鎮守府の片隅で   作:ariel

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やはり初期艦は出しておきたいな…と思ったのも一因ですが、前々からなんらかの形でこの子は書いてみたいな…と考えていたため、この機会に初期艦の一人でもある叢雲を登場させました。料理の方は…やはりこの時期は梅雨で鬱陶しい季節ですから…少し酸味があり爽やかな味覚を楽しめる煮物を準備してみました。



第五三話 叢雲と鰯の梅煮

梅雨の時期に突入してここしばらく、雨の日が続いています。時々太陽が顔を見せる日もありますが、これだけ雨の日が続いてしまいますと、どんどん気分が滅入ってきてしまいますね。私のお店に来る艦娘の子達も、あまり顔には出さないようにしているようですが、それでも気分が乗らない…というのは、時折見せるちょっとした仕草から察する事が出来ます。こんな日は、少しでも気持ちを切り替えられるような料理を準備したいですね。

 

気持ちを切り替えられる料理と言いますと、刺激のある味の料理が頭によぎります。そして刺激のある味の料理と言えば、艦娘達が大好きなカレーのような香辛料を利かせた料理が第一候補に挙がりますが、カレーは鎮守府食堂でも出ている定番料理ですから、私のお店では少し違った切り口から刺激のある味の料理を準備しましょうか。香辛料以外で刺激のある料理…ここはやはり酸味ですかね…。丁度、遠征帰りの第六駆逐隊の子達が鰯を持って来てくれましたし、今日はこの鰯を使って少しだけ酸味を感じる事が出来る梅煮を作ってみましょう。

 

鰯は、先の大戦の頃は非常に安価な魚として私もよく料理したものですが、ここ最近は価格も上がってしまいました。ですから今日、第六駆逐隊の子達が大量の鰯を持って来てくれた時は非常に嬉しかったです。当初はこの鰯を使って、普通の鰯料理を作ろうと思っていましたが、少し方針転換ですね。

 

それでは早速、梅煮を作る準備をしましょうか。まずは煮る前に、鰯を下ろさなくてはいけません。ウロコを軽く取り除いた後に、頭を落として、続いて腹の部分の骨も落とします。そして苦味の強い内臓を取り除きながら、腹を切り開きます。後は切り開いた腹の部分を丁寧に水洗いして、水気を取り除けば鰯の準備は終了です。内臓の部分は独特の苦みがあり、これが好きな子も居るようですが、今回はこの苦味が梅煮の味を邪魔してしまうので、内臓は取り除いておいた方が良さそうですね。

 

また鰯にはどうしても臭みが残りますから、これを取り除くために今回は梅干と一緒に生姜を入れて煮る予定です。しかし更に臭みを取り除くために、一度下処理した鰯に塩をふってからしばらく静置しておきます。そして軽く湯掻いてから再び水洗いして塩を取り除く事で、鰯の身をしまらせて臭みも完全に取り除いておきましょう。

 

次は鰯の臭みを抑えるために必要な生姜の準備です。鰯と一緒に入れて煮る生姜は薄切りにしておきます。またこれとは別に、最後に料理に添えるための生姜も千切りにして準備しておきましょう。それでは全ての準備が終わりましたから、梅煮を作るための煮汁を先に作っておきましょうか。醤油、みりん、日本酒、砂糖そして水を入れて、一度煮立たせる事で味を整えたら、ここに先程準備した鰯を並べて、そして薄切りした生姜、さらに種を取除いた梅干しを加えます。後は、落し蓋をしてこのまま弱火で30分程煮る事で、煮汁が少し少なくなるまで煮れば完成ですが、時々煮汁を鰯にかけて全体的に味を染み込ませなくてはいけませんね。

 

 

どうやら、鰯の梅煮が美味しく作れたようですね。それでは他の料理も急いで準備して、開店の準備を続けましょうか。今日はどんな注文がでるのでしょうかね…。

 

 

リリリリリ~ン

 

