なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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負けない!!


私は

 

 再び切って落とされた戦いは響とアルファ、それと時雨と古鷹の2対2の形を取って再開された。

 

 

「不死鳥の名は伊達じゃないよ」

 

 そう宣う響はまるでそこに水面があるかのように空を駆け上空からアルファを狙い撃つ。

 

『チィッ!!』

 

 上を取られたアルファは逆に水面ギリギリを飛びスラスターノズルから噴射されるエネルギーを使い水飛沫を発てることで目眩ましを行いながら上を取り返すべく飛翔を続ける。

 しかし響がそれを許すはずもなく上に上がる気配を見せる度ミスト・フォースから雨のように細いレーザーを大量にばら蒔き牽制。

 ミスティ・レディーの対地に特化したレーザーの弾幕に頭を押さえられたアルファは入り組んだ森の為に機動力を制限されているせいで反撃の糸口を手繰りかねていた。

 

『厄介ナ…』

 

 響が空を駆けていられる理由はとうに判明している。

 響は携えたミスト・フォースの纏う霧を集約させることで空中に水場を作りそれを足場にしているのだ。

 霧を足場にするなんて芸当は普通の艦娘には勿論不可能だが、ミスト・フォースが纏う霧はアルファが従えている液体金属と同じナノサイズのバイド群体が寄り集まって形成されているため質量保存の法則や重力といった常識を逸脱し艦娘の足場とすることが出来てしまう。

 だが、いくらバイド化したとはいえそれらの性質を理解しかつ実戦で活かせるかと問われれば血の滲むような修練を要さねば不可能だと言い切れる。

 液体金属製のビットを手繰り弾幕を凌ぎながらついアルファは声を漏らしてしまう。

 

『コレホドノ手練レガ、島風達ト行動ヲ共ニシテイナカッタノハ堯倖ダッタワケカ…』

 

 地形的有利を活かしているからとはいえ己が追い込まれていることをそう評したアルファに、響はなにやら得心したふうに口を開く。

 

「なにか勘違いしているみたいだね?

 言っておくと後輩達(・・・)と私達に面識は無いよ」

『何?』

 

 意表を突く言葉に回避が遅れアルファの体表を雨粒のような弾幕から雲の隙間から射す斜光のような光を放つレーザーがアルファの身を焼いた。

 

『グッ!?』

 

 体表の液体金属を溶かすレーザーの照射を咄嗟に身を捻り致命傷を避けたアルファに響は淡々と語る。

 

『ドウイウ意味ダ?』

「言葉の通りさ。

 私達は何年も前に、島風がこちら側(・・・・)に来るもっと前にこっちに来たんだよ」

『馬鹿ナ!?』

 

 だとしたらあの世界はとうにバイドによって汚染し尽くされていなければおかしい。

 だがしかしアルファは島風から『バイドの切端』を受け取るまでバイドの気配さえ感じることはなかった。

 再び降り注ぐ雨粒のようなレーザーを掻い潜りながらアルファはリスクを承知で液体金属を操作し対空攻撃に転じる。

 

「やるね」

 

 先端を鋭く伸ばし貫かんと追い縋る液体金属の鉾へとレーザーを当てて蒸発させ迎撃する響にアルファは語気を荒げ問いただす。

 

『一体アノ世界デ何ガアッタ!?』

 

 バイドとしての常識から外れたあまりの異常さに激昂紛いに興奮するアルファに響は皮肉げに口を歪める。

 

「…如月牛星」

『ナッ…』

 

 予想だにしなかった名前にアルファは絶句してしまう。

 

「隙だらけだよ」

 

 絶句し僅かに硬直したアルファに向け響はミスト・フォースの霧を掬うと波動を込め強酸と化した霧を吹き掛けた。

 

『グゥッ!?』

 

 避け損なったアルファは霧に呑まれ、酸に液体金属が蒸発しシュウシュウと煙を発てながら溶けていく。

 このままでは本体までも跡形もなく溶かされるとアルファは即座に波動砲の為に溜めていた波動を液体金属に回し急激に増殖させることで本体への被害を最小限に防ぐ。

 強酸の霧を抜け波動砲のチャージを再開しながらアルファは液体金属で攻撃を再開。

 しかし響の放ったアシッド・スプレイのダメージにより先程に比べて精細に翳りが生じていた。

 

「いやしかし、あいつと知り合いだったのとはね?」

 

 だとしたら本気で殺さないとと弾幕の密度を更に濃くする響。

 フォースから降り注ぐさながら降雨とも言えたレーザーの雨が豪雨とも言えるぐらいに密度を増し、とうとうフォースとビットだけで防ぎきれなくなり防げなかったレーザー数本がアルファの纏う液体金属を穿ち焼く。

