鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回は外伝の会。瑞鶴のお料理教室ネタにするか、初霜ネタにするか迷いましたが、一度HATSUSHIMOで外伝を書くのも良いのではないか?と思い、久しぶりにプロットも作って書いてみました…が、あとがきにも書いたとおり、途中不慮の事故が起こり、前後編と分かれることに…。初霜ファンの人は、転進!


外伝5 初霜の野望1 (前編)

(今回は最初から、ダークサイド全開です)

 

 

…何度見ても、初霜のおやつ籠に残っているのは、飴玉が一つだけ…。あと数日で、お小遣い日が来るけど…それまで飴玉一つで耐えないといけないなんて。今月は、ちょっと贅沢しすぎたかしら…いいえ、この原因はよく分かっているの。毎回のように、あの金剛さんに巻き上げられる初霜のおやつ。『五剛五霜』だと言われて、当然のように半分持っていかれるなんて酷いわ。

 

あと数日どうしようかしら。この飴玉を食べてしまったら、私のおやつはそれでお終い。…いいえ、そんな簡単に諦めないわ。見てなさい!もう一度、おやつウハウハ生活を取り戻してみせるんだから!飴玉一つしか元手はないけど、初霜は絶対に諦めないわ。…とは言ったものの、ここから藁しべ長者を始めるとしても、この飴玉を今必要としている人をまず見つけないと…。初霜…考えるのよ!

 

!そうだわ。今、風邪をひいて喉を痛めている駆逐艦の子はいないかしら。流石にこの飴玉一つを持って戦艦や空母のお姉さん達の所に行っても、相手にしてもらえないと思うけど、同じ駆逐艦の子なら…。

 

「ねぇ、初春ちゃん?最近、駆逐艦の子で風邪をひいて困っている子って知らない?」

 

「風邪かや?そうじゃのぉ…たしか、初雪の奴が風邪をひいておったのぉ。なんでも先日、コタツの中で寝てしまったようで、それが元で風邪をひいたそうだのぉ。ん?どこか出かけるのかや?今日は第二水雷戦隊の訓練は休みなのじゃろ?折角だから、今日はわらわと一緒に遊ばんか?」

 

「初春ちゃん、ありがとう。でもごめんなさい、今日は初霜、ちょっと用事があるの。また今度一緒に遊びましょ。」

 

久しぶりに初春ちゃんと遊びたいけど、それでは飴玉は飴玉のまま。今日は折角のお休みだから時間はあるし、なんとしてでも美味しいお菓子を手に入れてみせるわ。さぁ、ここから初霜のサクセスストーリーの始まりよ!

 

 

 

駆逐艦寮 初雪の部屋

 

 

「初雪ちゃん、初霜です。風邪をひいたと聞いたけど、大丈夫?」

 

「ん…ちょっとしんどいけど…大丈夫。寝てれば治ると思う…たぶん。」

 

うん、初春ちゃんの情報どおりね。初雪ちゃんのお部屋に来たら、初雪ちゃんが布団にくるまって寝ているわ。さぁ、初霜…ここから勝負よ。得意の口車で初雪ちゃんを丸め込んで、この飴玉をもうちょっと良い物に交換してもらわないと。

 

「そうですか…そんなに重い風邪じゃなくて、本当に良かったわ。同部屋の初春ちゃんから、初雪ちゃんが風邪をひいたと聞いて心配して来たの。でも…ガラガラ声だけど…喉は痛くない?同じ駆逐艦の仲間なんだから、何かして欲しい事があったら、何でも言ってね?」

 

「…ありがと。…たしかに、喉がヒリヒリしてる。お水が欲しい…。」

 

「分かったわ、お水ね。…でも、お水の他に何かキャンデーでも舐めた方がいいと思うわ。…えっと…あっ、『偶然』キャンディーを一個だけ持っていたわ。これ…本当は私の今日のおやつだけど、初雪ちゃんつらそうだから、食べて頂戴。」

 

…少しわざとらし過ぎたかしら。ううん、初雪ちゃんには、これくらいはっきり言っておいた方が良いと思うわ。…あれ?初雪ちゃんが私の方をジッと見て、何も言ってこないわ。…ひょっとして、失敗?そんな…。最初から躓いたというの?

