イ級の命を受けたアルファは亜空間を通って元帥の執務室に殴り込みを掛けた。
『少々宜シイカ?』
突然の登場に驚く元帥と大淀。
「ど、どこから!?」
「待ちたまえ」
慌てて警備の艦娘を呼ぼうとする大淀を制する。
「しかし…」
「こんな時間に何の用かね?」
ただならぬ雰囲気から鳳翔の報告書を持参した訳でもなさそうだと身構える元帥にアルファは単刀直入に問い質す。
『トラックノ解体場ニ一枚噛ンデイルカ?』
「トラックに?
……どういう事だ大淀?」
そんな話は聞いていないと問う元帥に大淀も首を降る。
「こちらにも情報はありませんが…」
艦娘に関わる全ての情報を一括している自分さえ把握していない情報に訝しむ大淀。
「説明を求めてもいいか?」
『時間ガ惜シイ。
端的ニデイイナラ』
「任せる」
そう前置きアルファは告げる。
『トラックハ艦娘ノ人身売買ヲ行ッテイル。
ソレヲ潰シニ御主人ガ動イタ』
「馬鹿な…!?」
そんなふざけた真似が起きている筈がと驚く元帥。
絶句する大淀を尻目にアルファは確認を急く。
『関与シテイナインダナ?』
「考えてもみろ。
国のために命を掛けて戦う娘達と同じ顔をした娘が、意中の間柄でもない見ず知らずの男に抱かれていると知って士気が維持できると思うか?」
自分がそんな下種と同列に疑われ馬鹿にするなと怒気を放つ元帥。
「私なら耐えられん。
例え別の艦であろうと
今すぐにでも得物を手に取りそうな勢いで物騒な台詞を宣う中にさりげなく惚気が混じっているが、茶化す空気でもなくアルファは謝罪をした。
『失礼シタ。
貴殿ハソノヨウナ人物デハナカッタ』
「…こちらこそ興奮が過ぎたな」
お互いに頭を冷やす必要があると間を置き元帥は大淀に命じる。
「今すぐ官僚を全員呼び出せ。
抵抗するなら長門に引きずらせてこい」
「分かりました」
即座に行動に走る大淀が出ていくと元帥は尋ねる。
「それを把握した原因を聞いてもいいか?」
『仲間ノ千代田ガ件ノ施設ニ関係スル艦娘ニ捕マッタ。
ソレトソコカラ脱走ヲ計ッタ艦娘ヲ保護シテイル』
「……そうか」
国の礎と身を粉にする艦娘が今現在も浅ましい欲望の食い物にされていると知り元帥は怒りに燃える。
「駆逐棲鬼はどうするつもりだ?」
『艦娘ノ解放ト、報イヲ齎ス所存。
関係者ハ鏖シニナルダロウ。
トラックモ地図カラ消エル可能性モ低クハナイ』
「……」
怒り狂っていることは察していたが、まさかそこまでやろうと考えていたと言われ頭を押さえざるを選なかった。
「関係者の処分までは目をつぶる。
だからトラックを地図から消すのは止めさせてくれ。
でないと最優先討伐対象にしなくてはならなくなる」
そこまでやられては庇いきれないとそう言う。
『伝エテオク』
デハ、会議デ。とそう言い亜空間に入るアルファ。
「……」
そう言い残し姿を消したアルファに元帥はやや硬直してから思わず呟いてしまった。
「まさか、乗り込んで来る気…なのか……?」
嫌な予感に一筋の汗を流す元帥。
そして一時間後、緊急呼び出しに参じた官僚達が揃ったところで元帥は口を開く。
「諸君、つい今しがた駆逐棲鬼の下に潜入させている艦娘より耳を疑う情報が齎された」
「駆逐棲鬼がとうとう我々に牙を剥いたと?」
善性の可能性があると手を出さぬよう触れていた元帥を皮肉し、そう茶々をいれた一人の大将に元帥はああと頷いた。
「トラックに向け進軍中との事だ」
「やはり深海棲艦は深海棲艦でしかなかったようですな」
そう元帥を唾棄する勢いでそう声が上がる。
「して、どう責任を取るおつもりですかな?」
「待ちたまえ」
早速元帥の退任を迫ろうとする中将を遮り元帥は話を続ける。
「由々しき事にだ。
トラックで艦娘の人身売買が行われていると判明した。
駆逐棲鬼が動いた理由はそれに関している」
元帥の言葉にどよめきが走る中、バンと机を強打する音が響く。
「そのような世迷い事が本当にあると思っておいでか元帥閣下!!」
そう怒鳴り声を上げたのはトラックを管轄する大将であった。
しかし、アルファから駆逐棲鬼の行動動機を聞き及んでいる元帥は一切たじろぐ事なく大将を見据える。
「戯れ言だと、そう言い切るのだな?」
「当たり前だ!!」
愚弄するにも程があると怒りながら大将は嘯く。
「トラックは第一、第二共に私が信頼する部下を配しているのだ!!
