鎮守府の片隅で   作:ariel

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前回はお気に入りの利根を登場させたため、話がかなり長くなってしまいましたので、今回は少しアッサリ目の話にします。主人公は先日声が追加された北上さん、料理の方は…これからの時期の定番中の定番料理、南瓜の煮付けです。


第二七話 北上と南瓜の煮付け

秋にもなりましたし、そろそろ私のお店も夏の頃に出していた突き出しのメニューを秋用のメニューに変更しなくてはいけませんね。秋の料理…そうですね、やはりあの料理は外せません。これからの時期の定番料理、南瓜の煮付けです。南瓜を切るのは少し大変なのですが、赤城さんも瑞鶴さんも居ますし…手伝ってもらえば大丈夫ですね…。ということで、今日は大きな南瓜を幾つか仕入れてきました。いよいよ今日から、私のお店でも南瓜の煮付けがメニューに登場する事になります。

 

「赤城さん、瑞鶴さん、今日から南瓜をメニューに出しますよ。南瓜を切るのは少し大変ですが、頑張ってくださいね。」

 

南瓜は固いですから切るのが少し大変ですが、コツを掴んでしまえば問題ありません。まずは、南瓜のヘタを切り取ったら、その切り取った部分から南瓜のこちら側半分に少しだけ包丁を入れます。後は、南瓜の向きを変えて残りの半分にも少し包丁を入れて…これを繰り返す事で少しずつ南瓜を切っていきます。そろそろ大丈夫そうですね…。ある程度まで切ったら、包丁を一気に下まで入れて…綺麗に切れました。事前に話を聞いた限りでは、赤城さんも瑞鶴さんも丸ごとの南瓜を切るのは初めてだそうですが、大丈夫でしょうか…。

 

「あ…赤城さん、一気に切ろうとしないで、少しずつ包丁を入れていくのですよ。ほら…しっかり手で押さえていないと南瓜が転がってしまいますよ。気をつけてくださいね。コラ!瑞鶴さん!力任せに切ろうとしたら駄目です。きちんと順番を守って切っていけば、そんなに力を入れなくても切れますから…本当に困った子達ね…。」

 

二人とも慣れない南瓜の切り分けに悪戦苦闘していますね。まぁ、最初はこんな物かもしれません。とりあえず、しばらく放っておいて私の方は次の工程に進みましょうか。半分に南瓜を切ったら、中に入っている種とワタの部分を匙を使って綺麗に取除いて、その後に南瓜を小さく切り分けていきます。小分けの時は、半分に切った平らな切断面をまな板側に置いて、皮の側から包丁を前後に倒しながらゆっくり切っていき…そろそろいいですね、一気に切ります。そして更にこれを半分にして…後は一口大になるまで切り分けていきます。これくらいの大きさならば、途中で煮崩れしないでしょうし、食べるにも丁度良い大きさですね。

 

このまま南瓜を煮ても十分美味しいのですが、やはりここはもう一手間かけましょう。そうです、一口大に切り取った南瓜の皮を包丁で少し剥いていきます。全ての皮の部分を取除く事は無理ですが、大まかに剥くだけでも、皮の固い部分が少なくなるため、食べた時の食感のバランス、そしてホックリ感が倍増します。固い皮を剥く事はかなりの手間になりますが、やはり美味しい料理を皆さんに食べてもらいたいですから、ここは仕方ありません。皮を剥いた後は…煮崩れを防ぐために面取りをして、南瓜の準備は完成です。赤城さん達は悪戦苦闘しているようですから、私の方で残りの南瓜もどんどん切っていきましょうか。

 

 

赤城さんや瑞鶴さんは、かなり苦戦しましたが、なんとか南瓜の準備が完成しました。それではいよいよ切った南瓜で煮付けを作りましょうか。

 

「ねぇ~、鳳翔さ~ん。瑞鶴もう疲れたから、今日は帰っていい?」

 

「瑞鶴さん!何を言っているのですか。まだ一品目の料理すら終わっていないのですよ。料理が上手になって、加賀さんを見返すのではなかったのですか?余計な事を言っていないで、最後まできちんとやりなさい。それと、これからこの切った南瓜を料理しますから、よく見ていなさい。」

 

…料理もそうですが、どんな事でも継続は力です。折角私の元で練習させているのですから、中途半端には終わらせませんよ…瑞鶴さん。さぁ、気を取り直して料理をしましょうか。

 

まずは大鍋に、南瓜を隙間が出ないようにギッシリ並べます。重ねてしまいますと必要な汁の量が多くなりますし、汁の染み込み方が違ってきますので、味を統一するために重ねないように注意深く並べて…ここに出汁と砂糖、そして薄口醤油を加えて火にかけます。後は沸騰するまで火を入れて…沸騰したら落し蓋をして、火を弱めてじっくり火を通していけば、美味しい南瓜の煮付けの出来上がりです。それでは後は待っているだけなので、他の料理の仕込みも済ませてしまいましょうか。赤城さん、瑞鶴さん?ちゃんとメモは取りましたか?

