ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー   作:バロックス(駄犬

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 どうも、長い間このハーメルンでお世話になっている。 今回新作で選んだのはこのブラック・ブレット。 アニメから原作見て、ハマった所存です。 なんであの某時代劇風にブラック・ブレットを描こうと思ったか・・・・私の趣味です。 ちゃんと蓮太郎やその他のイニシエーター達の出番も日常回で用意する予定であります。 



『ハヤテのごとく』も同サイトで連載中。


プロローグ

東京エリアの昼下がり、どこか平和を感じさせるようなこの場所では現在、物騒な音が響いていた。 

 

 

周囲には誰もいない、市民の安全を守る為に警察はこの居住区は誰も入れないように封鎖されているのだ。

 

 

 

―――この封鎖地域にいる者は大抵決まっている。

 

 

まず、その一。

 

 

「延珠、そっちいったぞッ 逃げるつもりだ! 何が何でも仕留めろ!!」

 

プロモーター。 短い黒髪の、くせっ毛のあるスーツにも見えた学生服に身を包んだ少年が両手で構えた真っ黒な銃のトリガーを容赦なく引き、標的を追い詰める。

 

 

その二、ガストレア・・・それは人類の敵。

 

 少年の放たれた弾丸を数発その体躯に受けた巨大な生物は真っ黒な体毛に覆われたクモの形をしていた。 よほど鉛玉の応酬が効いたのか、痛みを表したかのような叫びが一般市民のいないこの居住区に響き渡る。 

 

 

「蓮太郎ッ 最後は妾にぃ・・・任せろォ―――――!!」

 

その三、イニシエーター。

 

痛みに耐えられなくなった巨大グモは弱っているような唸り声を出しながら空高く跳躍。 逃げようとするが、その遥か上空の、電柱の上で待機していた長髪のツインテールの少女が飛び蹴りとばかりにクモの真上から必殺の蹴りを食らわせたのだ。

 

 

 

地面に叩きつけられた巨大グモは風船でも割れたかのように弾け飛んだ。 辺りの道路や壁には生々しいほどの肉塊と毒腺から溢れ出した毒液だけでなく紫色の体液もぶちまけられている。

 

はっきり言って、初見の者がいた場合はトラウマになるであろう一面であった。

 

 

 

「ステージⅠ、モデルスパイダー撃破・・・っと、延珠、怪我はないか?」

 

目標の絶命を確認した黒髪の少年、先程『蓮太郎』と呼ばれていたその少年は目の前で巨大グモの体液に身をまとって明らかに嫌悪感をあらわにしている『延珠』と言う少女に

駆け寄る。

 

 

「うえぇ・・・最悪だぁ。 お気に入りのこの服がぁ、ボロボロになるよりタチが悪いではないかぁ・・・」

 

べっとべとになった服をつまむ延珠を見て蓮太郎は持っていたハンカチで顔を拭う。 

 

「元気そうでなによりだ。 安心しろ、服なら最強の洗剤『ホールド』で一発だ」

 

「『ファーファーファー』ではダメなのか?」

 

「あのクマさんではダメなんだ延珠。 この頑固なガストレアの体液を綺麗さっぱりなくすには濃縮洗剤のホールドでなくちゃ」

 

ふーん、と延珠は思い出す。 我が家のおんぼろアパートにはもうその洗剤は無いに等しいような状態だった気がすることを。 細かいことを聞くのは面倒だと考えたのか延珠は話題を変えた。

 

「それよりも見たか蓮太郎ッ 妾の見事な仕留め技をッ」

 

嬉々として問う延珠に蓮太郎は頷いてみせた。 何か一言気の利いたことでも言おうとした瞬間に延珠が言い放つ。

 

 

「そうかそうか、妾のパンツもその目に焼き付けたか」

 

思わず蓮太郎は吹き出した。

 

「お、お前! 一体何を言い出しやがる!!」

 

「いいや、妾はちゃんと見ておったぞ! 電柱の下からもの凄い真剣な顔だった・・・流石の妾もドン引きだ」

 

「ちょっと待てよお嬢さん。 勝手に俺を真正の変態野郎に仕立て上げるんじゃねー!」

 

