鎮守府の片隅で   作:ariel

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。今年の最初の話ですが、前回のお話のあとがきで書きましたように外伝になりました。今年も新年のすき焼なのですが…。


外伝12 提督のすき焼

年末

鎮守府司令部 司令室  提督

 

 

今年もあと僅か…幸いな事に大きな負け戦もなく、有利な状況で今年も乗り切ることが出来たようだな…。俺も今日が仕事納めでしばらく休暇だから、今からもう一頑張りするか。そういえば、先日京都で会った海軍大臣のあいつも、来年の年始は官舎でのんびり過ごすと言っていたが、俺も来年こそのんびり過ごしたいもんだ。とはいえ…今回も年始挨拶とか言って、色々と押しかけて来そうだよな…まぁ、華やかで良いんだが…。

 

「Hey! 提督。今年は水雷戦隊を働かせすぎネ。年末・年始に休暇を出してあげてくださ~い。」

 

ほぉ、金剛の奴気が利くな。たしかに、今年は輸送任務などで水雷戦隊を酷使しすぎた感があるな。いくら精強な我が水雷戦隊と言っても、この機会にしばらく休暇を与えた方が良さそうだ。情報部にも、現在深海棲艦が活発に活動しているという情報は入っていないようだし、まとめて休暇を出してやるか…。

 

「そうだな…金剛。流石に今年は水雷戦隊を使いすぎているかもしれんな…。休暇の許可を出すから、お前から伝えておいてくれ。」

 

「分かったネ。でも提督ぅ~、折角休暇を出すのはいいけどサ~、ついでに何処か暖かい所に行かせてあげるネ。」

 

ん…たしかに、この時期本土はどうしても冷えているからな…。折角の休暇だし、暖かい所でノンビリしてもらう方が良いのは確かだな。まぁ、阿武隈達は寒い所の方が好きなのかもしれんが…。いずれにせよ、鎮守府からの外出許可も出してやれ…という事だな。金剛も俺の秘書艦になって長いだけあって、この種の事には本当に気が利くよな…。

 

「分かった…金剛。ついでに鎮守府からの外出許可も出してやれ。あと…そうだな。今年は本当に水雷戦隊には頑張ってもらったから、どこか遊びに行く場所も確保してやってくれ。頼んだぞ。」

 

「了解デ~ス。後は私に任せてくだサ~イ!」

 

さて…金剛も水雷戦隊の所に行ったようだし、俺も残っている仕事を片付けるか。あと一頑張りだな。

 

 

 

鎮守府内 某所  加賀

 

 

「Hey!加賀。バタバタしてマ~スけど、どうしたデスか?」

 

…金剛さんですか。今年は空母寮でもお節料理の準備をしないといけないから、色々と私達空母は忙しいのだけれど…。流石に今年の年始のように、お母さんの家に居座る…というのは今回出来ないし、今年のようにお母さんの怒りに触れて、水雷戦隊の訓練に叩き込まれるのも…勘弁して欲しいわね。

 

「これから空母寮でお節料理の準備がありますので…。金剛さん達は何もしないのですか?」

 

「What!? 加賀達はお節料理を自分達で作るのデ~スか?私は作らないネ。提督の家でお節料理を食べさせてもらいマ~ス。」

 

金剛さん…本当に懲りないわね。ま、金剛さんは上手に逃げたようだけれど、比叡さん達は私達と一緒に大変な目に合っているのよ?

 

「金剛さん…懲りませんね。今度こそ鳳翔さんに、水雷戦隊の訓練に連れて行かれるわよ。」

 

「チッ、チッ。加賀?この私が、何もreadyしていないとでも思っているデ~スか?そんな事はもう想定済みデ~ス。」

 

…なるほど。今年の年始の反省を活かして何か準備をしているという事ね。だとすると…私達空母もこれに乗っかる方が楽かもしれません…。問題は、金剛さんが何を準備しているか?という事ね…。

 

「金剛さん…出来ればその準備を教えて欲しいのだけれど…。」

 

「Oh…加賀も興味ありま~すか?まぁ、イイネ。赤城や加賀とも長い付き合いだから、教えてあげるネ。来年は…水雷戦隊は新年に鎮守府に居ないデ~ス!だから、鳳翔も水雷戦隊を呼べないネ。」

 

