くちくいきゅうになるメリットは2つ。
ひとつは場所を取らなくなること。
で、もうひとつは眠れること。
といっても本当に寝てる訳じゃないんだけどね。
分かりやすく例えるとパソコンやスマフォとかのスリープモードみたいな感じ?
普段だとそれすら無いから時間をもて余すんだけど、これのお陰でそれも解消されたって訳さ。
……ほんとこれ、誰に言ってんだろ?
で、このスリープモードなんだがやってる最中に妙な夢を見れるんだよ。
俺が基本的に駆逐イ級であることは変わらないんだが、その内容はリアル艦これだたっり1/1艦娘の艦これだったりと結構バラバラ。
中には講和みたいなのが成立して戦争が終わってる世界なんてのやぷち○スみたいな珍妙な生物が居る世界とか本気で永住したくなる夢もあった。
最も、どの夢でも『霧』もなければアルファもいない設定みたいらしく駆逐イ級に相応しいやられ役で終わるんだけどな。
それ以外だと結果的にだけど一大決戦を掻き回して大惨事にしちゃったこともあったな。
もしかしたら夢じゃなくて平行世界の俺を疑似体験してたりするかも。
なんでかというと、見てる間はリアリティーというか胡蝶の夢的に現実としか思えてないしこっちの事を全く思い出さないからなんだよ。
もしかしたらバイドも居るし悪夢的な意味でこっちが夢だったりして。
……考えないでおこう。
『……』
『……』
ん?
なにやら外で話し声がしてるな?
体感的にだけどまだ夜だろうしこんな時間に誰かが部屋に来るのはなんかあった場合ぐらいだろうから陽菜じゃ荷が重いか。
そう考えた俺はスリープモードを解除した。
起きるなり目の前に見えたのは浴衣姿の長門の尻。
……なにこの状況?
なんで浴衣なのに裾がミニスカートみたいなんだとか思う辺りどうやら寝ぼけているらしい。
起動直後はパソコンと同じでいろいろ鈍くなるししょうが……
「何でお前がそこにいる」
長門の股の間から見えた寝間着姿の大和に俺の意識が赤く染まる。
ああ、ダメだ。
寝起きに大和の顔を見たせいかなんか制御が効かない。
感情に引っ張られてくちくいきゅうモードが解けて意識だけじゃなく視界まで赤い染まる中に黒い陽炎が立ち上る。
「ひっ、あ、……」
赤イシ界のなカデヤマトの顔がきょウフ二染まりガタガタ震えてイル。
そノ姿にオレはクラい愉えツヲ感じた。
ソウダ。
オれはおマエのだイ戦カンなンて誇リヲ踏ミニじりぐちャグちゃ二タタき潰しテヤリタカったんだ。
ソノタメニワタシハウ…
「落ち着け駆逐棲鬼!!
そいつは千歳と球磨の仇じゃない!?」
誰カの声にオレは……
「千……ト……せ……ク……磨……」
……ああ、ソうだ。
ヤマ和に復シゅうシタって、チ歳は、球マハ喜ブハズが無い。
二人ハ、深かイセい艦のオれを信じて木曾達を託してくれたんだ。
それを、裏切ってどうするんだ!!
学習しない自分への怒りから俺はクラインフィールドでハンマーを造り自分の頭に叩き付ける。
「なっ!?」
「ふぇ!?」
痛みは相変わらず無いけど響いた音と同程度の衝撃に濁った思考がクリアになる。
同時にいつの間にか出てた黒いオーラも引っ込めてから改めて二人に向き合う。
「さっきはすまなかった。
それで、こんな時間に何の用だ?」
そう尋ねると長門は何やら困った様子で唸りだした。
「うう、あ、いや、そのだな…」
陽菜もいない辺りわざわざ人払いをしたらしいわりになんか歯切れが悪いな?
いや、よく考えたらさっきまでぶちギレてた相手と話すなんて普通は難しいか。
さて、どうしたもんか…
なんと声を掛けたらいいか考えてたら大和が声を掛けてきた。
「……あの、もしかして貴女はレイテで私達を助けていただいたイ級ですか?」
「……え?」
レイテで助けた?
