なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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なんであんなにジョークが下手なのかな?


イ級ってさ

 今宵は誰を侍らせるか、そんな下種な考えを巡らせながら業務を終えようとしていたトラック第二泊地の提督は突然の連絡に内心焦っていた。

 

「これは元帥閣下。

 このような時間にどうしたのですか?」

『いやなに。

 君にいい報告と悪い報告があるのでね。

 急いで伝えておきたかったのだよ』

 

 上官である大将ではなく元帥からの通達ということに提督の胆は冷えていた。

 トラックがやっている所業が明らかとなれば破滅以外の道はない。

 しかし提督の焦りを余所に元帥は至って何事もないように画面の向こうで提督の準備を待っている。

 

「…それで、話というのは?」

『ふむ。

 まず悪い話なのだがな、君の直属の上官であった大将殿が急病で亡くなったのだよ』

「…そうですか」

 

 大将が病死したという報告にますます焦りを募らせる。

 しかし、まだ馬脚を顕しはしない。

 たまたま偶然、そう。偶然が重なって元帥が通達を行っているだけなのかもしれないのだ。

 

「それで、いい報告とは?」

『君の昇進が決まったのだよ』

 

 その言葉にやはり杞憂だったのかと胸を撫で下ろそうとした提督だが、

 

『現時刻をもって君は大佐に昇進した。

 おめでとう大佐』

「は?」

 

 おかしい。

 自分の階級は少佐。

 昇進したというなら普通に考えて中佐になる筈。

 混乱を加速させる提督に元帥は告げる。

 

『それでだが、君には今から特務に着いて貰う。

 何、大して難しい内容ではない』

「はっ!!」

 

 特務と言う言葉にそのための特進なのかと納得仕掛けた提督だが、次いで放たれた言葉に絶句した。

 

『玉砕したまえ』

 

 今、元帥は何と言った?

 硬直する提督に構わず元帥は告げる。

 

『君達がやってくれた行いについては既に周知している。

 本来ならば軍法会議の後処罰を降すのだろうが、生憎我々はそこまで暇ではない。

 都合がいいことに今現在、トラックに向け貴君等の諸行に激怒した駆逐棲鬼が進攻している。

 貴君にはそれを鎮める人柱になってもらう。

 一応言っておくが逃げても無駄だ。

 トラックは既に包囲されている。

 ああ、だが』

 

 なにかを思い付いたかのように元帥は告げる。

 

『万が一駆逐棲鬼を倒すことが敵ったのなら、貴君には正当な軍事裁判を行ってあげよう。

 では、法廷で会えることを願っているよ』

 

 心にもない言葉を最後に一方的に通信を終える元帥。

 

「……」

 

 一方提督は現実に思考が追い付かず固まったまま。

 

「提督、今夜は誰と遊ぶんですか?」

 

 そんな空気を露とも知らず愛宕が媚びを売るような甘ったるい声と共に執務室に入って来た。

 

「……愛宕」

「なんですか?

 もしかして、今日も私ですか?」

 

 まるで能面のように固まった表情にも頓着しないでそう問う愛宕に提督は指令を降す。

 

「今すぐ第二の艦娘を全員呼び集めろ。

 駆逐棲鬼が襲撃を掛けて来た」

「はぁい。

 駆逐棲鬼を倒せばいいんですね?」

「違う」

 

 艦隊決戦ではないと提督は言う。

 

「艦娘で人垣を作って時間を稼がせろ。

 その隙に私を連れてハワイに向かえ」

 

 正気を疑うしかない命令に、愛宕は眉一つ動かさずはぁいと笑顔のまま承知した。

 

「では、皆に伝えてきますね」

 

 そう執務室を出ると鼻唄を鳴らしながら楽しそうに歩き出す。

 

「とても楽しそうね愛宕」

 

 そこに通り掛かった高雄が声を掛ける。

 

「あ、わかる?」

「勿論よ。

 とってもいいことがあったのね?」

 

 独り占めなんて狡いわと言う高雄に愛宕はクスクスと笑う。

 

「そんなことしないわよ。

 ちゃんと高雄にも教えてあげる」

 

 そう言い、満面の笑みで言葉を発する愛宕。

 

「大和を虐めたあの駆逐艦が来たのよ」

「……」

 

 愛宕の言葉に数瞬の間を置き高雄は満面の笑みを浮かべる。

 

「遂に来たのね」

「ええ。

 それもとってもご機嫌ななめみたい」

「それは素敵ね」

 