 

 

そろそろ先程の南瓜の煮付けも大丈夫でしょうか。落し蓋を取除きますと、煮汁がかなり減っていますし、それと反比例するように南瓜が柔らかくなっています。南瓜の色合いを見ると、煮汁がしっかり染み込んだようで、濃いオレンジ色の非常に美味しそうな色になっています。後は、味を馴染ませるためにしばらく置いておけば、美味しい南瓜の煮付けの出来上がりです。おそらく開店の頃には、味が落ち着いているでしょうね。

 

 

「あら、いらっしゃい。今日は二人なの?」

 

「うん、今日は大井っちと二人だけ。球磨姉さん達は、忙しいみたいで今日は来れないんだってさ…この席いい?」

 

「今日は北上さんと二人きり…ウフフフ」

 

…何か不穏な声も聞こえましたが、気のせいでしょう。球磨さんの所の北上さんと大井さんが二人で来店です。いつもであれば、球磨さんに連れられて姉妹全員で来る事が多いのですが、今日はこの二人だけで来店ですから、珍しい事もあるようです。

 

「鳳翔さん、それじゃ早速注文いいかな?あれ?今日の突き出しのメニュー、いつもと違うんだね~。あっ、南瓜の煮付け…いいね~、しびれるね~。それ頂戴。」

 

「北上さんが、それを注文するのなら…私も一緒のお願いします。」

 

やはり南瓜の煮付けは人気メニューですね。今日は開店から、既に何人かの艦娘が来店していますが、かなりの確率でこの料理を突き出しに選んでいます。こんな事でしたら、もう少し作っておくべきでした。…赤城さんも料理をしている段階から、この料理に目をつけているようで、あわよくば残り物を毎回持参してきているタッパーで持ち帰ろうとしているようですが、この調子では閉店する前に無くなりますので、今日は違う料理の残り物を持ち帰る事になりそうですね。それではとりあえず、北上さんと大井さんに、南瓜の煮付けを五つ程小鉢に取り分けて…これをお出ししましょうか。

 

「北上さん、大井さん。それでは南瓜の煮付けです。どうぞ。お酒や他の料理の注文はいつでもどうぞ。」

 

 

 

重雷装巡洋艦 北上

 

 

今日は久しぶりに大井っちと二人で鳳翔さんのお店に来たら、この間来た時とメニューが微妙に違っていたんだよね~。丁度季節変わりによるメニューの変更があったみたい。カウンターの上に並べられている料理…どれがいいかな~と思って見ていたら、濃いオレンジ色をしたあの野菜の料理があったから、思わず注文しちゃったのよね~。南瓜の煮付け…あの綺麗な濃いオレンジ色…絶対に味が染み込んでいるよね~。あの綺麗な色を見ただけで、思わず唾液が口の中に広がっちゃったんだよね~。

 

で、早速注文したら、来ました、来ました、南瓜の煮付けが。さぁ~、それじゃ早速食べますよ~。大井っちも同じ物注文しているから、一緒に食べられますねぇ。…う~ん、いいね~、しびれるね~。南瓜のホクホクした感じと、ほんの少しだけ着いている皮の固さが…本当にうれしいな~。そして甘辛い煮汁が染み込んだシットリとした食感。口の中で全然パサパサしなくて…南瓜の甘さと味付けの甘辛さが絶妙なハーモニーで…どんどん食べられちゃうから!でも…小鉢の中の南瓜はもうすぐ無くなっちゃいそうなんだよね~。ちぇ。

 

あ~、もうおかわりしちゃいましょ~。ついでにアレも頼まないとね。大井っちはどうしますかね~。

 

「鳳翔さん、南瓜追加ね~。それと御飯も頂戴~。」

 

「鳳翔さん、私も北上さんと同じ注文で。」

 

さぁ、来ましたよ。南瓜の煮付け…二回目ですよ~。そして…お茶碗に盛られた白米。まだお酒も飲んでいないのに御飯物?…そう…まぁ…そうねぇ…でも、南瓜の煮付けに御飯…これは譲れないのよね~。それじゃ、早速行きますよ~。まずは甘辛い味がしっかり染み込んだ南瓜を幾つか御飯の上に乗せて…南瓜を箸で潰しながら、しっかり御飯と混ぜて~、段々白い御飯に南瓜の濃いオレンジ色が混じっていき…いいね~。あれ?大井っち何見てるの?南瓜の煮付けと来たら、これが定番の食べ方でしょう?うんうん、大井っちも真似しているね~。

 

さぁ、食べるのはもうちょっとだけ待って…残りの南瓜も御飯としっかり混ぜますよ~。…綺麗なオレンジ色の御飯になってきましたね~。ここまで来たら…後は食べるだけね~。ウ~ン、最高だよね。南瓜の甘辛い味とシットリとした食感の中に、歯応えのある御飯粒が混ざって…口の中で噛むと序々に御飯の甘みが出てきて…やっぱり、南瓜御飯だよね~。大井っちも隣でかき込んでいるし~、これなら御飯何杯でも行けちゃうよね~。

