鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回は正規空母の回。そしてそろそろ、このお方に登場してもらわなくては…と思い、加賀さんを登場させました。鳳翔さんのお店では常連の加賀さんですから、ここの店の味は良く分かっているのですが…な感じで、いつも加賀さんが注文している肉じゃがで物語を書いてみました。


第六八話 加賀と肉じゃが

「鳳翔さん、すまねぇ。ちょっと今日はメークインが全部売れてしまってな…。一応代わりになりそうな芋はとってあるんだが…。」

 

これは少し困りましたね…。いつもお店の食材の仕入れに使っている八百屋さんに行ったのですが、メークインが今日は既に完売との事です。私のお店では毎日肉じゃがを作っていますが、メークインはその肉じゃがを作る時に必要なじゃがいもです。このじゃがいもは非常にねっとりとした食感がありますから、これを使うと美味しい肉じゃがが作れますので、毎日のように仕入れをしていたのですが…。どうしましょうか…。肉じゃがは私のお店ではかなりの人気メニューですし、特に常連の加賀さんの大好物ですから、これを作らないという選択肢はありません。八百屋さんは代替品があると言っていますので、多少食感が変わる事を覚悟してそちらを購入しましょうか。

 

「分かりました、八百屋さん。無いのであればいたし方ありませんね。ところで代替品というのは、そちらのじゃがいもですか?」

 

「あぁ、本当にすまねぇな、鳳翔さん。これ、少し小振りのじゃがいもだが、インカのめざめと言うじゃがいもでな…。試みにちょっと仕入れてみたんだが…こっちを使ってもらえねぇかな…。メークインに似た食感で、こっちの方が少し甘みが強いという事だから、たぶんメークインの代わりになると思うんだが…。」

 

まぁ…これがインカのめざめですが。たしか北海道の方で獲れるじゃがいもで、とても美味しいお芋だと聞いた事があります。そして食感もメークインと似てねっとりとした食感があり、煮崩れもし難いと聞いていますので、たしかにこれであればメークインの代わりに十分なるでしょうね。私も一度試してみたかった食材ですし、今回はこれを購入させてもらいましょう。

 

「これがインカのめざめですか…。私も話は聞いた事がありますので、一度使ってみたいと思っていましたから、丁度良いです。八百屋さん、今日はこれを購入しますね。それと…今回は勿論、おまけしてくれますよね?」

 

「あ…あぁ…。ちゃんと勉強させてもらうさ。まったく…鳳翔さんにはいつも適わねぇな~」

 

とりあえず目的の材料も全部手に入りましたし、今日は珍しい食材も手に入りましたから、楽しみですね。今日はいつもとは少し違う肉じゃがになると思いますので、どれだけの艦娘がそれに気付くでしょうか。おそらくいつもこれを注文している加賀さんは、直に気付きそうな気もしますが…他の艦娘達の反応も楽しみです。それでは早速鎮守府に戻って、下準備をしましょうか。

 

 

 

小料理屋「鳳翔」  鳳翔

 

 

「…ということで、鳳翔さん。お願い!今日はこの料理、瑞鶴にやらせてよ。ちゃんと鳳翔さんの指示は守るから…ね、お願い!」

 

はぁ…。今日もお手伝いに来てくれた瑞鶴さんなのですが、来るなり私に対して『今日の肉じゃがの料理はやらせて欲しい』と頼んできました。理由は聞いていませんが、おそらく空母寮で加賀さんから何か言われたのでしょうね…。それにしても、どうしましょうか。肉じゃがは私のお店の人気メニュー。この料理だけは変な味では絶対に出せません…とはいえ瑞鶴さんも料理の腕は凄く上がりましたから、任せても問題ないという気もします。…そうですね、私が見ている前で、そして最後の味のチェックはするという条件で、任せてみましょうか。今日はジャガイモの種類も違いますし、私が作ったとしてもいつもとは少し違う肉じゃがになるでしょから、瑞鶴さんが今回は料理をしてみる…というのも良いような気がします。

