※閲覧注意
古鷹の安否を確かめるため次元の壁を突き抜けたアルファだったが…。
--させないよ。
『何!?』
アルファが抜けようとした古鷹がいる次元の壁が波動に乗って空間に響いた声と共に物理的に遠ざかり次元の狭間へと放り出されてしまった。
このままでは無限に等しい次元の狭間を漂流させられてしまうとザイオング慣性制御システムを駆使し体勢を整えたアルファだが、次いで周囲を確認しその認識が誤りであったことを知る。
『此処ハバイドノ巣カ!?』
無限に広がる筈の次元の狭間はまるでトンネルの如く円柱状に形成されており、更にそこには一見すると餃子とも比喩できそうな蛹と芋虫の合の子のようなA級バイド『ノーマメイヤー』が蠢いていた。
ノーマメイヤーはアルファを敵と認識したらしく壁を螺旋を描くように走りながらアルファ目掛け落下する物体を設置する攻撃を始める。
『邪魔…スルナ!!』
自身でもらしくないほど焦りながらアルファは降り注ぐ落下物をビットを駆使して掻い潜りノーマメイヤーのへとフォースを叩き込み波動砲を撃ち込む。
波動砲とフォースに抉られたノーマメイヤーから鈍色の体液が撒き散らされ、狭いトンネル内だったために避けられず体液がアルファの体を覆っていくがアルファは構わずビットまでもミサイルの代わりに投射し自爆させて殺戮の限りを以てノーマメイヤーを殺しに掛かる。
順調に攻撃を重ねるアルファだが、しかし幾度かのミサイルの爆発が起きたところでアルファの動きに翳りが起きた。
『ッ、身体ガ…!?』
理由は身体中を覆っていく体液がアルファを浸食し変異を起こそうとしてきたからだ。
しかしアルファは即座に体液へと波動を流す事で逆に取り込み、指揮下に加えながら殺戮を再開。
『返スゾ』
体液はアルファの波動を受け液体金属に変質。
そのまま増殖しながら散弾のようにノーマメイヤーを穿つ。
撒き散らした自身の体液までもが自らを殺しに来る悪夢のようなその猛威の前にA級バイドであるノーマメイヤーも耐えきれず間もなく体液を撒き散らしながら爆散。
爆散と共に空間中に撒き散らされた体液によりフォース共々全体を隈無く鈍色に塗れ覆い尽くされたアルファは、ノーマメイヤーの撃破と共に崩れ始めた閉鎖空間をフォースを介して脱出
空間を抜ける間体液はアルファの身体を更に包み『R-9 アロー・ヘッド』の姿を象る。
『…懐カシイ機体ダ』
仮初めとはいえ初めて乗った機体になった事に苦笑したくなるアルファだが、すぐに意識を切り替え今度こそ古鷹の下へと急いだ。
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昭和17年8月10日、南緯02度28分 東経152度11分、午前七時、重巡加古…轟沈。
かつて古鷹が味わった悪夢は今再び古鷹に牙を剥いた。
「探針儀に感あり!!」
その叫びに古鷹はほぼ反射的に叫んでいた。
「逃げて加古!!」
しかし運命は覆らない。
古鷹の叫びを嘲笑うように警告とほぼ同時に加古の足元が水柱を発てながら爆ぜた。
「加古!!??」
ぐらりと右へと傾ぎながら倒れていく妹の姿に古鷹の絶叫が響く。
「撃った奴はまだ近くに潜んでいるはず!!
