なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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アリガトウゴザイヤシタ


イママデ

 雨が降ってくる。

 一粒が駆逐艦を簡単に粉砕し得る致死のミサイル()の中、俺はただひたすらに走り続ける。

 

「おぉぉおおおおおお!!!???」

 

 全身のファランクスが休む暇なく弾幕を打ち上げ落ちてくるミサイルを迎撃。

 空が黒く染まるほどに黒煙が広がるも、愛宕の放つミサイルはまだ終わらない。

 

『おうっ!!』

『しれぇ!!』

 

 俺が対空砲火を張って開いた射線にしまかぜとゆきかぜが飛び込み砲火を返す。

 しかし直撃の刹那、しまかぜ達が放った砲弾は見えない壁にぶつかり爆散する。

 

「馬鹿めと、言って差し上げますわ」

 

 お決まりの台詞を宣う高雄に俺は小さく舌を打つ。

 

「現代兵器うぜぇ…」

 

 高雄が砲弾を防いだ方法はクラインフィールドやATフィールドといった超兵器の類ではない。

 高雄達が展開しているのは強力な磁場を形成して敵弾を防ぐという所謂電磁装甲だ。

 応用が効くクラインフィールドに比べたら防御一辺倒かつ連続展開時間が長くないとか弱点もいくつか見付かってはいるんだが、その弱点を突こうにもしっかり補われて狙うに狙えない。

 

「ぱんぱかぱーん!!」

 

 楽しそうな愛宕の号令と同時に艤装から数十発のミサイルが放たれる。

 幾度目なのか考える暇もなく俺はファランクスを全基稼動させ降ってくるミサイルを妖精さんに任せて高雄に集中する。

 同時に高雄の攻撃準備が終わる。

 

「フルチャージ、撃てぇ!!」

 

 レールガンが放たれ電磁加速された劣化ウラン弾が俺に迫る。

 

「く、そ、がぁぁぁああああ!!??」

 

 放たれてからの回避では間に合わない致死の一撃をクラインフィールドを一点に集中させ辛うじて弾く事が叶うが、クラインフィールドの減衰が更に進んで残量三割を下回ってしまった。

 クソッ、どうしたらいいんだ畜生!!??

 電磁装甲を貫くにはファランクスの弾幕が必要なのにそのファランクスはミサイルの迎撃で手一杯。

 クラインフィールドでミサイルをカバーしようものなら今度は高雄のレールガンにぶち抜かれて終わる。

 残る手段は超重力砲で薙ぎ払っちまうことだが、そもそも使うための貯めの時間が稼げないから使うことが出来ない。

 そう考える間にもミサイルの雨は絶え間無く弾薬の残量への懸念や砲身の冷却が追い付かないとそこかしこで妖精さん達が悲鳴を上げている。

 

「ガッ!?」

 

 突然の衝撃にバランスを崩しそのせいで生まれた弾幕の隙間を抜けたミサイルが至近に突き刺さり爆発する。

 

「ガァァァアアアッ!!??」

「うふふ。

 私達の事だけ見てくれなきゃ駄目じゃない。

 じゃないと、お仕置きよ?」

 

 ねっ、と人差し指をちょんと突き出す愛宕。

 回避行動を読んだ愛宕の砲撃を喰らってしまったらしい。

 しかもまずいことに今ので一気に中破まで持って行かれた。

 

『ぽいっ!!??』

 

 俺が喰らったことにゆうだちが怒り愛宕に吶喊を仕掛ける。

 

「戻れゆうだち!!??」

 

 いくら魂がバイドでも連装砲ちゃんでは無謀だ!!

 俺の制止は間に合わず愛宕はゆうだちに躊躇いなく副砲を叩き込む。

 

『ぽいっ!?』

「喰らいなさい!」

 

 砲撃に出鼻を躓かれたゆうだちを愛宕は更に蹴り飛ばしゆうだちが宙を舞う。

 

「ゆうだち!!??」

『おうっ!!』

 

 海面に叩き付けられる直前でしまかぜが受け止めたが、砲身は割れ胴体には激しい凹みが生じていた。

 あれではもう戦闘には参加出来ない。

 

「ゆうだちを連れて下がれしまかぜ!!」

 

 とどめを刺そうと向けられた高雄のレールガンの射線に飛び込みクラインフィールドで二人を庇いながらそう指示を飛ばす。

 

「逃がさないわよ」

 

 レールガンを防いだ直後に再び愛宕がミサイルを放つ。

 テメエの弾薬はどんだけだよド畜生が!!??

