気が付けばリンガの宛がわれた部屋だった。
「……あれ?」
どういう事だこれ?
1、今までのは寝ていた間に見た夢だった。
2、何等かの理由で沈みリンガに連れ帰られた。
3、これが夢で現在進行系で大ピンチ。
「……よし、1だ。間違いない」
そりゃそうだよね。
二次創作じゃねえんだからエロ同人みたいな被害に遭う艦娘がいたり深海棲艦を艤装にしてる艦娘なんて居るわけが無いよ。
いやはやこの身体になってから夢どころか睡眠欲も無かったからリアルな夢にいろいろ焦ったぜ。
さてと、折角なんだし今度はほのぼのした夢を見ようか…
「目が覚めたんだなイ級!!」
寝直そうとしたら木曾が部屋に飛び込んで来た。
「どうしたんだ木曾?」
「どうしたんだ木曾? じゃない!!
お前、一週間も昏睡したままだったんだぞ!?」
「……一週間も?」
ぐずる木曾の様子から嘘じゃなさそうだ。
ってことは…
「2か…」
現実は非情だよコンチクショウ。
「何が2なんだ?」
「こっちの話だ。
それよかそっちはどうなった?」
アルファがヘマをするとは思わないが、何が起きてもおかしくはない状態だった筈。
問いに木曾は難しい顔で話始める。
「千代田は無事に助けられた。
他の艦娘も生きていた奴はほぼ助けられたんだが、一人だけ無理だった」
「一人だけ?」
もう助からないから介錯してやったのか?
でも、木曾の表情はなんか違う気がする。
続きを促すと木曾は話を再開した。
「なあイ級。ストックホルム症候郡って知ってるか?」
「確か、加害者に依存するっていう病気だよな?」
唐突な質問に首を傾げたが、すぐに事情は把握した。
「艦娘を盾にバイドから身を守っていた男を嵌めたまではうまくいったんだが、盾にされていた艦娘が相手に依存していたのに気付かなくてな」
その後で凄まじい修羅場になっただろうことは容易に察せたよ。
「そうか。
それで、やっちまったのか?」
「いや。
錯乱して襲い掛かって来たから気絶させておいたらいなくなっていた。
海に出るまではアルファが確認したんだがその後は行方を眩ました」
単艦で海に出たというなら今頃どこかの深海棲艦に襲われて沈んでいるだろう。
可哀相だが、そんな状態で下手に生き残るよりマシかもしれないな。
「バイドの処理は?」
「問題無い。
大半はアルファが取り込んで残りは施設ごとΔウェポンで焼き払って駆逐した。
念のため取りこぼしが無いか確認の為に施設跡に残ってたけどもう帰還しているぜ」
当初の予定では恣意行為も兼ねてバルムンクを使うかって話もあったんだよな。
今更ながらストライダーが墜ちててよかった。
「すまなかったな木曾」
「…どうしたんだ?」
「俺さ、頭がちゃんと冷えてみて俺達が間違ってたって思った」
「……」
そう言うと木曾はすごく困惑してしまった。
「先に言っとくが、トラックに殴り込みを掛けたことそのものは間違いだなんて思ってないからな?
だけど、アルファにバイドの力を使わせたりバルムンクを使おうとした事はやり過ぎだったってそう思う」
そう言うと木曾は納得したと緊張を解いた。
「……そうだな。
そこだけは俺達が間違ってたな」
バイドの力を撒き散らさなくとも解決は出来た。
なのに、怒りに任せ俺達は使ってはならない力を奮った。
これじゃああの高雄達と違いなんてあって無いようなもんだ。
「それはそれとして、他の皆は無事なのか?」
1番気になるのはヘ級だ。
最後の瞬間一緒に雷撃を喰らっていた筈だからまた沈んでいるだろう。
そう尋ねると木曾は凄く困った様子で頬を掻いた。
「浮遊要塞としまかぜ達は無事だったから明石が修理したんだが、ヘ級がちょっとな」
「なにかあったのか?」
「それなんだが「ぴゃあぁっ!!」」
木曾の言葉を遮り奇妙な鳴き声と共に扉をぶち破る勢いで開いたと同時に凄まじい衝撃に襲われた。
「げふぅっ!?」
今度はなんなんだ!?