水雷戦隊が居ない?どういう事?そういえば…さっき第二水雷戦隊の子達が嬉しそうに長期遠征の支度をしていたわ。ひょっとしてこの事と関係があるのでしょうか…。

 

「金剛さん、水雷戦隊は本当に新年には鎮守府に居ないのね…。」

 

「Yeees! 加賀。提督を説得して水雷戦隊には休みを出してあげたネ。それで私が、今年一年頑張った水雷戦隊の休暇をアレンジしてあげたデ~ス。ですから~、新年には神通達はラバウル、能代達はレイテ、矢矧達は…初霜を除いて沖縄で海水浴ネ。ついでに阿武隈達も幌筵デ~スし、那珂や川内達もトラックに送り出してやったデ~ス。Hey! 加賀?これでも、今から御節料理を作りますか~?」

 

…御節料理の準備は中止ね。早速、赤城さん達にも伝えないと。とりあえず五航戦を今から買い物に行かせて、すき焼の準備をさせるべきね…。

 

「金剛さん…どうやら私達、今回は仲良くやれそうね。」

 

「Exactly!加賀。加賀達は鳳翔の所でノンビリする。私は提督とノンビリする。お互いに目的は違うけれど~、やりたい事は一緒ネ。」

 

どうやら、今回は金剛さん達と共同戦線が張れそうね。今年の新年はお互いにバラバラに動いていたけれど…来年は良い寝正月が送れそうです。…やりました。

 

 

 

新年(一月二日)

鎮守府内 提督用官舎  鳳翔

 

 

「Hey! 提督ぅ~。Happy New Year デ~ス。今年もsister達を連れて、cuteな私が挨拶に来たネ。」

 

「あぁ、金剛か。それに比叡に榛名に霧島もよく来たな。相変わらず、お前達の着物姿は華やかでいいな。折角だからあがってくか?」

 

「あなた!金剛さん達が来ても、家には上げないと約束したではありませんか!?既に赤城さん達まで上がりこんでいますし、また去年と同じになりますよ!」

 

本当にこの人にも困ったものです。昨年と同じように、正規空母の馬鹿娘達は一月二日にお年始の挨拶に来ました。そしてこれも去年と同じようにすき焼の準備を持って来ました。私は昨年の事がありましたので、馬鹿娘達を家に上げないつもりでしたが、赤城さんや加賀さんの涙目に同情してしまったこの人が家にあげてしまい…既に炬燵を一つ占領中です。まぁ、この人が女性の涙に弱い事は知っていますので、半分諦めていましたが…。

 

しかし…金剛さん達については、うちの馬鹿娘達とは事情が異なります。赤城さん達はせいぜい寝正月のため…だと私も知っていますが、金剛さんの目的はこの人の側にいる事です。ですから、流石に金剛さん達を簡単に家に上げる訳には行きません。

 

「あ…あぁ…でもな、鳳翔。金剛達もこんなに綺麗に着飾って…(あなた!)…あ…うん、すまん。金剛悪いが、今年はその…な。」

 

「うぅぅ…提督ぅ~、酷いネ…。折角提督と一緒にお酒が飲めるように、提督が好きな日本酒やおつまみも持ってきたのに、入れてもらえないなんてあんまりデ~ス。…私や比叡もそうだけど、榛名や霧島も悲しそうネ…(榛名、霧島、練習通り泣き真似をするデ~ス。)」

 

「提督…榛名は…榛名は大丈夫…ですけど…一緒にお酒が飲みたかったです…グスッ」

 

「霧島も残念です…ウ…ウゥゥ」

 

金剛さん…やってくれましたね…。金剛さんの涙でしたら、うちの人も普段よく嘘泣きをされているようなので、最近はかなりの確率で見破っているようですから問題なかったと思います。しかし榛名さんや霧島さんに自分の代わりに泣かせるとは…私も予想していませんでした。うちの人も、榛名さんや霧島さんの涙を見て、流石に罪悪感を感じてしまったようで、私の方をチラチラ見てきます。…今回は、金剛さんにまんまとやれましたね。仕方ありません。

 

「あなた…色々と準備もしてきているようですし、榛名さん達も楽しみにしてきたようですから…あがってもらいましょうか?」

 

「あ…あぁ、そうだな。金剛、あがっていくか?それと比叡に榛名、霧島もよく来てくれた。折角だからあがっていきなさい。」

 

「Yees! 提督ぅ~。今年もよろしくお願いしま~す!」

 