 

「分かりました、瑞鶴さん。そこまで言うのでしたら、今日は任せます。ただ…この料理はうちの人気メニューですから、私の指示には従ってもらいますし、最後の味のチェックは私がします。いいですね?」

 

「やった~。鳳翔さん、サ~ンキュ!…これであの先輩の鼻を明かしてやるんだから…。」

 

はぁ…これは先が思いやられます。私の予想がピタリ当たっていたようですね。まったく、いつまでたってもこの子達には世話が焼けます。いずれにせよ、任せた以上はしっかり料理をしてもらわなくてはいけませんね。さて、それでは私は瑞鶴さんの作業を時々見ながら、自分の下準備を進めましょうか。

 

…最初は大丈夫そうですね。うちの人気メニューの料理ですから、どうしても私も気になってしまい、かなりの頻度で瑞鶴さんの作業を横目で見てしまいますが、いつも私の作業を良く見ていた瑞鶴さんは、しっかり料理しているようですね。今は具材を切っていますが、玉ねぎは綺麗にくし形切りにしていますし、人参の皮もきちんと剥いているようです。…人参の切り方は…大丈夫ですね。人参のいちょう切りも幅は完全に揃っています。

 

あら…やはりこのじゃがいもは、少し変わっていますね。いつも私のお店で使っていたメークインは少し白色が強いのですが、今回のお芋は生の状態でもかなり黄色が強そうです。これに火が入るとかなり濃い黄色になりそうですから、少し人参の量を減らして色合いを調整した方が良いかもしれません。

 

「あれ?鳳翔さん。いつも使っているじゃがいもってこんなに黄色かったっけ?」

 

瑞鶴さんも気付いたようですね。やはり普段私が肉じゃがを作っている姿を見ていたと思うので、その材料の違いも直に分かったようです。

 

「いえ、いつもじゃがいもはもっと白いのですが、今日は少しじゃがいもを変えたのです。私も少し驚いたのですが、じゃがいもの色が思ったよりも濃いようですから、少し人参の量を減らして色のバランスを調整した方が良さそうですね…。」

 

「瑞鶴、了解~。…えっと、こんな感じでいい、鳳翔さん?」

 

…そうですね、それくらいの量比で丁度良さそうですね。瑞鶴さんの料理の色に対するセンスもだいぶ良くなっているようです。ほとんど私が考えていた通りの割合にピタリと合わせてきました。じゃがいももきちんと皮が剥けていますし、切り分け方も私が考えているのと同じ切り方ですね。小振りの芋ですから四等分で丁度一口大です。切り分けたじゃがいもにも、満遍なく火が通りやすいように面取りをしていますから、この部分も大丈夫そうです。

 

そして最後の野菜の具材となるサヤインゲンも、私は指示を出していませんが、少しだけ多目に準備して、全体的な色合いを整えるようです。こちらの処理も大丈夫そうですね。サヤインゲンの軸の部分を少しだけ切り落とし、軽く塩茹でしてから数cm程度の長さに均等に切り分けています。

 

後、牛肉はこま切れを使いますので、既に一口大のサイズになっていますから、このまま使えますし…いよいよ調理が始まりますね。瑞鶴さんに任せても大丈夫…と分かってはいるのですが、どうしても心配で何度も見てしまう私は、やはり心配性なのでしょうね…。

 

さぁ、いよいよ瑞鶴さんの調理が始まりましたね。まずは熱した鍋の底全体に油が広がったら、最初に玉ねぎを入れて玉ねぎがクタッとなるまで炒めます。そしてここに牛肉のこま切れを入れて更に炒めていきます。…そろそろ肉に火が通りましたね。私が考えていたタイミングとほぼ同時に瑞鶴さんが、鍋にジャガイモと人参を加えて炒め合わせました。ここまでの作業は完璧なようです。そろそろ炒める作業は大丈夫なようですね…。