「姐御が目を醒ましたよ!!」
感覚から誰かに抱きしめられてるみたいなんだが何がなんだかまったく訳分からん。
「とりあえず落ち着いてイ級を放せ!?」
悪意からではなさそうなのでどうしたらいいかわからずされるがままになっていたら木曾が助け舟を出してくれた。
「ぴゃあ?
あ、ごめんなさい姐御!?」
そう言って下ろしたの軽巡酒勾であった。
いやさ、俺に酒勾との面識は無かった筈なんだが…って、姐御?
「……もしかして、ヘ級?」
姐御呼びの軽巡なんてあいつぐらいしかいないからまさかと思いつつそう確認してみると、酒勾は凄く嬉しそうに破顔して再び俺を抱いた。
「ぴゃあっ!!
姐御が気付いてくれたよ!!」
嬉しそうなのは一向に構わないんだがさ、解せぬ。
「なんでこんなことになったんだ?」
呆れた様子で酒勾を引っぺがそうとする木曾と舞い上がってる酒勾に挟まれた俺はどうしたらいいか分からず、様子を見に来た他のメンツが来るまでしばらく抱き枕にされたのだった。
〜〜〜〜
皆様お久しぶりです大和です。
横須賀鎮守府に着任して早一月経ちました。
「ご、ごめんなさい!!」
ですが鎮守府の空気は最悪でした。
本当に、居心地が悪過ぎて心が折れそうです。
因みにですが、今目が逢うなり泣いて逃げたのは満潮ちゃんです。
ブルネイの満潮ちゃんはあんなに強気な女の子だったのに、こちらの満潮ちゃんは(私限定で)涙腺が緩い娘です。
理由は個体差ではなく前任の大和による暴行が原因です。
満潮ちゃんだけではありません。
提督に対し反抗的な態度を取る娘は皆矯正という名の制裁を受けていたそうです。
お陰でその娘と仲のいい娘からも敵意が絶え間無くますます肩身が狭いです。
他にも前任の悪行の怨みをぶつけようと画策する娘も居て、筆頭の多摩さんと大井さんなんて着任の挨拶周りをしていた際にいつか艦首を引き裂いてやると言われました。
ぶっちゃけてしまうと私に友好的な態度で話し掛けてくるのは長門さんと武蔵さんだけです。
「ブルネイに帰りたい」
伊勢さんにホテルとか演習番町とかからかわれてたのが幸せなことだったんだなと思いながら食堂の隅でご飯を食べまてす。
あ、今日のお味噌汁はは赤味噌に鰹出汁だ。
「大和」
突然の呼び掛けにびくりと肩を跳ねさせてしまいました。
衝撃でお味噌汁が零れそうになるのを留めて顔を上げるとそこに居たのは加賀さんでした。
「な、なんでしょうか…?」
戦艦クラスの眼光を放つ目で睨まれ竦んでしまっていると加賀さんは短く用件を告げました。
元々戦艦なのに戦艦クラスの眼光というのも変ですが聞き流しておいてください。
「朝食が済んだら執務室に行きます」
「…はい」
正直加賀さんは苦手です。
戦艦クラスの眼光で睨むだけで何も言ったりしてこない分他の娘より対応がしづらいです。
加賀さんはどうしてか立ち去らないので尋ねてみました。
「あの、」
「なにか?」
「……いえ」
尋ねるつもりでしたが声を掛けるだけで限界でした。
どうしていいか分からず逃げるように私は味の無い朝食を片付けると加賀さんは行きますよと先導しました。
何故にと思ったのですが、よく会話を思い出すとさっき行きますと言っていたので待っていたのかと気付きました。
「最近どう?」
「ふぇっ!?」
い、いきなり質問さるました。
唐突過ぎるしそもそもなにを尋ねられているか分からないので答えていいか分かりません。
当たり障りないところを言うべきですか?
