なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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現代兵器が!!??


なんで

「ざぅあらぁああああっ!!??」

 

 自分でもよくわからない咆哮を吐き出しながら魚雷と砲撃をかい潜り駆け回る。

 総勢20隻の艦娘に対して俺達はたった3隻。

 普通ならとっくの昔に踏み潰されて終わって終わってるんだろうけど、ストライダーのお陰で脱落0で未だ耐え続けていた。

 いやホントストライダー様々だよ。

 空母が艦載機を失いほぼ置物とした後も酸素魚雷や直撃コースの致命的な砲撃をバリア波動砲で防いでくれるもんだからクラインフィールドの消耗も殆ど無い。

 とはいえ回避を怠れるほど状況は甘くないのは事実。

 加えてこっちも攻めあぐねる事態になってるんだけどな!!

 

『しれぇ!!』

 

 ゆきかぜが吠え酸素魚雷を弥生に向け投射。

 回避予測済みの必中が期待できるその雷撃を小破した隼鷹がその射線に割り込んで代わりに被雷した。

 

「あ〜、こんな格好もう慣れたもんだよね…」

 

 中破した隼鷹が死んだ目でそうぼやき盾になるため更に前に出て来る。

 これが俺達が攻めあぐねる理由なんだ。

 ブラ鎮で使われてたのが原因でどいつもこいつもネガティブ過ぎんだよ。

 戦力外になれば引くと考えてたのに逆に味方の盾にと前に出て率先して被弾被雷しまくるし、喰らえばああやってネガティブ発言かましてこっちの戦意を刔ってきやがる。

 おかげで最初の決意なんかとっくの昔にどっかに吹っ飛んでるんだよ。

 

「今すぐ帰りてぇ」

 

 いや、ブラ鎮やりやがった屑野郎はぶん殴りたいから頑張るよ。うん。

 

「アネゴ!!

 ソラカラミサイルガ!!??」

「はぁっ!!??」

 

 なんでそんなもんが飛んで来てんだよ!!??

 対空レーダーを木曾にやっちまったのが裏目に出たと喚く間もなく数十発近いミサイルが俺達目掛け降ってくる。

 

「防げストライダー!!??」

 

 俺の怒鳴り声に呼応してストライダーがバリア波動砲を放ちミサイルの雨を防ぐ。

 波動の壁に阻まれたミサイルが次々と着弾と同時に赤と黒の花火を撒き散らし空を染める。

 

「何処のどいつが撃ちやがった!!??」

 

 サイズからして通常艦艇から放たれた物じゃないの明白。

 というか第二次大戦以降の装備なんてどの国が開発したんだクソが!!??

 そこ、お前が言うなとか言ってんじゃねえぞ。

 悪態を吐いた直後、ストライダーが突然爆散した。

 

「ストライダー!?」

 

 まさか波動砲の撃ち過ぎで自壊したのか!!??

 だけどそんな事を確認している暇なんて俺達には無かった。

 バリア波動砲を制御していたストライダーの消失でミサイルを防いでいた天蓋が無くなり後続のミサイルが降って来ていたのだから。

 

「ヘ級、要塞、こっちに!!」

「ヘイ!!」

 

 間一髪クラインフィールドの射程圏内に間に合った二人(?)をクラインフィールドで共に囲いミサイルの爆風に耐える。

 

「持ってくれよ!!??」

 

 ダメージはシャットアウト出来ているが、爆音と閃光がクラインフィールドを挟んで外の状況を完全にわからなくさせてしまう。

 体感時間で10分以上が経ち、ミサイルの飛来が終わってるんだろう黒煙が晴れた直後、漸く状況を見渡せる時点になって俺は絶句するしかなかった。

 

「マジかよ…?」

 

 飛来したミサイルは俺達だけを狙っているものだと思っていた。

 だが、ミサイルはこの戦場の全員(・・・・・・・)を攻撃目標にしていた。

 対処する間もなかったのだろう、さっきまで戦っていた艦娘達はその多くが海上に倒れ伏していた。

 

「ヒドイマネヲシヤガル…」

 