 

「だが断る!!」

 

 ミサイルの雨をクラインフィールドで防ぎ俺は高雄に突っ込む。

 

「お相手致しますわ」

 

 吶喊してきた俺に対し高雄はレールガンのチャージを切って通常の砲撃を行う。

 

「まだだぁあ!!??」

 

 今出せる限界まで加速し身を削る至近弾に歯を食いしばって耐えながら沈黙寸前まで消耗したクラインフィールドを張り高雄に体当たりを打ち噛ます。

 電磁装甲に阻まれその余波で身を焼かれながらも俺はダメコンで強引に押し切り電磁装甲が落ちた瞬間高雄の砲身に噛み付いた。

 

「なんて無茶を!?

 とても素敵ですわ!!」

 

 響く高雄の声と共に飛んだ拳が俺を吹き飛ばすが、その代償に砲身を噛み砕き破砕することに成功した。

 海面に叩き付けられた瞬間尻尾で海面を叩き強引にバランスを取り戻して成果を確認する。

 長20、3センチ単装砲とでも呼ぶのが正しそうな高雄の主砲は根本からへし折れ使い物にならないのは人目にも明らか。

 クラインフィールドとダメコン一個使ってこれじゃあ赤字もいいとこだが、少なくともただじり貧だった情況から一矢目が入ったのは大きい。

 

「ふふふ、ああ。とても痛いですわ

 痛くて痛くてとっても気持ちいい…」

 

 砲身を砕かれた痛みがフィードバックしているらしく顔を紅潮させて蕩けた笑みで喜ぶ高雄。

 それだけならすっげえエロくて最高なんだろうが、生憎シチュエーションのおかげさまで悍ましいことこの上ない。

 

「いいなぁ高雄ってば。

 私にも痛いの下さい」

 

 高雄の様子に愛宕が羨ましそうにそうせびる。

 痛いのが欲しいって?

 

「存分に喰らえよ」

 

 そう吐き捨てた直後愛宕の足元が爆発する。

 

「キャア!?

 っもう、不意打ちなんて狡いわよ」

 

 ゆきかぜが放った魚雷の被雷で小破以上中破未満という程度にダメージを負った愛宕。

 

「見えるように当ててくれたらもっと気持ちいいのに」

 

 んな文句を言うのはテメエだけだ。

 つうかここからどうしたもんか。

 残るダメコンは後一つ。

 クラインフィールドがダウンしてなきゃ自爆前提で相打ち狙いの超重力砲を叩き込むんだが、クラインフィールド無しでやれるほど状況は優しくない。

 クラインフィールドの復活までのおよそ一時間を逃げ回って時間を稼ぐのが最善なんだろうけど、それをさせてくれるほど甘い相手でもない。

 

『ぽいっ!!』

 

 ゆうだち!?

 退避しろって言ったのになんで!?

 そちらを振り向こうとした俺の頭上を深海棲艦の艦載機が通過し高雄達に爆撃と雷撃を敢行する。

 

「浮遊要塞か!?」

 

 見ればしまかぜとゆうだちを頭に乗せた浮遊要塞が口から艦載機を飛ばしていた。

 

「オマタセシヤシタアネゴ!!」

 

 カセイシヤス!! と言うなり高雄に向け砲を放つヘ級。

 って、今のは…?

 

「喰らいなさい!!」

 

 今見えたものを問い質す暇もなく愛宕が対空ミサイルを放ち艦載機を撃ち落とし浮遊要塞へもミサイルを降らせる。

 

『おうっ!!』

 

 浮遊要塞と共に頭の上でしまかぜが対空放火を上げミサイルを撃ち落としミサイルを防ぐ。

 二人の加勢により生まれたこの好機を逃すわけに行かない。

 

「プランD行くぞ!!??」

 

 これで決めるため俺は怒鳴り超重力砲を展開。

 チャージを開始したことに気付いた高雄が砲を向けるが俺は止まらない。

 

「加勢が加わったからだけで簡単に切り札を切るなんて、馬鹿めと言って差し上げますわ!!」

 

 狙い済ました副砲が飛来するのを俺は身をよじり避けようと試みるが、完全に回避できず砲弾は頭に削りながら掠り、衝撃で右目の探照灯がぶち壊れ最後のダメコンが発動したが構わねえ。

 俺の狙いは超重力砲を叩き込むことじゃない(・・・・・・・・・・・・・・・)んだからな!!