そのような愚行を私が見過ごすとおいでか!!??」
今にも掴み掛からん勢いで怒鳴る大将だが、元帥は人身売買の話を出した瞬間大将が一瞬目を逸らしていたのを見逃してはいなかった。
間違いない。
こいつが一枚噛んでいる。
おそらく亜空間で眺めているのだろうアルファにも含め、元帥は静かに問う。
「ならば、確かめても良いのだな?」
「勿論だとも!!
ただし、その前に元帥閣下にはこの度の駆逐棲鬼の跋扈を許した責任を取っていただきますがな!!」
大将の言葉にその通りだと声が次々に上がる。
「以前より閣下は艦娘に甘すぎる判断を降しておいでだ。
貴方の甘さが今日までの深海棲艦との戦争を長引かせた要因であることは疑う由も無い」
「
いくらでも使い潰してやればよいのです」
「いっそ建造設備に感情を削る機能を追加してはどうですかな?
そうすれば以前のように特別攻撃兵器の運用にとやかくいうこともないでしょう」
「それは妙案だ。
元帥閣下は資材の消費を憂慮しておいでだったが、資材など妖精がいくらでも沸かせるのだから構う必要など無いのだ」
中には元帥を売国奴だのと批難する声も混じる中、銘々に言いたい放題を始める官僚達に元帥は怒りよりも哀れみを感じていた。
元帥の目には彼等が地雷原でタップダンスを踊っているようにしか見えていない。
そして、その感想は正しく正解であった。
『全ク、オ偉方トハ何処ノ世界デモ変ワラナイモノダナ』
虚空から響いた誰の物でも無い声に官僚達の言葉が止まる。
「今のは…?」
戸惑いの声の直後、机の中心部の空間に波紋が走りアルファが亜空間から姿を顕す。
『実ニ、不愉快窮マリナイ』
侮蔑の声を投じるアルファに中将の一人が叫ぶ。
「き、貴様!? 駆逐棲鬼の!!??」
『オ初ニ御目ニ掛カル。
貴様達ガ駆逐棲鬼ト呼ブ我ガ主ニ従ウR戦闘機『バイドシステムγ』、名ヲアルファト言ウ』
わざと慇懃に挨拶するアルファに狼狽しながら叫ぶ声。
「どうやって此処に入って来た!!??」
『見テイナカッタノカ?
貴様達デモ解リヤスクワザワザ空間ヲ跳躍シテミセタダロウ?』
「空間跳躍?
馬鹿な!? 『霧』でさえそのような技術は有していなかった筈!!??」
『私ニ用イラレテイル技術ハ『霧』トハ別物。
波動ヲ基礎トシ次元ト空間ニ作用スル方向ニ特化シテイル』
混乱を増長させるため懇切丁寧な解説をやってやるアルファ。
『サテ。私個人ハ長々ト説明シテヤッテモ構ワナイガ、主ハ早急ナ合流ヲ望ンデイル。
手短ニ済マセテシマオ』
アルファの言葉を遮り扉をぶち破る勢いで開け放たれアサルトライフルを手にした衛兵がなだれ込むと同時にアルファに弾幕を見舞わせた。
ダダダと立て続けに響く音と共に縦断がアルファに撃ち込まれる。
その銃撃が一旦中断され、そして彼等は驚愕する。
『マズイ鉛ダ。
エネルギーノ足シニモナラナイナ』
ごりごりと撃ち込まれた鉛玉を砂のように細かく砕きながら吐き出すアルファ。
「……化け物が」
悍ましい光景に誰かがそう呟くとアルファは違ウと否定する。
『私ハ『
直後、アルファが最小限のチャージで波動砲を放つ。
チャージングが低いためデビルウェーブⅢの形状を維持できずただのスタンダード波動砲として放たれたそれだが、放たれた波動砲は衛兵達の間を摺り抜け壁をぶち抜き外の空気を無理矢理入れる。
「「「「………」」」」
現実離れした現実の連続に混乱する暇すら与えられず固まる元帥以外の全員を他所にアルファは淡々と嘯く。
『デハ、デモンストレーションヲ始メヨウカ』
そう言うと同時にアルファはバイドフォースを呼び出すと、フォースから生える触手をトラックの大将に突き立てた。
「……あ?」
刺さった触手に理解が追い付く暇もなくアルファは命じる。
『侵セ』
直後、バイドフォースから波動が放たれ一瞬でバイド汚染が全身に広がり間もなく醜悪な肉の塊にされてしまった。
「ひぃぃぃいいいい!!??」