 俺達以外でミサイルの雨を生き残ったのは朝潮、榛名、磯波、弥生、飛龍の僅か5隻。

 そいつらも辛うじて轟沈寸前の酷い有様。

 ヘ級でさえそういう程の惨状に俺は一度は鎮まりかけた黒い衝動がぐつぐつと煮え滾るのを抑えるのに必死だった。

 そうしていないと、どこでもいいから超重力砲をぶちかましてしまいそうだからだ。

 

「ヘ級、要塞。

 あいつら連れて陸に向かえ」

「アネゴ?」

 

 さっきは沈めろって言ったから戸惑ってるんだろうけど、悪いが構ってる余裕ねえんだわ。

 

「頼むわ。

 一人残らずあんな、どうしようもねえ死に様させるなんてやる瀬ねえんだよ」

「…ワカリヤシタ」

 

 そう応じて生き残りの曳航に向かうヘ級と浮遊要塞。

 それを見届けてから俺はしまかぜ達を乗せミサイルが飛来しただろうおおよその方角に向け舵を切る。

 ほんの僅かしか確認出来なかったが、俺に乗っている妖精さんは深海棲艦の物ではないと言い切った。

 つまりだ。

 俺達を狙ってミサイルを撃ったのは艦娘で、味方ごと攻撃しやがったっつう事だ。

 

「許せねえ」

 

 俺達(深海棲艦)が言えた義理じゃないとしてもだ。

 敵を倒すために捨て艦戦法をやったそいつらには、骨の髄まで後悔させてやる。

 クラインフィールドを纏って水の抵抗を減らし60オーバーで海上を駆けていると、向かう方向からやや擦れた水平線の向こうが一瞬光ったような気がして俺は反射的に舵を切る。

 直後、光った方角から飛来した砲弾がクラインフィールドを掠り脇を通過していった。

 

「そこかぁっ!!」

 

 舵を更に切って飛来した方角に全速力で走る。

 掠った際にクラインフィールドがかなり削られたのが気になっていたら、九一式鉄鋼弾+46cm砲辺りだと仮定してた妖精さんたちが砲撃の正体にたどり着き大慌てで俺に伝える。

 

「今のが20、3cm砲だって!?」

 

 水平射撃で40km以上の射程がある20、3cm砲なんて聞いたこともねえぞ!?

 信じがたいが電磁加速、所謂レールガンのシステムを組み込んで射程を延ばしていると妖精さんは推察を語る。

 ついでにストライダーを落としたのは同じ砲撃で間違いないという。

 しかもだ。

 クラインフィールドに残った残滓から微量の放射性物質を検地したという。

 

「それってまさか、劣化ウラン弾とかいう奴か…?」

 

 勘違いであって欲しかったが、妖精さんは重い顔でその可能性は非常に高いと言う。

 バルムンク持ち出そうとした俺が言えた義理じゃないけど核兵器はやばいだろ!?

 クラインフィールドの削られかたから直撃はまずいと判断した俺は船速を最大から中程度まで落とし回避運動を最優先に接敵を試みる。

 幾度となく放たれる砲撃を必死に回避しながら走り続けると、やがて俺の前に異形の艤装を装着した高雄と愛宕が見えた。

 接近する俺を見留めた愛宕が唇を尖らす。

 

「なにやってるの高雄ってば。

 もしかしてわざと外してるの?」

「違うわよ愛宕。

 彼女が避けるのが上手いのよ」

 

 張り付けたような笑顔でそう話す二人に薄ら寒いものが走るのを自覚しながら俺は、停止と同時にクラインフィールドを解きしまかぜ達を身体から降ろす。

 

「手前等、そいつは一体何の冗談だ?」

 

 艤装と融合した深海棲艦はぐるぐると喉を鳴らし苦しそうに呻いている。

 明石の作った春雨の艤装も大概ちゃあ同レベルだったが、春雨の艤装に組み込まれた深海棲艦はあんな苦しそうに呻いた事は無かった。

 寧ろ、そう在ることを誇る様子であったぐらいであんな怨嗟を抱えた風は一度もない。

 問い質す俺に愛宕は不思議そうに首を傾げる。

 

「冗談って、何のことかしら?」

「きっとあれよ愛宕。

 楽しみにしていた殺戮に水を差した事よ」

「ああそれなら納得ね」

 

 にぱぁ、とか擬音がつきそうな様子で笑うと愛宕はごめんなさいねと言う。

 

「とっても楽しそうだからつい邪魔しちゃったのよ」

「楽しそうって…」

 

 愛宕の言葉一つ一つに俺は悍気を走らせる。

 それで気付いた。

 こいつらは駄目(・・)だ。

 艦娘だとかそういう一切も関係なく駄目だ。

 例えるなら毒。

 触れただけで侵されて狂わされる猛毒。

 こいつらに比べたらバイド汚染なんて生易しいものにさえ感じる。

 

「あら?