 

「っ、高雄それ罠よ!?」

「え!?」

 

 気付いた愛宕が忠告したがもう遅い。

 忠告が間に合わず高雄がとどめの一撃をと砲撃を放つのと同時に俺は超重力砲のチャージを放棄して最大船速で回避しながら高雄のどてっ腹にラム・アタックをぶち噛ます。

 

「ぐふっ!!??」

「ぐぅっ!!??」

 

 無茶を重ねたお陰で洒落にならない衝撃を受け流し切れず艦首が潰れたがこれでいい!!

 

「ゆきかぜ、ヘ級、やれえぇぇっ!!??」

「イキヤスアネゴ!!」

『しれぇ!!』

 

ラムアタックの衝撃で動きが停まったその瞬間にゆきかぜとヘ級の魚雷が一斉に群がり高雄が爆炎に飲み込まれた。

 

「高雄!?」

 

 大破炎上する高雄に駆け出す愛宕。

 その隙にヘ級と浮遊要塞が俺を回収に掛かる。

 

「ムチャシスギデスアネゴ」

「そういう作戦だったろ?」

 

 ソウデスガと言葉を濁すヘ級。

 プランDは所謂ピンチとかそんな紙飛行機のネタではなく、超重力砲を餌に俺に攻撃を集中させている隙に他の仲間が必殺を狙うデコイ戦術だ。

 相手が『霧』の脅威を把握している必要がある上射線の問題から高確率で超重力砲をキャンセルする可能性があるから無茶苦茶資材を喰う割に合わない戦術だって結論が出てたんだが、今回は想定以上の効果を発揮してくれた。

 

「高雄、まだ意識はある?」

 

 業火に焼かれる姉の姿に愛宕は笑顔のままそう問い掛ける。

 

「勿論よ。

 ああ、これが死ぬ痛みなのね」

 

 とても気持ちいいですわと高雄は笑う。

 その言葉にただただ気持ち悪いとしか思えない俺を他所に二人の会話は続く。

 

「ねえ愛宕、私は次は何になるのかしら?」

「それは分からないわ。

 だけど、これからはずっとずっとその気持ちいいのが続くのよ」

「そうね。

 ええ。とっても楽しみね」

 

 何を言ってんだこいつら?

 艦娘に次なんてない。

 だってのに、こいつらは次があるって信じてやがる。

 

「じゃあね愛宕。

 また逢いましょう」

「またね高雄」

 

 そう言い残し高雄は海に没した。

 死に別れる相手との会話とは思えない軽さに思わず経過を黙ってみていた俺達に愛宕が笑顔のまま向き直る。

 

「さってと、高雄も沈んじゃったし私は帰りますね」

「ハイソウデスカトイカセネエヨ」

 

 動けない俺に代わりヘ級がそう威嚇する。

 気概は嬉しいんだがヘ級や、お前じゃミサイルの相手は難しいよ。

 浮遊要塞も艦載機を使い尽くしてるし去るってなら素直に逃がすべきだ。

 

「ふふっ、せっかくだけど遠慮しとくわ。

 だって貴女達」

 

 もう死んでるものと言った直後、俺は爆炎に飲まれ意識を断ち切られた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 爆炎に呑まれた姐御とあっしの身体が燃えながら沈んでいく。

 

「ナ、ナニガ…?」

 

 多分雷撃を喰らったんだと思う。

 だけど重巡の艤装に魚雷を撃った形跡は無かった。

 潜水艦が潜んでいたのかたまた…

 

「ッ、アネゴ!!??」

 

 誰がやったかなんてどうでもいい。

 それよりもアネゴだ。

 アネゴは普通の深海棲艦じゃない。

 あっし達のように復活出来る保証がないんだ。

 深海に沈んでいく崩れかけた姐御を上手く動かない身体を必死に動かしてなんとか捕まえる。

 