大和を助けたことなんか俺に……あったな。
「お前、ブルネイの大和か?」
いやまさかな。
知り合いなのかと驚く長門を横目に一応確認してみるんだが、案の定。
「はい。今は横須賀に転属していますがあの時の大和です」
「……マジか」
山城といいなんか奇縁が続いてんなおい。
「というかなんで横須賀に?」
あの大和が居なくなったんならわざわざ地方から引っ張らんでも建造すりゃあよかったものを。
「ブルネイの艦数制限に引っ掛かりまして、それでならばと驚く長門を横目に到着した横須賀に席をと移ることになったんですが……」
そう話す内になんか大和の顔から血の気が引き始めてんぞ。
「おねがいしますそんなめでみないでくださいいきててごめんなさいわたしはなにもできないただめしぐらいのほてるですからおねがいしますかまわないでください…」
「ど、どうした?」
なんかガタガタ震えながら部屋の隅で蹲りだしたんだけど。
「何があったおい?」
長門に問うと困った様子で肩を竦めた。
「お前と同じだ」
……それってまさか。
「アウェー?」
「殆どがな」
…………。
「悪いことしたな」
栄転かと思いきや人身御供とか山城より不幸じゃねえか。
「しかし驚いたな。
最近はめっきりろくに話せない状態だったんだが?」
いや、そんな状態で快活でいたらそいつは間違いなく狂人の類いだろ。
ともかくあんな状態でほっとくのも嫌だから少しフォローしとくか。
「とりあえずこれ食って落ち着け」
そう言いながら俺は別れ際にちび姫が寄越したアイスを差し出す。
「わたしのようなてつくずのやすやどにありがとうございます」
だめだこれ。
それでも大和は機械的にアイスを受けとるとそんな状態でも分かる上品な所作でアイスを掬い口にしたんだが…
「……げふっ」
飲み込んだ直後、乙女らしからぬ悲鳴をあげて倒れた。
「……あれ?」
「おいっ!?
お前何を食わせた!!??」
青くなって痙攣する大和に焦る長門。
「え? いや、ちび姫に貰ったアイスなんだが……」
もしかして痛んでたのか!?
確認のために一掬い舐めてみるけど、あれ? 普通に上手いんだけど?
「おかしいな?
瑞鳳は普通に食ってたんだが…?」
食ってたのは双胴空母になる前からだしそもそもこれ、戦艦棲姫からちび姫にって持たされた奴だから毒なんて入ってないはずだぞ?
一周回って逆に冷静になった俺のに長門もアイスを舐めるとすぐに驚いた様子で目を見開いた。
「これは、燃料じゃないか!?」
……マジ?
イチゴミルク味の燃料が有るんだからアイスになってもおかしくないんだろうけどさ、全然気付かなかったよ。
「ってかさ、なんで燃料で死にかけてんだ?」
「艤装を外した状態で燃料を食べられるわけないだろ!?」
なあるほど。
「ってことは…」
マジで死にかけてる?
「むさし、しなの、あとはたのんだわよ……」
口からエクトプラズマみたいなの出しながら轟沈の台詞を言い出してる大和。
「って、マジで死にかけてる!!??」
「衛生兵!! 衛生兵ーー!!??」
~~~~
「それで、そんなばか騒ぎであんた達はこんな時間に人をたたき起こしたって訳ね?」
今にも酸素魚雷を叩き込みそうな雰囲気で俺達の前に仁王立ちをなさっている叢雲。
そしてその前に正座する俺と長門。
あの後部屋の監視カメラで異常を把握した大淀により大和の電探が届けられ毒殺の嫌疑は晴れたのだが、んな騒ぎが他の奴等をスルーしてくれるわけもなく二人纏めて事情聴取と相成った。
艤装を運び去り際になにやってんだろうこいつら的な大淀の生温い視線が地味に痛かった。
そうして部屋の中には運び出された失神した大和に代わり寝間着姿の叢雲と龍驤。
因みに叢雲はネグリジェ派。
意外と筋肉質で何がとは言わんが潮とかに比べればサイズこそ負けてるけど、逆に大きすぎない分無駄を削ぎ落としたようなバランスの良さがよく表れてて十分駆逐艦のカテゴリーから外れても許されそうなスタイルしてたりする。
まあ、それをしっかり堪能する暇はないんだけどな!