 もしかして怯えてるのかしら?」

「そんな訳無いじゃない愛宕。

 女王様が半端者に怯えるなんてありえないわ」

 

 何言ってんだこいつら?

 誰かと勘違いしているのか?

 そもそも女王なんてカテゴリーは聞いたこともない。

 …いや、考えるだけ無駄か。

 どこからどう見てもこいつらおかしい。

 言ってることを一々気にしていたらこっちの頭がどうにかなっちまう。

 頭を切り替えると察したのか二人は笑みをそのまま艤装をひと撫でして砲をこちらに向ける。

 

「一つ、答えてもらう」

 

 しまかぜ達が戦闘体勢を整えいつでもいける事を確認し俺は問う。

 

「お前等何が楽しいんだ?」

 

理解できないし知りたくもないが、俺はそう尋ねていた。

 

「なにもかもですわ」

「気持ちいいことも痛いことも殺すのも殺されるのも、なにもかも楽しいわよ」

 

 ああ、やっぱり理解できねえや。

 

「そうかよ」

 

 こいつらがこうなった原因とか春雨と関わりがあるのかとか、諸々聞き出さなきゃならなそうな事は山ほどあるがだ、

 

「来いよ。

 お望み通りぶっ殺してやる」

 

 瑞鳳とあつみのために明石を呼んだら今度は千代田を助けるためにブラ鎮と戦う羽目になって終いには深海棲艦化したこいつらを…か。

 呪われてるのは知ってたが、ホント、なんでこんなことになったんだ?

 

 

〜〜〜〜

 

 

 高雄と愛宕の二人とイ級が邂敵を目指し行動を開始した頃、古鷹と春雨は険嫩な雰囲気を纏ってトラックを目指していた。

 その目的はイ級達と同じく艦娘を食い物とした下種を抹殺するためである。

 鳳翔はそれより少し前、信長が寄越したツ級によって齎された切実なる嘆願に義憤を燃やし世界樹へと向かったため同行していない。

 

「後半日ぐらいでトラックに着くけど大丈夫?」

「はい」

 

 北方棲鬼の艤装に乗り込んだ前回と違い長距離を己の艤装だけで航海する春雨も慮る古鷹。

 リハビリも完全でない春雨に疲労の色は確かに見えるが、それと同時に瞳には拭いきれない憎しみと恐怖が潜んでいる。

 だが春雨はそれを嚥下して呟く。

 

「乗り越えないと…前に進めませんから」

 

 何の事なのか春雨の秘めた怒りを波動として察した古鷹は問わず電探の感が無いか確かめる。

 イ級から貰ったOPS-28Dの索敵圏は最大まで伸ばせば100キロを越える。

 水偵が無ければ30キロと探れない自分達の電探と比べ時代の進歩はすごいなと感動と同時に、上手く使いこなせないからとあっさり手放したイ級に感謝と軽く嫉妬を覚える。

 とはいえ100キロもの射程圏内を得てもミサイルやレールガンといった超超射程距離を狙える兵器を持っていない自分達では宝の持ち腐れは同じ事。

 

「あれ?」

 

 メガ波動砲の射程距離を伸ばせないかなと考え始めた古鷹はレーダーがこちらに向かってくる二つの反応を捉えた事を察知。

 今までの経験が出会ってはまずいと声高に叫び、更に身を蝕むバイドまでが排除すべき危険だとざわめいていた。

 深海棲艦化した自身も然ることながら、古鷹の義手や琥珀色の瞳も艦娘に見られては厄介の種となる。

 硬い表情を作る古鷹にどうしたのかと不安を問う春雨。

 