 否定をする蓮太郎ではあったが、延珠のターンはどうやら終わらないらしい。 この手の話に対して延珠はあらかじめ用意していたかのようなネタを持ってきて対応してくる。

 

 

「しまいにはカメラなんて持ち出して妾にレンズを構えながら『クソッ! フィルムがないッ!』というキメ顔で後悔する始末ッ いいではないか蓮太郎、家に帰れば好きなだけ妾のこのせくしーぼでぃを堪能できるのだから」

 

 目の前の蓮太郎を悩殺しようと意識しているのか延珠はウィンクをしながら体をくねらせる。 だが、一見可愛らしく見える動作だが体についたガストレアの体液が二三滴ほど地面に垂れたお陰で全て台無しである。

 

「・・・ほら延珠、さっさと帰って木更さんに報告するぞ。 その前にシャワーだけどな」

 

「あーっ蓮太郎! 今のジト目は何だ! どうして無視した!」

 

背を向いて歩き出した蓮太郎に対して延珠は指を刺して怒りの声を露わにした。

 

「やはりあれか! あれなのか!木更のおっぱいがいいのか! あんな脂肪の塊にどんな魅力があるというのだこの薄情ものォ―――!!」

 

 

 

 2021年、人類はガストレアに敗北した。国土の半分を占領された日本は各地の『モノリス』を一時的に閉鎖。 世界各国も同じ措置をとり、十年を掛けて当時の文明レベルまで回復。 その後、民間警備会社、通称『民警』を結成し、藍原延珠と里見蓮太郎などこの二人のような存在は開始因子(イニシエーター)と加速因子(プロモーター)と呼ばれれた。

二人で一組の『民警ペア』、それは人類にとって最後の希望なのだ。

 

 

 

 

 

 

異形の生物、ガストレア。 先程、蓮太郎達が倒した存在を専門的に扱っている組織がある。 『民間警備会社』、通称『民警』だ。

 

 

人類の天敵であるガストレアを殲滅するためにこの組織は存在している。 ガストレアと人類、この二つの単語が一体どういう意味をもたらしているか、すべてを語るには長すぎるので簡単に説明すると『10年くらい続いている宇宙戦争』だ。

 

ガストレアが宇宙から来たのか定かではないが、出自がわからない以上、こういう常軌を逸した意見も出てきてしまう。 この東京エリアの街中にある『天童民間警備会社』も、そのガストレアを駆除する立派な『民警』の一つなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「里見くん。 お金はまだかしら」

 

 

 自分の務める会社に戻ってきた途端、ここは自社ではなく、ヤクザの部屋だっただろうかと蓮太郎は錯覚した。 目の前には、まるでこちらを餌のように眺めて油断する隙をずっと伺っているハイエナがいたのだ。

 

 

長い黒髪をなびかせたその少女の名前は天童 木更。 この天童民間警備会社の社長。 若干16歳である。

 

 

「依頼の報酬をまだ受け取っていないってどういうことかしら。 たしか、現金で渡してくれるって言ってなかった?あのメガネの人」

 

 

グランドピアノほどある巨大な黒檀の執務机に、よくなめされた皮革製の肘掛け椅子に座る彼女は明らかに殺気を纏っていた。 一社員である蓮太郎は言葉を選びながら弁明を図る。

 

「いやな木更さん? 俺もちゃんと聞いたんだけどさ。 依頼してくれた警察の人が『二日ほど期限をずらしてくれないか』って言ってきたんだ。 真面目そうな人だったし、ちゃんと支払ってくれるって!」

 

「・・・」

 

しばしの沈黙の後、蓮太郎は静まった木更を見て一瞬だけ緊張を解いたが、次の瞬間目に入ってきたのはいつの間にか日本刀を鞘から抜いていた木更の姿だった。

 

「つまり、処刑してくださいってことね里見くん?」

 

 

「どうしてそうなる!?」

 

 

「簡単よ里見くん。 私は今日もらった報酬で今月のこの会社にかかるお金を払わなければならなかったの。 そして支払った暁には、その足で今日こそビフテキでお腹いっぱいにしたかったのに、甲斐性なしの里見くんときたら・・・このお馬鹿!!」

 

 

・・・この社長! 俺たちの稼いだ金でビフテキ食う気だったのかよ!