…金剛さん、満面の笑みですね…。しかしそうは問屋が卸しません。今の内に神通さんに連絡して、夜には迎えに来てもらうように頼んでおきましょう。あら?金剛さんがニヤニヤしながら小声で私に話しかけてきましたね。

 

「Hey! 鳳翔。神通達は今頃、南の島でバカンス中ね。それに他の水雷戦隊も休暇中デ~ス。」

 

…金剛さん。今年は相当準備してきましたね。これは私もかなりの覚悟を持って臨まなくてはいけなさそうです。とりあえず今年は、完全にうちの人の横に陣取って、金剛さんからは目を離さない必要がありそうですね…。

 

 

 

提督用官舎  提督

 

 

どうしてこうなったんだ…。晴れ着姿の金剛姉妹に空母娘、それに鳳翔。周り全部華ばかりで華やかな新年が楽しめると思ったのだが…金剛を除いた比叡と榛名それに霧島は、空母娘達が転がっている炬燵に直行…。結果的に俺の居る炬燵には鳳翔と金剛だけかよ…。しかも鳳翔と金剛が俺の両サイドをがっちり固めた挙句、俺を挟んで厭味の応酬…。

 

「Hey! 提督ぅ~。たしかに鳳翔も綺麗ネ。But、いつも同じ花を見ていたら、どんなに綺麗な花でも見飽きるデ~ス。ですから~、今日は私から目を離したらNoなんだからネ!もっと私の方を見るデ~ス。」

 

「あなた?綺麗な花には毒があると言います。特に金剛さんは綺麗な花かもしれませんが、棘と毒を一杯持っているようですから、あなたにとって扱い慣れている私の方を見ていた方がよろしいのでは?」

 

さっきからずっとこんな感じで、俺の気が休まる時がないんだが…。おかげで俺はどっちを向く事も出来んし、一方を向いたらもう片方も見ないと喧嘩になる…勘弁してくれよ。俺はもうちょっと気楽に酒が飲みたいだけなのにな…。仕方ない…もう少し飲むか…。

 

「あなた?こんな年を取った古女房のお酒では、あまり楽しめないかもしれませんが…。そっちの金剛さんはもっと年増ですから…私のお酌で我慢してくださいね?」

 

「な~に言ってるネ。私はまだまだ若いデ~ス。Hey! 提督ぅ。偶にはいつもの見飽きた女とは違うcuteな私がお酌をしてあげるデ~ス。」

 

お前等…俺の貴重な正月休みの休暇を台無しにする気か!だからといって、ここで怒っても余計に事態は悪化するだけだからな…。なんとか穏便に逃げ切る方法を考えなければな…。昔、まだ俺が新任の少尉の頃に、指導艦だった三笠がよく言っていたが、『柔軟な思考と危機回避は優秀な指揮官の必須能力』だからな…。まさか、こんな時にこの言葉を思い出す事になるとは思わなかったがな…。…よしっ!これで行くか。

 

「…二人ともそろそろ腹が減ってこないか?俺はさっきから酒が多かったから、そろそろ何か腹に入れたいんだが…。そこでだ、今日は折角だから、俺がお前達にすき焼を作ってやろうと思うんだが、どうだ?」

 

「えっ?あなたが作ってくれるのですか?本当によろしいのですか?その…勿論嬉しいです。」

 

「Yeah! 何年ぶりになるかforgetしま~したけど、今日は久しぶりに提督の手料理が食べられるデ~ス!勿論、私も大歓迎デ~ス!」

 

よしっ…まずはこれで、準備のためという事でこの機雷原から脱出出来るし、時間も稼げるな。それに…すき焼なら俺もちょうどこの間の京都出張の時、仕事の後に行った座敷で、海軍大臣のあいつと芸者さんに作り方を教えてもらったばかりだから、なんとかなるだろう。ん?赤城達もこっちを見て物欲しそうな顔をしているけど、今回は止めておけ。どう考えてもこっちの炬燵に来たら、お前達も大変な事になるぞ。

 

 

あれ?すきやき鍋って何処にあったかな…。それに卓上ガス台は…。あっ、ネギも豆腐も白菜もそのままか…。ま、あいつ等を呼んで準備してもらえばいいか。

 

「お~ぃ、鳳翔。すき焼鍋どこだ?出してくれるか?あと白菜と椎茸を切ってくれ。それと金剛、悪いがネギと豆腐、それと糸こんにゃくの準備をしてくれ。」

 