 タガの外れた二人はクスクスと笑い合う。

 

「大和を泣かせたステキな駆逐艦は強いかしら?」

「当然じゃない。

 とってもとっても強いわよ」

 

 くすくすと笑いながら唐突に二人は手袋を外す。

 手袋の下に隠されていた素肌は、まるで蝋のように一切の血色を持たない青白いものであった。

 

「楽しみね高雄」

「楽しみね愛宕」

 

 青白い手を絡み合わせながら、どちらからともなく唇を重ね舌を絡ませる濃密な口付けを交わす二人。

 その瞳は澱み、深海棲艦と同じ輝きに満ちていた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「次の指示が来たぞ」

 

 その声に男の声はそうかいと応じる。

 

「次は一昨日仕入れてた千代田と山城だったか?

 どうするんだと?」

「千代田は搾乳出来るようにで、山城は前は手を出さずに仕込めとさ」

「また変態さんがお買い上げのようで」

「お前よりマシだ」

 

 嘲る声に呆れた声が返される。

 

「んだよ?

 俺のどこがやばいんだ?」

「首を絞めるのはまともなのか?

 それでお前、先月にやり過ぎで三人も殺っただろうが。

 中身だけじゃ値が下がるって文句言われるのはこっちなんだぞ?

 しかも、浜風なんか首が折れるまで締め上げてたらしいじゃないか」

「首を折ったのは浦風だ。

 浜風は普通に絞め殺しちまっただけだ。

 それに『三人』じゃなくて『三体』だ。

 俺は人間相手にやらねえよ。

 警察の厄介になんかなりたくないからな」

「違いな」

 

 そこまで聞いた時点で盗聴を止める。

 

「イ級。

 暴れるなら着いてからにしろよ」

「分かってる」

 

 千代田の安否を確認するため、先行させたパウが亜空間から拾った盗聴結果を聞き木曾がそう注意して来た。

 木曾の声がすっごい冷たいけど、あれを聞いていつも通りでいられたら正気を疑うな。

 

「取り敢えずだ。

 あそこには人間はいない。

 居るのは艦娘だけみたいだな」

「だね」

「ああ」

 

 人間の形をしていようが関係ない。

 俺達にとって、あそこに居るのは人間の形をした殺処分すべきのヒトガタと被害に遭っている艦娘だけだった。

 殺意なんて抱く価値もないが、奴らを踏み潰さなきゃ煮え繰り返った腸が収まりゃしねえ。

 

「作戦を確認しよう。

 俺とヘ級と浮遊要塞はトラックを襲撃。

 その隙に木曾はR戦闘機が起こす騒ぎに乗じて施設に殴り込みを掛ける」

 

 海を移動している最中に浮遊要塞と合流していた。

 どうやらレ級に海に叩き込まれた時点で気絶してしまい、そのまま潮に流され気が付いたら迷子になっていてどうしようもなくずっと海を漂っていたらしい。

 深海棲艦のそれも姫の直衛が迷子になってたとかポンコツ過ぎるぞこいつ。

 不良在庫を押し付けられたんじゃねえだろうな?

 ともあれだ。

 上はアルファが押さえた。

 こちらは地図の書き換えの必要さえしなければなにをやってもいいと言わせたんで即座にと考えていたんだが、生憎とまだ問題は残っていた。

 トラック泊地である。

 世界樹攻略戦と銘打たれたイベントで第一泊地の主力は殆どおらず規模が大きいだけで問題無いのだが、第二泊地はその目的が艦娘の誘拐と仕込まれた元艦娘の輸送のために設立されていたとあってほぼ十全の戦力が残されていた。

 そちらを放置して施設を襲撃すれば救出した艦娘達という足手まといを引っ提げて戦う羽目になるため、深海棲艦である俺達が襲撃を掛けて主力を引き付けその隙に木曾達が艦娘を救う手筈とした。

 本音を言えばバルムンクで泊地ごと抹消してやりたいが、使うとその威力半径に第一、二泊地だけじゃなく施設まで巻き添えにしちまうので泣く泣く開幕ブッパは諦めた。

 

「木曾、悪いがストライダー借りるぞ」

「問題ない」

 

 中を効率よく掃除するためアルファとパウアーマーが施設に向かうため今のうちに木曾のストライダーとパウ・アーマーを載せ変える。

 