 

 至極羨ましい事である。 民警の仕事は基本、命懸けの物が多いので、そこら辺の仕事よりは多くもらっている方だろう。 だが、蓮太郎はそれでも爪に火をともすほどの極貧生活だ。 今日も六時からタイムセールスで近くのスーパーにお世話になるのが確定済だし、今月もあと僅かではあるが仕事のトラブルで木更がめちゃくちゃに壊してしまった看板を直すのに給料の半分は消えたので、ビフテキなんてもちろん、メザシともやしの味噌汁がセットの定食が当たり前だった。

 

 

「なぁ木更さん、もちろんそのビフテキ祭りには俺たちも参加させてもらってもいいんだよな? だって俺たちが頑張ってこなしてきた仕事だし」

 

もちろんよ。と、木更はニッコリと笑った。

 

 

「延珠ちゃんとならね」

 

「なぜだ!」

 

叫んだ。 当然である。

 

「里見くん、貴方は曲がりなりにも男の子でしょ? つまり、私たちのような乙女たちよりもたらふく胃袋にビフテキを収めることができる。 それだと私たちの分がなくなるじゃない!」

 

「どこまでビフテキ食いたいんだアンタは!!」

 

「だってビフテキよ! 昭和の時代なら給料もらってその日の家庭がほとんど口にしている高級食材よ!」

 

 

 それは本当の話をしているのか、と蓮太郎は呆れていたのだった。 お嬢さま学校である美和女学院に通うこの美少女は、黙っていれば誰もが一度は目に止める程の美人だ。 だが、蓋をけてみるとそれは食い意地の張った、金に目の眩み易い猛獣なのである。

 

「大丈夫よ里見くん、間違えて連れて行ったとしても牛脂くらいなら食べさせてあげるから」

 

「2箱分くらいでなら納得してやってもいいけどよ」

 

 

納得するんだ。と、木更は同じ極貧を味わっている者として少々同情するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着きを取り戻した二人は暫くして、それぞれの持ち場に座り、茶を飲むなり、テレビを見るなり、くつろぎ時間帯へと突入した。 蓮太郎にとっては六時までのタイムセールスまで時間があるし、木更にとっては依頼金が先延ばしになって意気消沈としたためか、ぼーっとテレビの画面を眺めている。

 

 

「そういえば、最近増えたわよねぇ・・・『民警殺し』」

 

画面を見ながら発した木更の一言に、連太郎は持っていた湯呑を一度机に置いた。

 

 

画面にはデカデカと赤文字で『またもや起きた、民間警備会社の社員、殺害される』

 

 

『民警殺し』・・・最近起き始めた民間警備会社のペアを狙った殺人事件だ。これは東京エリアのみで起きていて、その件数は10件目だとか。

 

 

「犯人、まだ見つかんないのか・・・今の世の中、民警を襲う理由なんてどこにあるんだ?」

 

 

「実際、理由なんてたくさんあるんじゃないかしら。 でも極力絞って出す答えとしてはやっぱり、『民警同士のトラブル』かもね」

 

実際、民間警備会社はこの世界に多数存在しており、10万なんて余裕で越える。 さて、同業者がそんな数存在すれば同業者同士で仕事の取り合いや遺恨やら禍根やらでいざこざがあっても可笑しくはない。

 

 

「なんでも、民警同士のトラブルって可能性が高いから、とばっちり喰らいたくない警察は手を出しにくいっていう話もあるわ」

 

「畜生、いい加減すぎるだろ! 何やってんだよ警察は!!」

 

今は民警同士と片付けているかもしれないが、もしかしたらその被害が一般市民に及ぶかもしれない。 蓮太郎は、今まったく無力にも等しい警察の姿に激しい怒りを感じていた。 無論、何も出来てすらいない自分にも。

 

 

「殺害方法は『射殺』、しかもバラニウム弾よ。 この線から、警察は犯人が民警だって断定しているわけね・・・バラニウムは一般にはあまり支給されてはいないはずだから」

 

