なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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まあ、悪くはないけどね。


いつまで私に頼る気なの?

 至急『総意』に問い質さねばならないと泊地棲姫の拠点へと赴いた飛行場姫だったが、待っていたのは耳が痛くなるような沈黙であった。

 

「姫、いないの?

 今回ばっかりはほっとくとマジでヤバそうなんだけどー?」

 

 身の回り全般をお付きの要塞に全て任せているため静かなのはいつものことだが、客の来訪があれば呼び掛けずともすぐにでも現れる要塞が一向に姿を見せないことを不審に思い敷居を跨ぐ飛行場姫。

 奥へと進むと微かに蓄音機が奏でるクラシックの音が耳に届いてくる。

 

「なによ、ちゃんといるじゃない」

 

 南方棲戦姫直伝の海豹のジャーキー作りで聞こえてないってなら笑い話なんだけどね。と、泊地棲姫の密かな趣味についての契機を思い返す飛行場姫。

 かなり昔、泊地棲姫は艦娘から姫の中で一番弱いと言われ、ショックから自棄酒に走りアルコールに溺れた事があった。

 どうにか立ち直らせようと頭を捻った結果、何故かどうせだから完璧に潰してやるという結論に至り、その際に南方棲戦姫が作った海豹のジャーキーに泊地棲姫はド嵌まりし土下座してまでその作り方を教わり今では教えた南方凄戦姫より美味しいジャーキーを作る始末。

 本人は隠れた趣味のつもりらしいが、そう思っているのは本人ばかり。

 実際に知らないのは最低限の会談にしか顔を見せない港湾棲姫だけだったりする。

 

「最近は素材にも拘ってたみたいだし新作にありつけるかしらね」

 

 稀に大外れを引かされるもそれさえ楽しみの一つと本来の目的を片隅に揚々とクラシックが奏でる道標の先へと扉を開いた飛行場姫は扉の先の光景と鼻孔を着くウィスキーと混ざった濃密な血の香りに表情から陽気を消す。

 泊地棲姫は力なく四肢を放り出した状態でテーブルの上に仰向けに転がされ、その上に白色の泊地棲姫と同じデザインのドレスを着た何者かが覆い被さりぴちゃりぴちゃりと舌を這わせその血を啜っていた。

 

「……」

 

 どこか退廃的で淫靡とも言える光景に飛行場姫は不愉快の一言のみを表情に表し静かに溜め息を吐く。

 

「何をしているのかしら?」

 

 その声に覆い被さっていた少女が上体を起こし首だけを背後の飛行場姫に向ける。

 泊地棲姫にそっくりな少女はその白いドレスを泊地棲姫の血で斑に汚し恍惚めいた笑みを浮かべ飛行場姫を視認する。

 

「……トベナイノ」

「はぁ?」

 

 なんの脈絡も見えない言葉に飛行場姫が不愉快そうに声を漏らすも意に介する様子も見せず言葉を続ける。

 

「ネエ、ワカル?

 トベナイノ トベナイノヨ ネエ、トベナイノ」

 

 会話をする様子もなくひたすら飛べないと訴える姿に飛行場姫はとりあえず、

 

「どうでもいいからそいつ放しなさい」

 

 一足の踏み込みで距離を詰めその顔に義手を叩き込んだ。

 ゴガッっと金属同士がぶつかったような凄まじい打撃音と同時に少女がぶっ飛ばされ頭から壁に叩きつけられる。

 一撃で頭を地煙にするつもりで叩き込んだのだが、穿った感触に飛行場姫はますます不愉快と吐き捨てる。

 

「……硬いわね」

 

 姫でさえただでは済まない一撃を食らった少女が崩れた壁から起き上がるとゆらゆらとした足取りで一歩歩み、その顔に歪な三日月を浮かべる。

 

「…イタイ イタイ アア、トッテモイタイ フフ ウフフフフフフフフ……」

 

 殴られた頬に手を添え、まるで待ち焦がれた最愛の相手を前にしたように笑う。

 

「……うわぁ、キモッ」

 

 なまじ知ってる顔と瓜二つなだけにその様子は飛行場姫に得たいの知れない気持ち悪さを抱かせる。

 と、足元に転がっていたウィスキーの壜に中身が残っているのを見付けた飛行場姫は、それを蹴り上げテーブルに倒れていた泊地棲姫に向けそれを振り掛けた。

 

「……ぐっ、」

 

 アルコールの熱と痛みに短いうめき声を漏らしながら身を起こす泊地棲姫に飛行場姫は端的に問いかける。

 

「おはよう姫。

 起きて早々なんだけど、アレ(・・)ってあんたの妹かなんか?」

「……姫?」

 

 後で覚えていろと吐き捨てながら濡れた髪を払いのけ言う。

 

「アレは身内じゃなくて水鬼よ。

 あんなのが妹ならとっくにぶち殺して姫を義妹か養子にしているわ」

 

 北方棲姫のほうがいいと嘯く泊地棲姫にそりゃそうねと苦笑する飛行場姫。

 痛みに浸っているのかひたすら痛い痛いと溢しながら笑い続ける泊地水鬼から意識を反らさず飛行場姫は事情を問う。

 

「で、なんでリョナってたのかしら?

