なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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これは厳しくしないといけないわね。


あらあら

 冷え切った感情を制御しつつ鳳翔はパワード・サイレンスにジャミング範囲から自分を外すよう命じる。

 同時に艦影が索敵に引っ掛かり旗艦の吹雪が驚いた様子で声を上げる。

 

「電探に感あり!? 

 嘘、距離200000、数は一、識別は艦娘!?」

 

 こんなに近い位置に発生した突然の反応に驚く吹雪に瑞鶴はほら見なさいと加賀に噛み付く。

 

「やっぱり逸れだったじゃない!!」

 救助に向かうべきと言う瑞鶴に加賀は反する。

 

「電探の反応が唐突かつあからさま過ぎるわ

 深海棲艦が擬装していない証拠はどこにもないわ」

「だから行ってみれば分かるでしょ!?」

「杜撰な浅慮で艦隊全体の安全を揺るがす真似は認められないわ」

「誰が浅慮よ焼鳥屋!!」

「その気の短さが浅慮だと言ってるのよ馬鹿鶴!!」

 

 再び始まる口喧嘩に吹雪と僚艦を組む望月が怠そうにごちる。

 

「もうさ、なんでもいいから帰ろうよ。

 いい加減支援間に合わせなきゃ提督が怒られるんだよ?」

「そうですよね…」

 

 支援艦隊として派遣されてこれまでに成功率はたったの二割。

 戦意高揚状態でこれでは話にならない。

 

「お二人共、ともかく件の艦と…」

 

 旗艦として意見を纏めようとした吹雪だが、直後背に感じた身の毛が総立つ殺気に言葉を途絶えそちらを確認した。

 

「え? 何、今の…?」

 

 姫級に匹敵する凄まじい気配に瑞鶴は軽い恐怖を覚え警戒を高め望月も怠そうな空気を抜いて艤装の状態を確かめる。

 そんな三人を余所に加賀は殺気に懐かしいものを感じ三人とは別の警戒高める。

 

「馬鹿鶴。

 貴女の言う通りだったわ」

「え?」

 

 唐突な言葉に虚を突かれた瑞鶴が目を丸くする横で加賀は瞳に警戒と僅かな畏れ、そしてそれらを塗り潰すほどの闘志を光らせていた。

 

「よく覚えておきなさい。

 私の予想通りなら、空母の限界を超えた戦いが見られるはずよ」

「空母の限界を…」

 

 戸惑う瑞鶴を尻目に殺気を放った当人を思しき艦娘が視認範囲に入る。

 

「あれは…鳳翔さん?」

 

 大湊でも見覚えがある温和な艦娘が先の殺気と繋がらず困惑する吹雪達。

 加賀は一歩前に出ると弓を握り直しいつでも構えられるよう確かめながら口を開いた。

 

「久しぶりね鳳翔」

「ええ。久しぶり」

 

 笑みを浮かべ応える鳳翔だが、その目に友好的な雰囲気は一切ない。

 

「あ、あの、お知り合いで…?」

 

 なにやら不穏当な空気に恐る恐るそう声を掛ける吹雪。

 

「貴女が旗艦ね?」

「え? あ、は、はい…」

 

 突然問われ戸惑う吹雪に目線を加賀に合わせたまま鳳翔は言う。

 

「この二隻を放逐していたのはどうしてかしら?」

「そ、それは…」

「艦隊を取り纏め与えられた任務を完遂するのは旗艦の責務。

 それを放り出して貴女は何をしているのかしら?」

 

 厳しい指摘に何も言えず俯く吹雪。

 それに瑞鶴が噛み付く。

 

「ちょっと、いきなり現れて何勝手なことを言ってるのよ!?」

 

 吹雪はちゃんと努力している。

 自分達が熱くなりその努力を不意にしてしまっているだけだ。

 責められるべきは自分だとそう反論しようとする瑞鶴だが、鳳翔はまったく取り合わず加賀に言う。

 

「上官への発言許可も取らないなんて、貴女は彼女をどういうふうに教育していたのかしら?