「はい鳳翔ですが…。あら、あなたですか?…はい。…はい。えぇ…それは構いませんが。吹雪ちゃん、白雪ちゃん、初雪ちゃんに叢雲ちゃんですね?分かりました。それにしても珍しい事もあるのですね。…いえ、別にこちらは問題ありませんよ。それでは待っていますので、その子達にこちらに来るように伝えてください。…はい、それではまた夜に。」

 

珍しい事もあるものですね。あの人から電話で、今日は駆逐艦の吹雪ちゃん、白雪ちゃん、初雪ちゃんそして叢雲ちゃんに私のお店で夕食を食べさせてやってほしいとの連絡がありました。なんでも、難易度の高い作戦から帰ってきた四人の駆逐艦娘を労ってやるために、あの人の奢りで私のお店で夕食を食べさせてあげるようです。たしかに駆逐艦の子達が私のお店で食事をする事は一部の例外を除いて珍しいですから、丁度良いご褒美になると考えたのでしょうね。

 

 

「吹雪、何やってんのよ…アンタから入りなさいよ。」

 

「で…でもぉ~。やっぱり私達が入るのは緊張するよ…。叢雲ちゃんが先頭の方が…」

 

「はぁ~?なんで私が先頭な訳?私は別にどうでも良かったけど、アイツが行けと言ったから、来ただけよっ!」

 

「そうでしたか?司令官が『ご褒美に鳳翔の店で夕食を食べさせてやるから、行って来い』と言ってくれた時、叢雲さんの艤装の窓の部分…真っ赤になっていましたよ。」

 

「白雪っ!う…うるさいわねっ!あ…あれは、ただ単に艤装の調子が悪かっただけで、べ…別に嬉しかったり、気分が高揚していた訳じゃないんだからっ!そんな事はいいから、早く入りなさいよっ!」

 

「もういい…。私が先頭で入る…。」

 

お店の入り口付近が賑やかになりましたね。どうやらあの人から言われたお客さんの四人が到着したようです。ただ…誰が先頭で入るのか揉めているようですが…。やはり、駆逐艦の子達にしてみると、私のお店は敷居が高いのでしょうか。私としてはそんなつもりは全くなく、誰でも気軽に入れるお店を目指しているのですが、現実はなかなかそういう訳にはいかないようですね。どうやら時々私のお店に来店しているため、比較的慣れている初雪ちゃんが先頭で入店するようですね。

 

「鳳翔さん…こんばんは。提督がご褒美に鳳翔さんのお店で夕食を食べていいと言ってくれたから…来た。タコある?」

 

「いらっしゃい、皆さん。話はあの人から聞いていますから、そこのカウンター席にどうぞ。それと初雪ちゃん、今日はタコはありません…ごめんなさいね。」

 

初雪ちゃんがちょっと残念そうな表情を見せましたが、今日は残念ながらタコは入荷していませんので、初雪ちゃんの一番の大好物を出してあげる事は出来ません。それにしても…初雪ちゃんは普通に入店して、私が指示したとおりにカウンター席に向かいましたが、他の三人はまだ入り口で固まっていますね…。どうしましょうか…。

 

「ん…分かった。じゃ、諦める。とりあえず、皆も座る…。そこに居たら、他のお客さんの邪魔。」

 

「わ…分かっているわよっ!べ…別に、緊張して足がすくんで立ち止まっていた訳じゃないしっ!これくらいのお店、たいした事ないんだからっ!ほら、吹雪も白雪も震えてないで入るわよっ!ほんと…アンタ達落ち着きがないわねぇ。」

 

「叢雲…。叢雲も足が震えている…。いいから早く入って座る…。」

 

「初雪!よ…余計な事言わなくてもいいわよっ!こ…これは、今日は肌寒いから少し震えていただけよっ!…ほ…ほ…鳳翔さん、こんばんは。きょ…今日はアイツがここで食事をしていいと言ったから、来たわっ。」

 

「叢雲…声が裏返っている…。そんなに緊張しなくても大丈夫。ここの食事は美味しい。」

 

「う…うるさいわねっ!どうだっていいでしょ、そんな事!」

 