 少しづつ液体金属を失いながらもアルファは言葉を返す。

 

『知リ合ッテハイナイ。

 知ッテイル狂人共ノオ仲間ダト聞イテイルダケダ』

 

 元帥から名前を聞いた後、イ級がいない時間を見計らって鳳翔から彼女が知りうる限りの如月牛星に着いての人物像を聞いた。

 その人物像からアルファは如月牛星という男が、『研究』という『手段』が『目的』そのものである生粋の異端者(サイコパス)であると判じていた。

 その道徳を省みない狂人的姿勢はアルファの怨人であるteam R-typeの連中と全く同じであるとも感じた。

 最も『バイドの根絶』を最終目的とし一切ぶれなかったteam R-typeとは明確に色合いが違うものであるが、どちらにしろ関わり合いになりたくないことに代わりはない。

 その答えに響は小さく可笑しそうに笑う。

 

あんなの(・・・・)が他にも居たなんて、世界はほとほと狂っているもんだ」

『ソレバカリハ同感ダ』

 

 そう言うと同時にアルファは熔解し盾として用を為さなくありつつあったビットを響に投射。

 投射されたビットはアルファの指令によって物質変換を行い爆発物と化して響の目の前で炸裂した。

 

「っ、悪あがきを!?」

 

 バイド化しても駆逐艦であることに代わりはなく食らえば下手をすれば中破まで持っていかれると響はアシッド・スプレイを放射し爆発を迎撃する。

 濃霧により一瞬だけ視界を塞がれた響だが、すぐに真下にアルファの存在を確かめ即座にミスト・フォースに豪雨を降らせる。

 何故かフォースを切り離していたアルファに防ぎきれるはずもなく数多のレーザーがみるみる内に液体金属を焼き付くしていく。

 アルファの苦肉の策も流れを変えるとこは叶わず勝ったと確信した響。

 しかし……

 

「っ!?」

 

 液体金属の下から現れたのは悪魔を思わせるフォルムが特徴的な『バイドシステムγ』ではなく、球体状の身体の至るところから触手を生やす醜悪な肉塊である『バイドフォース』であった。

 消えたアルファを探そうと首を巡らす響。

 

「奴は…」

『漸ク上ヲ取レタ』

 

 ぞくり

 

 バイドとなってから感じることさえなかった恐怖が背を走り響はがむしゃらに霧を蹴ってその場を跳ぶ。

 直後、液体金属という質量の塊が通過し響の帽子が宙を舞った。

 

 

 

 

 

「僕を甘く見ないことだね!」

 

 時雨の言葉と同時に先端にバイドの花が咲いた蔦をうねらせフラワー・フォースが棘を広範囲に放ち古鷹を狙う。

 

「それはこちらも同じです!」

 

 レーザーを放てないサイクロンフォースを乱回転させイオンリングを全身を包み隠すよう展開し棘を防いだ古鷹は反撃に艤装の20、3㎝(3号)連装砲を時雨目掛け放つ。

 しかし砲弾はフラワー・フォースの蔦の花から放たれるレーザーをスイングさせ切り払われてしまう。

 

「残念だったね」

 

 ニヤリと笑う時雨。

 古鷹はその笑みに下を確認して自身目掛け走る僅かな雷跡の水泡を確認。

 即座にシャドウ・ビットを起動する。

 

「防いでシャドウ・ビット!」

 

 起動したシャドウ・ビットは展開と同時に酸素魚雷に反応し自ら海中に潜ると体当たりで破壊する。

 時雨のバイド化により酸素魚雷は更に威力を高めていたのか爆発と同時に視界を覆うほどの大量の水柱を発てる。

 

「時雨は…」

 

 見失った時雨を警戒し敢えて前に出る古鷹だが、時雨は古鷹の真横から水柱を割って懐に飛び込んでいく。

 

「この距離ならフォース()は使えないだろ?」

「くっ!?」

 

 背負った主砲をトンファーのように逆手に握り古鷹に突き立てる時雨。

 

「せいっ!!」

 

 古鷹は主砲の殴打を義手で受け止めるも、時雨はそのまま七倍はある排水量の差をものともせず振り抜き古鷹を突き飛ばす。

 そのまま振り抜いた主砲を撃つも放たれた砲弾はアクティブコントローラーによって割って入ったサイクロンフォースに防がれる。

 

「甘いよ」

「っ!」

 

 殺気を感じた古鷹が視界の端に捉えたのは、吹き飛ばされた後方に回り込んでいたフラワー・フォースの蔦が古鷹目掛け降り下ろされていた。

 避けようと身を捻るが空中ではそれも難しく降り下ろされた蔦は古鷹の身を打った。

 