 

「初霜…本当にありがと…。感謝…。その…初霜のおやつを取ってしまうのは、申し訳ない。…だから、私のおやつあげる。串酢だこ…その瓶に入っているから、二本あげる…。」

 

しまった…初雪ちゃんの持っているお菓子って、串酢だこしかなかったわ。どうしよう…私は世話好きの初霜で駆逐艦寮では通っているから、今更そんな物いらないとも言えないし…。串酢だこじゃ、次に交換してくれる子が見つからない気が…困ったわ。…ううん、人生万事塞翁が馬、今更考えても仕方ないわ。飴玉一つが串酢だこ二本に代わったのだから、とりあえず黒字よ。

 

「初雪ちゃん、どうもありがとう。ありがたく串酢だこを二本いただくわ。それと、はい…飴玉。あと、お水も汲んできたから、ここに置いておくね。今日はゆっくり休んで、早く元気になってね。それじゃ、また来るわ。」

 

「…初霜…ありがとう。この恩は忘れない。」

 

ウフフフ、飴玉からちょっと良い物に変わったし、初雪ちゃんに恩を着せる事も出来たから、まずは成功ね。情けは人のためならず…ここで着せた恩がそのうち、私に戻ってくる筈だわ。

 

 

 

駆逐艦寮の入り口付近

 

 

「わ…初霜ちゃんじゃないですか…びっくりした…。」

 

「あっ、阿武隈さん。こんにちは。」

 

駆逐艦寮の門を出ようとした所で、軽巡洋艦の阿武隈さんと衝突しそうになったわ。阿武隈さんとは、以前北方作戦で一緒に戦った仲だけど…よくぶつかりそうになる人なのよね。今日は串酢だこを二本手に持っていたからぶつからなくて良かったわ。…あ、今日はぶつかって、わざと串酢だこを地面に落としてしまった方が、都合が良かったかも…失敗したわ…ウフフフ。

 

「初霜ちゃん、こんにちは。あれ?今日は何か面白そうな物持っているね。それ、串酢だこだよね?」

 

「は…はい、そうですが。これは今日の初霜のおやつなんです。」

 

ひょっとして阿武隈さんが、エサにかかったのかしら。わざわざ串酢だこの話題にするという事は、興味を持ったという事だわ。…売り込みタイムね。阿武隈さんは軽巡洋艦だから、戦艦や空母のお姉さん程じゃないけど、駆逐艦の子達よりはお金を持っているはずだから、ここで売り込みに成功すれば、これより良い物に変わる可能性が高いわ。

 

「この串酢だこ、美味しいんですよ(食べた事ないし、私はあまり好きじゃないけど)。ちょっと酸味があって、独特のタコの歯応えを感じられる一品なんです(私はよく知らないけど)。だから、初霜は今日これを二本おやつで食べるのが、とっても楽しみなの。」

 

(ゴクッ)

 

あっ、阿武隈さんがつばを飲み込んだわ。どうやらこれを食べたくなったようね。説明は初雪ちゃんの受け売りだけど、上手にアピール出来たみたい。さぁさぁ、阿武隈さん…早く『酢だこを食べさせて』って初霜に言って頂戴。

 

「そんなに、その酢だこ美味しいの?」

 

「はいっ!とっても美味しいですよ。(たぶん)」

 

「う~ん…どうしようかな。ねぇ?初霜ちゃん、良かったら一度、その串の酢だこ、私に食べさせてくれないかな?」

 

ウフフフ、アピール大成功ね。串酢だこは、私そんなに好きじゃないから、どんな物と交換してくれても大歓迎よ。…でも、私がこの串酢だこが好きでない事がばれないように気をつけないと…いいえ、凄く好きだけど泣く泣く手放す雰囲気を醸し出さないと、お礼が期待出来ないわ。ここは初霜、一世一代の演技よ。

 

「…分かりました。初霜も、この串酢だこは大好きなんですけど、北方作戦ではとってもお世話になった尊敬する阿武隈さんの頼みですから…。でもこれ、今日の初霜のおやつで、楽しみにしていたんです。何か代わりにおやつになる物をもらえないですか?」

 

完璧ね。ちゃんと阿武隈さんを持ち上げて、本当は渡したくないけど、阿武隈さんだから渡すというアピールをする事で、初霜の評価もアップ間違いないわ。

 

「あっ…そんなに楽しみにしていたのに、取っちゃってごめんね。う~ん…代わりのおやつね。折角初霜ちゃんが楽しみにしていたおやつを取っちゃったから、奮発するね。ちょっと待っててね。軽巡寮にお饅頭が置いてあるから、持って来るわ。」