 

 

提督用官舎  鳳翔

 

 

まさかあの人がすき焼を作ってくれるとは思っていなかったので、驚きました。とはいえ…準備に行ったと思ったら、結局呼び出されましたね。まぁ、普段台所に入らないあの人ですから、台所の何処に何があるかを知っているとは思えませんから、予想はしていましたが。とはいえ、今日はあの人が手料理を食べさせてくれる訳ですから、私も嬉しいですね。

 

あらあら金剛さんまで呼び出されましたか。あの人は金剛さんにネギや豆腐を切らせるようですが…一体あの人、本当に自分で料理をするつもりなのでしょうかね…。おそらくあの人の頭の中では、自分で料理をしていると思っているようですが…困ったものです。とはいえ、金剛さんも嬉しそうに台所に入ってきましたね。さっきまで私と角を突き合わせて厭味の応酬をしていた筈なのですが、いつの間にか私も金剛さんもあの人に懐柔されてしまった…という事ですか。こういう所は、流石にこの鎮守府の司令官職をしているだけあって、上手といいますか…私もそうですし金剛さんでも適わないですね。

 

はぁ…結局あの人は私達に指示だけして、赤城さん達が持ってきた肉の包みとお皿だけを持って炬燵の所に戻ってしまいました。これには、私も金剛さんも苦笑いをするしかありません。

 

「Hey、鳳翔…。いつの間にか、私達が料理する事になってしまっていま~す。提督に騙された気がしま~す。」

 

「本当ですね…金剛さん。あの人は、これでも自分が料理をしていると思っているのでしょうけどね…。」

 

「鳳翔も、毎日提督の世話で大変ネ…。」

 

「金剛さんも、毎日あの人の世話で大変そうですね…。」

 

なんだかすっかり金剛さんと意気投合してしまいましたが、こればかりはお互いに、家庭と職場であの人に苦労させられていますから、共通の認識のようですね。さて…私の方も道具や調味料は全て準備して具材も切り終わりましたし、金剛さんも具材を切り終わって皿に載せ終わったようですから、そろそろ私達も戻りましょうか。

 

「あなた(提督ぅ)、全て準備出来ましたよ(ネ)。それではお願いします(マ~ス)。」

 

「おぉ、悪いな二人とも。後は俺に任せておけ。」

 

 

 

提督用官舎  提督

 

 

よし、準備も出来たし早速作るか。まずは…すき焼鍋を暖めないといけなかったな。よしっ、こんな所か。そしたらまずは、牛脂を全面に塗るように溶かして…こんな感じか?それで…たしかあの芸者さんは『最初に牛肉だけで食べてください』なんて言っていたな。鳳翔がいつも作ってくれるすき焼とは違う気がするが、教えてもらったとおりにやるか。

 

とりあえず…牛肉をしっかり広げるようにして…最初だから三枚程焼けば良いだろうな。よし…肉の色が少し変わってきたからひっくり返して…まだ少し赤身が残っているが、この辺りで良いかな…。砂糖をしっかり肉に塗すように入れて…よし!ここで醤油をかけて更に少しだけ日本酒を…。お、醤油と日本酒に砂糖が良い感じで溶けて、肉の上で細かい泡を作りながら沸騰しているな。こりゃ美味そうだ。

 

「おぃ二人とも、とりあえず肉が焼けたから食べてみろよ。美味い筈だぞ。」

 

まずは鳳翔の卵が入っている皿と金剛の皿に一枚ずつ入れて…俺も一枚食べてみるか。鳳翔も金剛も嬉しそうに食べてるな。どうやら味の方は大丈夫だったようだな。俺も自分の分を…ありゃ…肉がちぎれてしまったぞ。肉が丁度真っ二つになってしまったし…鳳翔達も美味しそうに食べてるから、先にこれもあいつ等に食べさせてやるか。

 

「おぃ、鳳翔。先にこれも食べさせてやる。口空けろ…ほぃ。こっちは金剛にやるか…ほれ、お前も口空けろ。」

 

…なんだか雛鳥の親になった気分だな。二人とも最初は驚いたみたいだが、嬉しそうに口空けて俺の方を向きやがった。さっきまで厭味の応酬をしていたこいつらも、こういう時は別人のように可愛く見えるんだよな…。

 