 

「瑞鶴さん、そろそろ出汁を入れてください。」

 

「あっ、はい。鳳翔さん。すぐに入れるね。」

 

途中の作業は口を出さないと決めていた筈なのですが…やはりどうしても口を出したくなってしまう…本当に私は心配性なようです。瑞鶴さんは、急に横から飛んできた私の言葉に少しびっくりしたようですが、直に鍋の中に具がヒタヒタになる程度まで出汁汁を入れました。後はこの出汁汁が煮立つまで強火にして、煮立ったら中火に戻して灰汁を取りながら、じゃがいもに火が通るまで煮ていくだけになります。

 

 

そろそろ大丈夫なのではないでしょうか。今度は瑞鶴さんも、私が考えていたタイミングどおりに竹串を使って、お芋への火の通りを確認しているようです。…それにしてもこのお芋、かなり濃い黄色になっていますが、とても美味しそうなお芋ですね。場合によっては、今度からこちらのお芋を仕入れても良いかもしれませんね。…竹串もスーッと入ったようですから、いよいよここから味付けに入っていくのだと思いますが、今の内にこのお芋の味をチェックしておいた方が良さそうですね。

 

「瑞鶴さん、任せたと言っていたのに申し訳ありませんが、このお芋は今回初めて使うお芋ですから、少しお芋の味見をさせてください。場合によっては、少し味を変えなくてはいけませんから。」

 

「了解~。ねぇねぇ、鳳翔さん。瑞鶴も味見していい?」

 

勿論、瑞鶴さんも味見してくださいね。今日は瑞鶴さんがメインで肉じゃがを料理しているのですから。…あら、このお芋は…。いつも使っているメークインと同じくらい…いえ、こちらの方がネットリ感があり、濃厚な味ですね…。それに味は…じゃがいもと言うよりは、さつま芋に近い甘さが…。これだけ濃厚な味ですと、普段の少し薄めの味付けではじゃがいもの味に負けてしまいそうです。今日は少し濃い目にした方が良さそうですね。

 

「ねぇねぇ、鳳翔さん?このお芋、かなり味濃いよね?肉じゃがの味も今日は少し濃い目にした方が良いんじゃないかな…。瑞鶴はそう思うんだけど…。」

 

そうですね。瑞鶴さんも私の意見と同じようです。味付けを開始する前にじゃがいもの味見をしておいて正解でした。そして瑞鶴さんの料理に対する感性も良くなっている事がこの事からも確認出来ましたので、私としては嬉しい限りです。

 

「そうですね、瑞鶴さん。私も同じように思っていましたよ。今日の肉じゃがは、いつもよりも少し濃い目の味付けにしましょう。このお芋が相手でしたら、それで丁度良い味付けになると私も思います。」

 

私の言葉に瑞鶴さんも安心したのか、一度大きく頷くと、鍋の中に醤油、砂糖、みりん、日本酒を入れています。気持ち醤油とみりんが多目になっているようですから、今回は少しだけ濃い目の味付けになりそうですね。後は蓋をしないで、時々混ぜながらしばらく煮込めば完成です。完成の直前にサヤインゲンも入れましたし、もう大丈夫ですね。後は…仕上げのあれを瑞鶴さんが忘れずに入れれば…。

 

「鳳翔さん、この肉じゃがもいつもどおり、これ入れる?」

 

「えぇ、瑞鶴さん。お願いします。それはうちの肉じゃがの特徴ですから…。」

 

そうです。完成したら最後に少しだけ上からカレー粉をふって、少しだけスパイシーな香りを肉じゃがに入れる…これが私のお店の肉じゃがの特徴です。このちょっとしたスパイシーさが、食欲を刺激するという事で皆さん気に入ってくれていますから、これを忘れるわけにはいきません。

 

「鳳翔さん、完成したよ。味見してくれるよね?」

 