思わず笑ってしまいそうな漫才が私の眼前で展開していますね。ここで私が笑ってしまっては、叢雲ちゃんには申し訳ないので笑う訳には行きませんが、叢雲ちゃんと初雪ちゃんは結構良いコンビですね。初雪ちゃんの言葉に、ようやく他の三人の子達が私のお店に入店してくれましたし、カウンター席に座ってくれました。さて…この子達に何をお出ししましょうか。私のお店にはあまり慣れていないでしょうから、普通に注文を聞くよりも、私の方から何か提案してあげた方が良さそうですね。

 

「今日はあの人から、皆さんに夕食を食べさせてやってくれと言われていますが、どうしますか?希望があれば直ぐに作れる物は作りますよ。もし無いようでしたら、私の方で適当に準備しますが…どうでしょうか?」

 

「ん…鳳翔さんに任せる。タコが無いなら、私は何でもいい…」

 

「わ…私も、お任せで。初雪ちゃん…すごく慣れているね…すごいね…。」

 

「白雪も鳳翔さんにお任せでお願いしますね。憧れのこのお店で夕食が食べられるなんて、嬉しいです♪」

 

「わ…私も鳳翔さんに任せるわ。矢でも鉄砲でも何だって来いっていうのよ!」

 

矢でも鉄砲でも…と言われましても、私のお店は別にゲテモノ料理を出している訳ではないのですが…。たしかに先日、お手伝いに来た赤城さんが、採取してきたカタツムリを食べようと苦心していた姿を、その時店に居たお客さん達が苦笑いしながら見ていた事はありました。しかしカタツムリはフランスでは高級食材ですし…それにそんな噂は駆逐艦の子達には広まっていないでしょうから、私のお店でゲテモノ料理が出ていると思われるのは不本意ですね…。

 

「あの…叢雲ちゃん。矢でも鉄砲でも…と言われるような料理は出してないですから、安心してくださいね。皆さん特に希望がないようでしたら…折角ですから、今日は梅雨の鬱陶しさを吹き飛ばせるような少し酸味のある料理を出しますね。」

 

「変な料理が出る訳がないという事くらい、わ…分かっているわっ。それに…こんな天気が続いて鬱陶しい気分なのは確かだから、それを吹き飛ばせるような料理なら、大歓迎だわっ!」

 

どうやらこの子達も少しずつ緊張がほぐれてきたようですね。少し気持ちに余裕が出来たのか、店内をキョロキョロ見ていますし、同じカウンターでお酒を飲んでいる長門さん達の料理を観察したりしています。長門さんや陸奥さんは少し居心地が悪そうですが、なかなか私の店では見かけない駆逐艦の子達が興味を持って色々な物を見ているという心境は理解できるようで、特に文句は言わなさそうですね。それでは私の方も、今日特別に作った鰯の梅煮や、その他のおかずをご飯やお味噌汁と一緒に出してあげましょうか。駆逐艦の子達にもこの料理を楽しんでもらえると嬉しいですね。

 

 

 

駆逐艦 叢雲

 

 

はぁ…緊張するわねっ。今日作戦から帰ってきたら、アイツからご褒美だと言われて、鳳翔さんのお店で夕食が食べられる事になって…。一度で良いから行きたかった場所だから、本当は飛び上がる程嬉しかったけど、同僚の吹雪達の前ではそんな緩んだ表情は見せられないわ。それにお店に来たのはいいけど、普段あまり話なんかしない戦艦や空母の人達ばっかりで…本当に緊張するわね。

 

鳳翔さんからは好きな物を注文して良いと言われたけど、ここでオムライスとかカレーライスなんて注文出来ないし…鳳翔さんに全て任せるしかないでしょ…。まぁ、何故か知らないけど初雪だけは落ち着いてるのが癪だけど…吹雪も白雪も私と同じで物凄く緊張しているし…。夢が叶ったのは嬉しいけど、こんなに緊張感あふれる場所は…今度アイツに文句言ってやらないと。

 

しばらく待っていたら、鳳翔さんが夕食を出してくれたわ。ご飯やお味噌汁におかず…全部凄く美味しそうだけど、この魚の煮物は気になるわねっ。この赤い物は…梅干?なんで魚と梅干が一緒なのかしら。とりあえず気になったから、これから食べてみるわ。まずは魚の方から…これは鰯ねっ。