「アルファ、ぎりぎりまでは待て。ただし、奴らが千代田に手を出そうとした時点で待たなくていいからな」

『了解』

 

 前準備のためパウ・アーマーと共に亜空間に飛び込むアルファを確認し俺達も別れる。

 

「また後で」

「ああ」

 

 そう木曾と言葉を交わし海路を外れる。

 

「ヘ級、今回だけは例外だ。

 立ち塞がる奴は駆逐だろうが戦艦だろうが艦娘深海棲艦構わず潰せ」

「マカセテクダセエ!!」

 

 手加減無用の指示に威勢を更に高めるヘ級。

 そうして走り続け、夜明け頃になり泊地の警戒網がもうすぐとなった時点で俺はしまかぜ達を降ろす。

 

「行くぞ」

『おうっ!!』『ぽいっ!!』『しれぇ!!』

 

 普段の楽しげな無邪気さは消え、まるで殺気立つ熊のような獰猛さに溢れた声で応える三匹。

 こいつらも艦娘だから、やつらの所業には怒っているのだろう。

 そうでなくちゃ困るがな!!

 程なく前方からこちらに迫る機影をストライダーが発見。

 なんの躊躇もなく俺は告げる。

 

「潰せ」

 

 その命令と同時にストライダーが高度を上げこちらを発見し撤退しようとする彩雲の進路にバリア波動砲を敷くように放ち波動の餌とする。

 

「全員砲雷撃戦の準備はいいな?」

「モチロン!!」

『おうっ!!』

『ぽいっ!!』

『しれぇ!!』

 

 ヘ級としまかぜ達が応じ浮遊要塞も砲門を展開して応じる。

 次いで艦載機の群れが飛来するもストライダーが連続してバリア波動砲を展開し複雑に絡み合わせた天蓋を構築。

 アスレチックのようなフィールドと化した空を波動砲の隙間を抜けようとするも大半が叶わず落ち、残った少ない艦載機は浮遊要塞が飛ばした艦載機に襲われる。

 性能はあちらが上だがバリア波動砲のアスレチックに動きを制限されたいした被害もなく中には自滅していく機体も見付ける。

 普段防護にしか使ってないけど、ストライダーってバルムンク無しでも十分鬼畜な機体じゃねーか。

 制空権を奪取…というかいつもの蹂躙劇で空母を無力化し敵艦の姿を確認する。

 見えた艦は如月、弥生、朝潮、大潮と由良、五十鈴による水雷戦隊に飛龍を旗艦に雲竜、天城、榛名、最上、三隈の空母機動部隊。

 それと支援艦隊らしい伊勢、日向と磯波、敷浪の四隻と飛鷹、隼鷹と初雪、長月の四隻構成の二部隊。

 ゲームでまだ未実装な艦でもこの世界ではもう現役な艦もいるらしくリンガでデータベース観させてもらったから大体覚えているぜ。

 しかし、ゲーム未実装艦を生で拝めてラッキーとは微塵も思えない。

 どいつもこいつも自分の境遇に絶望して諦めているのか目が死んでいて、ただ命令に従うだけのロボットみたいに感じるんだよ。

 締め付けられるような苦みを噛み潰し砲を向けてくる彼女等に向け、走りながら俺は命令する。

 

「蹂躙しろ!!

 ただ一人も残さず水底に叩き込め!!??」

 

 エゴだとしても、せめて艦娘らしい戦いをさせてやるために俺は感情に蓋をして砲を放たせた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「嫌ぁ!!??

 放して!!??」

 

 必死に暴れる千代田を無理矢理犯そうと男は醜悪に笑いながらげらげらと嘲笑う。

 

「ほらほらもっと暴れろよ!

 そうじゃなきゃ面白くねえだろがよ!!」

 

 無理矢理犯すシチュエーションが楽しいと暴れる千代田を嘲笑う男。

 そんな男に呆れながら相方は山城を縛り終え千代田に使用する薬品をアンプルから注射器に吸い上げる。

 

「あんまり傷つけるなよ。

 痣とか残ったら五月蝿いんだからな」

「へっ、ちょっとぐらいなら大丈夫だよ。

 …いい加減にしろ!!」

 

 暴れる千代田に苛ついた男が千代田を張る。

 

「きぁあ!!」

 

 ぱぁんと張る音に縛られた山城が恐怖に肩をガタガタ震わせ怯えるのをみて相方はどうでもいいと言う。

 

「大人しくしてろよ。

 じゃねえとああなるからな」

 

 吸い上げた薬品の量を確認し軽く弾いて残っていた空気を押し出し千代田のほうを確認した相方は、ふと、男の頭の上に奇妙な物体が浮かんでいるのに気付いた。

 アンテナと脚が付いたマスコットか何かにも見えるそれはただじっと男の頭の上で静止している。

 

「おい」

「へへっ、ようやく大人しくなりやがったか」

 

 相方の呼び掛けに気付かず千代田が抵抗を止めた事に調子に乗ろうとした男だが、千代田の表情からは先程までの怯えと敵意が潜まっていることに気付く。

 

「あん?