「あぐっ!?」

 

 服を引き裂くに留まらず身が裂ける程の威力に古鷹は堪らず悲鳴を上げるが、振り上げから繰り出された二撃目の鞭打を魚雷を叩き込み生じた爆風で無理矢理距離を取って回避する。

 

「正直見謝ってたよ」

 

 着水と同時にサイクロンフォースを引き寄せ構える古鷹に警戒しつつフラワー・フォースを呼び戻しながら時雨はそう敬意を述べる。

 

どっち付かず(・・・・・・)だなんて甘く見ていたけど、随分らしい(・・・)じゃないか」

 

 零れる血を拭う事はおろか服を裂かれ露になった胸元の肌を隠す素振りすら見せず砲とフォースを構える古鷹をそう評し、だからこそというふうに時雨は問い掛ける。

 

「どうして君はそこ(・・)に留まっているんだい?」

 

 元には戻れないと理解しながらもバイドに成りきる事を受け入れず、夕暮れの薄暗闇の中を歩き続けようとする古鷹が理解できないと時雨は問いを投げ掛ける。

 

「…行けるわけがありません」

 

 琥珀色の瞳にはっきりと意志を宿らせ古鷹は言う。

 

「私は恵まれています」

 

 不幸に見舞われバイドになった。

 だけど、今の自分がどれほど恵まれ、そして幸運に助けられているのか知っている。

 いや、知ってしまった(・・・・・・・)

 

「……何を言っているんだい?」

 

 意味のわからない答えを訝しがる時雨に古鷹は紡ぐ。

 

「…気が付くと私はバイドになっていた」

 

気がツくと私ハ

バイドになってイた

それでモワタしは

地球にカえりたかツた……

だけど

チキュうの人々ハ

コチラニ銃を向ける……

 アルファから精製されたバイドルゲンを摂取した古鷹は、偶然にもそのバイドルゲンを介しイ級にさえ詳しく語った事はないアルファのかつてを、アルファが体験した悲劇を知ってしまった。

 

 バイドに成り果てたことに誰一人気づかないまま暗い宇宙から地球に帰還したアルファ達ジェイド・ロス艦隊。

 バイドの本能のまま行く手を阻む味方()を打ち砕き、そして海面に写り込んだバイド(己の姿)を見たことで真実を知った。

 そして、永遠に沈む事のない夕暮れの中、守りたかった星の姿(人の営み)を目に焼き付け一掬いの地球の水を手に再び宇宙へと旅立とうとした。

 だけど、地球の人達はそれを許さなかった。

 

 殺せ!! バイドを殺せ!!

 

 ジェイド・ロス艦隊がバイドになった事に気付かない彼等は地球を守るため、憎悪を刃に殺意を砲に込めジェイド・ロス艦隊を撃った。

 何の躊躇いもない無慈悲な砲撃の光に幾つものバイドが光に消えていく。

 その絶望の中でさえ彼等は『人』であった事を捨てず、ただ撃たれるままに数を減らしながら追い出されるように地球を後にした。

 そんな、誰も救われない悲劇の果てにアルファは帰って来た。

 

「バイドに成り果てたことに気付くことも出来ず、本能に逆らう術もわからず仲間に銃を向けたあの人達を知ってしまったから、私は、絶対にそちら側(・・・・)には行きたいなんて思わない!!」

 

 琥珀色の瞳に怒りを宿し古鷹は義手を構える。

 過剰なほどの波動エネルギーの高まりを危険と判じた義手が緊急で放熱弁を開き余剰エネルギーを逃す。

 結果大気に漏れだしたエネルギーが空間と衝突してバチリバチリと激しいスパークを生じさせる。

 

「くっ!?」

 

 凄まじい波動の集約を目にした時雨はフォースを盾に全力を以て義手の射線から外れようと駆ける。

 

「逃しません!!」

 

 時雨の進路を妨げるためサイクロンフォースを投擲し更にアクティブコントローラーを使ってその足を無理矢理抑え込む。

 

「だったら!!」

 

 撃たれる前に無力化しようと砲を向けるが足を止めてまで準備していた古鷹を追い越すことは叶わない。

 

「ハイパードライブ解放!!

 穿て、ハイパー波動砲!!」

 

 古鷹の咆哮と同時に義手から波動の連弾が放たれた。

 




お待たせしました。

いやもうね、書いては消え書いては消えで心が折れてました。orz

しかも書くに連れ古鷹のアルファLOVEが増えていく謎仕様。

……おかしいな?

古鷹のアルファLOVEは憧憬主体のちょっといい感じ程度の筈なのに、読み返すともう手遅れに見える…

次回は決着です。







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