なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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つまらないわ


※懺悔

 この度私めは後書きにて宗谷の記述について大変失礼な間違いを犯しました。
 あろうことかロシア生まれの鹵獲艦であった防護巡洋艦の宗谷と測量艦宗谷の情報を混合させ記憶していました。
 艦への配慮、愛が足りなかった事は言うまでもなく、今後二度と同じ過ちを繰り返さぬよう細心の注意を払い作業を続けたく思います。




ああ、

 トラック外周の包囲を任されたパラオの艦隊旗艦を任された蒼龍は次々と齎される報に焦りを隠せなかった。

 

『こちら由良!!

 能代と長波が大破!!??

 これ以上の継戦は……キャアアア!!??』

 

 一方的に通信が切られ、通信機が破壊されただけだとそう自分を言い聞かせ自分達が相対するもう一隻に集中する。

 

「江草隊!!」

 

 彗星に機種転換を行った蒼龍の虎の子が空母タイプの鬼へと牙を剥こうと死に物狂いで空を翔けるが、音速の領域からその牙を喰い千切るため『幻影』が襲い掛かる。

 

「くぅっ!!??」

 

 次々と『幻影』に喰われ墜ちていく彗星の姿に悔しさで涙を滲ませる蒼龍を鬼はつまらなそうに鼻を鳴らす。

 

「弱いわね。

 ニ航戦がこの低度なら一航戦もたかが知れるわ」

 

 白い髪を掻き上げそう見下す鬼。

 嘲笑うでなくただ淡々とそう突き付けられる事実に反する事も出来ない蒼龍はただ歯を鳴らす。

 鬼はそんな蒼龍から視線を外すと、黒い篭手のような装甲を外し戦場のど真ん中で爪の手入れを始めた。

 

「引くなら引いていいわよ。

 別に殺戮が目的じゃないし、それに」

 

 |元同報《・・・》なんだしと爪から目を離さずそう嘯く鬼。

 

「それって…どういう事なの!!??」

 

 信じられない台詞に激昂し使えもしない副砲を握る蒼龍だが、それを龍鳳が抑える。

 

「落ち着いて下さい!!??

 艦載機が無い私達がこれ以上留まっても的にしかなり得ません!!??」

 

 龍鳳とて鬼の言葉の真意が気にならないわけじゃ無い。

 だが、今の状況で見逃してもらえるチャンスを逃したら真相を知る機会すら失う事になる。

 

「引き際を見誤れば繰り返すだけです!!

 今は相手の情報を持ち帰り対策を練るべきです!!」

 

 そう説得をする龍鳳の言葉に蒼龍は爪が掌を突き刺す程拳を握り絞める。

 そこに鬼が興味を持たぬ様子で更に言う。

 

「行くなら早くしたほうがいいわよ。

 あっちはもう終わってこっちに向かってるみたいだし」

 

 由良達と戦っていた艦がこっちに向かっていると言いながら懐から取り出した鑢で爪を擦る鬼。

 

「…残存艦は全艦撤退。

 龍鳳、殿を務めるからお願い」

「分かりました」

 

 無事な艦を退かせるため一時離れる龍鳳と身を賭してでも守ろうと鬼を睨みながらじりじりと下がる蒼龍。

 しかし鬼は蒼龍に構う様子もなく爪ばかり注視している。

 

「……」

 

 警戒する必要もないと言われているも同じ態度に怒りを募らせる蒼龍だが、今は生き延びる事が重要だと自分に言い聞かせ屈辱を飲み込み撤退する。

 蒼龍が下がり一人になった鬼は蒼龍が去った方角を一瞥すると爪に息を吹きかけ篭手を着け直す。

 

「これで仕事は果たしたわね」

 

 彼女がここにやってきた理由は高雄達の露払い。

 加賀が居たなら真っ先に沈めついでに他の艦娘も皆殺しにしていただろうが、彼女にとって加賀以外の艦はどうでもいい存在だった。

 

「逃がしたの翔鶴?」

 

 高雄達はまだかなとそう考えていたところで彼女に声を掛ける者が現れる。

 

「だって加賀がいないもの。

 それと、翔鶴は死んだわ。

 今の私は『空母水鬼』よ『軽巡棲鬼』」

 

 彼女の答えに相変わらずねと髪を二つの団子状に纏めた下肢を艤装に埋め込むツインテールの少女はごちる。

 

「私には構わないけど、その呼び方那珂ちゃんには使わないでよ?

