「なんでこんなことになったんだ?」
戻って来た北上が木曾と二人で感極まった酒勾を引っぺがしてから続々と部屋に入って来たメンツに思わずごちてしまう。
北上の次が鈴谷と熊野。
次いで古鷹と春雨とアルファ。
更に千代田と何故か山城と浮遊要塞にしまかぜ達。
最後に明石とあつみ改め宗谷と瑞鳳にチビ姫と監視の武蔵。
流石に全員は部屋の中に入りきらないので食堂の方に移動する羽目になった。
まあ、取り敢えずだ。
「なんだこのカオス」
艦娘と深海棲艦とバイドと深海棲艦化した艦娘と艦娘化した深海棲艦とバイド化した艦娘と元艦娘の連装砲って…
そろそろゲシュタルト崩壊しそうだ。
ついでに艦娘と深海棲艦の定義から考え直さなきゃダメかな?
「ともあれだ。
先ずは明石、お前何やってくれてんだ?」
俺が言っているのは瑞鳳について。
瑞鳳は現在軽空母ではなく双胴空母なる史実に無い艦となっている。
それも、その半身がチビ姫だというのだから訳がわからん。
これで名実共に親子なんだからねとチビ姫を膝に乗せてご満悦の瑞鳳。
その恰好は以前の胴着にもんぺは相変わらずなのだが、その下のインナーは白のコルセットと黒のプロテクターで固められている。
深海棲艦を意識したデザインなのかチビ姫と並ぶとそんなに違和感が無い。
ジロッと睨むも明石はからからと笑うばかりだ。
「本人たちがそうしたいと望んだからやった。
私は悪くない」
「深海棲艦を改造出来るってばらすなって言ったろうが」
こちらの事情に理解がある磐酒提督だからまだしも、下手な輩に見付かったらどうなるやら。
「春雨がこっちに来た時点でお察しだよ」
明石の言葉に春雨が沈む。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「落ち着いて春雨!?
春雨は何も悪くないから!?」
空気をどんよりさせる春雨を必死に宥める古鷹。
春雨ってこんな暗い娘だっけ?
というか明石ェ…
「流石に今のは無いんじゃないか?」
「だよね」
「ちゃんとごめんなさいって言わなきゃダメだよ明石?」
俺が怒るより先に木曾と北上と宗谷に責められてたじたじになってた。
「いや…あのね?
私は……ごめんなさい」
……もういいか。
明石の責任追求は三人に任せ俺は別の案件に移る。
「で、鈴谷と熊野は今後どうなるんだ?」
リンガには三隈しかいないからこのままリンガに所属する事になるんだろうと尋ねてみると二人は変な顔をした。
「あー、それなんだけどね」
「宜しければそちらの厄介にさせていただきたいと思ってますわ」
「……はい?」
なんでまた?
「正直さ、私達は人間が怖いんだよね。
だから人類のために深海棲艦と戦うのも嫌。
だったらいっそイ級のところに転がり込んじゃおうって」
「転がり込んじゃおうって…」
うちは艦娘の駆け込み寺じゃねえんだぞ。
「イ級、ダメかな?」
事情を知ってるだけに嫌とは言えずどうしたもんかと考え込んでいると宗谷からも頼み込まれてしまった。
「……しょうがねえな」
毒くらわば皿までってか?
いわくつきばっか集まってる気がしないでもないけど、そもそも俺がいわくつきだし仕方ない。
念のため武蔵にも聞いてみるか。
「そっちはいいのか?」
「提督は構わないと言っている。
無理強いしても仕方ない話だからな」
軍人としては言わずもがなだがと肩を竦める。
その辺りは俺が関与しようもないし、そっちはそっちでやってもらうしかないわな。
後は古鷹と話をして…
「なんで私を無視するのよ」
古鷹に来た事情を尋ねようとしたところで山城が割って入って来た。
別に無視した訳ではない。
「というか何で居るんだ?」
リンガには扶桑しかいなかった筈。
そう言うと山城はなんでか病んだ目で俺を見る。
「欠陥戦艦は御呼びじゃないのね?」
「誰がんな事言った!?」
こいつ面倒臭え!?