「え、えぇと、長門さんと武蔵さんによくしてもらってます」
「……そう」
うぅ、空気が重たいです。
「あの」
「何?」
「な、なぎゃとさんは大丈夫なんですか?」
おもいっきり噛んでしまいましたが加賀さんは気にしないでくれました。
「…。長門なら大丈夫よ。
あの人が誰と接していたからって敵意を向ける馬鹿は前の大和ぐらいよ」
「ふぇ?」
確かに長門さんは凄い艦ですけどそこまで言われる方だったんですか?
考え込んでいると加賀さんが溜息を吐きました。
「知らないの?
長門は元帥閣下が提督として活躍していた頃からの現役艦よ」
「……えぇっ!?」
それって物凄い大先輩じゃないですか!?
建造されてから半年しか経ってない私だって元帥閣下の直轄だった艦が凄い艦ばかりだって知ってますよ。
と言いつつ私が知ってるのは大湊の加賀とリンガの神通だけでしたけど。
「長門が目を光らせてるから心配しないで貴女は周りに馴染む努力をしなさい」
「は、はぁ…」
もしかして、気を遣ってくれたのかな?
流石にそれは自意識過剰ですよね。
「あの、不躾ついでにお聞きしたいんですが、元帥閣下の旗下艦で現役のお方って…」
馴染む努力をしなさいと言われたので意を決して尋ねてみました。
すると加賀さんは一瞬だけ怖い目で私を見た後歩きながら答えてくれました。
「現役で戦場に出ている艦は横須賀の長門と大湊の加賀と宿毛湾の伊八号の三隻だけよ」
常識だから覚えておきなさいとお叱りを受けてしまいました。
「すみません」
「……ふぅ」
謝罪を述べると加賀さんはまた溜息を吐かれました。
「それと第一線を離れて予備科に下がっているのはショートランドの叢雲とリンガの神通。
それとラバウルの陸奥に元帥付きの大淀とブインの足柄と羽黒。
最後にタウイタウイの龍驤と扶桑の12隻が現役で残ってる艦よ」
「はぁ……あれ?」
今、12隻って言いましたよね?
「一隻足りなくないですか?」
そう確認すると加賀さんはぽんと手を叩く。
「彼女の事は最初に言ったつもりになってたわ」
単純なポカだったみたいです。
指摘して睨まれるのが怖いので黙っていると加賀さんは少し気恥ずかしそうに小声で呟き始めました。
「史上最強の空母とも謳われる彼女の名前を忘れるなんてどうかしてたのかしら?」
「あの、そんなに凄い艦なんですか?」
はっきりと畏敬を篭った声にそう尋ねてみると加賀さんは当然よと言う。
「飛行場姫と護身用の14センチ砲一つで相対し、かつ飛行場姫の右手を奪って斥けさせた張本人なんだもの。
日本の艦娘に彼女を敬わない空母はいないわ」
まるで自身の誇りだというように胸を張る加賀さんですが、あの、それいろいろと間違ってますよね?
空母が艦載機無しでしかも単装砲一本で姫を撃退って目茶苦茶じゃないですか。
「一度お目に掛かってみたいものです」
そう言うと加賀さんが本気で睨んできました。
「……貴女、ブルネイからの転属よね?」
「え、ええ、建造されて半年も経ってませんが…」
何が琴線に触れたのか全く理解できずたじろいでしまう私に加賀さんが声を発しました。
「ブルネイの鳳翔と言えば飛行場姫から鬼子母神と呼ばれた猛者中の猛者よ。
なんでブルネイに居た貴女が知らないのよ?」
「……………………………………………………………………………えぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇええええ!!!!????」
はしたないとはわかっていても叫ばずにはいられませんでした。
〜〜〜〜
ハワイ諸島。
深海棲艦の発生によりアメリカ合衆国が放棄したため、島と運命を共にすると残った僅かな島民のみが暮らす場所であった筈である。
しかし現実にはハワイ諸島には多くの艤装を背負う少女達、艦娘の姿が散見していた。
この光景の理由はアメリカがハワイの奪還に成功したからか?