「どうしたんですか?」

「レーダーがこちらに向かってくる艦影を捉えました。

 目視されると面倒になるので航路を変更します」

「わかりました」

 

 接近する艦影に航路を変えた事に気付き軽巡棲鬼が不満の声を上げる。

 

「もうっ、なんで気付いてくれないのよ!?」

 

 喚く軽巡棲鬼に空母水鬼はどうでもいいと言う。

 

「那珂ちゃんが嫌われてるからじゃない?」

「そんなことないもん!!??」

 

 半泣きで必死に否定する軽巡棲鬼。

 

「那珂ちゃんはアイドルだから嫌われたりなんてしないもん!!」

 

 今にも噛みつかんばかりに叫ぶ軽巡棲鬼に面倒臭いと思いながら空母水鬼は言う。

 

「じゃあアイドルの輝きが足りないから気付いてもらえないんじゃないの?」

 

 空母水鬼の言葉にガーンと擬音が付きそうな勢いでショックを受ける軽巡棲鬼。

 

「ガーン!!」

「自分で言っちゃうんだ」

 

 そう突っ込むが軽巡棲鬼は聞いた様子もなく両手で頭を押さえる。

 

「那珂ちゃんの頑張りが足りないから春雨ちゃんが気付いてくれてなかったなんて……でも、那珂ちゃんはこんな事で躓けたりなんかしないんだから!!」

 

 そう決意を新たにすると軽巡棲鬼は頼む。

 

「お願い翔鶴ちゃん!!

 那珂ちゃんに力を貸して!!」

「面倒臭いから嫌」

「そこをなんとか!!」

 

 けんもほろろに袖にされてもしつこく食い下がる軽巡棲鬼に面倒臭いからと空母水鬼は折れる。

 

「仕方ないわね。

 一機飛ばしてあげるからそれでいいわね?」

「うん!!」

 

 面倒臭いと愚痴りながら艤装のカタパルトから『幻影』を発艦させる空母水鬼に軽巡棲鬼は満面の笑顔で礼を言う。

 

「ありがとう翔鶴ちゃん!!」

「はいはい」

 

 適当に流しながら空母水鬼はカタパルトから飛び立った『幻影』に命じる。

 

「目標重巡。

 ミサイルの発射許可を出すから一撃で沈めなさい」

 

 大きく迂回する航路を取りながら古鷹は呟く。

 

「鳳翔に貸したあの子を連れてくればよかったかも」

 

 飛行場姫から支払われた報酬で明石がまた勝手に開発した『R-9ER パワードサイレンス』は波動砲を搭載していないため戦闘能力はアサガオ並に低いが、電探を狂わせるジャミング機能を持ちイ級の渡したレーダーと組合せれば非常に高い隠密行動が可能となる。

 しかし今回は鳳翔が出撃した案件が先に起きたため無くても大丈夫だろうと貸し出していたのだ。

 嫌なタイミングで裏目を引いたことに一抹の不安を抱きつつレーダーを頼りになんとか振り切れないかと願うが、相手は30ノット以上の高速で移動しておりかつまだ完全に艤装を使いこなせない春雨という枷が徐々に距離を詰めさせていた。

 

(砲雷撃だけで撃退…ううん。

 おそらく無理)

 

 距離が詰まるに連れバイドのざわめきは酷くなり続けていくばかり。

 まだ義手のフォースコンダクターの制御下から外れるほどではないが、少なくとも波動砲を封じたまま切り抜けられる相手ではない。

 しかしバイド汚染の浸食具合からして春雨を守りながら戦闘に入ろうものなら制御不可能な程度まで汚染が進む可能性が高い。

 

(こうなったら春雨だけでも先行させて…)

 

 そう口を開こうとした古鷹だが、直後レーダーが低空を音速を越える速度で飛来する飛翔物を捉えた。

 

「砲撃!?

 だけどまだ50キロ以上距離が…!?」

 

 回避運動を促そうと振り向いた古鷹の目に飛び込んで来たのは音速の世界を駆け抜ける『幻影』の姿だった。

 

「『F-4』!?

 噴式戦闘機がどうして!!??」

 

 『幻影』の愛称で呼ばれるF-4は驚愕し叫ぶ古鷹に狙いを定め、四発のAIM-7スパローミサイルを解き放った。

 




 

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