「えぇ、勿論しますよ…どうですかね…。えぇ、味付けは丁度よいですね。ただ、全体的な味が少し濃くなっている分、カレー粉が少し少ない気がしますから、もう少しだけ追加してください。」

 

「了解~。…これで完成!」

 

瑞鶴さん、本当に頑張りましたね。これならうちの店の人気料理として出してもまったく恥ずかしくない味だと思います。…もっとも、瑞鶴さんの目的を考えますと、今日はひと悶着ありそうな気がしないでもないですが…少し注意して見ていた方が良いかもしれません。

 

 

「五航戦…肉じゃがはまだ頼んでいないのだけれど。」

 

「えぇ~、加賀先輩いつも肉じゃがを頼んでいるから、今日は瑞鶴が気を使って最初から持ってきただけじゃん。まぁ、いいから、早く食べてよ~。」

 

瑞鶴さん…加賀さんに早く自分が作った肉じゃがを食べさせたい…という気持ちは分かりますが、まだ注文もしていないような料理を運んでしまうのはどうかと思いますよ。たしかに加賀さんは、瑞鶴さんが言うとおり毎回肉じゃがの注文を入れますが、それはお酒などを粗方飲み終わった後の注文です。おそらく肉じゃがはゆっくり味わいたいため、ある程度お腹が膨れてから注文を入れていたと思いますから、最初から出されても困ると思いますよ…。しかし瑞鶴さんの、いつもとは違う強引な行動に、加賀さんも少し困惑しているようですね。

 

「ねっ、ねっ、早くこの肉じゃが食べてよ!今日の肉じゃがは特別だから!」

 

「瑞鶴…あまり加賀先輩を困らせたら駄目よ?それにしても、今日は一体どうしたの?」

 

「加賀さん、どうするの?出されちゃった以上、温かい内に食べた方が良さそうだし。何故か知らないけど、瑞鶴も今日はかなり強引な感じだから…。」

 

「…五航戦、そんなに顔を近づけて騒がなくても聞こえています…。仕方ないわね、本当はもう少しお腹が落ち着いてから肉じゃがをゆっくり食べたかったのだけれど…。飛龍、今日は少し早いけれど、このまま肉じゃがを食べましょう。翔鶴、そんなに心配そうな顔をしなくてもいいわ。別にこれくらいの事で、この子に精神注入棒を使うつもりはないから。」

 

 

 

正規空母『加賀』

 

 

まったく…五航戦には本当に毎度手を焼かされます。大体、いくら毎日注文している料理だからといって、まだ注文もしてない料理を並べてくるのは…少し頭にきます。まぁ、この子は鳳翔さんのお店の厨房でお手伝いをしているため、おそらく今日の肉じゃがは何か特別な肉じゃがになっているため、私に早く食べさせようと思った…と好意的に考えられなくもないけれど…。それにお母さんも、あの子の後ろで少し困ったような笑顔をしている事だし、今日はこのまま肉じゃがをいただきましょう。

 

あら?たしかに今日の肉じゃがは私がいつも食べている肉じゃがとは違うようね。お芋の色がいつもよりもオレンジ色に近いです。じゃがいもが変わったようね。…なるほど、それであの子は私に早くこれを食べさせようと…ん?まさか私を使って実験!?いえ、ここはお母さんのお店だから、流石にそれはないでしょう。となると、純粋に私に美味しい物を早く食べさせようと考えた方が自然ね。ま、五航戦も多少は気が使えるようになった…という事ですか。

 

そういう事であれば、早速いただきましょう。まずは…やはりこのお芋ね。…なるほど…これは良い物です。いつもの肉じゃがも勿論美味しいのですが、お芋の味は今回の方が圧倒的に良い…そうね、なんというか粘性が強くて…そして甘みが強い。最初はさつま芋?と思ってしまったのだけれど、たしかにじゃがいもを使っているわ。これ程甘くてネットリとした食感が楽しめるじゃがいもは初めてです。それに、汁の味もいつもより気持ち濃いような…えぇ、間違いありません。おそらくこのお芋の味に負けないだけのしっかりとした味にしているのだろうけど、この濃い目の汁を吸い込んだじゃがいも…たいしたものね。流石にお母さんのお店の肉じゃがだけの事はあります。そして、このような美味しい料理を最初に食べる事が出来ると、流石に気分も高揚します。