否。
アメリカは今だ近海の制海権の維持するのみに留まっており、ハワイ諸島への進攻は進んでいない。
そんな理屈が揃わない不可解な光景が広がるハワイの道路を、四人分の座席が埋まったジープが走っていた。
ハンドルを握るのは笑顔を張り付かせ金色の髪を風にたなびかせる愛宕。
後部座席には笑顔で外に向けて手を振る軽巡棲鬼と自身の爪に注視する空母水鬼の姿。
そして助手席には瞳に濁った光を宿した少女。
異様な四人を乗せたジープは暫く走り続け有刺鉄線とフェンスで囲まれた広い軍事施設へと入っていく。
施設の前でジープを停めた愛宕は軽巡棲鬼達と別れ少女を伴い施設の奥へと進んでいく。
電灯の明かりがリノリウムの床に反射する無人の廊下を歩いていると前から声が飛んで来た。
「戻ったようだね愛宕」
その声の主は30代前後ほどと見受けられる男であった。
愛宕は掛けられた声に笑みを深くする。
「あら?
如月博士からお迎えだなんて珍しいですね」
如月博士と呼ばれた男は眼鏡に軽く触れながら緩い笑みを湛えて言う。
「研究成果が気になったからね。
それに、たまの運動は脳の刺激を良くしてくれるから新しい可能性の発見には必需だよ」
「そうですわね」
如月博士の言葉に笑顔で頷く愛宕にさて、と如月博士は問う。
「新しいミサイルの効果はどうだったかな?」
「威力は十分でしたわ。
でも、博士が狙っていた波動による転換促進の効果はあまりありませんでした」
愛宕の言葉に如月は顎に手を添える。
「やはり波動での妖精さんの加護の付与は上手くいかないか…」
「兵器としては申し分なかったですよ?
それじゃ不満なんですか?」
愛宕の問いにいいやと如月博士は首を振る。
「妖精さんの加護を無闇に撒き散らしても効果が薄いことは最初から分かっていたからね。
ただ、クライアントはさぞうるさいだろうと考えるとね」
茶化すように肩を竦める如月博士に愛宕はご愁傷様と労いを向ける。
不穏当な内容とは反した穏やかとさえいえるやり取りの後、愛宕は後ろで俯いていた少女を前に出す。
前に出された少女を眺めた後、興味深そうに如月博士は問う。
「…雷か。
中々に
「帰り際に拾ったんです。
博士ならいい感じに堕としてくれそうだって思ったのよ」
そう愛宕の言葉に雷は濁った瞳で如月博士を見上げる。
「私聞いたの。
木曾と北上を殺す力を貴方がくれるって」
濁った瞳の奥に煮えた憎悪を光らせ問う雷。
問いに如月博士はああと頷く。
「君に代償と滞貨を払う意志があるなら私は君を強くしてあげよう」
にっこりと笑いながら告げる言葉に雷は問う。
「何をすればいいの?
貴方に抱かれればいいの?」
「生憎私はSEXに興味は無いよ」
大したことではないと口にする雷に如月博士は否定し、まるで諭すような口調で説明を始める。
「君が支払う滞貨は彼女達と協力して戦うこと。
そして代償は艦娘を辞めて深海棲艦となることだ」
「…」
その代償を聞いた雷は僅かな間を置いた後答えを発す。
「私、深海棲艦になるわ」
濁りきった瞳に灯る憎悪に衝き動かされるまま雷は宣う。
「あの人を殺したあいつらを殺すためなら私はなんだって構わない。
深海棲艦でもバケモノでもなんにでもなってやるわ」
雷の言葉に如月博士は嬉しそうに微笑んだ。
「いい子だ」
まるで百点を取った娘を褒めるように優しく頭を撫でるとその手を握り歩き出す。
「愛宕、暫くこの娘に付きっきりになるから大和を頼むね」
わかりましたと応じ笑いながら手を振る愛宕に見送られながら如月博士は雷の手を引き、深海より深い闇が広がる廊下の奥へと歩き出した。
ちうことで母港(仮)帰還、大和(喪)奮闘記、ハワイの三篇でお送りしました。
如月博士のイメージはサイコパスの槙島をイメージしえいただければ大体そんな感じかと。
cvは速水翔様で←
次回は鳳翔さんが何やってたかの予定です。