 

やった!お饅頭は私大好きよ。それにこれだけ演技をしたんだから、まさかお饅頭一個という事はないと思うわ。出来れば、山吹色のお饅頭なら凄く嬉しいけど、この際普通のお饅頭でも大歓迎よ…ウフフフ。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ。初霜ちゃん、待たせてゴメンね。鶴屋安芸の利久饅頭があったから、これと交換でいいかな?初霜ちゃんの大好物と交換だから、ちょっと奮発したよ。」

 

「はい!阿武隈さん、どうもありがとうございます。このお饅頭、初霜大好きですから、大切に食べさせてもらいますね。」

 

ウフフフ、ここの利休饅頭は滑らかなこしあんがたっぷり入っていて、とっても美味しいの。呉では有名なお店だし、この鎮守府でも人気のお菓子だわ。しかも流石は軽巡洋艦の阿武隈さん、四つもくれたわ。飴玉一つだった初霜のおやつが、老舗のお饅頭が四つに…ウフフフ、上々の滑り出しだわ。このお饅頭を数日に分けて食べて、次のお小遣いの日まで乗り切るのも十分にアリだと思うけど…ここまで来たら、もうちょっと頑張ってみようかしら。あら?駆逐艦寮のお庭から、焚き火の匂いがするわ。ちょっと行ってみようかしら。

 

 

 

駆逐艦寮の庭

 

 

「♪垣根の垣根の曲がり角~♪」

 

「あ、雪風ちゃん達。こんにちは。焚き火やってるの?」

 

「あっ、初霜ちゃん、こんにちは。はい!雪風達で落ち葉を集めて、焚き火やっているんです。それに今日は長門さんから、美味しいさつまいもも貰ったので、一緒に焼き芋やっているんですよ。」

 

…いいな。私は駆けずり回ってやっとお饅頭が四つ手に入ったと言うのに、雪風ちゃんは何もしなくても焼き芋が手に入るなんて…。やっぱり、幸運艦にはどうやっても勝てないわ。ううん、一番運がいいのは、雪風ちゃんと一緒に焚き火を楽しんでいる時津風ちゃん、天津風ちゃん、初風ちゃん達かもしれないわ。あの三人は、雪風ちゃんの幸運に乗っかっただけで、焼き芋が食べられるんですもの。しかも長門さんがくれたサツマイモとなると、雪風ちゃん達は気付いていないかもしれないけど、絶対に高級品だわ。たぶん…鳴門金時に違いないわ。さぁ、どうやって雪風ちゃん達から、その焼き芋を巻き上げ…じゃなくて、私のお饅頭と交換してもらおうかしら。

 

「あれ?初霜ちゃん、何持ってるの?」

 

えっ?初霜の運も捨てたものではないわ。鴨がネギをしょってきてくれたのね。さぁ、ここは初霜のセールストークの出番よ。

 

「あっ、この箱?これはね、さっきそこで阿武隈さんからもらったお饅頭なの。しかもこれ、鶴屋安芸の利久饅頭よ。初霜の今日のおやつなの。…でも、折角雪風ちゃん達四人いるから…丁度お饅頭四つあるし、焼き芋と交換しない?勿論、全部頂戴なんて言わないわ。焼き芋、二つくれたらお饅頭四つ全部あげる。四つお芋焼いているのよね?だったら、一人半分ずつ焼き芋を食べて、なおかつお饅頭も食べられるのよ?絶対にそっちの方がいいと思うわ。」

 

「初霜ちゃん…本当にそれでいいのですか?だったら、雪風そっちにします。鶴屋安芸の利久饅頭は雪風も大好きですから、ありがとうございます。折角なので、その大きなお芋を二つ持っていっていいですよ。」

 

「初霜、ありがとねっ!お芋とお饅頭が両方今日食べられるなんて、私にもいい風が吹いてきたのかも!」

 

雪風ちゃん達も喜んでくれて何よりだわ。こういうのは、相手にも得をしたと思わせないと、駄目なのよね(悔しい事に、あの金剛さんの受け売りだけど…)。…あっ、やっぱり鳴門金時だわ。私が予想した通り。それじゃ、早速雪風ちゃんが選んでくれた大きなお芋二つを新聞紙に包んで…。

 

「ありがとう、雪風ちゃん。このお芋、みんなで食べるわ。」

 