内側から溢れ出した肉によって形を保てず醜い塊へと変えられ真横に居た中将が情けない悲鳴を上げてへたりこむ。
『動クナ』
漸く脳が発する指令に追い付きその場から逃げ出そうとするも、アルファの酷薄な声に制される。
『逃ゲルナラ次ハオ前達ガコウナルゾ』
蠢動する肉塊にされると言われ誰ひとり動けなくなる中、汚染の拡大を防ぐためフォースに肉塊を取り込ませながらアルファは嘯く。
『ヨク聞ケ。一度シカ言ワナイ。
我ガ主ハ深海棲艦ノ身デハアルガ、艦娘ヲナニヨリモ大事ニ考エテイル。
故ニ私欲ヲ満タスタメニ下賎ナ欲望ノ餌食トシタ貴様達ヲ今スグニデモ滅シタイト考エルホドニ酷ク怒ッテイル。
ダガ、マダ貴様達ヲ滅シハシナイ。
ソレハ、貴様達ガドレダケ腐ロウト貴様達ヲ護リ、ナニヨリコノ国ヲ護ル事ガ艦娘達ノ『誇リ』ダカラダ。
我ガ主ハ艦娘ノ『誇リ』を重ンジ、今回ダケハ諸悪ヲ成シタ地ノミヲ滅ボスダケデ留マルオツモリダ。
ダガ、次ハナイ。
次ガアレバ、私ガ真ッ先ニ貴様達ノ前ニ現レ、私腹ヲ肥ヤスタメニ艦娘ヲ辱メタコノ男ト同ジ末路ニ到ラセル』
艦娘を蔑ろにしたらああなると言われ、老獪な狸であった官僚達や屈強な衛兵達はまるで生まれたての小鹿のようにぶるぶると震え上がる。
『忘レルナ。
コノ国ノ命運ト貴様達ノ命ハ、艦娘一人一人ノ『誇リ』デモッテ保タレテイルコトヲ。
ソシテ、主ノ敵ハ私ノ敵ダトイウコトヲ忘レルナ。
逃ゲテモ無駄ダ。
距離モ障害モ次元デサエモ私ハ踏破シ三千世界ノ果テマデ追イ掛ケ貴様達ノ前ニ現レテミセル。
ソシテ、終ワラナイ悪夢ヲミセテヤル』
そう言い残しアルファは現れた時と同様に空間に波紋を広げ姿を消した。
そして残された絶望に満ちた重い沈黙の中、元帥はさてとと呟きながら立ち上がる。
「ど、どちらに…?」
そう問うと元帥は当然とばかりに言う。
「諸君等が希望した通り、彼等を放逐していた過ちの責を取り退任するのだよ。
誰が私の跡を継ぐかは好きにするといい」
そう言って出ていこうとする元帥に待ってほしいと声が上がる。
「我々が間違っておりました!!」
「そうです!!
あの様な危険な存在を察知し、その逆鱗に触れぬよう巧妙に立ち回っておいでだった閣下の采配に気付かなかった私達こそ過ちを犯していたのです!!」
一瞬で掌を反し元帥に対し称賛の声を投げ掛ける官僚達。
「売国奴の汚名を被る覚悟で以て駆逐棲鬼を監視に留めた閣下こそ軍人の鑑です」
「閣下こそ国の軍神。
閣下を失うは軍の、いや、国の損失というに余りあるお方!!」
「どうかどうか今一度お考え直し下さい!!??」
そう賛辞と共に退く旨を思い止まるよう説得する彼等だが、元帥にはその腹の中が明け透けに見えていた。
(それほどまでに恐ろしかったか)
自分がいなくなり次に元帥の座に着いた者は、もれなくあの
その恐怖は私利私欲に塗れた彼等にして余りに大き過ぎる代償であった。
だからこそ、元帥に消えてもらいたくないのだ。
恐怖に臆した浅ましさに見ない振りをしつつ用意された神輿に座ってやろうと元帥は思い止まった体を取る。
「そこまで言うなら仕方あるまい。
至らぬ身だが、もう少し続けさせて頂こう」
そう嫌味を込めて敬礼すると、官僚達も宜しくお願い申し上げますと敬礼を返す。
ふとそこで、元帥はアルファがこうなるように仕向けたのではないかと思った。
(まさかな)
だとしたらこれこそ悪魔の所業ではないか。
そう思い、元帥はアルファが自分を悪魔だと名乗っていた事を思い出し、悪魔めと胸の中で静かに苦笑した。
ずっと待っていた叢雲改二おめでとう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
と、いきなりトラックから始めると後が問題なのと元帥が腹を切る羽目になるのでまずは腐った豚どもに楔を叩き込みました。
これで元帥は終身雇用確定だから、死ぬまで辞められないよ。やったぜ。←