 

それに、お芋を口に近づけた時に鼻から入ってくるほのかなスパイシーな香り、それと後味に少しだけ感じる事が出来るスパイシーな風味。この食欲を呼び覚ますカレー粉が少しだけ入った味、これこそお母さんの肉じゃがの特徴。じゃがいもの部分が変わって、味付けも少しだけ変わっているけど、私にとって安心出来る部分はちゃんと残っている所もいいわね。

 

勿論、一緒に入っている人参や玉ねぎ、それに彩りを添えているサヤインゲンも美味しいですし、お肉も完璧です。特にお肉とじゃがいもを同時に口に入れた時は、最高ね。お肉から出てくる旨味と今日の濃い目の汁、これがじゃがいもの濃厚な甘みと合わさると…これは箸が止まらなくなるわね。

 

…五航戦、何を私の傍でニヤニヤ笑っているの。さっきから私が食べている姿をチラチラ見ていたのは把握していたけれど、私が掻き込んで食べている姿がそんなにおかしいかしら。それに、たしかにこの肉じゃがは美味しかったけれど、これはお母さんが作った肉じゃが、別にあなたが誇るような事ではないでしょうに…。なるほど、自分が勧めた料理を私が『美味しい、お代わりをもらうわ』と言うのを待っている…という事ね。

 

…仕方ありません。五航戦の企みに乗るのはとても癪だけれど、この料理はたしかに美味しかったわ。そう…すぐにでもお代わりをしたい程にね…。今回だけは五航戦の思っている通りに行動してもいいわ。

 

「五航戦、この肉じゃがは美味しかったわ。すぐにお代わりを持ってきて頂戴。」

 

「ねぇねぇ、加賀先輩!?いつもの肉じゃがと比べてどうだった?どっちが美味しい?」

 

…五航戦…今日は一体どうしたと言うの?私は美味しかったからお代わりをお願いしただけだというのに、まるで私を押し倒さんばかりの勢いで、私に味の感想を聞いてくる…。どちらが美味しいと言われても、いつもの安心して食べられる肉じゃがは好きだし、今日の少し濃い目の肉じゃがも美味しかったわ。そうね…どちらが美味しいか?という問題ではないわね。

 

「今日の肉じゃがも美味しかったわ。いつもの肉じゃがも好きだから、どちらが美味しいかという問題ではないわね。強いて言えば、どちらも同じくらい美味しかったという事かしら。」

 

「ねぇねぇ、加賀先輩?それ本当?今更撤回は無しだよ!?」

 

…五航戦、少し離れなさい。私の両肩を掴んで、そんなに迫られても困ります…。それにこの肉じゃががいつもの肉じゃがと同じくらい美味しかったというのは本当だけれど…どちらもお母さんが作っているのだから、当たり前の話…! まさか…。

 

「五航戦…まさかとは思うけれど、今日の肉じゃがは…」

 

「ピンポ~ン!加賀先輩、正解!今日の肉じゃがはね、瑞鶴が作ったんだよ~…鳳翔さんも見ていたけれど。翔鶴姉もどうだった?」

 

「この肉じゃが、瑞鶴が作っていたの?本当に美味しいわ。お姉ちゃんもビックリしたわ。本当に料理が上手になったのね。」

 

これを五航戦が…。お母さんの方を少し見ましたが、お母さんも頷いていますので、おそらくこの生意気な五航戦が言っている事は本当のようね。…そう…一応貴方も成長したという事ね。最近は戦闘における錬度もだいぶ上がってきたとは思っていたけれど、料理の腕も進歩しているようだし…少し安心しました。今回の騙し討ちのようなやり方は感心しないけれど…。

