干し、彼は続ける。
「七海も喜ぶさ、その美濃とかいうガキもな。 だがな、どっちか死んじまった時の事考えろ。 芋づる式で俺らも捕まるかもしれねぇし、そうなったら俺らも終わりだ・・なにより、仲間が死んじまった事を俺たちは平気かもしれねぇが、十代のガキどもが精神的に耐えられるわけがねぇッ」
それを考慮してんのか、と勇次は墨に言った。それは過去の経験ゆえからの墨への叱託である。
「わかってるぜ、やっちゃん。でもなぁ・・・アイツは殺しの味を知っちまったのよ」
墨は力なく笑った。
「何も信じられなくなっちまったアイツ(美濃)を俺はどうにかしてやりてぇのよ。 人殺しだけの機械に、俺はあいつをさせたくねぇ。 せめて人間らしい感情ももったままで意味ある人生にしてあげてェ」
墨は思い出す。 鉱山から逃げ出してきた道中で自分が見た、一番最初の相良美濃の姿を。 それはまさしく獣だった。 血に飢え、人の心も捨て去ったかのような彼女と拳を交わし、時を経て、あそこまで彼女の心が和らいだ事に、自分は複雑な思いだった。
だが殺しの世界を知った彼女は宿命のようにまた同じ道へと戻ってしまう。 それは墨には止められないことだった。 それは自分もそうだったからだ。
ならばせめて、彼女には人として生きさせてやりたい。学校には行けずとも、自分の隣でその笑顔を他人の為に役立たせてやりたい。 その一心で、自分は美濃を一生面倒見ると決めたのだ。
「・・・んー」
話が途切れた時、勇次が頭を掻く。 深く溜息をついて彼は言う。
「お互い・・・ガキなんて持つもんじゃねぇよなぁ」
それを見た墨が口角を引き上げて笑った。
「タマなくなったんじゃねぇの、やっちゃん。 昔の血気はどこいったよ」
「バカ言え、俺は落ち着いたんだ」
彼は酒を手に取り、お猪口に傾けながら揺れる水面を眺める。
「ま、結局は全部七海が決めることにする・・・アイツが拒否ったらこの件は無しだ。 今日お前とは、会わなかったことにするぜ」
そう言い切った時だ。 勇次の後ろで閉められていた窓枠がガタガタと震えだす。 お帰りだ、と勇次が鍵を開けると仕事終わりの静香と美濃が入ってきた。
○
「チーム? 賛成ッ! 私美濃ちゃんとチーム組むッ!!」
戻ってきた静香は勇次にチーム結成の案について聞かれて、静香は笑顔で応えた。その簡単な発言に提案した墨も、先程から渋っていた勇次も目を丸くしている。
咳払いをして、勇次が言った。
「えーっとな七海。 仮りにも仲間が出来たら色々と大変だ・・・そう、連携。 お前らあんま意識してないだろうが、個人プレーはまじでダメだからな。 組んだら相手の事も考えて仕事しなきゃならねぇ、そこらへん考えてんの?」
その勇次の問はまたしても静香の笑みで一蹴されることになる。
「大丈夫ッ 今日の仕事を見て確信した! 私と美濃ちゃん、最強ペア確定だよッ だから美濃ちゃん!」
「ひっ!」
続けるように静香は美濃に顔をぐいっと近づけた。美濃も驚いたようで顔を引きつらせる。
「私に・・・北斗神拳を教えてッ!」
「いや、アレ北斗神拳じゃないから・・・ただの人体のツボ押しただけで」
恐縮する美濃に静香が、違うよ、と否定する。
「アレは間違いなく伝説の暗殺拳! 私が夢にまで見た、”指先一つでダウンさ”を現実のものとさせる存在に私は背筋に電撃感じたッ これはまさしく運命って奴だよねッ」
「いや、爆散とかまでは流石に出来ないから・・・」
「大丈夫! 修行すればできるよ。 その証拠に美濃ちゃんの胸には、北斗七星をなぞるように七つの傷があるはずさ!」
がしっと美濃の肩を掴んだ静香の目を見た美濃は額から嫌な汗を流す。 身の危険を感じた彼女だったが既に静香の必殺の間合いに踏み込まれている為に逃れることが出来ない。
「脱げッ脱ぐんだ! その七つの傷を確認するからッ」
「やめろ」
「あうッ!」
暴走状態に近い静香の頭を勇次が手刀を叩き込んで黙らせる。 勇次は話を元に戻した。
「美濃とかいったか、お前の意見も聞いときてぇ、見ての通り、コイツ(静香)は超のつくほど変人だ。これからも色々迷惑をかけるかもしれないが・・それでも組みたいか?」
それを聞いていた墨がニヤリと笑みを浮かべた。 勇次のこの言葉は九割がた、この件を承諾していると言っても良い発言だったからだ。最終的には、美濃の意見に委ねられることとなる。
「私は問題ないよ。 私・・・今まで同い年の友達とかいなかったからその、話かたとかよく分からないけど・・・よ、よろしくお願いします」