 

あっ…あれっ?なんだか爽やかな酸味が…それに鰯は少し生臭い香りがある筈なのに、この煮魚は全く生臭さがない…って、どうしてよっ。口に鰯を入れた瞬間は醤油を中心とした典型的な和食の味がするのに、少し時間が経つと鼻に抜けるように爽やかな酸味と香りが口の中に広がっていくわ。それに付けあわせてとして横に載っていた生姜の千切りを一緒に口に入れると、少しだけ刺激のある辛さが加わって、鰯をさらに美味しく食べさせる…。凄く美味しい料理だわっ。

 

骨が少しだけ残っているけど、小骨も凄く柔らかくなっているから問題ないし…。それに骨とは逆に、鰯の身そのものはしっかりとした歯応えが残っている…本当に美味しいわね。この煮魚から感じられる酸味は、鰯の横に添えられている梅干から来ている事は分かるんだけど…どうやって鰯までこの酸味を移しているのよっ。…あっ、梅干も鰯と一緒に煮ているんだ。そうに違いないわ。少し濃い目の醤油を中心とした味なのに、梅の爽やかな酸味も入っているというのは反則ねっ…ご飯が進わっ!たしかにこれなら最初に鳳翔さんが言っていたように、梅雨でドンヨリした私の気分を吹き払ってくれそう。

 

折角だから、一緒についてきた梅干も食べてみようかしらっ。梅干だから、これが酸っぱいのは分かっているけど…ウン…こっちの梅干は、和風の味が染み込んで酸味がまろやかになっていて…これも普通の梅干よりもご飯が進みそう。やっぱり鳳翔さんのお店の料理は、私達が普段食べている鎮守府食堂の料理と比べると格段に違いがあるわね。もうこのお店にも慣れたし…またアイツにお願いして、食べさせてもらいたいわねっ。

 

あっ、そうだ。アイツからどんな物を食べたか後で教えろって言われていたから、この料理持って帰ってやろうかしら。か…勘違いしないで欲しいわ。私はアイツに報告する義務があるから、料理を持って帰ってやるだけで、別にアイツに食べさせてあげたいから持って帰る訳じゃないのよっ。と…とりあえず、持って帰る準備をお願いしないと。

 

「ほ…鳳翔さん?この料理、アイツにも持って帰りたいから、包んでもらえるかしら?べ…別に特別な意味はなくて、どんな物を食べたか報告するだけよっ!」

 

 

 

鳳翔

 

 

どうやら駆逐艦の四人にも、鰯の梅煮は気に入ってもらえたようですね。四人とも凄い勢いで食べています。やはりこのような鬱陶しい季節ですから、少し酸味が入ったこのような料理は好まれるようですね。

 

それに叢雲ちゃんからは、あの人に持って帰りたいという話も出ましたし…今回のお礼の意味もあるのかもしれませんが、あの人にもこの料理を食べさせたいようですね。今日はあの人も少し遅くなると聞いていますから、少しだけ鰯の梅煮をタッパーに入れて持たせましょうか。叢雲ちゃんも口では色々と言っていますが、あの人の事を気に入っているようですし、こうやって料理を持って行ってあげようとしている訳ですから、健気な所がありますね。

 

「分かりました、叢雲ちゃん。それではタッパーに料理を入れますので、少し待って行ってくださいね。それとあの人に『あまり無理をしないように』と伝えておいてくださいね。」

 

「あれっ?叢雲ちゃん、この後司令官さんの所に行くのですか?お礼を言いに行くのなら、吹雪も一緒に行きます。」

 

「白雪もお供しますね。」

 

「私は行かない…。直ぐに部屋に帰る。」

 

あらあら…初雪ちゃんを除いた三人であの人の所に行くようですね。どうやら今日の夕食のお礼がてら、この料理を渡すつもりのようですが…。秘書艦の金剛さんの前であまりこのような事はしない方が…とはいえ、流石に金剛さんでも駆逐艦の子達に文句を言うような事はないと思いますが。