千代田経由でざっと聞いた経歴からこいつが鳳翔と一緒に居た山城だってのは分かってる。
「そうじゃなくて、ブルネイに帰れるんだからわざわざ俺に関わる必要ないだろうが!?」
「帰ってもきっついのよ!?」
そう言うとぶつぶつ不満を垂れ流し始める山城。
「艦数制限で戦艦の建造が出来ないから扶桑お姉様が来ないって決まってる状況の中、目の前で扶桑お姉様といちゃつく山城が居るのがどんだけ辛いか……不幸だわ」
うわぁ…
春雨を越える病みに周りまでドン引きさせられてるぞおい。
「というか、艦数制限ってなんだ?」
母港の登録可能数とは違うっぽいんだが?
俺の疑問に熊野が答えてくれた。
「横須賀を除く各泊地には艦種毎に一定数以上艦を集めてはいけないという決まりがあるのですわ」
「そうなのかー」
横須賀を上とさせるための政策の一環なんだろうな。
「じゃあリンガで引き取るってのは…?」
こう言ったらなんだが、リンガには山城いないし比叡が抜けたから空きが出来てると思うんだが。
そう聞いてみるも武蔵は否定する。
「大和型が二枠使うせいでリンガに空きは無いんだ」
「さいですか」
地方虐めいくない。
そう思うもこれも俺じゃどうにもならない問題だしな。
「そういうことだから私のために扶桑お姉様を見付けてきなさい!!
嫌だと言っても付いていくわよ?」
「何故にそうなる!?」
というかお前まで付いてくる気か!?
「ちょっとお前等からも「瑞鳳の快気祝い始めるよ!!」おぃぃっ!?」
助けを求めたけどいつの間にか北上が貰った竹鶴を開けて酒盛り始めやがった。
って勝手にしかも真昼間から酒盛り始めんな!?
「姫ちゃんも飲んでみる?」
「のむ!」
「燃料で割ってあげるからちょっと待ってね」
「子供に酒飲ませんな!?」
ああもうグダグタだよ!?
「なんでこんなことになったんだ!?」
もう訳わからん。
「まあまあ」
春雨が一心地着いて落ち着いたらしく慰めてくる古鷹。
……そういえば、
「ふと思い出したんだが鳳翔はどうしたんだ?」
こんな騒ぎなら鳳翔が黙ってる筈が無い。
元帥も動いたなら鳳翔だって動けたはず。
問いに古鷹は困った笑みを浮かべる。
「鳳翔はアルファが島に戻る少し前にバイドツリーに出掛けてしまいました」
「バイドツリーにか?」
あそこは今信長が頑張ってる最中だよな?
というか、俺ならともかく鳳翔が行くってどうなってんだ?
「ええ。
信長が要請をしに派遣したツ級の話を聞いた鳳翔が私が行くと飛び出したんです」
そう言って古鷹は信長の要請の内容を語り始めた。
〜〜〜〜
大平洋の真ん中、どの国の領海からも外れた場所に根差したバイドツリー。
その中枢では今現在も激戦が続いていた。
「沈ミタクナクバ去レ!!」
装甲空母姫から引き継いだ艤装から飛び立つB-29が艦戦の手が届かない上空高高度から爆撃の雨を降らせ敵対する艦娘達を襲う。
「三式弾発射用意……撃てぇ!!」
旗艦の日向の号令と同時に戦艦と重巡が砲門という砲門から三式弾を打ち上げ降ってくる爆撃を迎撃を図る。
豆砲弾の爆発に爆弾は大半が上空で爆散するも僅かな残りが艦隊を襲う。
「回避に集中しろ!?」
陣形を崩してでも避けようと走る艦娘達に信長が率いる艦が迫る。
「ソノスキヲイタダク!!」
「各個撃破などやらせるか!!」
真っ先に突っ込んだネ級の航路に那智が割って阻み至近距離で砲撃の殴り合いを開始。
「この隙を…」
「サセナイ」
スクロールを広げ信長に艦載機を放とうと符を構えた隼鷹にヲ級の艦載機が迫る。
「第一次攻撃隊各機迎撃を!!」
「飛龍さん潜水艦が狙っているのです!?」
「まずっ!?」
直衛に隼鷹の警護の指示を飛ばす飛龍にソ級が魚雷の狙いを付けているのを巻雲が察知。対潜攻撃を敢行して雷撃を阻む。
戦況は拮抗かやや艦娘が不利という状況の中、支援艦隊の状況報告を受けた鬼怒が批難混じりに報告の声を上げる。
「大湊の支援艦隊より入電!!