 じゃないと、殺すわ」

 

 およそ仲間に向ける類では決してない殺意を込めて空母水鬼を睨む軽巡棲鬼。

 殺気を向けられた空母水鬼はしかし肩透かしだと言わんばかりに軽く息を吐く。

 

「分かってるわよ。

 それはそれとして、高雄達ってばやっぱりイ級とやる気みたいよ。

 私達も加勢しておく?」

 

 乗り気ではなさそうにそう問う空母水鬼に軽巡棲鬼はいいえと言う。

 

「そろそろ那珂ちゃんが起きるみたいだから辞めとくわ」

 

 後はよろしくとそう言い両目を閉じる軽巡棲鬼。

 次に軽巡棲鬼が目を開くと先程までの険が消えどこまでも明るい笑顔を浮かべる。

 

「おはようございます!!

 艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー!!」

 

 キャハッ☆ と可愛くウインクを決める軽巡棲鬼。

 そんな急変に空母水鬼は特に驚く様子もみせずおはよう那珂ちゃんと挨拶を返す。

 

「そんな無愛想じゃダメだぞ☆

 翔鶴ちゃんは美人さんなんだから笑顔笑顔☆」

 

 勿論1番可愛いのは那珂ちゃんだけどねーとオチまでしっかり決める軽巡棲鬼に空母水鬼ははいはいと軽く流す。

 

「むぅ、翔鶴ちゃんってば冷たい」

「今はお仕事中だからね」

「え?」

 

 と、空母水鬼の言葉に軽巡棲鬼は慌てて辺りを見回す。

 

「わわっ、那珂ちゃんってばアイドルなのにお化粧もしないでお仕事に来ちゃったの!!??」

 

 慌てて艤装から化粧道具を取り出そうとする軽巡棲鬼を空母水鬼は留める。

 

「大丈夫よ。

 阿賀野がちゃんとやってくれてたわ」

「阿賀野ちゃんが?」

 

 空母水鬼の言葉に目を丸くするとキョロキョロと辺りを見回す軽巡棲鬼。

 

「あれ?

 でも、阿賀野ちゃんいないの?」

「阿賀野はまた別任務よ」

「そっか…」

 

 その言葉に一瞬だけ淋しそうにするが、すぐに笑顔を浮かべ直す軽巡棲鬼。

 

「よぉし、阿賀野ちゃんも頑張ってるんだし、那珂ちゃんもがんばるぞ☆」

 

 えいえいおー☆と景気を上げる軽巡棲鬼だが、それに空母水鬼は水を差す。

 

「もう終わってるわよ」

 

 ズコッっと擬音が付きそうな勢いでこける軽巡棲鬼。

 下半身が艤装に取って代わられた姿で器用だなとそう思う空母水鬼。

 

「酷いよ翔鶴ちゃぁん」

「ちゃんとお仕事はしてたわよ。

 那珂ちゃん大活躍だったし」

「ホント!?」

 

 ぶーたれた直後に目を輝かせる軽巡棲鬼にホントホントと適当に相槌を打つ空母水鬼。

 しかし軽巡棲鬼はその言葉に元気を取り戻す

 

「よぉし、那珂ちゃんまたトップアイドルの道を一歩進んだよ☆

 目指せ、アイドルナンバーワン!!」

 

 ビシッとキメポーズを決める軽巡棲鬼にそろそろ戻るわよと促す空母水鬼だが、しかし軽巡棲鬼は北東からトラックへと接近する艦娘の姿を見付ける。

 そして、その中に見知った者を見付ける。

 

「あ、あんなところに春雨ちゃんが居る!!」

 

 それはアルファ経由で事態を聞き付け馳せ参じた古鷹と春雨の二人であった。

 

「ちょっと迎えに行ってくるね!」

 

 そう言うなり走り出す軽巡棲鬼に、空母水鬼はまあいいかとそれに続く。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 空母水鬼の襲撃により海路の確保が調ったと知った高雄と愛宕はそこで行動を開始する。

 

「提督。包囲していた部隊の排除が完了しました」

「そうか」

 

 これで逃げることが出来ると安堵を零す提督。

 

「じゃあ、後は頑張ってくださいねー」

 

 にこにこと笑う愛宕がそう言うと同時に提督が乗る一人乗りの高速艇を前後から挟み進んでいた高雄と愛宕は反転して離れ始める。

 

「どこに行くお前達!!??」

 

 慌てて後を追おうと舵を握るが舵はロックされ航路の変更は不可能だった。

 あわてふためく提督を嘲弄することもなく高雄は普段通りの態度で述べる。

 

「すみません提督。

 私達、やっぱり貴方より駆逐棲鬼のほうが素敵だからそっちにいきますね」

「ふざけるな!!??」

 

 舵を切るため計器を目茶苦茶に弄るもオートパイロットの解除が叶わず必死に叫ぶ。

 しかし二人は全く取り合おうとしない。

 

「あ、それと提督。

 毎日誰かしらを部屋に連れ込むのはとても結構なのですが、自分が満足しただけで終わりにしてしまうのは改善すべきかと」

「せっかく気持ちよくなってたのにいつもお預けされて、私、とっても不満だったんですよ?」

 

 今と関係の無い普段の不平を述べながら離れていく二人。

 

「俺は提督だぞ!!??