 …弛んでるわね」

「なっ…」

 

 叱責が加賀に及び絶句する瑞鶴。

 

「ちょっと黙りなよ瑞鶴」

 

 更に噛み付こうとした瑞鶴だが、口を開くより先にそれを怠そうな口調の望月が遮る。

 

「あんたが言えば言うほど私達が不利になるから静かにしてなよ。

 はっきり言えば迷惑なの」

「……」

 

 辛辣な望月の批難に拳を握り肩を震わせる瑞鶴を見て望月は鳳翔に謝罪を告げる。

 

「勝手な発言申し訳ありませんでした中佐」

「中佐!?」

 

 艦娘は軍の備品として扱われているが同時に最低限の人権を与えられ形ばかりではあるが階級も与えられている。

 だが尉官が与えられれば相当以上であり、佐官の位を与えられている艦は数隻いるかどうか。

 

「飛行甲板に線が入ってるじゃん」

 

 絶句する吹雪を尻目に望月は気付きなよと小声で注意する。

 鳳翔は望月の発言をよろしいと赦す。

 

「現在は准尉よ。

 肩肘を張らなくていいわ」

「ありがとうございます」

 

 怠そうに敬礼する望月におたおたする吹雪。

 しかし加賀は静かに問う。

 

「貴女は何故此処に?」

「頼まれたのよ。

 戦場の真ん中で軍紀を乱し敵だけでなく味方にまで害を撒く馬鹿を何とかしてほしいと」

 

 戦に結果だけを求めるな。

 勝つときも負けるときも全力を尽くし、その上で結果を受け入れろと装甲空母姫から教えられて来た信長にとってそれを邪魔する加賀達は不愉快で仕方なかった。

 不本意な勝利を得るぐらいなら死力を奮い負けるほうが余程望外。

 故に不利になると分かっていて信長はイ級を喚んだのだ。

 

「……誰から?」

 

 説教だけなら大湊まで来れば済んだ筈。

 わざわざ戦場に、それもただ一人で赴いた鳳翔に違和感を覚えた加賀は依頼した相手を尋ねるが、鳳翔は解答を拒否する。

 

「申し訳ないけど言えないわ。

 閣下から拝命した特務に関わるの」

 

 閣下という単語に加賀の眉が狭まる。

 

「閣下から?」

「ええ。

 当然だけど内容は一切言えないわ」

 

 困り顔で左手を頬に添える鳳翔。

 左手で鈍く光る指輪に加賀の口許が僅かにひくつく。

 どれも加賀を挑発するためにやってるのを解ってる加賀は、それに耐え先輩であり越えるべき壁であり一度と引き分け以上に持ち込めなかった宿敵を前に冷静に問う。

 

「…そう。

 それで、話は以上かしら?」

「ええ」

 

 にっこりと笑い、鳳翔は流れる動作で弓を構える。

 

「ここからは教育的指導(・・・・・)の時間よ」

 

 明確な死刑宣告と同時に味方に向ける類ではない殺気を放つ鳳翔。

 

「ひぃっ!?」

「うわぁ…」

「…はぅ」

 

 姫級の殺気をもろに浴び悲鳴を上げる瑞鶴と頬をひくつかせる望月と卒倒する吹雪。

 1番近くでそれを喰らった加賀は海面を蹴り一足で巨利を取りながら弓を構える。

 

「抗命するわ」

「いいわよ。

 一方的な粛清は気が滅入るもの」

 

 物騒では済まない台詞を宣う鳳翔に瑞鶴が悲鳴を上げる。

 

「今粛清っていわなかった!?」

 

 そう叫ぶ瑞鶴だが、加賀も鳳翔も取り合わず番えた弓を放つ。

 

「「第一次攻撃隊発艦!!」」

 

 ほぼ同時に放たれた矢はそれぞれの艦載機に変ずる。

 加賀から放たれたのは烈風、彗星一二甲、流星改、そして最も古くから共に戦い続けた九六式艦戦。

 一方鳳翔から放たれたのはベア・キャットと試製電光。

 

「試製電光と猫!?」

「ブルネイから戴いた餞別よ」

 

 驚く加賀に不敵に笑う鳳翔。

 飛び立ったベア・キャットが加賀の艦載機郡に食らい付こうと翔け烈風と九六式艦戦が返り討ちにせんと空中で激しいドッグ・ファイトを開始。

 物量で潰そうとする加賀と質の高い機体と精鋭のみを揃えた鳳翔。

 

「…すごい」

 

 一日でも早く加賀に追い付こうとしていたから分かる。

 加賀は本気で戦っている。

 にも関わらず数に劣る鳳翔が倍以上を相手取り善戦している姿は加賀が言った通り空母の限界を超えた存在だと思わせるに十分足りた。

 かつてのトラウマに身を震わせながらも瑞鶴は両者が繰り広げる航空戦から目を離せなくなっていた。

 しかしどれほど優れていても数の差は覆せない。

 倍の数を相手取るベア・キャットは機体性能と妖精さんの腕で拮抗を維持しようとするも、常に三対一以上の状況に遭い少しづつその数を減らしていく。

 元より加賀の妖精さんとて手熟ばかり。

 機体性能で勝ろうと腕に差がそれほどない相手が三倍以上となればベア・キャットに勝機は無い。

 互いの雷撃と爆撃が終わった時点で鳳翔の手持ちは辛うじて帰還が叶った試製電光も数機のみ。

 一方加賀の被害は烈風と九六式艦戦が計20機と流星改、彗星一二甲の被害が10機と十分余力を残していた。

 この結果にほっと胸を撫で下ろした瑞鶴だが、それを言葉にする前に望月がごちる。

 