 目覚めたってなら出直すわよ」

「お前から殺されたいの?」

 

 そう唾棄すると痛みを堪えつつ泊地棲姫は言う。

 

「来るなりいきなり襲われたのよ。

 お陰で出来たばかりのジャーキーと合わせようと思っていたダルマを全部台無しにされたわ」

「それは災難ね」

 

 口先だけ労るとウィスキーの残りをぶちまけたのはお前だと半目で睨む泊地棲姫。

 

「あのまま食べられるよかましでしょ?」

「…後で弁償はさせるわよ」

「いいわよ」

 

 軽い口調でそう応じると義手を握り宣う。

 

「あいつをぶち殺した後でおつまみ出してくれたらね」

「お前がぶち抜いてくれた壁の修繕も含めてよ」

 

 ちゃっかりしてるわねと苦笑し飛行甲板を広げる飛行場姫を横で泊地棲姫は護衛要塞を呼び出す。

 

「フフ、ウフフフフフフフフ……」

 

 二人が艤装を展開するのと同時にそれに反応した泊地水鬼の笑い声が消え、壁の向こうから現れた浮遊要塞と護衛要塞が運んできた艤装を纏い歪な三日月を浮かべ殺意を向ける。

 

「……あのさ」

「何?」

 

 一目で18インチを超過していると判る馬鹿げたサイズの砲を見て頬を引き釣らせる飛行場姫。

 

「今更だけど、逃げるのが正解だったんじゃない?」

 

 もしこんな狭い場所であんな巨砲を撃たれた日にはどうなるか、それに思い至った泊地棲姫は即座に作戦を転換する。

 

「……外に誘き出すわよ」

「ええ」

 

 返事と同時に艤装の出力をフルに使い部屋を飛び出し全速力で表を目指す二人。

 

「ニガサナイ……ニゲラレハシナイノヨ!!」

 

 歪んだ笑みのまま二人を追う泊地水鬼。

 追ってきた泊地水鬼目掛け牽制を放ちながら泊地棲姫は飛行場姫に問う。

 

「それはそれとして、今日もたかりに来たの?」

「いいえ。

 珍しくマジな相談よ!」

 

 まるで効いた風もなく追いかけてくる泊地水鬼に舌打ちを打ち飛行場姫は問いに目的を告げる。

 

「……それは本当なのか!?」

 

 飛行場姫の話に目を見開き驚く泊地棲姫。

 

「ええ、マジも大マジ!

 最低限の海域防衛を残して動ける娘は全員動員して探させているわ!」

 

 いつになく真剣な飛行場姫の物言いと行動にそれが冗談を一切含んでいないのだと泊地棲姫も理解する。

 

「お前がそこまで言うなら信じるわ。

 だけど、」

 

 拠点を飛び出しその勢いのまま海上へと上がり大型艤装を展開する二人。

 その直後、海を割り泊地水鬼が大型艤装と共に姿を顕す。

 

「先ずはあの水鬼を潰す!」

 

 先じて飛び立った爆撃機に果敢に攻め立てさせながら砲撃を叩き込む泊地棲姫に当然と返し同じく砲を放つ飛行場姫。

 

「イタイ、イタイワ

 ウフフフフフフフフフフフフフフ…」

 

 姫二体から降り注ぐ鋼鉄の雨の中で泊地水鬼は痛みに悶え同時に愉悦に笑いながら巨大な主砲を姫に向けた。

 