ワレシエンニマニアワズ!!」
「またか!!??」
ネ級との距離を計り直し隊列を直そうと動いていた那智が叫ぶ。
期待していた支援艦隊による状況打開が空振りに終わったことを受け日向は即座に判断を降す。
「削れるだけ削ってから退く!!
単横陣に切り替えソ級最優先に警戒しろ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
隊列を対潜に直す艦娘達を確認し信長はマタカと不快感を覚える。
「戦艦、重巡、副縦陣ニ切リ替エルワ。
手傷ハ最小限ニ抑エルヨウニ」
「ワカリマシタオニ」
「センスイ、クウボトトモニサイコウビニマワレ!!」
信長の指令にル級とネ級が艦隊陣形を整えさせる。
支援艦隊が間に合わないと判った時点で彼女達の攻めっ気は薄れ退く機会を図るものへと切り替わっている。
そのことを批難する気は一切無いが、同時に支援艦隊が何故到着出来なかったかを把握しているだけに信長はそれが不快でしょうがなかった。
だからこそ信長は厳しい状況の中イ級に何とかしてほしいとツ級を派遣させた。
(マサカ軽母ガ来ルトハ思ワナカッタケド)
餅は餅屋。
鳳翔が来たというなら任せようと無駄な損害を減らすため信長は回避に専念を開始した。
「この辺りで大丈夫です」
古鷹から借りたパワード・サイレンスのジャミングにより誰との遭遇も行わぬまま世界樹中枢海域に潜入した鳳翔は、それまで先導を担っていたツ級にそ断りを入れた。
「ワカッタワ」
鳳翔の断りにツ級は頷くとタノンダワヨと念を押し中枢本隊へと戻っていく。
「……さて」
去り行くツ級を見送った鳳翔はすぅっと目を細め夜偵改修された彩雲を封じた矢を番える。
「見付けてきなさい」
そう命じ放たれた矢は14機の彩雲に変じ空へと消えていく。
彩雲が放たれてから1時間程して、飛ばした一機から目標を発見したと報告が齎された。
「そう。
全機帰還しなさい」
帰艦命令を下し彩雲が全機帰投したのを確認すると見付けた方角へ舵を切る。
そうして航海を続けることしばし、向かう先に鳳翔は目当ての相手を発見した。
「この馬鹿鶴!!」
「言ったわね焼鳥屋!!」
まだそれなりの距離があるはずなのに聞こえてくる口論に鳳翔のこめかみがひくついた。
そして、その口から小さく感情が零れる。
「戦場でなにをやっているのかしらあの二人は?」
〜〜〜〜
「大湊の空母が喧嘩してるからなんとかしろ?」
え? なにそれ?
後ろで盛り上がる宴会とは打って変わって俺の頭ん中はこんがらがってるんだが?
というかさ、
「大湊って鳳翔が名前を挙げるぐらい精鋭揃ってたよな?
そいつらが戦場で喧嘩?」
んな素人集団じゃあるまいし…
「大湊の噂は聞いているぞ」
俺の疑問にウィスキー片手に武蔵が答えてくれた。
つか、お前も飲んでるのかよ。
「大湊は半年前の装甲空母鬼に主力の赤城と翔鶴を喪失している。
残った加賀と瑞鶴はそれが原因で互いにいがみあってるそうだ」
「……そうか」
また、あの装甲空母ヲ級の被害者か…
アレが残した爪痕は何時になったら消えるんだろうか?
「だがまあ、何れ解決するだろうさ」
何故かそう肩を竦める武蔵。
「何で分かるんだ?」
「少し前に演習で二人と会ったんだが、その時の様子がな」
アルコールで緩くなったのか武蔵は思いだしくつくつと笑い始め肩を震わせる。
「いやいやあれは傑作だった」
「頼むから解るように説明してくれ」
本人だけ分かる台詞とか勘弁しろよ。
そう言うと武蔵はすまないと頬を緩ませながら言った。
「加賀と瑞鶴の喧嘩の理由はお互いがお互いの相方の意志を引き継ごうとして起きているものだ」
隼鷹ではないが、あのすれ違いっぷりは中々に肴になると武蔵はグラスを傾けた。
投げ捨ててたフラグを回収してたら戦闘まで行けなかった。orz
次回は鳳翔さん鬼子母神モードでふ