「……こりゃヤバイわ」

「え?」

 

 まるで制空権を奪われたのがこちらだというかのように眉間に皴を寄せる望月。

 

「気付かないの?

 あれだけの爆撃と雷撃で鳳翔の損傷は?」

 

 望月の言わんとしている事にはっと気付き戦果を確かめる瑞鶴。

 20発以上の爆弾と魚雷に襲われた鳳翔だが、その損害はかすり傷という程度。

 なにより、鳳翔は全く同じたふうもなく口許には笑みが浮かんでいた。

 

「安心したわ。

 腕は差ほど鈍っていなかったみたいね」

 

 そう言葉を贈る鳳翔。

 その賛辞に加賀は航空戦の最中に抱いた懸念が本当だったと理解し言葉を漏らす。

 

「やはり手心を加えていたのね」

 

 鳳翔の妖精さんの力はあんなものではない。

 まだ21型さえ配備が叶わず九六式や九九式が最前線の空を必死に飛んでいた頃から戦っていた鳳翔の妖精さんの力は九六式艦戦で烈風とタイマンを張って退ける桁違いの実力者。

 そんな妖精さん達がいくら三倍以上の敵を相手にしていたしていたとはいえ紫電改二と同等の性能の機体を駆っていたのにあまりに呆気なさ過ぎた。

 

「ええ。

 今のを退けられないなら、本気で掛かるのは酷だと思いますから」

「…」

 

 聞きように因っては喧嘩を売っているようにしか聞こえない言葉だが、加賀はそれが一切悪意なく放たれた言葉であるとかく確信した。

 

「…まだ、なにかあるんですね?」

「勿論よ。

 余りに強力過ぎて私の妖精さんでも完全に扱いきるまでに時間を要する必要があったけれど、貴女になら使っても大丈夫ね」

 

 そう述べ、鳳翔は飛行甲板の裏に仕込んでいた14センチ単装砲を手に握る。

 

「っ!?」

「ここからは手加減は一切無し。

 殺す気で来なさい」

 

 宣言と同時に鳳翔がアサノガワを喚ぶ。

 

「来なさい、アサノガワ!!」

 

 鳳翔の呼び掛けにパワード・サイレンスと共に待機していたアサノガワが閃光の尾を牽いて鳳翔の元へと馳せ参じる。

 

「噴式戦闘機!?」

 

 ベアキャットに替わり飛行甲板に着艦を果たすアサノガワの姿に瑞鶴が驚きの声をあげる。

 

「それを何処で…?」

 

 特徴過ぎるラウンドキャノピーと下部に装備された凡そ戦闘機が装備するような物ではない大型の杭に尋常ならざる兵器だと確信し問う加賀。

 しかし鳳翔はその問いを一言でおわらせる。

 

「特務に中って頂いた物よ。

 さあ、始めましょう」

 

 簡単に終わらないでねと笑いながら告げ、アサノガワを発艦させる。

 

「っ!? 全機発艦!!

 なんとしてもあの機体を落としなさい!!」

 

 烈風と九六式艦戦だけでなく流星と彗星の爆装を取り外し文字通り全戦力をアサノガワにぶつける加賀。

 60機以上の艦載機がその物量を以て、更に一機残らず死に物狂いで押し潰そうと迫る。

 しかし、

 

「吶喊し貫きなさい!!」

 

 鳳翔の命と同時にアサノガワは機体をロールさせながら艦載機の群れに吶喊。

 機体強度任せに迫り来る艦載機を打ち砕き粉砕しながら蹂躙し尽くす。

 

「はあっ!!!???」

 

 杭はもとより、攻撃手段がまさかの体当たりとあって遠目から眺めていた瑞鶴は信じられないと間の抜けた悲鳴を上げる。

 

「馬鹿な……」

 

 アサノガワと呼ばれた噴式戦闘機が強大な力を秘めた機体だということは鳳翔が搭載を許していることから分かっていた。

 だが、これでは赤子の手を捻るでも足りない。

 正に鎧袖一触。

 戦いなんて烏滸がましい、これでは鳥を前にした羽虫ではないか。

 