 俺がいなくなったら…」

 

 自分の有用性を怒鳴り散らす提督だが、全てを言い切る前に突如射した影に思わずそちらを見る。

 そして提督の視界いっぱいに映ったのは、自分を丸呑みにしようと海中から飛び出して来た深海棲艦の口であった。

 

「ひぃ」

 

 悲鳴を最後まで上げる事さえ叶わず船ごと沈む提督。

 

「ナニタベテルノ?」

 

 船を襲った深海棲艦が海底に引きずり込んだ高速艇をバリバリとかみ砕いている様子に仲間が尋ねる。

 

「…ンー?」

 

 その問いに深海棲艦は歯んでいた船の残骸を提督の肉片ごと飲み込み言う。

 

「ナンカウエニアッタカラタベテミタノ」

「ナニヲ?」

「サア?」

 

 そう首を傾げる深海棲艦に呆れたとごちる。

 

「ソンナンジャオナカコワスワヨ」

「キヲツケル」

 

 そう答えると二隻は何もなかった様にその場を離れていく。

 あっさりとした末路ももはや眼中になく、二人はそれぞれが牽引していたコンテナを展開する。

 展開されたコンテナの中には、数多の鎖で幾重にも縛られた深海棲艦と高雄型艤装を融合させた異形の怪物が拘束されていた。

 ぐるぐると喉を鳴らす艤装を眺め二人の笑みが深く釣り上がる。

 

「漸く本気がだせるわね」

「目立つからこっちはずっと使えなかったものね」

 

 そう口々に述べながら二人は展開したコンテナに乗り上げてから装着していた艤装を捨て、鎖を解いて深海棲艦が混ざり合った艤装を装着する。

 高雄が装備した艤装には艦首に巨大な口とそこから延びる二つの砲身を携えていた。

 一方愛宕の艤装は艦首こそ同様だが、高雄のような長大な砲は無く代わりに甲板に大量の口が犇めくように並んでいた。

 

「久しぶりだけどいい感じね」

「当然よ。

 私達の本当の艤装なんだから」

 

 唸りを零す艤装を満足げに見遣り、二人はコンテナから海上に降りるとそのままトラックへと滑るように走り出す。

 と、そこで高雄が何かに気付き目を細め笑みが更に深くなる。

 

「どうしたの高雄?」

 

 高雄の笑みに愛宕は尋ね、しかし答えを待たず同じく笑みを深める。

 

「翔鶴と阿賀野ってば張り切ってるみたいね」

「ええ。

 春雨と、博士が前に言ってたバイド汚染された艦みたいね」

 

 そう言うと高雄は尋ねる。

 

「どうする愛宕?」

「駄目よ〜。

 二人の楽しみを横取りなんてしちゃ」

 

 念のため駆逐棲鬼を一旦諦めて援護に向かうかと問う高雄に、にこにこと笑いながら愛宕は援護には向かわないと言う。

 愛宕の意見に高雄は笑みを崩さず頷く。

 

「それもそうね。

 横取りなんてしたら悪いわよね」

 

 生も死も彼女達にとってさしたる問題になりはしない。

 故に、安否を配する感情は微塵足りとも持っていなかった。

 改めて駆逐棲鬼が戦う場へと航路を向ける高雄と愛宕。

 そして、距離150キロを切った時点で愛宕は言った。

 

「高雄、私からやってもいいかしら?」

 

 その問いに高雄は笑みを湛えいいわよと応じる。

 

「アハッ!」

 

 その答えに笑みが更に深くなり、同時に甲板の口が一斉に開き口の中から円錐型の先端を有した筒が甲板から頭を覗かせる。

 

「ぱんぱかぱーん!」

 

 そう楽しそうに言の葉を放った瞬間、甲板から延びた筒…ミサイルが白い噴煙を噴き出し一斉に飛翔。

 その牙を突き立てるため、トラックに向け空を舞った。




 ということで皆様の予想を裏切り空母水鬼と軽巡棲鬼の強襲とさせていただきました。
 といっても二人も春雨と同じ堕ちた艦娘なのですけどね。
 軽巡棲鬼の性格は那珂と阿賀野のどちらにするかと考えた結果、阿賀野ベース二重人格とか美味しくね?等とシャレにならない発想をそのまま採用し、その結果イ級との相性最悪になったという…どうしてこうなった!!??←

 後、これはふと手元の走り書きを見た結果なんですが

艦娘:堕ちた原因

大和 傲慢
高雄、愛宕 色欲
翔鶴 怠惰
阿賀野 虚飾
春雨 憂鬱

……狙ってないのに大罪に対応してたんですが、なんでこんなことになってんだ?

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