 

しかし吹雪ちゃんや白雪ちゃんが同行する事に叢雲ちゃんは不満がありそうですね。吹雪ちゃん達の言葉を聞いた瞬間、眉をひそめるような仕草をしましたから、何か思うところがあるようです。叢雲ちゃんは、『食べた物を報告する』と言っていましたが、実質はお礼を言うためだと思いますので、本当は全員で行った方が良いと思うのですが…。

 

「べ…別について来なくてもいいしっ。それに、アイツに一言お礼を言って、『これを食べさせてもらった』と報告して、この料理を押し付けるだけだから、一人で問題ないわっ!」

 

「あ~、そういう事なんだ。叢雲ちゃん、司令官さんの事が好きだもんね。そういう事なら、私と白雪ちゃんは今回は遠慮するよ~。」

 

「そうですね…。今回は、叢雲さんに美味しい所あげてもいいかな…。」

 

なるほど、そういう事ですか。まぁ、誰かさんとは違い、純粋にあの人に好意を抱いているだけのようですし、これくらいで私も怒るような事はしません。それに、なんだかんだ理由をつけてあの人の所に行こうとしている叢雲ちゃんを見ていると、嫉妬と言うよりも微笑ましく思えます。あらあら…吹雪ちゃん達の言葉を受けた叢雲ちゃんは、傍目から見ても分かる程に顔が真っ赤になってしまいましたね。

 

「ち…違うしっ!私は、アイツの事なんか全然気にしてないしっ!!ただ何を食べたか報告に行くだけなんだからっ。」

 

叢雲ちゃんは懸命に否定していますが、顔色を見れば直ぐに本心が分かってしまいます。そしてそれまで駆逐艦の子達の様子を見ていたカウンター席に居る長門さん達も、更に叢雲ちゃんをからかっていますね。

 

「叢雲…提督を狙うとなると、ライバルはそこに居る鳳翔さんだから、お前も頑張らないとな。それに秘書艦の金剛も出し抜かないといけないから、ハードルは高いぞ。まぁ、私も応援してやるさ。ハハハハ」

 

「コラ、長門。あまり駆逐艦の子をからかっちゃ駄目よ。あらあら…叢雲もこんなに顔を赤くしちゃって。とりあえず、提督に料理を渡したらもう一度ここに戻ってきなさいな。どんな感じだったか話を聞いてあげるし、アドバイスもしてあげるわ。勿論、その時は私達が奢ってあげるわよ。」

 

長門さんも陸奥さんも、あまり叢雲ちゃんをからかっては駄目ですよ。叢雲ちゃんは長門さん達に『そんなんじゃないわよっ!』と精一杯強がっていますが、顔色は真っ赤になってしまっていますし…。とりあえずあの人の元に行くのは、少し落ち着いてからの方が良いと思います。それでは今のうちに、叢雲ちゃんに持って行ってもらう料理を詰めてしまいましょうか。今日も鎮守府は平和です。

 

 

 

提督執務室  叢雲

 

 

「ん?叢雲どうしたんだ?あいつの店で夕食を食べてきたのではないのか?」

 

「食べてきたわよっ。凄く美味しかったから、アンタにも一応お礼は言っておくわ。それとどういう物を食べさせてもらったか、アンタも知りたいだろうと思ったから、少しだけ料理を持ってきてあげたわ。ありがたく受け取りなさい。」

 

全く…この私が直々に料理を持って来てあげたのだから、少しは感謝しなさいな。この時間なら、いつもアイツにベタベタしている金剛さんも夕食で席を外しているし、丁度良いタイミングで持って来られた…ではなくて、たまたま金剛さんが居ないだけよっ!べ…別に邪魔者が居ない時間を見計らった訳ではないわっ!