さて次の肉も焼くか…。たしか教えてもらった作り方だと、しっかり肉を楽しんでから、野菜を入れて再び砂糖と醤油、それと日本酒で味を整えてから煮れば良かったんだよな。…どれどれ、俺も一口食べてみるか。おっ、少し噛んだだけで簡単に肉が千切れるな…これ程柔らかい肉とは思わなかった…赤城達、結構良い肉を買ってきてくれたんだな。味も…うん、しっかりしてる。少し甘目かもしれんが、この間食べさせてもらった味に近いんじゃないか?俺の料理の腕もなかなかのものかもしれんな。鳳翔も金剛も、俺が家庭では駄目人間だと思っている節があったからな…多少はこれで見直しただろう。

 

 

 

提督用官舎  瑞鶴

 

 

提督さん…やっぱり凄いよ。あの修羅場を見事に切り抜けるんだから、本当に感心するよね…。瑞鶴達はこっちの炬燵で空気のように存在感を消して、あっちの炬燵でのお母さんと金剛さんの厭味の応酬を聞いてたけど…あの厭味の一言一言に肝を冷していたんだよね。でも提督さんは、あの厭味の応酬の中を平然としてお酒飲んでいるし、しかも『すき焼を作ってやる』なんて言って、主導権まで取り戻してるんだよね…瑞鶴ではとても真似出来ないな…というか真似したくないけど。

 

でも提督さん、『すき焼を作ってやる』なんて言っていたけど、結局準備してたのお母さんと金剛さんだよね…。翔鶴姉と加賀先輩はそれを見て『流石は提督…。こういう事の差配はお手の物ですね』とか『わざと自分が駄目な所を見せることで、共通の話題を与えて仲直りさせるとは…流石に私も驚きました』なんて言っていたけど、あれズルイやり方だよね?一緒の炬燵に居る榛名さんや霧島さんも、金剛さんが鳳翔さんと仲良く台所に立っている姿を見て驚いていたけど、瑞鶴だって驚いたよ…。。

 

それに提督さんが料理している姿なんて初めて見たかな。提督さん…あんなに手際よくすき焼作れるなんて知らなかったから、ちょっと驚いたかも…。瑞鶴も提督さんの作ったすき焼食べたいけど、流石にあの炬燵に行く訳には行かないし…というか、あの炬燵で食事なんて怖くて出来ないよ。赤城先輩や加賀先輩だって食べたそうにしていたけど、怖くて行けないようだしね…。

 

でも提督さん…今時、あれは無いと瑞鶴は思うんだよね…。お母さんと金剛さんの口に直接お肉を入れてあげたのは…見ている瑞鶴の方が恥ずかしかったよ。もっとも飛龍先輩や蒼龍先輩は『提督やるじゃん』なんて言っていたけどさ。お母さんも恥ずかしそうにしていたしね。あ~ぁ、瑞鶴にも料理を作ってくれる素敵な人が来てくれないかな…と思うよ。

 

「五航戦…こっちもすき焼を作るわよ。準備しなさい。」

 

現実は厳しいよね…。雲龍達が来たから、そろそろ雑用から解放されると思っていたんだけど、結局瑞鶴達が作る事になりそうだし…。ま、ここで揉めるよりもチャッチャッと作って瑞鶴もすき焼食べよっと。

 

「榛名さん、霧島さん手伝ってくれる?それと葛城、あんたも来なさい。」

 

 

 

提督用官舎  鳳翔

 

 

うちの人…思っていたよりも上手ですね。なんといいますか…味付けが凄く上手な気がします。まさか、ここまで上手に作るとは思っていませんでした。なんと言いますか、少し甘目なのですが、しっかりとした甘辛さとコクがあり、尚且つ味が濃すぎない…絶妙なバランスです…大した物ですね。あの人は家事は全然駄目だと思っていましたが、今回は私も見直しました。ただ…いきなりあの人に肉を口の中に直接入れられた時は驚きましたよ。金剛さんも目を白黒させていましたが、この年になってこのような事をされると…嬉しいのですが、恥ずかしいという気持ちもあります。赤城さん達も見ていたようですし…。

 

しかし…ちょっと気になる点もありますね。うちの人、どうして関西風のすき焼の作り方を知っているのでしょうか。私が作るすき焼は関東風ですし、あの人も若い頃は横須賀鎮守府や海軍省勤務が多かったと思いますので、関東風のすき焼だと思っていたのですが…。そういえば、準備の時も『割り下を用意するように』と言っていませんでしたから、少し気にはなっていたのですが…まさかここまで見事に関西風のすき焼を作るとは思いませんでした。おそらく若い頃に何処かで作り方を聞いていたのでしょうね。