爆雷を投射して!!」
「こちら青葉!! 誰でもいいです、救援を急いで!!」
加古の被雷に混乱しながらも対処に走る二人を尻目に古鷹は忘我にただ立ち尽くす。
「そんな…私は……また……なにも………」
朝焼けよりなお赤い炎に巻かれながら死に逝くその姿に古鷹の心が崩れ膝がおれてしまう。
その場にへたりこむ古鷹の周囲を再び琥珀色の瞳でさえ見通せない闇が包むが古鷹はその事に気づくことさえ出来ない。
琥珀色の瞳から生気が抜け落ちその抜けた隙間を埋めるようにバイドの波動が活性化を開始し浸食を始めていく。
波動により完全なバイドへと変貌を進める古鷹の脳裏にもう一つの波動が囁きかけるように響いた。
--取り戻そう
「とリ…戻す……?」
まるで砒素のようにその波動は古鷹の心に沈み侵す。
--やり直そう
--あの日を、あの戦争をやり直そう
--今度こそ失わないために
--妹を
--戦友を
--守りたかった国を
「ト……リ…モド……ス………」
古鷹を浸食する
「……ワ……タ………シ……ハ……」
艦娘の根幹。
軍艦時代の記憶にこびりつき決して灌ぐ事の叶わない暗い感情が増幅され古鷹の琥珀色の瞳に憎しみの炎が灯る。
その憎しみが波動砲の形を取り義手に集う。
「……ギ」
古鷹の瞳は見据える。
過去へと向かうために邪魔な時空を遮る壁を。
「ガ……」
バイドの波動によって増幅された『重巡洋艦古鷹』がかつて抱いた無念の内に沈む事への怒りと嘆きが義手の限界を越える波動エネルギーのループを起こし激しいスパークが右腕を包む。
その直後、空間を貫くように鈍色の液体金属に包まれたアルファが闇の中に飛び込んできた。
『古鷹!!??』
アルファは即座に古鷹に呼び掛けるが憎しみに盲た古鷹には届かない。
「……ハ」
『マズイ!?』
何をしようとしているかは解らなくともアルファはあのまま波動砲を放たせては取り返しがつかない何かが起きると察し彼女を鎮静化させる術に思考を巡らせる。
(今ノ古鷹ハバイドノ波動二完全二飲マレカケテイル。
攻撃シテ鎮静化ヲ促スニモ時間ガ足リナイ。
内側カラ抑エ込ム事ガ可能ナラバマダ手段モ……)
そこまで考えたところでアルファは今の自分ならそれが可能であると気付いた。
即座にアルファはその手段を実行に移す。
「……ド」
『目ヲ覚マセ古鷹!!』
アルファは身を包む液体金属を波動で操作し細長い管状に変化させると、その先端を古鷹の口腔に容赦なく突っ込んだ。
「っ!!!!????」
これには古鷹も反応し目を見開いてパニックに陥る。
『苦シイダロウガ我慢シテクレ』
目尻に浮かぶ涙に申し訳なく思いながらも止めるわけにもいかず、アルファは更に自身の細胞を加工凝縮しバイドルゲンを精製すると飲み下せるよう半液体状に固定してからそれを液体金属の管を通して無理矢理古鷹に飲ませた。
「…!? !!??」
本来なら赤くなる筈が急速かつ半液体状に加工したためか白いゼリー状になったバイドルゲンが口腔の隙間から溢れていく。
必死で吐き出そうとする古鷹だが、息苦しさから身体が勝手に酸素を求めそれを飲み下していく。
飲み下されたバイドルゲンは内側から古鷹を侵す波動を相殺し少しづつ古鷹は鎮静化されていく。
十分な量のバイドルゲンを投与したところでアルファは液体金属の管を口腔から抜く。
「ゴホッ、うぷっ…」
息苦しさから解放された古鷹は口に手を当て噎せかえりながら喘ぐ。
しかし白い濁った液体といいその様子はどう見ても言い訳不可能な事案であった。
『…御主人達ガイナクテ助カッタ』
古鷹が堕ちきる前に留めることが叶った事と、この光景を見られたらこれだからバイドはとか冤罪が増えていたと二つの意味で安堵するアルファ。
「…ア、アルファ…なの?」
見知らぬ姿に変わったアルファに恐る恐るそう尋ねる古鷹。
『アア。
少々問題ガアって姿ハ変ワッテイルガナ』
一時的に鈍色のアロー・ヘッドと化した事を端的に説明すると古鷹は安心したと眉を下げる。
「…ごめんなさい。
迷惑、かけちゃいましたね」
『構ワナイ』
そう許すと古鷹は困ったように微笑みながら口の端に残ったバイドルゲンを拭い、それを見るなり笑みをややひきつらせながらながら問う。
「あの、さっきのは…?」
妙な生臭さといい微かなねばつきのある白い色といい男性の白いべたつくなにかを思わせるに十分なソレを示すとアルファは正直に答えた。
『私ノ細胞ヲ凝縮サセタバイドルゲンダ。
嚥下シヤスイヨウゲル化サセタラ何故カ白クナッタダケデ、私ノ意思デ白クシタワケデハナイ』
アルファとしても何故そうなったのか判らずそんな誤解を招き憮然とした口調になってしまう。
そんなアルファを尻目に古鷹は手に残るバイドルゲンをしげしげと眺める。
「これが、アルファの…」
そう呟くと古鷹は唐突にそれをぺろりと舐めた。
『…オイ?』
あまりに唐突な行動に戸惑うアルファに古鷹は舐めとったバイドルゲンを口に含むと、味わうように口を動かしてから飲み込み笑みを向けた。
「ちょっと変な味だけど、アルファのだと思うと私は好きかも」
その言葉にアルファは凄まじい罪悪感に見舞われ首を差し出すように機首を下げた。
『一撃デ滅シテクレ…』
「突然どうしたのアルファ!?」
介錯を頼まれ混乱する古鷹。
しかしアルファの暴走は止まらない。
『バイドノ身デ天使ヲ穢シタ罪ヲ灌グニハ死ヲ以テ購ウ他ニナイ』
「意味がわからないから!?