みんなと言っても、駆逐艦のお友達じゃなくて、もっと大きなお姉さん達となんだけど…ウフフフ。さぁ、いよいよここからが勝負だわ。この金時芋の焼き芋。このお芋の価値を知っていて尚且つ、初霜にとって都合の良い重巡洋艦以上のお姉さん…そうだわ、やっぱりここは利根さんの所よね。ただ問題は、どうやってここから重巡洋艦寮に行くかよね。近道で行けば、途中に軽巡洋艦寮があって、万が一にも指導教官の矢矧さん達に出会ったら、このお芋を食べられてしまうわ。勿論、食べられても何かお礼はもらえると思うけど…利根さんに渡すよりはうま味が少ないのは確かね。

 

ただ遠回りすれば、途中に提督の執務室のある建物があるのよね。あそこは、あの金剛さんのテリトリー。ただ、私がお芋を持って走り回っている姿を見れば、金剛さんはこの時点では見逃してくれると思うの。金剛さんなら、金の卵を産む鶏をこの時点で台無しにするなんて考えられないわ。となると、今の時点ではこっちの道の方が安全だわ。

 

 

 

司令部建物付近

 

 

「ん?Hey!初霜。今日も忙しそうに走り回っているネ。その新聞紙の包みは…焼き芋ネ。!…まぁ何を企んでいるかは分かるけど、せいぜい私のために頑張るデ~ス。」

 

「こんにちは、金剛さん。そんな…何か企んでいるだなんて…初霜はそんな悪い子じゃないわ。」

 

案の定、提督の執務室の窓から金剛さんに声をかけられたけど、初霜の予想通り、見逃してくれたわ。私の姿を見て、ニヤッと笑っていたから、どこかの時点で私の成果を取り上げる算段をしていると思うけど…そうは問屋が卸さないわ。今日こそ金剛さんの裏をかいて、成果は初霜が全部独り占めしてみせるわ。

 

「まぁ、そういう事にしておいてあげるネ。今日は夜食が楽しみネ。」

 

夜食が…って、やっぱり半分取り上げる気満々だわ。でも金剛さんに見つかる前に、全部初霜の胃袋に入れてしまえば…見てなさい!

 

 

 

重巡洋艦寮 利根と筑摩の部屋

 

 

コンコンコン

 

「利根さん、こんにちは。初霜です。開けてください。」

 

「ム?初霜か。また珍しい客じゃな。今日はどうし…ムムッ?その新聞紙の形と大きさ、そしてこの香り…もしや焼き芋か?」

 

流石は利根さん。私が持っている新聞紙の包みを見ただけで、私が焼き芋を持ってきたことを見抜いたわ。これなら期待出来るかも。それに…最悪ここで全部今日の成果を利根さん達と一緒に食べてしまっても、金剛さんの裏をかいた事になるし…あの金剛さんがくやしがる姿を見られると思えば、それでもいいかしら。

 

「丁度、駆逐艦寮で焼き芋を作ったので、利根さん達と一緒に食べようと思って持って来ました。あの…迷惑だったかしら。一応、お芋は鳴門金時なので、美味しいと思いますけど…。」

 

「なにっ?鳴門金時の焼き芋じゃと!筑摩、すぐに茶を準備するのじゃ。我輩今日は焼き芋を食べるぞ。初霜、感謝するぞ。ささっ、あがるのじゃ。我輩達と一緒に焼き芋を食べようぞ。」

 

「はいっ!利根さん。お邪魔します。筑摩さん、こんにちは」

 

「こんにちは、初霜ちゃん。今日は焼き芋ありがとうございますね。利根姉さん、折角ですから、あれも一緒に出して食べませんか?」

 

「ん?あ~、あれか。そうじゃな。折角だから、焼き芋と一緒に食べるのじゃ。」

 

あら?何が別のおやつも出るのかしら。でも食べ物に五月蝿い利根さんのおやつだから、物凄く期待できるわ。えっ、筑摩さんが虎の模様の入った化粧箱を持ってきたけど…まさか!虎屋の羊羹だわ。そうよ、あの印は虎屋の化粧箱。あの大きさなら…中には羊羹が二本入っているはず。たぶん、そのうちの一本をここで開けるんだわ。まさかここで、虎屋の羊羹が食べられるなんて!初霜大勝利だわ!ウフフフ。

 