 

「まぁ、あなたも多少は腕を上げたという事ね。今回の料理、まぁまぁ美味しかったわ。一応、合格点をあげてもいいけれど。」

 

「ブゥ!さっきと評価が違っているんだけど!さっきは、今日の肉じゃがは鳳翔さんがいつも作っている肉じゃがと同じくらい美味しかったと言っていたじゃん!」

 

「さっきの評価は…そうね、材料の違いという項目を加味し忘れていたわ。それと今日のは初めて食べたタイプの肉じゃがだったから、通常よりも評価が甘くなってしまった感もあるわね。それに五航戦…今回の肉じゃがの大元には、鳳翔さんの料理があるのだから、この料理が全てあなたの実力だというのはどうかしら。」

 

いくら最近頑張って戦闘錬度も料理の腕も上達したからと言って、そう簡単に免許皆伝を出すわけには行きません。それにこのお調子者の五航戦は、褒めてしまえば直につけ上がり油断する事は、これまでの行動から見ても明らか…これくらいの事で満足してもらっても困ります。そう…貴方の本来の能力は、私達現一航戦よりも遥かに高いのだから…。

 

 

 

鳳翔

 

 

あらあら、加賀さんの手のひら返しのような評価に、瑞鶴さんはおかんむりのようですね。とはいえ瑞鶴さん、加賀さんはちゃんと貴方の料理の腕を認めていると思いますよ。その証拠に、お代わりとして出した肉じゃがも、掻き込むように食べているではないですか。おそらくあの手のひら返しのような評価は、瑞鶴さんが現状で満足しないようにするために、あえて発破をかけているだけだと思います。

 

それに周りに居る飛龍さん達や、翔鶴さんもその辺りの事が分かっているからこそ、加賀さんと瑞鶴さんのぶつかり合いを温かい目で見ているのだと思いますし、加賀さんも貴方にそれだけ期待しているのですよ。そういえば最近赤城さんの姿を見ていませんが、今日も来ないのでしょうか。何か悪いものでも拾って食べてお腹を壊していなければ良いのですが…。

 

ガラッ

 

『呼ぶより謗れ』とは正にこの事でしょうか。ちょうど考えていた赤城さんの登場です。えっ?赤城さん…ツケを払ってくれるのは良いのですが…このお金は?赤城さんが大金を私の前に差し出した姿を見て、加賀さんや瑞鶴さんも舌戦を中断して驚いたような表情でこちらを見ています。

 

「赤城さん?そのお金は…どうしたのですか?いえ…ツケを清算してくれるのは嬉しいのですが…。」

 

「鳳翔さん!赤城の書いた『食べても体重維持!?赤城式ダイエット』という本がベストセラーになりましたので、印税が…。これで清算出来ますよね?これで赤城もまたお客さんに戻れますよね?」

 

赤城さん…あなたいつのまにそんな本を書いていたのですか…。いえ、たしかにそういう類の本は売れると聞いた事がありますが…それに確かに赤城さんは食べても全然太りませんから、嘘は書いていないのだと思いますが、それは赤城さんの特有の出来事ですからあまり参考にならないような…。

 

「ねぇねぇ、赤城先輩?それ全部赤城先輩が稼いだ印税?そんなにあるなら、瑞鶴にも奢ってよ~。」

 

「良いですよ、瑞鶴。それに加賀さん達も今日は赤城の奢りです。あら?それはまた美味しそうな肉じゃがですね。えっ、瑞鶴が作ったのですか?それに加賀さんも気に入った…なるほど、それは期待出来ますね。鳳翔さん、その肉じゃが、鍋全部ください。」

 