 

 

 

鳳翔

 

 

あらあら、南瓜の煮付けを御飯に乗せて混ぜる…南瓜御飯ですね。たしかにこれはとても美味しい食べ方ですし、とても食が進みます。しかし、お酒を飲む前からこんなにも御飯を食べてしまって大丈夫なのでしょうか。それに…北上さんと大井さんが、あまりにも美味しそうに南瓜御飯を食べていますから、近くに居る他の艦娘達の視線が集まっていますね。これは…おそらく南瓜の煮付けの注文が殺到すると思いますが…このままではあっという間に準備した南瓜が無くなってしまいそうです。

 

「鳳翔さん、もう一回南瓜もらえる?それと御飯も」

 

「ごめんなさい、北上さん。このままでは、南瓜だけが無くなってしまうので…出来ればそろそろ違う料理を…。」

 

「あ~、そうね~。だったら、次の料理注文するよ~。確かにまだお酒も飲んでいないのに、御飯食べちゃっているから…ちょっと拙いよね。大井っち、何注文する?」

 

北上さんの物分かりが良くて、本当に助かりました。これが食い意地の張った空母や戦艦娘でしたら、諦めさせるのに一苦労する事は間違い…はぁ…やっぱり…

 

「長門さん、加賀さん…たしかに北上さんは、御飯と一緒に南瓜の煮付けを注文しましたので、一度くらいは貴方達の注文も許すつもりでしたが…なんですか、その丼は。」

 

長門さんが取り出した丼は、私の店では通称『戦艦丼』と言われている三合近く入る大型丼、そして加賀さんが取り出した丼は『一航戦丼』…こちらに至っては、五合近く入る特注の丼です。このレベルの丼で御飯を注文され、これに見合うだけの南瓜を食べられてしまっては…。それに貴方達は、もう南瓜を食べたと思うのですが…。

 

「…いや、その…鳳翔さん。我々も、北上が食べているのを見て、南瓜御飯が食べたくなってな…いや、その…他意はないのだが、『たまたま』近くにあった丼を手に取っただけで…その…。」

 

「あれだけ美味しそうに食べる所を見てしまったので、私も少し食べてみたいな…と思っただけです。もし足りないのでしたら、今日は諦めますが…。五航戦…今度は私が満足出来る量を用意して欲しいものね。」

 

流石に、カウンターに並んでいる大皿に残っている南瓜の煮付けの量を見て、二人とも今回は注文を引っ込めるようですが…今度はもっと大量に作らなくてはいけませんね。加賀さんは、相変わらずカウンターの中にいる瑞鶴さんにちょっかいをかけていますし…困ったものです。次回は、赤城さんもそうですが、瑞鶴さんにももっと頑張って南瓜を切ってもらわないといけませんね。いずれにせよ、今年も南瓜が美味しい時期になりましたね。本当に時が経つのは早いものです。




かぼちゃの煮付け、美味しいですね。一品料理としても美味しいですし、飲み屋で最初に出る料理…となると少しボリュームがあるのが難点ですが、それでも大皿に盛られていたら、結構な確率で注文してしまいそうです。

南瓜の煮付けの食べ方、勿論そのまま食べてもホクホクしていて美味しいのは間違いありませんが、私としては御飯と混ぜてしまって南瓜御飯にするのが結構好きです。外で食べる時にこれをやるのは、少し…なのですが、馴染みの飲み屋ですと、思わず酒を注文していないのに、御飯を注文した記憶がw。そして更に大笑いな事に、同行していた友人も私につられて、御飯を注文し南瓜御飯に…まではまだ良いのですが、同じくカウンターに居た全く知らない方まで、御飯を注文し南瓜御飯に…。思わず視線が合い、お互いに笑ってしまった事があります。そういう意味では、南瓜御飯が美味しいと分かっている人は、結構居るような気がするんですよね^^;

南瓜の煮付け、最近は電子レンジを使うと簡単に作れますし、栄養的にも素晴らしい料理だと思います。とはいえ、南瓜を切るのは結構大変ですし、まして皮を剥くとなるとかなりの労度がかかります。ですが、南瓜の皮を少し剥くだけでも、食感が大幅に変わりますし、食べやすくなりますので(栄養的には低下する気がしますが)、少し手がかかってもいいや…という人は、是非やってみてください。

今回も読んでいただきありがとうございました。そろそろ以前投稿した『時雨と葛切り』のように、駆逐艦娘と甘味で書いてみたいですね。秋は甘味もいろいろありますし^^;


南瓜の煮付け(軽巡洋艦:3-4人前くらい?一航戦なら1人前)

南瓜:1個
出汁:300mLくらい?
薄口醤油:大匙で2-3くらい
砂糖:大匙で2くらい

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