礼儀正しく、丁寧に頭を下げた彼女に墨が美濃の肩を叩く。
「かたっ苦しいんだよ美濃。 いいじゃねぇか、これで俺たちは同じ殺しの片棒を担いだ者同士だ・・・・『良かったなァ、地獄への道連れが増えたぜラッキー☆』って感じにしときゃいんだよ」
「誰かしら裏切らなければ死なねぇけどな・・・ところで墨」
相変わらずの軽い発言をする墨に勇次が言った。
「お前、今回の仕事ってもしかして・・・」
おうよ、と墨がよく分かったという笑みを浮かべる。
「お前らんとこの『元締め』から紹介されたんでな・・・お前らも世話になってるそうじゃねぇか」
「あのアマ、余計なこと喋りやがって!」
「とっても綺麗な人だったね~」
「そうでしょそうでしょ、しかもあの人は胸にかなりのメロンを二つ持っている」
「め、・・・メロン?」
静香の言うメロンという単語に首を傾げる美濃。胸の事ということが分かっていないらしい。
「元締めからは抑制剤やら、武器やらで色々と世話になってる。 お前らも薬くらいは手配してもらえるからな、ちゃんとその子にも薬、やっとけよ」
「そうだな、良かったな美濃」
ぽん、と墨が美濃の頭を叩くと嬉しそうに彼女は頷いた。
よし、と声を出したのは静香だった。彼女はいつの間にか寝巻きに着替えて目を輝かせて菓子を数袋とコントローラーを手に取る。
「夜、夜です! 親交を深めるにはスマブラですッ美濃ちゃん、勝負ッ スマブラで勝負しようッ」
「いいよ七海ちゃん! 私のキャプテン・ファルコン止められるかな!」
「ならば私は秘蔵の最強キャラ、デ・デ・デでお相手しましょう!」
目を輝かせた二人は即時テレビ画面と向かい始め、昔のゲーム機種を設置し始める。 テレビを取り上げられた大人二人は互いに目を合わせると落胆したように酒を取った。
「こいつら、俺らの楽しみ奪いやがった!」
「いいじゃんよ、やっちゃん。 テレビ見ながら酒に花咲かせるなんて無粋なんだよ。 ほらほら、飲んだ飲んだ」
○
そして夜が明けて次の日。
―――――第十八地区警察署。
「八洲許さんッ 何をグズグズしているのッ」
「うぅ、へ、へーい・・・」
完全に力を失った声で勇次は上司である田中熊九郎のオカマ口調の怒声に頭を痛めながら出勤した。その後も、彼の怒りは留まることを知らない。
「本当に使えない人ですね。 近々、重大なお仕事があるんですから、しっかりしてくださいよ!!」
「そんなキンキン叫ばないでくださいよ・・・私二日酔いで頭が、いたたた。 仕事ってなんなんです?」
そう耳を指で塞いでいる勇次に熊九郎は顔を更に真っ赤にして怒鳴った。 さながら怒れる富士山が噴火したように彼の頭をパシンと叩く。
「ムキィィィィッ!!馬鹿ですか貴方はッ 伊熊将監ですよ! 民警殺しの疑惑のあるプロモーターですよッ ネタは私が独自に捜査して揃えましたッ 貴方は渋野くんと一緒に彼の近辺捜索・そして可能であれば足止めしてくださいッ 隙を見て私が一気に警官隊を率いて拘束します!」
・・・え、マジ? コイツ本当に冤罪着せるつもりでいるの?
声に出して民警殺しの犯人は死んだだと言ってやりたいが、それをこの堅物上司に説得させるのは無理があるので、この無能な男に冤罪を着せられてしまうその伊熊将監とうい男に、果てしない同情を与えてあげた勇次だった。
スマブラXのデデデは壁際での掴み+↓のループコンボが決まると楽しい。
次回予告
木更「民警殺しという、無実の罪を着せられて牢獄へとぶち込まれた将監! 冤罪覚悟ッ、田中と八洲許の首ちょんぱは待ったなし!?」
延珠「逮捕だぁールパーン!」
木更「無実の罪だが疑いが晴れる数日拘束されることとなった将監。 その間、彼のイニシエーターである千寿夏世を引き取らされた八洲許! 現役刑事が幼女に手を出す五秒前!」
延珠「事案発生だぁー! 逮捕だぁルパーン!」
木更「打ち解け合う静香と夏世。 だが暗殺者故の宿命が悲劇を生むッ 」
延珠「妾の出番はどこいったー! ルパーン!」
木更「次回、暗殺生業晴らし人~仮面無用(かめんむよう)~喜劇か、悲劇か! この結末はいかに!? そして八洲許にも仮面を被ったホモの魔の手が迫るッ!!」
延珠「なぁ、蓮太郎。 今日はやけに大人しいな」
蓮太郎「うるせぇ! もう予告はお前らだけで好き勝手にやれよッ!! もう突っ込まないぞ! 天地がひっくり返ろうとも、絶対に俺は突っ込まないからなッ!!」