「いやしかしホンマに旨いでこれ」
そう言いながらどさくさでアイスを試食してる龍驤。
馬のキグルミパジャマって…いっそネタに走ったのか?
「……そんなに美味しいの?」
龍驤の言葉が気になったのか叢雲は説教も漫ろそわつきながら龍驤に問う。
「ホンマホンマ。
間宮はんのアイスと比べても殆ど遜色あらへんで」
「へぇ…」
その答えに叢雲はスプーンでアイスを掬い口に含んだ。
「…!?
なにひょれ!! おいひい!?」
よっぽど感激したのかスプーンをくわえたまもそう叫ぶ叢雲。
マンガだったら目がしいたけになった上キラキラで眩しいだろうななんて思ってたら叢雲は我に返り咳払いを払う。
「こほんっ。
と、とにかく気をとりなおして続けるわよ」
こっぱずかしかったらしく頬を赤く染めながらそう宣う叢雲だが、甘いな。
そんな隙を晒して俺が見逃すとても?
「実はもう一個あるんだが…」
取り出すと要るか?と聞く前に叢雲がアイスをかっ拐った。
「……まあ、原因は就寝中の艤装の着用を怠った大和に有るわけで、事を大きくしてもしょうがないし今はこのぐらいにしといてあげるわ」
完全勝利S!!
長門も小さくガッツポーズ取るぐらい完璧な勝利にこの場は解散となる。
「駆逐棲鬼」
叢雲と龍驤が先に退室し後は長門だけとなったところで部屋を出る直前、俺に問いを投げ掛けた。
「なんだ?」
表情が真剣なので俺も真面目に問いを促す。
「お前は、私を恨んでいるか?」
「……」
何をなんて聞く必要はない。
だから、オレの聞きたいことは一つだけ。
「球磨と千歳の轟沈の理由は?」
お前達は二人の裏切り行為をどう処分したんだ?
言外の問いに長門は正確に答えた。
「護送中の敵襲撃による戦闘の被弾と」
「……」
……そうか。
「なら、それが答えだ」
二人は『艦娘』として葬られた。
それが横須賀の提督の判断なのか、それとも長門が進言した結果なのかは解らないが、それでも、俺の憎しみの感情は
俺の答えに長門は一度黙し小さくそうかと頷いた。
そしてそのまま部屋を立ち去った。
「イ級さん」
部屋の中に俺と陽菜だけとなり沈黙が訪れると、暫くしてから陽菜が俺に質問した。
「イ級さんは憎しみを堪えるんですか?」
陽菜の顔に普段の笑顔はなく感情を排した人形のような無表情を向けていた。
「違う」
そう。
俺は、そんな高尚な理由なんかじゃない。
「間違えないようにしているだけだ」
「復讐の相手をですか?」
……普通はそう思うよな。
だけど残念。
それも違う。
「約束をだよ」
その日が来たら俺は誰がなんと言おうと復讐に走る。
そしてそれはきっとどうやっても止まれない。
だけど、いや、だからこそその日が来るまで俺は約束を果たし続けなきゃいけないんだ。
「……イ級さん。
貴女の精神は歪んでいます。
今のままでは何れ致命的な破綻を起こしてしまいます」
歪んでいるか…。
確かに俺は、普通とはかけ離れているんだろうな。
だからこそ陽菜は『人類救済』のために備えられた本来の機能で俺という存在を監察し矯正を試みているんだろう。
それに対して多少思わなくもないけど、同時に陽菜が目指す『人類救済』の糧になるならそれもいいかとも思う。
「悪いな陽菜。
いまここで止まっちまったらそれこそいざという時、立ち上れなくなっちまう」
そう拒絶すると陽菜は悲しいと顔を俯かせる。
「救済の道はとても大変です」
「頑張れ」
なげやりに聞こえるかもとも思いながらも応援の言葉を送る。
その応援に陽菜は勿論ですと泣き笑いのような子供がと無理をして大人のふりをするような笑顔を浮かべた。
大和(喪)が絡むと書きやすい⬅
と言うことでようやく帰ってきたコメディ成文。
叢雲がチョロすぎる気もしないけどmgmg勢故仕方ないね。
次回は宣言通り番外編の予定。
後れ馳せながらあのネタに挑もうかと。