「初霜はこれを知っておるか?これはじゃな、あの虎屋の羊羹なのじゃ。我輩、先日横須賀に所要で出かけた際、虎屋の赤坂本店に寄る事になってのぉ。折角じゃから、栗蒸し羊羹を二本購入してきたのじゃ。今日は初霜から美味しい焼き芋もいただいた事じゃし、一本開けて、三人で食べようぞ。それでよいな、筑摩よ。」

 

「はい、利根姉さん。折角こんなに美味しそうな焼き芋を初霜ちゃんが持ってきてくれたのですもの。まずは焼き芋をいただいで、その後で三人で栗蒸し羊羹もいただきましょう。」

 

ウフフフ…飴玉一個が虎屋の羊羹なのですもの。今日は頑張った甲斐があったわ。駄目…駄目よ、ここで変に笑い出したら、不審がられるわ。ここはグッと堪えて、いつもの真面目な初霜を演じきらないと…。油断は大敵だわ。

 

私の目の前にまずは鳴門金時の焼き芋が半分置かれて…やっぱり利根さんが一本食べるのね。そしてその横に筑摩さんが煎れてくれたお茶。それと…濃い紫色に所々黄金の欠片が入ったような、光り輝く虎屋の栗蒸し羊羹が中央の大皿に…もう我慢出来ないわ。でも…落ち着かないと。まずは焼き芋からね。

 

真っ赤なサツマイモの皮がパリッとして、所々焦げたような感じで捲れ上がっているわ。そして切り口はしっとりとした濃い黄色…そして湯気が立ち上っていて…。虎屋の羊羹もそうだけど、これだって素晴らしい焼き芋よ。流石に長門さんがくれたお芋だけあるわね。まずは…ンッ…甘い!しっとりとしたサツマイモの食感、そして後から後から出てくる甘さ…皮だって物凄く美味しいわ。ちょっと焦げているところなんて、香ばしい香りがして、もう最高よ。雪風ちゃんに感謝ね。

 

利根さんも筑摩さんも、ふぅふぅ言いながら、無言で焼き芋を食べているわ。あっ、利根さんが私の視線に気付いたようでこっちを見て、目だけ笑っているわ。どうやら満足してくれたようね。そう、この焼き芋は最高の焼き芋だわ。本当なら、今日のおやつは飴玉一つでひもじい思いをする筈だったのに…これは初霜の日頃の行いの良さ(?)が招いた結果に違いないわ。

 

さぁ、お芋も全部なくなってしまったし、まずは筑摩さんが煎れてくれたお茶を口に含んで、甘さを一度消してから…あの黒く光り輝く栗蒸し羊羹を…。まずは一切れ慎重に、中央のお皿から私の小皿に移して…どうしよう…これ一口大に切って食べるか、そのまま噛み付くか…迷うわ。あら?利根さんはそのまま噛み付いたみたいね。だったら、多少お行儀が悪いけど、利根さんの真似をして…エイッ。あ…スッと口に入ってくる、すっきりした素晴らしい甘さ。それに滑らかな食感に、所々コロッと入った栗の固さ。幸せだわ。もっと食べないと。

 

「む?初霜も気に入ったようじゃの。虎屋の羊羹は本当に素晴らしいのじゃ。」

 

「姉さん?折角ですから、残りの一本なのですが…」

 

あら?筑摩さんと利根さんが内緒話で相談を始めたわ。利根さんが私の方を時々チラチラ見ながら、頷いているけど…なにかしら。ひょっとして、もう一本の羊羹もこれから食べるのかしら。だとしたら…今日は最高ね…ウフフフ。

 

「初霜、我輩先日の料理のお礼がまだだったな。これを持っていくが良いぞ。まぁ、なんだ。友達と仲良く食べるが良いのじゃ。」

 

えっ?まさか、この一本を初霜にくれるの?虎屋の羊羹よ?とっても高い物よ?本当にもらってもいいの?利根さんも筑摩さんもニコニコしていて…初霜に本当に羊羹を渡してくれて…信じられないわ。ウフフフ…フフフ…ア~ッハハハハ…もう笑いが止まらないわ…頑張ってお腹に力を入れて、本当に笑い出さないように耐えないと…。これで明日のおやつにも困らないわ。やっぱり、普段から心がけが良いと、神様も見ていてくれるのね。ただ…もらった物が、あまりにも凄すぎて…ちょっと怖くなってきたわ。

 

 

 

鎮守府 司令官室

 

 