 

あら…野菜も美味しそうに煮えてきましたね。ここからは関東風だろうと関西風だろうとあまり変わらないと思います。…いえ、割り下を使わずに砂糖、醤油、日本酒だけで白菜などから出てくる水分を考えて味を整えていますから、あの人の腕に全て掛かっていましたね。いずれにせよ、私も金剛さんも今日は本当に楽しい時間を過ごす事が出来ました。隣の炬燵で指を咥えてこちらの様子を伺っている赤城さん達には申し訳ありませんが、こればかりは譲れないですね。貴方達はここまでずっと寝正月を楽しんでいたのですから、今日は自分達ですき焼を作ってくださいね。それにしても…金剛さんと仲良く鍋を囲む日が来るとは思いませんでしたね…。

 

ピンポ~ン

 

あら…こんな時間に来客でしょうか。ほとんどの艦娘は昨日の内に年始挨拶に来ていますから、今日…そしてこんな時間に来る子は居ないと思うのですが…。

 

「鳳翔、悪いが出てやってくれ…しかし…こんな時間に誰だろうな。」

 

分かりました。ちょっと行って来ますね、あなた。

 

 

 

提督用官舎  金剛

 

 

今年は運が良い年になりそうデ~ス。まさか提督が私のためにすき焼を作ってくれるとは思ってもいなかったネ。それにあのすき焼、とても美味しかったデ~ス。肉は少し噛んだだけで溶けるような柔らかさで、少し甘目だけどコクのある味、もう最高ネ!野菜や豆腐もそうでしたけど~、今回のすき焼は、全部提督が味付けをしてくれたデ~ス。やっぱり提督の料理は美味しいネ。

 

それに何といっても、今回は提督が直接私にお肉を食べさせてくれたネ。一瞬surpriseでしたけど、肉が口の中に入ってから、味と一緒にジワジワ嬉しさがこみ上げてきたデ~ス。鳳翔も同じ事をしてもらっていま~したけど、今回だけは大目に見てあげるデ~ス。私は寛大な女ネ。

 

それにしても…こんな時間に来客ですか~。珍しい事もあるですネ。ん?何人か分かりませんけど、鳳翔以外の足音も入ってきたネ。But、この部屋は空母娘と私達金剛姉妹だけで一杯デ~ス。それに炬燵も、私達が居る炬燵しか空いてないネ。これ以上、お邪魔虫はいらないデ~ス…。

 

スーッ

 

「小娘、本当に全然変わっていないね。なに坊やにしがみついているんだぃ。それに坊や…小娘にくっつかれてなにを惚けた顔しているんだぃ。…こんなに綺麗どころばかり集めて、随分と偉くなったもんだね…。」

 

Noo…三笠様、何しに来たネ。それに…朝日様と敷島のBBAまで一緒ネ。朝日様は特に問題ないけどサ~、三笠様は横須賀鎮守府の爺の世話をしなくていいデスか?それに敷島のBBAは海軍大臣の世話をほったらかして、why呉まで来てるネ。

 

「提督…それに金剛久しぶりです。金剛は相変わらずですね。提督?鳳翔とは仲良くやっているのですか?あまり女性を泣かせてはいけませんよ。今日は久しぶりに皆さんの顔を見に来たのですが…提督も金剛も、私と会えてあまり嬉しそうではありませんね。」

 

「…敷島様、正月の間は海軍大臣の所に居ると思っていたので、少し驚いているだけですよ。別に敷島様を歓迎していないなど…そんな事はありません。それに…三笠、来るなら連絡くらいしてくれよ…。朝日も久しぶりだな。」

 

「提督ぅ~、折角提督がすき焼を作ってくれたのに、三笠様達が来たら料理が楽しめないネ。早く帰ってもらった方がいいデ~ス。」

 

ゴツン

 

「痛いネ、BBA。もう昔のように小娘じゃないデ~ス。私は、この呉鎮守府の秘書艦ネ!」

 

「小娘はいつまで経っても小娘さね。ん、そのすき焼は坊やが作ったのかぃ?どれどれ…ん、なかなか美味しいじゃないか。坊や、何処でこんな作り方覚えたんだぃ。」

 