赤城さん…私には貴方の未来が明確に見えます。赤城さんの書いたダイエット本は、普通の人には効果があまり無い事が判明して、あっという間に売れなくなるでしょうから、大量の印税が入るのは今回のみ。そしてこの泡銭は、あっという間に食費となってまさに泡のように消えてしまうでしょうね。まぁ、今回だけとはいえ、印税としてだいぶ稼いだようですから、これまでのツケの清算、そして…一ヶ月程は純粋にお客さんとして来店できると思いますが、その後は再び私のお店のお手伝いに逆戻りする未来が私には見えます。そして私が思っていることは、加賀さん達も考えたようで、頭を横にふりながら苦笑い…。とはいえ、赤城さんの奢りで肉じゃがをお腹一杯食べられそうなので、加賀さんも嬉しそうですね。

 

まぁ、いずれにせよ、赤城さんもツケを一時的とはいえ清算してくれましたから、私も懐が暖かくなりましたし…今度あの人と一緒にどこか高級温泉旅館にでも行ってきましょうか…。今日も鎮守府は平和ですね。




赤城さんが大穴を当てて、一気にツケを清算したようですが…おそらく鳳翔さんの予想どおり数ヵ月後には、再びお手伝いさんに逆戻りですねw。そしていつのまにダイエット本を書いていたのでしょうか。たしかに食べても体重維持出来る方法があったら、飛びつきたくなる人は多そうですから、売れそうな気も…w

さてついにこの物語にも、主役として加賀さんを登場させる事にしました。加賀さんの回も実は金剛さんの回と同じく使う料理は肉じゃがと決めていましたし、お芋ネタで書く事も決めていましたので、書き始めてみますと意外とすんなり書く事が出来ました。とはいえ、瑞鶴に作らせる…とした時点で、少し雲行きが…。加賀さんは鳳翔さんのお店で出てきた料理なので、鳳翔さんが作った料理だと思ってコメントしたら、実は瑞鶴が作っていた…まぁ、現実でも時々起こりそうな事案ですが、これはこれで話としては面白いかな…と思い、今回は少し変則的な回ではありますが、鳳翔さん指揮の下、瑞鶴が料理という形にしてみました。

肉じゃがの作り方、そして具材の選択これは色々あると思います。私のところでは、肉は牛肉、そして糸こんにゃくは入れないスタイルですし、じゃがいもも1/4程に切って使うスタイル、そして最後にこの物語と同様にカレー粉を少しふってスパイシーさを出す形で食卓に上がります。とはいえ、聞いた話では、肉は豚肉を使っている所もあるようですし、ジャガイモも丸ごとに近い形で入れている人も居るようです。皆さんの家庭の肉じゃがはどのようなスタイルで作っているでしょうか?

そして今回登場させたインカのめざめと言うじゃがいも。これたしか、元々は北海道の方で作っていたじゃがいもだったと思いますが、これとても美味しいです。全体的な食感は粘度の高いメークインのような食感なのですが、甘みはメークインよりは圧倒的に上ですし、色合いもとても綺麗な深い黄色っぽい感じで、結構さつま芋に近い感覚だな…というのが私の感想です。もし手に入るようでしたら、是非一度肉じゃがで試してもらえると、面白い味になると思います。

さて、いよいよ来週から秋のイベントが始まるようですが、私は来週は完全に出張が入ってしまい、スタートダッシュは出来なさそうです。コロンバンガラ周辺の海戦という事で水雷戦隊は、第二水雷戦隊を中心にそれなりの錬度になっていますので、なんとか来週の土曜日くらいから遅れを取り戻せたらな…と思っていますが、今度のイベント完走出来るだろうか…とちょっと心配していたりします^^;

それでは皆さん、今度のイベントもお互いに頑張りましょう。
今回も読んでいただきありがとうございました。
来週はたぶんお休みする事になると思います。




肉じゃが (四人分)
じゃがいも:小6個 or 中4個程
牛肉   :200-250 g
玉ねぎ  :2個
人参   :1/2本
サヤインゲン:10本程

出汁汁   :1 L
醤油    :60-70 mL
砂糖    :60 g
みりん   :60 mL
日本酒   :75 mL
カレー粉  :適量

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