「余所見をしている暇があるのね?」

「!!??」

 

 惚けた僅かな隙に鳳翔は手が届く至近にまで迫り、手にした14センチ単装砲を加賀の腹部に突き立てていた。

 

「これで一回貴女は死んだわね」

 

 一切の間を与えず単装砲が火を吹き加賀が吹っ飛ばされる。

 

「うぅ…!?」

 

 装填されていたのは模擬弾であったが、密着状態での砲撃は加賀に苦悶の声を漏らさせよろめかせるだけの威力で加賀をうち据える。

 

「加賀!?」

 

 空母が単装砲をぶっ放した事にも驚かされたが、それ以上に加賀がダメージを受けたことにショックを受ける瑞鶴。

 

「貴女もいつまで惚けているつもりかしら?」

「え?」

 

 ぞわりと走る悪寒に咄嗟に振り向いた刹那、瑞鶴の背後に回り込んでいたアサノガワの姿に瑞鶴は死を確信した。

 

「穿ちなさい」

 

 ドゥン!!!!と凄まじい衝撃波を伴い下部に装備された杭を瑞鶴目掛け解き放った。

 放たれたパイルバンカー波動砲が瑞鶴の髪留めを貫きその身体を吹き飛ばす。

 

「キャアアァッ!!!???」

「瑞鶴!?」

 

 波動砲の余波で海面に叩き付けられた瑞鶴を助けようとする加賀だが、鳳翔がそれを許すはずがなかった。

 

「大事なのは結構だけど、優先順位を失念するなんて貴女らしくないわね」

 

 気を逸らした加賀の脚を払い飛行甲板と弓で三角締めを決める。

 見る間もなく鬱血で顔を赤く染める加賀に、絞め殺す勢いでぎりぎりと絞り上げながら鳳翔は釘を刺す。

 

「何があって貴女が彼女に執心しているかは聞かないわ。

 だけど、務めを忘れあの人の顔に泥を塗る真似をこれ以上繰り返すなら、次は」

 

 私が貴方を沈めるわ。

 かつて鬼子母神と呼ばれ数多の深海棲艦を水底に叩き返した頃敵に向けていた背筋が凍るような声を最後に加賀は意識を刈り落とされた。

 

「あらいけない」

 

 後数秒で本当に絞め殺してしまうと気付き加賀を解放する鳳翔。

 

「あ~、もういい?」

 

 空気が緩んだのを察して望月がそう確認すると、鳳翔はにっこりと微笑みながらええ。と言った。

 

「積年の分はまた今度にしておくわ」

 

 まだあるんかいと突っ込みそうになった望月だが、寸でのところでそれを飲み込みはいはいと気絶した吹雪の頬をぺちぺち叩いて起こしに掛かる。

 

「ああ、一つ忘れていたわ」

 

 と、加賀のところに向かいたいけれど鳳翔が怖くてガクブルしていた瑞鶴に向き直る。

 

「な、何よ…?」

 

 喉元にせり上がってきた敬語を抑えいつもの強気な口調を発する瑞鶴に鳳翔はアドバイスを送る。

 

「加賀の隣に立ちたいなら赤城の真似をしても無駄よ」

「……!?」

 

 二人の擦れ違いは瑞鶴が赤城のように、加賀が翔鶴のように振舞おうとした結果起きていたものだ。

 息を呑んで目を見開く瑞鶴に鳳翔は続きを述べる。

 

「一度加賀に甘えてみなさい。

 そうすれば彼女が何をしようとしているか解るはずよ」

 

 それじゃあねと待機していたアサノガワを甲板に降ろし鳳翔は四人に背を向ける。

 そして待機していたパワード・サイレンスと合流を果たした鳳翔は島への航路を取りながら困ったふうに微笑んだ。

 

「まったく、世話の掛かる娘達ね」




皆良く考えてみてくれ。
赤城も加賀もRJも史実では凄まじく厳しい訓練を強いていたことは知っているはずだ。
ならばその先輩であり長らく練習艦として運用されていた鳳翔が厳しくなかったはずが無い!!

つまり鳳翔さんを怒らせてはいけない(戒め)

とまあ私見はさておき鳳翔さんの無双だったはずなんだけどあんまりそんな感じにならなかったな…
アサノガワ出しちゃうと無双じゃなくて蹂躙になっちゃうから仕方ないね。
余談ですが、二人はこの後お互いに正面からぶつかって紆余曲折の後濃厚な瑞加賀が誕生いたします。
次回は再びリンガから。
コメディーと爆弾が振る予定。

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