「デモ、ココカラドウシタラ…」

 

 浮き上がるだけの浮力を姐御はもとよりあっしにももう残っていない。

 浮遊要塞に助けを求めたいけどあいつはしまかぜ達を何とかしているだろうから期待できない。

 そう考える内、あっしは沈むことがこんなに怖い事だった事に気付いた。

 

「……イヤダ」

 

 さっきまで何とも思わなかったのに、暗く冷たい水底に沈むのが怖い。

 あの闇の中に帰ることがこんなにも怖いことだったなんて知らなかった。

 姐御が沈むのは避けろと言うのも当然だ。

 あの明るくて温かい世界を知っている者が、こんな暗くて冷たい世界に耐えられるわけがない。

 

「セメテ、アネゴダケデモ…」

 

 掴んだ姐御の身体の上で再浮上を必死で試みる妖精さん達の姿になにか手はないかと視界を廻らせたあっしはあっしのすぐ後ろに一人の艦娘の姿を見付けた。

 

「ダレダオマエハ?」

 

 よく見ればその姿は陽炎のように薄く透け、それが普通の存在ではないことを簡単に解らせた。

 透けた艦娘はぱくぱくと口を開き何かを伝えようとしている。

 

「ナニガイイタインダオマエハ!?」

 

 叫んだことで自分の崩壊が速まりそれに気付いた妖精さん達が焦る。

 …待てよ。

 

「ヨウセイサン、コイツガナニヲイイタイカワカラナイカ?」

 

 そう問うと妖精さんはなんの事か解らないと言う。

 つまり、こいつはあっしにしか見えていないのか?

 この土壇場で幻覚に惑わされている隙なんてないのに!!

 と、妖精さんの一人が俺に何が見えているのか尋ねた。

 

「カンムスダ。

 ナニカイイタイラシイガサッパリワカラナイ!!」

 

 そう言うとその妖精さんは艦娘の名を問い質した。

 

「ワカラナイ!!」

 

 というか名前なんて最近気にし始めたぐらいなんだからわかるわけもない。

 妖精さんは懸命にその艦娘の容姿を確認したいと言った。

 

「エット…」

 

 言われるままに艦娘の姿を見たあっしは記憶を頼りになんとか説明してみる。

 

「ギソウトフクハコノマエノエンシュウニイタケイジュントオナジダ!!

 アト、カミガミジカクテイロイロホソイ!」

 

 見た通りに告げると妖精さんは最後に尋ねた。

 そいつは猫っぽいかと。

 

「イヤ、バカッポイ!!」

 

 陽炎が何か言いたげだが無視。

 妖精さんはあっしの答えを聞くなり身体を攀じ登りながら叫ぶ。

 

−−そいつは『酒勾』だ!!

 

「サ…カ……ワ……?」

 

 どうして?

 知らない名前の筈なのに、その名前がひどく懐かしい。

 あっしは酒勾を知っている?

 ……違う。

 知っているんじゃない。

 あっしは、私は酒勾(彼女)の無念から産まれた深海棲艦なんだ。

 一度として戦場に立つことも許されず、更に傷一つ負うことも出来ずに大戦を越し、最後はあの光の中で燃え尽きた酒勾の無念を汲み上げて生み出された存在だったんだ。

 自信の生い立ちを思い出した私の中に酒勾の声が響く。

 

−−助けたい?

 

 当たり前だ。

 姐御は私をここまで連れて来てくれた恩人。

 あんな暗い場所(水底)になんて行かせたくない。

 その為になら、この身がどうなっても構わない。

 

−−分かった。行こう。

 

 そう酒勾は私に手を伸ばす。

 あの手を取れば姐御を掬い上げる事が出来る。

 理由は分からないけど、そうなんだと核心があった。

 だから私はその手を取った。

 すると私の身体が淡く輝き優しい温かさに包まれる。

 

「アネゴ、オタッシャデ」

 

 そう私はお別れを残し光の中に溶けていった。




ということで高雄撃破及びヘ級離脱となりました。

細々解説は必要かと思いますが次回に関わる点が多いため解説は無しとさせていただきます。

次回は後始末。


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