 テメエ何を」

 

 気に入らないともう一度手を振り上げた瞬間、足付きは振り上げた手に忍び寄った。

 直後、

 

『爆ゼロ』

 

 虚空からの声に足付きがぐにゃりと揺らぎ小さな爆発の塊となって男の手を吹き飛ばした。

 

「ギャァァアァアアアア!!??」

 

 デコイの爆発で手を消し飛ばされた男が絶叫し慌てて相方が反応しようとするが、虚空から飛び出した肉の塊と黒い水晶体がそれぞれ二人の喉を擦り潰し、更に抵抗の間も与えず肩と腿を貫き四肢の腱をも擦り潰す。

 男達が痛みに悶えるだけの肉の塊と化した後、空間を波立たせアルファとパウ・アーマーが亜空間から姿を顕した。

 

『申シ訳アリマセン千代田。

 モット早ク助ケラレタノデスガ、木曾達ヲ待ツ為ニ』

 

 作戦のためとはいえ奴等の暴行を許してしまった事を謝るアルファ。

 

「助けてくれるなら早く助けてよね」

『スミマセン』

 

 唇を尖らせる千代田に本当に申し訳ないと詫びるアルファ。

 そんな姿に千代田は苦笑する。

 

「冗談よ。

 もう少し早く動いてくれたら助かったのは本当だけどね」

 

 そう言うと千代田は状況を確認する。

 

「それで、やっぱりイ級はキレてるの?」

『バルムンクノ封印ヲ解ク算段ヲ立テルホドニ』

「うわぁ…」

 

 核の使用に踏み切ろうとしているレベルのブチ切れっぷりと聞き若干引いてしまう千代田。

 

「一応聞くけど、ちゃんと止めたよね?」

『エエ。

 全部終ワルマデハ留マルト』

「止まってない止まってない」

 

 怒ってくれた事は嬉しくも思わなくはないが、かといって核はやり過ぎだと千代田は溜息を吐く。

 

「はぁ。

 ともかく、イ級の事だし全員助ける気なんでしょ?」

『ハイ。

 艦娘以外ハ皆殺シニシマス』

「……もしかして、アルファもキレてたりしてる?」

『知リ得タ全員ガ』

 

 ブレーキ役なんていなかったんだ。

 今更ながらにそう悟った千代田。

 

「ちょっと」

 

 と、そこに完全放置されていた山城が声を上げる。

 

「さっきからなんなのよあんた達は!?

 そいつはいきなり現れて惨殺死体は作るし、あんたはなんか仲よさ気だし……ああもうどこまで不幸なのよ私は…」

 

 縛られた揚句蚊帳の外に置かれた事が不幸だと嘆く山城。

 

「あ、ごめん。

 すぐに解くから」

 

 山城の解放に向かう千代田を確認してアルファはバイドフォースを呼び寄せ死体寸前の男達に近寄る。

 恐怖を煽るようにゆっくりと迫るアルファから、芋虫のように這って逃げようとする男達に気付き千代田はアルファがなにかを企んでいると知って尋ねる。

 

「そいつらをどうする気なの?」

 

 発狂するまで恐怖を与え続けるわけでもなさそうだけどと問う千代田にアルファは答える。

 

『チョウドイイノデ、コイツラヲ使オウカト』

「使うって?」

 

 洒落じゃ済まない何かをやる気なのだと気付いていても止める気は更々ない千代田にアルファは言う。

 

『バイドハザード。

 御主人ニシテハ、良イネーミングダト思イマセンカ?』

 

 そう問い返すアルファは、まさしく悪魔なようであった。




 さーちあんどですとろいまでは来たけどジェノサイドまで入れなかったorz

 お気づきだとは思いますが高雄と愛宕には大和と同じ技術が使われてます。

 つまり…

 次回は地獄絵図。

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