とにかく正気に戻ってアルファ!!??」
罪悪感から殺してくれと頼むアルファに必死で留まるよう説得を繰り返す古鷹。
そんなやりとりを五分程続けたところで漸くアルファは正気に帰る。
『スマナイ古鷹。
カナリ錯乱シテシマッタ』
「いいんですよ。
迷惑を掛けたのは私も同じですから」
このまま謝罪合戦が始まりそうな雰囲気に古鷹は思考を切り替える。
「それで、この場所は…」
『オソラク複数ノ時間軸ガ重ナル時空間ノ狭間ダ』
そう辺りを見回してアルファは憶測を並べる。
『ココカラナラバ次元ヲ挟ンダ平行世界ノミナラズ過去ヤ未来二飛ブコトモ容易ナ筈』
「…過去や未来」
アルファの憶測に古鷹は先の精神攻撃を思い返す。
「ねえアルファ。
もしも、もしもだよ?
過去を変えたらどうなるの?」
何故その質問をするのかと思いながらも、重なりあった時空の中から自分達の時間軸を探る傍らアルファはバイドが取り込んだ知識を引っ張り出し憶測を述べる。
『…解ラナイ。
ソモソモ過去改変ヲ完了シタトシテソレヲ観測スル手段ガ存在シナイカラダ』
「どうして?」
『同ジ時間軸二複数ノ同一存在ガ在ルコトガ出来ナイカラダ。
例外ガアルトスレバ存在ソモソモヲ完全二変質サセテシマウバイド汚染ダガ、私ノ様ナ例外デナケルババイド二ヨッテ歪ンダ存在ハ他ノ存在ヲ敵トシテシカ認識出来ナイ』
故にその先に待つのは『絶望』
言外に悪い考えはよしておけと釘を指すアルファの言葉に反する声が響く。
--それはどうかな?
それはアルファを妨害し古鷹に囁きかけた波動と同じものだった。
「今のは……」
半バイドである古鷹とアルファならば波動を辿れば本人がいる位置は容易に判別できる。
にも関わらずこちらに意識を向けさせたと言うことは、おそらく誘っているのだろう。
『随分丁寧ダナ』
そうごちるとアルファは液体金属に波動を流して二つの弾丸を放ちそれぞれ元の世界と波動の持ち主に続く二つの空間を繋げる。
『古鷹、ヒトリデ戻レルナ?』
多少語弊になるかもしれないが今回はA級バイドを二体も従えていた相手だ。
下手をすればかつての島風同様マザーバイド級の強敵である可能性もある。
自身のバイドルゲンで無理矢理鎮静化させているとはいえ古鷹のバイドはまだ安定したとは言い難い。
最悪、向こうに着いた途端古鷹のバイド化が再進行する可能性も低くない
その懸念から帰還を望むアルファだが、古鷹はそれを拒否する。
「一緒に行きます」
半ば予想通りの答えに難色を示すアルファに古鷹は食い下がる。
「向こうは私を呼びました。
私は彼女と話さなきゃいけないんです」
その意思の硬さは目を見れば一目瞭然。
説得は難しいと判断したアルファは仕方ないと認める。
『危険ダト判断シタラ私ヲ見棄テデモ戻ルト約束シテクレ』
「そんなことにはなりません」
私がさせませんと微笑む古鷹にアルファはヤレヤレとごちりながら空間に機首を向ける。
『行クゾ』
「はい!」
応じる声と共に二人はフォースを手に次元を越える。
年末に伴い休みが増え忙しさが更に苛烈に……
そんなリアルはさておき次回はいよいよバイド艦娘戦になります。
まあ、正体はまるわかりですよね。
以下は小ネタです。
【お弁当】
イ級「千代田。ちょっと北方まで鋼材掘りに行ってくるから日持ちする燃料頼む」
千代田「うん。ちょっと待ってね」
古鷹「アルファ、これ持ってってください」
アルファ『弁当デスカ』
イ級「で、古鷹から何貰ったんだよ?」
アルファ『コレデス』
『バイドバーガー』
アルファ『タベマス?』
イ級「食うか!?」