「おっ、三笠でも美味いと思うか?俺もなかなかやるだろ?これはな、この間の京都出張の時に、海軍大臣のあいつと一緒に行った座敷で、芸者の子に作り方を教えてもら…あっ。」

 

提督…完璧に失言デ~ス。一瞬で鳳翔の眉間に皺がよったネ。それに…海軍大臣も可哀想デ~ス。提督と一緒に芸者遊びをしていた事がばれたから、間違いなく敷島のBBAに怒られるネ。

 

「提督…少し電話をお借りしますね。いえ…ちょっとうちの人と話したいだけですから…。」

 

「鳳翔、とりあえず一発こいつを殴っておけって。」

 

「坊や…相変わらずだね…。脇が甘いよ。」

 

敷島のBBAは静かに怒って電話のところに行きましたし、朝日様は鳳翔を煽ってま~す。それに三笠様はニヤニヤして提督をからかっているネ。本当に性質が悪いBBA達ばかりデ~ス。ん?赤城達は知らない間に別室に逃げたネ。鳳翔…怒りたいのは分かるけどサ~、今怒ったら、ますますこのBBA達にからかわれマ~ス…今は我慢するしかないネ。

 

「Hey! 鳳翔。怒ってるのは分かるけどサ~、今は我慢しておいた方がいいネ。BBA達は鳳翔が怒り出すのをワクワクして待っているデ~ス。このBBA達が帰ったら、私も鳳翔と一緒に提督を怒ってあげるネ。」

 

「は…はぁ。いえ…この人の悪癖は知ってましたから、それ程怒ってる訳でないのですが…。あなた?次の出張は私も同行しますからね。」

 

…鳳翔はやっぱり少し怒ってるネ。But提督、今回は自業自得デ~ス。少し反省した方がいいネ。Oh…隣の部屋から敷島のBBAの怒声が聞こえてきましたネ。電話越しとはいえ、海軍大臣も大変ネ。それにしても…鳳翔も面白い事考えましたネ。私も提督の出張にはこれから同行させてもらうデ~ス。今年も楽しい一年になりそうネ!




あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

一度くらいは、提督に料理を作らせないと…と思っていまして、今回の外伝でついに登場させる事になりました。また今回は、金剛さんと鳳翔さんが少しだけ仲が良いという、珍しい話になりましたが、提督がそれだけ色々な意味で『やり手』だったという事ですねw。まぁ、偶にはこういう話があっても良いかな…と。

とはいえ…
      現実            提督の頭の中
下準備 :鳳翔&金剛          自分(の指示)
調理  : 提督              自分
後片付け:鳳翔&金剛(?)      そもそも考えていない
総合評価:ウ~ン…       自分が頑張って料理をして食べさせてやった!

でしょうから、結婚している男性の典型的な『男の料理』になっている気がw

さて今回のすき焼ですが、今年は昨年のすき焼とは違い、関西風で登場させてみました。私は名古屋出身のため、割合的には関東風で作る事が多いのですが、時々関西風もやっていまして…これはこれで美味しいんですよね。最初に肉を焼いてザラメと醤油、そして日本酒だけでカラッと少し濃い目に味付けする…これ本当に美味しいんですよね。とはいえ…割り下を使わない場合は、全て自分で味を調整しなくてはならないため、結構面倒だな…と思う時も^^;。ちなみに今年の我が家では、久しぶりに関西風のすき焼をやってみましたので、ある意味今回の提督のすき焼は、我が家の今年のすき焼だったりしますw。

そして…金剛さん、今年は用意周到に水雷戦隊を全て鎮守府の外に出した上で、提督の所に乗り込んだわけですが、今年はまさかの先輩戦艦艦娘(敷島姉妹:長女敷島、次女朝日、四女三笠)が登場…という事で、またまた面倒な事に巻き込まれてしまいました。ちなみに、この話の外伝となる『鎮守府への道』を読んでいる読者の人はもう分かっていると思いますが、三笠様:破天荒で規律には無頓着な性格、敷島様:真面目で細かい性格、朝日様:単純明快でサバサバした性格、な感じに設定しています。おそらくこの話の後で…初霜ちゃんを代行に立てて遊んでいた金剛さんは、敷島様から秘書艦としての心得+説教を聞かされるような…。

今回も読んでいただきありがとうございました。
今回のすき焼のレシピは、ある意味昨年と同じなので省略します。

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