 

希少鉱石、バラニウムは人類の天敵であるガストレアに唯一有効打のある物質だ。 これを加工した武器も多数存在し、蓮太郎が持っているXD拳銃や延珠の靴の底はバラニウムでできている。

 

バラニウム製の武器で傷を負ったガストレアはその傷を再生することができない。 これは、ガストレアだけでなく、ガストレアウイルスの因子をもつ延珠たちの「呪われた子供たち」にも非常に有効なのだ。

 

 

 

「辛い・・・世の中ね」

 

テレビを消した木更がぽつりと意味深に呟いた。 蓮太郎も腕を組んでいると、ふとパソコンの画面の電子時計を見て、はっと気づくことがある。

 

 

「いけね。 もう少しでタイムセールだ・・悪ィ木更さん、俺はこれで」

 

台詞を言い切って、木更に背を向ける蓮太郎に対して、木更は思い出したかのように手を叩いた。

 

 

「里見くん、そういえば私最近、『民警殺し』とは別にもう一つ変わった話を聞いたのよ。 ちょっと聞いてくれないかしら」

 

「それ・・・どうしても聞かなきゃならないのか」

 

「これを言わないことにはお話が始まらない気がするの! 何のためのプロローグなのってさっきから私は思うわけよ! そして今日の仕事の不始末は忘れてないでしょうね・・・甲斐性なしの里見くん」

 

俺の落ち度はないと何度言ったらわかるのか、と心で怒った蓮太郎だが、これ以上言い合っていてもセールスの時間に遅れるだけだと、蓮太郎は仕方ないと言った表情で木更と向き合った。

 

木更は木更で、満面の笑みを浮かべて勝ち誇ったように胸を張ってみせると人差し指を立てて言った。

 

 

 

「里見くん・・・・『晴らし人(はらしにん)』って知ってる?」

 

 

 

 

 

 

――――その同時刻。 東京エリアと外周区の境界線の海が見える場所に一人の深緑色のコートを着たおっさんが立っていた。

 

 

「ぶえっくしょいッ!!!」

 

 

盛大なクシャミをしたそのおっさんは、どこかで自分の噂話がされているのだと静かな波の音を立てる海を遠い目で眺めながら、一杯のビール缶を開けたのだった。

 




プロローグが長すぎるって? スミマセン。 でもほのぼのとした天童民間警備会社を描いていたらこんな事に。はっきり言って、ガストレアと人類とかの歴史の説明はプロローグでは省きました。 本編の中で簡潔に述べていくつもりです。 この小説当面の目標は日常回で壬生朝霞を登場させる事にあります。 私がこの作品を見て心射抜かれたキャラです。ついでに、木更さんにお馬鹿って言われたい。

天童民間警備会社にテレビがあったかは分かりませんが、勝手に設置させていただきました

*この作品では原作の影胤事件が始まるかなり前からスタートしています。 若干違和感があるかもしれませんが、ご容赦ください。


7/17:勝手ながら第一話の次回予告を追加しました。





―――――――――――――――――次回予告。

木更「私の会社に所属する永遠の召使こと里見蓮太郎くんが、晴らし人の話そっちのけでもやしのセールスに繰り出します」


延珠「もやしは蓮太郎の得意料理だからな!」


木更「ひと袋6円のもやし、その為だけに荒ぶる主婦からパンチ、肘、キック、果てはお尻まで触られてしまう可哀想な里美くん・・・」


延珠「な、なんと! 蓮太郎は熟女に襲われるのか!!」


木更「そんな熟女に気がある里見くんは帰り道、衝撃の現場にて一人の謎の男と遭遇する!」

延珠「取り敢えず、妾のご飯が遅れるという事だけは分かった」

木更「放たれる鉛玉、吠える里美くん、止まらぬ民警殺し、集まる刑事達、この物語は一体どこへ向かっていくというか!」

延珠「あれ? もしかして妾の出番って?」


木更「次回暗殺生業晴らし人・『民警無用』。 」


延珠「時代劇は、「必殺」なのだ!!」

蓮太郎「もはや小説の内容が変わってる!!」

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