 

~~~~

 

 

「それで、どういうことなんだこれは?」

 

 慰労演説を終え、いざ駆逐棲鬼との会談をと意気込み赴いた元帥が目にしたのは蕩けた笑みで駆逐イ級をデフォルメしたようなぬいぐるみを抱く長門の姿であった。

 長門が可愛いもの好きなのを隠していたのは元帥も知っていたので今の状況に納得は出来るのだが、問題は…

 

「駆逐棲鬼は何処に居るのだ?」

 

 演説前に長門に監視させていると聞かされていたのだが、駆逐棲鬼の姿は何処にもない。

 

「長門の腕の中でもがいているのがそれらしいわよ」

「…は?」

 

 あきれ果てた様子でそう答える叢雲に元帥は耳を疑いつつももう一度ぬいぐるみに目を向ける。

 よく見ればぬいぐるみは生きているようで長門の手を脱出しようとしているのか必死に暴れているらしいのだが、長門の力が余程強いらしくもぞもぞしているようにしか見えない。

 その時点で元帥は考えるのを放棄した。

 

「……すまん。説明してくれ」

「駆逐棲鬼があの姿な理由は戦意が無いことを分かりやすくするためらしいわよ」

「……そうか」

 

 もっと他に無かったのかと突っ込みたいのを堪えつつふと視界の端にアルファとアルファの上に乗る陽菜を見付ける。

 

『分カリマシタカ陽菜?

 TPOヲ弁エナイトコノヨウニ状況ヲ悪クシテシマウノデス』

「分かりました」

 

 嗜めているらしい言葉にしょんぼり肩を落とす陽菜。

 

「……助けないのか?」

 

 その様子に毒気を抜かれいろいろ投げやりにそう聞くもアルファは平然としたもの。

 

『命ニ関ワル範囲ニナイカラナ』

「……そうか」

 

 とはいえこのままではどうにもならない。

 

「長門、放してやれ」

「いやだ」

 

 命令にぎゅうと力を籠めながら拒否する長門。

 

「このこは家の子にする。

 絶対放さない」

 

 子供のような我が儘を言う長門に何をいっているんだと呆れる元帥。

 駆逐棲鬼改めくちくいきゅうも拒否らしく「きゅっ」と奇妙な鳴き声を上げながら逃げようとするが、がっちり捕まれているらしく逃げられない。

 

「冷静になれ長門。

 今の見た目はともかくそれは深海棲艦だぞ?」

「ちゃんと世話をするし任務に支障を来す真似はしないから!」

 

 捨て犬を飼いたいと親にねだる娘かと突っ込みそうになりつつ元帥は深く溜め息を吐く。

 

「……とりあえず元に戻れ駆逐棲鬼」

「…きゅ」

『ソウシタインダガ長門が離レナイト元ニ戻レナインダト言ッテマス』

「……」

 

 すかさず入るアルファの翻訳に会談に挑むというのに自分で会話もままならない姿にどうしてなったと頭痛を覚えつつ元帥は最後の手段に出る。

 

「叢雲、頼む」

 

 後ろで呆れていた叢雲は元帥の頼みに仕方ないわねと動く。

 

「ねえ、長門」

「なんだ叢雲。

 この子はやらんぞ」

 

 身体を使ってくちくいきゅうを隠す長門の耳元に顔を寄せるとなにやら囁きかける。

 

「っ!?」

 

 途端に長門の肩が跳ね、顔を青褪めさせるとくちくいきゅうを放り出して直立不動となる。

 

「失礼しました叢雲大佐!!」

 

 土下座する勢いで謝罪を述べる長門に肩を竦める叢雲。

 

「頭が冷えたなら任務に戻りなさい」

「はっ!!」

 

 叢雲の言葉に新兵のようにギクシャクとした足取りで下がる長門。

 現役の頃から手が付けられない時に毎回ああして叢雲に嗜めてもらってきていたが、何を言っているんだ?と尋ねてもどんな内容か未だに教えてもらえないでいる。

 

「……きゅ」

 

 その横で放り捨てられたくちくいきゅうがぽてんぽてんと小さくバウンドした上でぺしゃりと地面に転がりそれが止まるともぞもぞと体勢を直し始める。

 その様子に再び長門が暴走仕掛けるが、やっとこさ体勢を直したくちくいきゅうは長門が動くより先に二回り程の周囲を含めて黒い結晶体で全身を隠す。

 

「あれが『霧』の力か?」

『エエ』

 

 黒い結晶は数分と経たず崩れると中から駆逐棲鬼が現れた。

 

「あ゙ー、酷い目に遇った」

 

 ぐったりとしたそう漏らす駆逐棲鬼に元帥はなによりも先に突っ込みを飛ばしてしまう。

 

「あらかさまにサイズが大きくなっているな」

 

 くちくいきゅうの時には枕に手頃なぬいぐるみサイズだったのが解除した途端抱き枕にも少々余るほどまで巨大化したのだ。

 元帥が突っ込みを飛ばすのもさもありなん。

 

「理屈は知らん。

 というか俺こそ何でか教えてくれ」

「……」

 

 そんな回答に今度こそ元帥は脱力しきってしまった。




皆様イベントはどうですか?
私は意地でE3までは乙で耐えて海風と高波を手にしつつそこで力尽き未だにE6のラスダンを丙で踊ってます。

とまあヘタレなリアル艦これ事情はさておき漸く会談……になんなかったよ。

後、今作では艦娘は最高でも大佐までと裏設定があったり。

因みに叢雲さんの某は青葉と元帥に黙って上げてる黒歴史を思い出させてあげただけで脅したりとかはしとりません。

そろそろみんな大好きスーパーダイソンさんも出さなきゃな。

ところで防空棲姫の壊れ性能ってイ級とけっこう被っているような……

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