…行きたくないけど、今回は大人しく金剛さんに半分渡した方が身のためね。もし申告せずに虎屋の羊羹が見つかろうものなら、『正直じゃない子は嫌いネ。これは全部没収ネ。』くらいの事は平気で言ってくるだろうから、半分だけでも確実に手に入れた方がマシだわ。あまり気が乗らないけど…。本当なら、初霜が全部独り占めしたいけど、流石にこんなに凄い物になると、全てを失うリスクが大きすぎるから…。

 

コンコン

 

「提督、初霜です。秘書艦の金剛さんに用事があるので…」

 

「Oh 初霜。待っていたネ。提督、ちょっと席外すデ~ス。直に戻るから、大人しく待っているネ」

 

やっぱり流石に提督の前では、金剛さんも猫を被っているのね。この辺りに、私と金剛さんの関係を打破する突破口がありそうだけど、今日のところは大人しくしておいた方が良さそうだわ。

 

「金剛さん…今日の上納品です。半分でいいですよね?」

 

「Oh…それは虎屋の羊羹ネ。初霜でかしたネ!私もそれは大好きデ~ス。でも、まだまだ初霜は甘いネ。ここまで来たら、もっと上を目指すべきデ~ス。丁度私の手元に、大和が昨日の東京出張で、LOUANGEの高級ケーキをホールで購入してきたという情報があるネ。この虎屋の羊羹を使って、初霜が大和からそのケーキを巻き上げてくるデ~ス。」

 

な…なんで、そんな情報まで金剛さんが知っているの?それに、いくら虎屋の羊羹と言っても、そんな高級ケーキと交換なんてしてもらえないわ。実際に動くのは初霜だから、適当な事を言っているわね。折角手に入れた大和さんとの良い関係を失うのは初霜なのよ?

 

「金剛さん…虎屋の羊羹でも、流石に高級ケーキは無理だわ。いくら大和さんでも、絶対に交換してくれないと思うの。だから、手元にある虎屋の羊羹で今日は手を打ってもらえませんか。」

 

「初霜…まだまだ考えが甘いネ。ちょっと耳を貸すネ。私が作戦を伝授してあげマ~ス。」

 

ゴニョゴニョゴニョ…

 

えっ??まさか…そんな考え方があったなんて…。でも、たしかに金剛さんが言うとおり、この作戦なら成功の可能性が高いわ。流石は金剛さん。初霜なんかよりも、はるかに悪知恵が働くのね。こういう時は、本当に頼りになるけど…結局は初霜が手に入れる予定のケーキを半分巻き上げる気だから…微妙な所だわ。でも初霜としては、どっちに転んでも、飴玉一つから始めたんだから、問題ないのよね。それに、もう虎屋の羊羹は一つ食べているから…今回は金剛さんの指示に従っても良いかも。しかも皆幸せになれる作戦みたいだし…。

 

「さぁ、初霜。分かったら、とっとと行ってくるネ。成果を楽しみに待っているネ。」

 

「はい、金剛さん。初霜、出撃します!」

 

ウフフフ…楽しくなってきたわ。こうなれば、金剛さんと一蓮托生よ。

 

 

(to be continue)




えっと…その…なんと言いますか、ついにやっちまった…な感じの外伝になりました。今回の外伝は、普段とは異なりきちんとプロットも作って書いていたのですが、書き始めたらどんどん文章が増えてしまいまして…当初の予定では、鳳翔さんのお店での部分がこの話のメインになるはずが、鳳翔さんのお店にたどり着く前に文章の量が多くなりすぎ、急遽前後編に分けることに決定しました。やっぱり、自分のお気に入り艦娘が主人公になる外伝は、どうしても文章量が増えてしまいます。

初霜ちゃん、本当は凄く良い子なんですよ?内心はとってもアレですが、やっている事はしごくまっとうな正攻法ですし、誰も不幸にしていませんから、本当は凄く良い子なんです。ただ、行動原理がちょっとアレなだけで…。とはいえ、最後はついにあの金剛が初霜ちゃんに入れ知恵する事で、フォースの暗黒面に落ちそうですがw。という事で、後編では初霜の大進撃が見られそうです(とはいえ、誰も不幸にならないところが、私の艦これ二次小説のお約束ですがw)。

さて、虎屋の羊羹をどうやって使って、大和から高級ケーキを巻き上げるのか…なかなか気になるところですが、次回に持ち越しという形にします。今回も読んでいただきありがとうございました。

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