時空を駆ける大魔導士   作:月影2号機

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少し早いですが、ポップがあのお方と出会います。


第3話

あれからさらに5年の月日が流れた。

 

 

俺はその後も順調に育ち、親父と母さんの手伝いをしながら

独自に修行を続けていた。

ハドラーが倒れて魔物が大人しくなったとはいえ、

こんな辺鄙な所にある村だ。

薪や食料を取りに行く過程で人がケガをすることもある。

 

 

「いやぁ、いつも悪いねぇ」

 

 

「おじさんにはいつも果物とか分けてもらってるし、気にしないでよ」

 

 

そう言いながら、所々切り傷を作っている果物屋のおじさんにホイミをかける。

俺が将来賢者を目指して呪文を勉強してることは既に村中の人間が知ってる。

本当は賢者ではなく大魔導士なんだけど、

この時代にそんな職業は定着してないから、誤魔化した。

てゆうか、大魔導士なんて名乗ったのは後にも先にも師匠と俺だけだしな。

 

 

「おし、もう治ったよ」

 

 

おじさんのケガが治ったから、俺はかざしていた手を引っ込めた。

治療代として、いつも通り果物をいくつか貰い、俺は家へ戻る。

 

 

ランカークスの村には呪文が使える人間がいないから、

俺みたいに初歩の呪文しか使えなくてもとても重宝される。

また、底上げされた魔法力のおかげか呪文の威力も既に中級呪文の域に近い。

その効果の噂を聞いてか、最近では近隣の村からの依頼もちょくちょく来る。

 

 

前回に比べて、俺が手のかからない子供に育ったせいか、

あまり小言は言われないが、親父は俺が賢者になるのは反対みたいだ。

店を継いでほしいってのもあるんだろうけどな。

 

 

そんな事を考えながら、家に着いた。

中から親父と誰かの話し声が聞こえる。

こんな辺鄙な村の武器屋に買い物客が来るのは珍しい。

 

 

「親父、ただいまー」

 

 

「おう、ポップか。丁度いい所に帰ってきたな。お前に客だ」

 

 

室内に入ると親父に来客を告げられた。

カウンターの方に目を向けると、そこには懐かしい俺の最初の師の姿があった。

 

 

「初めましてポップ君。私、こういう者です」

 

 

そう言ってアバン先生は俺に名刺を渡す。

 

 

【勇者の育成ならおまかせ!! アバン・デ・ジニュアールⅢ世】

 

 

相変わらず、この謳い文句はすごいセンスだと思った。

だって勇者の育成だぜ?

戦士、魔法使い、僧侶の育成って言うならまだ話は分かる。

けど、勇者なんて育てようと思って中々育てられるもんじゃない。

魔王から世界を救った先生だからこその謳い文句。

 

 

「それで、超有名人の勇者アバンが俺に何の用です?もしかしてスカウト?」

 

 

前より4年近く早い先生の来訪。

 

才能ある若者ってことで様子を見て、

俺の返答次第では本当にスカウトするつもりなんだろう。

 

 

「ええ。近隣の村や町で、あなたの噂をお聞きしましてね。

何でも、この村には呪文の才能豊な少年がいると。」

 

 

ビンゴだ。

先生に少しでも早く俺を見つけてもらう為に

隣町や村で精力的に奉仕活動を続けた甲斐があった。

 

 

だが、俺がまだ若いということもあって、

親父も母さんも俺が先生について行くのに難色を示している。

前回の様に頭ごなしに怒鳴られないだけまだマシだ。

 

 

「なぁ、親父。母さん。俺、どうしても賢者になりたいんだよ。

色んな呪文覚えて村の役にも立ちたい。先生と一緒に行かせて欲しいんだ」

 

 

俺は両親に頭を下げて頼み込んだ。

普段から素行に気を付けていた事と、俺の真剣な目を見て、

両親はお互いを見合わせる。

 

 

「・・・・・・決心は変わらないか」

 

 

「あなた・・・・・・」

 

 

母さんはまだ不安げに俺と親父の間に視線を行き来させてたけど、

親父は俺の意思が固いと踏んだのか、一息付いて先生に頭を下げる。

 

 

「・・・・・・不肖の息子ですが、どうかよろしくお願いします」

 

 

「こちらこそ、大事な一人息子さんを、お預かりさせて頂きます」

 

 

そうと決まれば話は早かった。

あれよあれよという間に書類関係の契約が進み、

俺はアバン先生に2度目の弟子入りを果たした。

 

 

家族と離れる俺を気遣い、アバン先生は出発は明日の朝だと告げて宿に帰った。

俺は当分顔を見る事のない両親と一緒に食事をし、風呂で親父の背中を流し、

その日は家族3人で一緒に眠った。

 

 

翌朝、両親と村の親しい人達に見送られ、俺は先生と村を旅立った。

昨日先生と契約内容を話し合ったが、コースは迷わずスペシャルハードを選んだ。

7日間で勇者を育成する密度の濃く、危険な育成コースだが、

スペシャルハードコースに耐えうるよう5年前から基礎体力やある程度の体捌きは身に着けた。

呪文も契約してないだけで、覚えようと思えばすぐ覚えられる。

 

 

『ダイ・・・・・・お前を救う為の俺の旅、ようやく始まったよ』

 

 

今度は、必ずあいつを救ってみせる。

俺は、その為に帰ってきたんだから・・・・・・


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