 

「ほぉ、わざわざ鳳翔の料理を持ってきてくれたのか。叢雲、ありがとうな。早速いただくよ。…ほぉ、鰯の梅煮か…お前も今日は良い物を食べさせてもらったみたいだな。あいつの作るこういう料理は美味しかっただろう?」

 

「べ…別に、これくらい私だって作れるしっ!」

 

「分かった、分かった。それじゃ、今度はお前が作った料理も持ってきてくれ。お前もそんなに料理が上手なら、一度俺も食べてみたいからな。」

 

しまった…ついつい料理が出来るなんて言っちゃったし…。でも今更、『苦手だ』なんて言えないし…。だ…大丈夫よ、誰かに聞けば私だってなんとかなるわっ。それに…私の作った料理をアイツが…フフフフ。

 

「お、おぃ、叢雲、大丈夫か?顔が真っ赤になっているぞ。なんなら医務室に運ぶ…」

 

「も…問題ないわっ!まぁ、あんたがそこまで言うのなら、今度は私が作った料理を持ってきてあげるから楽しみにしている事ねっ!それじゃ、私帰るからっ!」

 

 

「ちょ…ちょっと、吹雪と白雪、何聞いていたのよっ!」

 

この二人が扉の外で聞き耳立てていたのは、薄々気付いていたけど…何ニヤニヤしているのよっ!

 

「叢雲ちゃん…料理なんて作れた?あんな事言っていたけど、大丈夫?」

 

「誰か駆逐艦で料理の得意な子を探した方が良さそうですね…」

 

「う…うるさいわネッ!なんとかするから、大丈夫よっ!」

 

駆逐艦の子ではなくてもいいから、誰か料理が上手な人を探さないといけないわね…。ちょっと…そう、ちょっとだけ困った事になったかもしれないわ。




叢雲を主人公とした物語…となると、どうしてもこんな感じの話が頭に思い浮かんでしまいまして…これ以外となると、曙と一緒に鳳翔さんに怒られる…ようなストーリーになりそうだったため、叢雲は提督に好意がある+鳳翔さんも微笑ましく見ている…な感じの物語にしてみました。当初は最後のシーンで金剛さんが登場して、『毒見』と称して全て食べてしまう話も考えていたのですが…『司令官、叢雲ちゃんも幸せにしてあげても良いじゃない。』という某駆逐艦の声に導かれ、辛うじて(?)ハッピーエンドに終わらせる事が出来ましたw。とはいえ、この続編があるとすると、料理の上手そうな艦娘に手伝ってもらって(作らせて?)、叢雲が提督に料理を持っていく…な話になりそうですねw。

さて、鰯の梅煮です。今回の話でも鳳翔さんが言っていますが、最近鰯も高くなってしまい、昔のように気軽に食べられる魚でなくなってしまった事が、私にとって痛恨の一撃だったりします。個人的には鰯の料理は好きでして…鰯料理の専門店などに行きますと、様々な凝った鰯料理も楽しめますが、それ以外でも普通の家庭料理も含めて鰯料理は好きだったりします。

そんな数ある鰯料理の中でも、この梅煮は好きな料理の上位に位置しまして、特に梅雨が続くこのような時期に、凄く美味しく食べられる料理だと思っています。なんといいますか…典型的な和食の醤油味に梅干の酸味が入ると(生姜のピリッとした辛さも含めて)、とても食欲を増進させるんですよね。梅煮自体は、鰯以外にも鯵などでも美味しいと思いますので、機会がありましたら是非食べてみる事をおすすめします(私のよく行く飲み屋さんも、この時期になると、梅煮を結構準備してくれるので、好んで注文を入れたりします^^;)。

なんとか一月に二話+αのペースは維持出来ていますが、もうしばらくはこのペースをなんとか維持していきたいな…と考えています。次回…どんな料理で書きましょうかね…。やはり鳳翔さんの店である以上、和食を中心にしたいところです。…とはいえ、コテコテの和食ばかりというのも面白くない訳でして…結構料理の選択には毎度悩んでいたりしますw。

今回も読んでいただきありがとうございました。


鰯の梅煮 (四人分)

鰯:8匹くらい?
梅干:4個(しょっぱいのは、避けた方が良いような…)
生姜:1個
醤油:45 mL
みりん45 mL
砂糖:20 gくらい
水:200 mL
日本酒:200 mL

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